『天気の子』(Weathering With You)
監督 新海 誠

 何だか陽性の『メランコリア』['11](監督 ラース・フォン・トリアー)のような映画だった。雨が、涙が、実に美しい映画だった言の葉の庭['13]と違って本作の雨は、閉塞と憂鬱を印象づけ、それがずっと続く正体不明の異常気象という設定に何やら終末観が込められているように感じられたから、『メランコリア』を想起したのだろう。そして、それは取りも直さず、子どもがとても生き辛い世の中、時代になっていることから来ているもののような気がした。

 帆高【声:醍醐虎汰朗】にしても、陽菜【声:森七菜】にしても、ある種、頑なまでに『ワンピース』的な仲間や友達といった世界に依拠することには馴染めないパーソナリティとして造形されていたように思う。そして、孤独とやせ我慢に向かいがちなキャラクターの持ち主だった気がする。だからこそ二人は、運命的な出会いとして呼応したのだろう。今の時代は、役割として必要とされるのではなく、存在として自分が必要とされている実感というものをなかなか得られなくなっているような気がしてならない。役割的な高評価を得るのではない“存在としての承認欲求”が満たされなくて、多くの人が居場所の無さを感じているのではなかろうか。100%晴れ女として高い評価を得て役に立ち人に喜ばれる役割を帆高が見い出してくれたことを陽菜は喜び、感謝するけれども、役割を懸命に果たそうとすることは、ひたすら消耗していくことでもあるわけだ。そこにしか存在価値がないとすれば、人の生とは何だろうということにもなる。

 だが、本作が陽性の『メランコリア』だというふうに感じられたのは、そのなかにあって彼ら彼女らが生き延びる道というものを示していたからのような気がする。それは、前作君の名は['16]でも顕著だった、新海作品の核とも言うべき“想いの強さ”なのだが、その想いの強さというものの美が、前作ほどに仰々しくは感じられない程の良さで描かれていたので、これまで観てきた新海作品のなかでも比較的、気に入っているほうの映画となった。敢えて順位づけると、『秒速5センチメートル』>『言の葉の庭』>本作>『星を追う子ども』>『君の名は』の順となる。

 夏美【声:本田翼】のキャラクターは、前作の奥寺先輩【声:長澤まさみ】の延長にあるものなのだろうが、新海作品にはよく似合っているように思う。ティーンエイジャーたちには、それを応援する年長者が必ずいなければいけない。それが人の世の摂理というものだ。

by ヤマ

'19. 8. 7. TOHOシネマズ7



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