『ラブ&ピース』
『映画 みんな!エスパーだよ!』
監督 園子温


 同年作品ながら、後から観た『ラブ&ピース』の公開のほうが先だったようだけれども、『映画 みんな!エスパーだよ!』は、総合監督を務めたらしいTVシリーズが2013年から始まっていて『TOKYO TRIBE』['14]よりも先になるようだ。五年前の県立美術館での監督特集上映を観た際に挙げた三つの系譜“時代をアクチュアルに切り取る作品”“プライヴェートを色濃く反映させた記憶を語る作品”“非常にカリカチュアライズされた造形色と倒錯性の強いエンタメ作品”で言えば、両作とも三番目の系譜に属する作品になるのだろうが、僕には『ラブ&ピース』に二番目の系譜に繋がるものを感じられたことが非常に興味深かった。


 『ラブ&ピース』は、西田敏行の演じるサンタが何だか『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』['07]のダスティン・ホフマンを思い出させるようなキッチュでファンタジックな妙な映画で、亀のピカドンが、飼い主だった鈴木良一(長谷川博己)の願いを受けて大きくなり始めたときに、これはガメラに向かうのではと思ったら、案の定そうなってしまうチープさが嬉しく感じられた。

 何だかめっぽう破天荒な作品だったように思うけれども、パワフルさでは、本作にも登場した「全力歯ぎしりレッツゴー」の地獄でなぜ悪いに及ばないような気がする。だが、今やこんなに好き放題の作品を撮れるくらいにビッグになったことで失ったものを偲び、かつてビッグになりたいと思っていた頃を偲ぶ想いが、ある種の衒いとともに窺えるようにも感じられて、妙に面白かった。


 『映画 みんな!エスパーだよ!』では、キューティハニー・ガールズ・コレクションともいうべき壮観に驚いた。メガネっ子も女王系もロリ系も含め、各種選りすぐりで取り揃えましたと言わんばかりの見事な配役で、今どきのグラドル&モデルパワーの圧巻におそれいった。

 何百年かに一度の天体の配置によって差し込む不思議な光のパワーで、そのときまさにオナニーに耽っていたヴァージン男女のみに超能力が宿るなどというトンデモなくおバカな設定と、超能力を使った豊橋市エロ化計画などというおふざけネタを、いかにも地域おこし行政が関与したような御当地映画スタイルで、地元民にしか訴求力のなさそうなランドマーク案内や御当地ゆるキャラをフィーチャーして描くといった遊びが横溢していて、呆れつつの眼福だった。

 元々のTVシリーズでも嘉郎を演じていたのは染谷将太だったようだが、先に寄生獣を観ていた僕には、嘉郎が泉新一をパロっているようにも見え、マキタスポーツや、河崎実作品でよく見かけるイジリー岡田の怪演に笑った。


 夭折した同窓生の坂東眞砂子の時代小説集『真昼の心中』のなかから好色は恥辱ではない。忠義などより、よほどいい。好色は人を殺さない。悦ばせるだけだ。との台詞を引いて、阿部牧郎が書評を書いていたが、その最後に作者の生前に、これほど真摯な才能をよく知らなかったのが残念である。と記していた。園子温の本領も、本作のような作品にあるのかもしれない。それにしても馬鹿馬鹿しい映画だった。
by ヤマ

'15. 9.14. TOHOシネマズ3
'15. 9.28. 美術館中庭特設会場



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