『洗骨』
監督 照屋年之

 上映+ゲスト舞台挨拶のみならず、高知県三線愛好会による生演奏や高校生によるダンス・演奏、さらには、里親制度についてのプロモーション動画の上映、沖縄関連商品などのロビーでの物販に加えて、主催者であるキネマMの安藤桃子がMCとなって照屋監督と奥田瑛二を迎えたトークショーも行うといった盛り沢山の内容で一般前売り1,100円・当日1,500円、高校生500円という破格にコストパフォーマンスの高い映画上映イベントを楽しんでくることができた。

 会場となった芸術ホールは、市街地中心部の一等地にある定員600人の利便性の高いホールながら、公立高校の付属施設であって、貸出目的の公の施設ではないという理由から数十年来、公共的な団体による啓発事業や教育的な行事を除いて、一般事業者には貸し出されることのなかった会場のはずだ。県民文化ホールの改修による長期閉館時も含めて、長らく地元文化団体からの要望が叶わなかった覚えのある曰く付きの施設だったので、突破口を開いた安藤桃子の力技には、毎度のことながら流石だと感心させられた。おそらくは単なる「上映会+ゲスト舞台挨拶」では、行政財産の目的外使用許可を出してもらえないとして、内容・価格面とも特段の工夫を凝らして協力者を集めたのだろう。

 キネマトークのなかでも、このイベント企画の発端は、主演の奥田瑛二から高知での上映を打診された際に、拠点のキネマMが二年間の休業中で何とかしなければということで取り組んだものだったと話していた。市内の主なホールは通常、一年前から土日の予約が埋まるとしたものだから、奥田瑛二からのオファーに応えられるホールが他にはなかったなかでの、追手前高校芸術ホールだったと見込まれる。おかげでこれまで誰も突破できなかった“芸術ホールの有料イベント事業者による利用”の前例を作って門戸を開いたわけだ。

 そういった事情がなければ、併せて上映されることもなかったのではないかと思われる里親制度のプロモーション動画『楓色の風』を先に観たところ、その出来栄えがなかなかよくて、肝心の『洗骨』を喰ってしまうのではないかと懸念したが、満を持して始まった本作がとても力のある作品で、強い感銘を受けた。

 逆手で掛ける清水で洗われた骨が椿油で艶を得ていたように、笑いと涙で心洗われた後に、繋がる命の輝きが沁みてくる秀作だった。直截的ではないながらも、命を繋ぐということでは『楓色の風』も決して無縁の作品ではなかったなとラストショットの孫との対面を観ながら思った。

 洗骨を標題とするだけに、死後四年経った人骨を洗う作業のリアリティがとりわけ重要だったのだが、頭皮にあれだけの堆積が残るのかとは思いつつも、頭髪を残した頭蓋骨を洗う作業の生々しさと気高さに心打たれた。肉親を弔い送るというのは、こういう営みをもって言うことなのだろう。遺影のガラスを覆っていた埃といい、幼い日の優子が描いたブランコの絵の古色といい、美術スタッフの丁寧な仕事ぶりが目を惹いた。

 だが、何と言っても圧巻は、大島蓉子の演じた高安信子の存在だ。『ナビィの恋』['99]を想起するまでもなく、沖縄を舞台とする作品においては、“おばあ”と呼ばれる女性の存在には比類なきものがあると改めて思った。主演とされる奥田瑛二以上の存在だったように思うが、その奥田瑛二にしても、これまでに観て来た数々の出演作のなかで出色の作品だという気がした。

 彼を最初に観たのは四十年前に観た『もう頬づえはつかない』['79]だが、僕のなかで印象深いのは、海と毒薬['86]でのタフな戸田(渡辺謙)とは対照的な内省的で気の弱い勝呂研究生だったり、皆月['99]でのいかにも冴えない中年男である諏訪だったりするので、失意によって酒に溺れ、息子からも見下げられている本作の新城信綱は、まさに嵌り役だと思った。

 演出的には、さすがにお笑いを本業としてきた監督だけあって、随所に笑いを仕込んでいた。僕が最も可笑しかったのは、父親から教わったとおり「バカヤロー!」代わりに「セックス!」と叫んでおばあに頭をはたかれていた少年の「なんで?」だった。

 ただ、年齢風貌諸々のギャップで笑いを取りに来ていたと思しき亮司(鈴木Q太郎)のキャラクターは少々作り過ぎで、最初の額を座卓にぶつける粗忽はいいにしても、その後に繰り返されたものは、僕的にはかなり滑っていた。優子(水崎綾女)が嵌めようとまでしたことに了解感の得やすい年齢風貌にしたうえでの小心者にして、不器用さよりも人の好さのほうをもっと前に出すべきキャラクターだったような気がする。

 長男剛を演じていた筒井道隆は、持ち味を生かした手堅い演技が好もしく、あまり覚えのなかった水崎綾女の好演が印象深かった。いい表情をする女優さんだ。覚えておこうと思った。

 それにしても、沖縄には凄い風習が残っているものだ。今なお、普通に続いているのだろうか。本当に驚くべき土地だと改めて思った。まるで、日本のエルサレムのような気がしてくる。
by ヤマ

'19. 7. 7. 高知追手前高校芸術ホール



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