『カメラを止めるな!』
監督 上田慎一郎

 ちょうど運命じゃない人(内田けんじ監督)と同じように、後半になっての「成程そうだったのか」が面白い作品であり、『運命じゃない人』が、その周到で見事な構成でもって感心させるだけでなく、何よりも極上のバディ・ムービーとなっているところが無性に嬉しかったように、本作では気の利いた家族物語になっているところが気に入った。

 あの母にしてこの娘ありの日暮母娘(しゅはまはるみ・真魚)であり、この父にしてこの娘ありの日暮父子(濱津隆之・真魚)だったところがいい。娘の真央が現場で熱が入り過ぎて空回りしてしまうことも、そのキャリア以上に映画というものを非常に良く知っていることにも、大いに納得感があった。

 日暮監督が一瞬、普段の自分を忘れて熱が入り拘ってしまうくらいに奇跡的な長廻しの持続がもたらしたラストショットへの思いの深さが描かれていた作品なればこそ、本作自体のラストショットとも言える写真に込められた想いには熱いものがある気がして、監督・脚本・編集を担った上田慎一郎には娘さんがいるに違いないと思った。もしいなければ、姉か妹がいる気がしてならない。

 今や人間ピラミッドは、教育現場では追い遣られてしまう代物になったようだが、湯を沸かすほどの熱い愛を観たときに感じたような“この仲間がいれば大丈夫”と思わせてくれるものとして、なかなか効果的に使われていたように思う。スタッフ、キャストともに各人ばらばらの温度差であったものを変えさせる“湯を沸かすほどの熱い映画愛”というか現場愛が籠っていたように思う。

 ネットを通じて知り合った長年の映友から教わった、上田監督の前作である第3回八王子Short Film映画祭 グランプリ受賞作品テイク8で、女優の茜(山本真由美)が父親(牟田浩二)に向かって放った「誰が幸せになりたいって言った!」との台詞のそれこそ「幸せだけが生きる目的じゃない」と言わんばかりの現場愛が上田監督にはあるようだ。

 画面のぶれに弱く、手持ちカメラの苦手な僕は、本作の37分ワンカットの揺れる画像に意気消沈しかかっていて全編通されずには済んでほっとしたクチだったせいか、『カメラを止めるな!』よりも『テイク8』のほうが好きだ。「何があっても止めない、止められない、止めるわけにはいかない」というのが共通テーマだなと思うとともに、監督自身にとっても映画を止(や)めるか続けるかが、ずっと最も切実な問題だったのではないだろうかと思った。隆夫(芹澤興人)の心中にある言葉を全部代弁していた茜が素敵だった。台本の緻密さでは内田監督のほうが遥かに勝っているような気がするけれども、こういう情感的なところでは上田監督のほうが優れているように思う。次作が楽しみだ。




推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-04ff.html
by ヤマ

'18. 8.28. TOHOシネマズ6



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