『ミッドウェイ 日本の運命を変えた3日間』(Midway)
監督・製作 ローランド・エメリッヒ

 二十年前に深い感動を残したり問題意識を喚起するような作品ではないけれど、三時間をいささかも長いと感じさせない、まずまずの娯楽作品だ。これだけの長尺で大河ドラマを謳いながら、嫌なタイプの人物がただの一人も登場しないところに作り手の性根が窺われるように思った。戦争にまさる悪役はいないということなのかもしれない。シリアスな視線を向ければ、人格も責任能力もない戦争というものに悪役を押しつけるのはいささか問題だが、この作品は、そういう問題意識とは最初から外れたところで作られているのが明白なので、そんな議論は噛み合わない気がする。そのうえで敵方の日本軍に対してさえも、…非常時に直面して真摯に生きた人々としての敬意を払っているように見受けられた。と映画日誌に記したパール・ハーバー['01]のような作品だった。

 同作の日誌にはあくまでも娯楽映画として視聴覚的に楽しませる作品に徹しているところが作り手の真骨頂だろう。」「細部において、いかにも娯楽作品的なご都合主義の見世物的描写や展開があったりするのだが、史実ドラマとして製作されたふうでもないことが一目瞭然のような作品とも記しているが、前者の部分については、本作においても言えることながら、後者については、むしろ意識的に史実を踏まえた映画作りをしようとしていることが見受けられたように思う。エンドロールにおいて、主だった登場人物の将校のその後が本人の写真とともに紹介されていたし、日本の軍人の登場する場面の漫画的設えに思わず噴き出した『パール・ハーバー』と異なり、豊川悦司【山本五十六大将】、浅野忠信【山口多聞少将】、國村隼【南雲忠一中将】らを配した本作の大日本帝国軍人の描き方には、イーストウッド監督による硫黄島からの手紙['06]以後、のようなものを感じないではいられなかった。

 そういったなかで、日本が製作国に加わらずにアメリカ・中国・香港・カナダの資本による本作において、真珠湾攻撃から半年も経たない時点でドゥーリトル中佐(アーロン・エッカート)隊の行った東京空襲が非戦闘員をも狙った攻撃だったことから、太平洋戦争の質を変える契機になったというような指摘をしていたことに驚いた。また、ミッドウェイ海戦に臨むにあたっては、アメリカ軍兵士側が軍事強国としての日本の強さにかなり切実な脅威を覚えていたことが率直に描かれていたような気がする。

 そして、本作によれば、敵失も手伝って運よく作戦が的中し、果報なまでの戦果を挙げた最大の功労者として描かれていた第6爆撃機中隊長ベスト大尉(エド・スクライン)と太平洋艦隊情報主任参謀レイトン少佐(パトリック・ウィルソン)が、ニミッツ大将(ウディ・ハレルソン)やハルゼー中将(デニス・クエイド)、マクラスキー少佐(ルーク・エヴァンス)などのエンドロールでその後を紹介された他の将校たちと違って、非常に地味なものだったところや将校ばかりではなく、敵機襲撃に対して勇猛なる反撃を見せて三等整備兵から一等整備兵に特進する兵士について、その果敢な最期までをも描出していたところに、作り手の思いが雄弁に語られているように感じた。

by ヤマ

'20.10.10. TOHOシネマズ6



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