『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』(The Case Against 8)
監督 ベン・コトナー&ライアン・ホワイト

 英国がEU離脱を国民投票に問うた結果が、与党保守党党首のキャンベルも最大野党の労働党も残留を呼び掛けたなかでの離脱派勝利となった日に観た本作は、米国カリフォルニア州で同性婚が認められたことに異議を申し立てた住民による「提案8号」が住民投票により可決されて同性婚が禁止されたことが、州憲法や合衆国憲法の保障した「法の下の平等」に反するとの合衆国最高裁判所判決を勝ち取るまでの5年間の訴訟を追ったドキュメンタリーだ。

 国民投票や住民投票といった情動によって左右されがちな手続きの怖さと、時間は掛かるけれども法廷闘争を着実に進めることで修正が遂げられるといった、両者ともに民主社会の重要な社会的装置である手続きがきちんと機能している社会の健全さに少なからず感銘を受けた。

 ブッシュ対ゴアの選挙結果における正当性の問われた裁判で争った弁護士がタッグを組んで「提案8号」の違憲性を問う法廷闘争を展開していたことにも驚いたが、被告側の有力証言者で最後まで脱落しなかった人物が法廷闘争を振り返って、自分の信じる正義と信念によって見えなくなるものがあると述懐し、きちんと同性婚を認めるほうが社会的に効用があると潔く考えを改めるに至ったことを証言している姿に感心した。真っ向から議論し、討論したからこそ生まれた見解だろう。議論議論と言いながら、揚げ足取りや野次、かわし、すり替え、誤魔化しばかり重ね、きちんと議論できない議会国会を抱えている国に住んでいると垂涎の思いが湧く。

 カリフォルニア州で「提案8号」が可決されたことに危機感を抱いた“平等権を求める全米基金(American Foundation for Equal Rights )”が原告に立ってもらえる候補者カップルを探し始めるところから捉えられていたが、歴史的に重要な法廷闘争になるからこそ、いわゆる身体検査を慎重に重ねていたことに感心させられた。日本の政治選挙における政党公認候補や閣僚指名に際しても、これくらいの意識と覚悟を持って臨んでほしいものだとつくづく思った。

 公民権運動には批判的だとみられがちな保守派の有力弁護士であるテッド・オルソンが、結婚制度こそは保守的な社会制度であって、その結婚制度を守ろうとする訴訟に加担するのは当然のことだというようなことを語っていたのが実に印象的で、大いに感心した。彼はまた、結婚制度そのものの中身は時代によって変わってきているとも語っていたが、まさにそのことによって社会制度としての結婚制度が維持されてきているのであって、現代においては同性婚を認めることが結婚制度に必要だと考えていたのだろう。

 まさしく結婚こそは、社会制度であると同時に、各人にとっては最も個人的なことであり、公民権に属するものであるわけだ。社会制度と公民権という二つの観点から結婚というものを考えてみたことがあまりなかったので、非常に興味深く観ることができた。

by ヤマ

'16. 6.25. 喫茶メフィストホール



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