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『美しき冒険旅行』(WALKABOUT)['71] | |||||
監督 ニコラス・ローグ | |||||
映友のシューテツさんから感想を求められたのは、'04年のリバイバル公開のときだったような気がするから、もう十五年になるし、高校のときの映画部長からDVDを託されてからも暫く経つように思うけれども、年頭の観始めを本作にして積年の宿題を一つ片づける気になったのは、年末の観納めが本作の一年後のブニュエル作品『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』だったからかもしれない。ブニュエル作品にしては物足りないと思いつつも多くの触発を促してくれた映画作品としての豊かさに、七十年代映画のある種の作品群が備えていたテイストを愉しみたくなったのだと思う。 既見作品で僕が最も好きなのは『マリリンとアインシュタイン』['85]であるニコラス・ローグが撮影・監督を担った本作も、ブニュエル作品ほどではないにしても語り口の果敢さと知性に訴求するイメージにおいては通底するような文体を備えていて、いわゆる判りやすいリアリズムとは一線を画している作品だった。 オープニング早々に、僕にとっては浅川マキの歌唱で馴染みのある♪ガソリンアレイ♪がロッド・スチュワートの歌唱で聴こえてきて、一気に七十年代感に誘われたわけだが、十年前に観た豪州映画『オーストラリア』['08]にも描かれていた先住民アボリジニの通過儀礼である“ウォーク・アバウト”を作品タイトルに持つ本作は、ありがちな“生と死”への思念に加えて、“性と殺”を確信的に織り込んで、ある種の無常観とともに生命の営みを美しく残酷によく描き出していたように思う。 しかし、アボリジニの通過儀礼を作品タイトルに冠してのアボリジニ少年(デヴィッド・ガルピリル)の自殺は、そこに警世的な意図が込められていたにしても、些か不遜な気がして少々いただけないように感じた。他方で、年端も行かない弟(リュシアン・ジョン)を健気に守りつつ、タフに生き延びていった姉を演じるジェニー・アガターが魅力的だった。 近頃は本当にこういう映画が観られなくなった気がする。なくなっているわけでもないとは思うのだが、まるで時代遅れの流行らない映画の代名詞のようになってしまった気がして、実に嘆かわしい。この反知性主義の時代に、判りやすい味気なさとは異なる味わい深さの復権はあり得るのだろうか。漢字もろくに読めず児戯に等しい野次を国会で繰り返すおっさんたちが国の首脳を務めて高い支持を集めている我が国のみならず、世界各国を観ても、観るからに知性と品性を欠いていると映る人物が国を率いるようになってきたと感じている現況からすると、全く心許ない限りだが…。 | |||||
by ヤマ '20. 1. 2. DVD観賞 | |||||
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