『チャップリンの独裁者』(The Great Dictator)['40]
監督 チャールズ・チャップリン

 十年前に再見したときと、ほぼ変わらぬ印象だが、三十数年ぶりに観た前回、最後の演説以外は、名高い地球風船を弄ぶ場面を除いて殆ど飛んでしまっていたことからすれば、全編に見覚えがあって、そうなると、二時間越えは少々長すぎるようにも感じた。寄る年波で堪え性がなくなってきているのかもしれない。

 ただ今回は、主催者の牧師さんが字幕では訳しきれていない演説の全文訳を配ってくれたので、字幕を付ける際の取捨選択について、実に興味深い刺激が得られたように思う。字幕に比べて二倍以上もあるような文字数に驚き、それでも核心部分は漏れなく伝えていることに感心した。

 とりわけ前々日にバイスを観たばかりということもあって、床屋のチャーリー(チャップリン)が演説のなかで指摘する“貪欲と憎悪”のくだりが改めて強く響いてきた。八十年前の映画で指摘されたことが今なお人類最大の課題であることが何とも哀しい。

 牧師さんが配ってくれたチャーリーの演説の最後は、こうなっていた。…皆が雇用の機会を与えられる、君たちが未来を与えられる、老後に安定を与えてくれる、常識のある世界のために闘おう。そんな約束をしながら獣たちも権力を伸ばしてきたが、奴らは嘘をつく。約束を果たさない。これからも果たしはしないだろう。独裁者たちは自分たちを自由にし、人々を奴隷にする。 今こそ、約束を実現させるために闘おう。世界を自由にするために、国境のバリアを失くすために、憎しみと耐え切れない苦しみと一緒に貪欲を失くすために闘おう。理性ある世界のために、科学と進歩が全人類の幸福へと導いてくれる世界のために闘おう。兵士たちよ。民主国家の名のもとに、皆でひとつになろう。

 一言たりとも古びていないどころか、あまりに時宜に適っていて、本当に恐れ入った。凄いものだ。




参照テクスト映像の世紀バタフライエフェクト 選『ヒトラーVSチャップリン 終わりなき闘い』
by ヤマ

'19. 4.11. 高知伊勢崎キリスト教会



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