『マネーモンスター』(Money Monster)
監督 ジョディ・フォスター

 十年前にブレイブ・ワンの製作総指揮をしたジョディ・フォスターが、『コンフェッション』や『グッドナイト&グッドラック』、当地未公開の『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』を監督したジョージ・クルーニーやら、『エリン・ブロコビッチ』のジュリア・ロバーツを配して撮ったウォール街ものとなれば、ある程度、察しはつくのだが、まさにそのとおりのような作品だった。

 着眼はとてもいいと思うのだが、不正取引のウォルト(ドミニク・ウェスト)一身にあれほど悪を負わせてしまうと、投資情報番組で無責任に唆していた人気司会者リー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)や、生放送中に拳銃を持って番組ジャックされたこと自体を格好の番組ネタにディレクションしていこうとするTVディレクターのパティ(ジュリア・ロバーツ)の異常が、どこか追いやられてしまうようなところがあって勿体なく感じた。

 それにしても、本当に困った世の中になってきたものだ。株価操作と聞くだけで不愉快になるのだが、それを臆面もなく経済政策だなどと言い張って国民から集めた年金基金を費やしたりする国が現れたりしてきているのだから、6万ドルを不意にされたと憤る襲撃犯カイル(ジャック・オコンネル)が、「それっぽっちの金で?」とつい漏らすゲイツに対して「俺たちのなけなしの金を巧い口車に乗せてドカンと持って行っちまう連中」と非難していた悪口をそっくりそのまま突き付けてやりたい気になった。

 作中でも指摘される賭博同然の投機やマネーゲームのことを、本来の意味を違えて「投資」などと言い替える「援助交際」みたいな物言いが普通に罷り通るようになり、ささやかながらもマネーゲームに参加しないと落伍するかのような強迫観念を作動させて金集めに奔走する金融資本主義が実体経済を今後どこまで踏みつけていくのだろうと思うと暗澹たる気持ちになってくる。

 番組ジャック事件は結局、高視聴率を稼ぎだしただけでカイルの始末が着いた翌日から ほぼ間違いなく、従前と全く変わらない調子で続けられるのだろう。もし変わるところがあるとしたら、せいぜいでリー・ゲイツとパティの接近くらいのものでしかない気がする。カイルの暴挙も蟷螂之斧で車轍に当たるが如きもので、全財産をマネーゲームで失った愚を妊娠中のパートナーから罵倒されて項垂れる醜態を全米に晒されて終わってしまったわけだ。



参照テクスト:『新・富裕層マネー 1500兆円市場争奪戦』読書感想文
by ヤマ

'16. 6.24. TOHOシネマズ3



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