『約束の地』(Jauja)
監督 リサンドロ・アロンソ


 第67回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞作の本作は、製作・主演・音楽を担ったヴィゴ・モーテンセンの演じたディネセン大尉の同僚士官と思しき男が潮溜まりの湯のようなものに浸かってひたすらマスターベーションに耽っているオープニング早々でのシーンに唖然としていたら、なるほどそういうことかと納得させられるような極めて自慰的な作品だった気がする。大尉と娘インゲボルグ(ヴィルビョーク・マリン・アガー)の犬飼いにまつわる対話によるプロローグ後に現れるタイトル『ハウハ』で幕開けた巻頭において宣言されているわけだから、本作を自慰的作品だとして批判するのは当たらないというか、作り手は確信的なのだと思う。そして、端倪すべからざる技巧に溢れた自慰に感心させられもした。

 なかでも撮影(ティモ・サルミネン)が見事で、実に美しい色と絵柄に観惚れてしまった。それにしても、わけのわからない話だ。製作動機は、どこから生まれたものなのだろう。なぜ自国の侵略の歴史と外国人士官の戦隊からの離脱が家族の物語として語られていたのだろう。“人生を動かし、前進させるもの”とは即ち、戦いによる獲得と家族への想いということなのだろうか。そして“前進して至るのは、何処”なのだろう。永遠に果たされることのない約束としての“豊饒の地”とは、いかなる境地をさすのだろう。

 それらにまつわる明確なビジョンを本作から得たわけではなかったが、旅先でこの映画を観た折しも私の男桜庭一樹 著)を読んでいるところだったせいか、ディネセン大尉のインゲへの執着に些か過剰なる熱情を感じないではいられなかった。そして、大尉が娘を追って彷徨う旅の果てに出会った、老婆となった娘(ギータ・ナービュ)と洞窟で交わす対話のなかに、『私の男』では語られることのなかった25歳以降の腐野花の老いて後の姿を観るような気がした。

 また、これだけの映像的成果というか結実を果たしつつも凡そ興行的成功は望めそうにない、昨今の日本映画では考えられないような映画製作を目の当たりにしながら、おそらく監督のアイデアに惚れ込んだヴィゴが個人的人脈を駆使して製作にこぎつけたから8か国にもわたる合作になったのだろうなどと思った。





推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=3700229&id=1943478581
by ヤマ

'15.10. 4. 元町映画館



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