『きらめく拍手の音』(Glittering Hands)
監督 イギル・ボラ

 韓国映画の本作は、2015年山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門の特別賞受賞作なのだが、そういう受賞とはまるで関係なく、本作を撮ったイギル・ボラ監督の聾者である両親は、本作を観て、さぞかし感涙を流し、誇らしく思ったろうなとの想いが湧いて心打たれた。聾者の両親のもとに姉として生まれた健聴者の監督は、自ら語るように誰よりも早く大人になることを望み、それを全うする生を過ごしてきたのだろうが、その苦難や葛藤を綴ることをひたすら控えていた。それによって本作は、両親の間にある絆の深さとそういう家庭で育ったことへの自負と敬意の窺える、すこぶる気持ちのいい作品になっていたように思う。

 カラオケ嫌いの僕が、よもや聾者家族がカラオケボックスで楽しむ姿に心打たれることになろうとは思いも掛けなかった。なぜ聾者がカラオケで歌を唄って楽しめるのかということについては、四半世紀前に観た音のない世界でで、聾者と音楽について目を開かされる思いをした記憶が鮮烈で、驚くまでもないことだったのだが、カラオケボックスならではの音量で空気の震えを体感し、視覚的にも満たしてくれる音楽環境ということに対して、少々見直すような気分にさえなった。カラオケ場面で僕が感銘を受けた映画は他にもあってさよなら みどりちゃんがそうなのだが、あれは、みどりちゃんの猛烈に下手な歌いっぷりに痺れたのであって、カラオケボックスを見直す気持ちを誘われたりはしなかった。

 それにしても、映画の冒頭に出てきた居室の壁に掛けられた富士山と思しき、絵とも写真とも見受けられる額装されていたものは、何の縁だったのだろう。我が家に大きな額に入ったノイシュヴァンシュタイン城のジグソーパズルが掛けられているように、然したる謂われもなく、単に美しい風景だからなのかもしれないけれども、妙に目を惹いた。
by ヤマ

'19. 4. 7. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>