『赤い玉、』
監督 高橋伴明


 高橋作品で僕が観ている最も古いものは、24歳のときに、あたご劇場の2本立で観た『襲られた女』['81]と『日本の拷問』['78]ではないかと思うが、なかなか強烈だった覚えがある。既見の最近作はBOX 袴田事件 命とは['10]で、これもなかなかの意欲作だったように思う。そんな高橋監督が、昨今の日本映画では性をオブラートにくるむようにしか表現しなくなったことに問題意識を抱いて撮ったR18作品ということで、ちょっと楽しみにしていた。

 御年65歳の奥田瑛二が演じる、近作のない映画監督で大学教授の時田修次というのは、高知でも上映された『道 -白磁の人-』['12]もあるように監督作品の途切れない高橋監督とは少々事情が異なっているように思われるが、高橋監督自身の京都造形芸術大教授での経験が随所に活かされていて、そこのところが興味深かった。しかし、肝心のエロス面では、かなり直截的に描いているわりには何だか官能的情感が乏しく、妙に微笑ましかったりした。時田の恋人、大場唯(不二子)に35歳と思えない若い可愛らしさを覚えたのは、僕自身が後二年余りで還暦を迎える歳になっているからかもしれないが、同じ奥田瑛二が主演している似た趣向を感じさせる作品として想起した皆月['99]と比べると、少々観劣りがするように感じた。

 それにしても、浴室で恋人に頭髪を洗ってもらいながら、自分は恋人の下の毛を洗いつつ指戯で喘がせていたりする様子や、深窓の令嬢と思しき女子高生 律子の淫蕩を演じる村上由規乃の下半身の肉感の迫力に、官能的情感よりも笑いのほうが込み上げてきてしまったのは何故なのだろう。また、映画監督としては既に終わった存在として時田を蔑ろにする企画担当者(柄本佑)の名前が青山だったり、時田の書く脚本のなかでは是枝だったりしていたのも妙に可笑しかった。

 男の精の打ち止めのときに赤い玉が放出されるという“赤玉伝説”に材を求めたのがそもそも失敗だったのかもしれない。仕舞いに強迫されることでの妄執に切迫感があまり感じられなかったように思う。高橋監督にも奥田瑛二にも、まだ実感のない領域なのだろうか。赤い玉の放出が目に見える形で全うされることは考えにくい“伝説”を見えるように提示するシチュエーションとしての仕置きという工夫には成程と感心したが、やはり官能的情感よりも滑稽さのほうが先に立つ。もともと老いての性への執着などを描きたいというような意識はなかったのかもしれないと思った。
by ヤマ

'15.10. 3. KAVC神戸アートビレッジセンター



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