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『モンタナの風に抱かれて』(The Horse Whisperer)['98] | |||||
監督 ロバート・レッドフォード
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167分も必要だったかどうかには疑問があるものの、素晴らしい風景の切り取りと色合いに観惚れてしまった。スクリーン鑑賞ではなくてもこの有様だったから、映画館で観たらさぞかしと思いつつ、今の技術の解像度の高さにも改めて感心した。 二十年近くも前の作品なのだが、故あって心身ともに傷ついて暴れ馬になったものを殺処分とせずに、癒し治癒させるのに必要な手立てと時間を丹念に描き出していたことが、決して馬だけの問題には映って来ないところに、実に奥深いものがあるように感じられた。 邦題に沿えば「モンタナの風」との異名を与えるべき、馬に囁く牧童トム・ブッカー(ロバート・レッドフォード)が言っていたように、任せっぱなしにして癒せる傷ではなく、飼い主の協力と覚悟がないととても叶わぬことだし、親友を失い片足を失った飼い主自身もまた癒される必要があるわけだ。 暴れ馬をどうするべきかは、飼い主の有り様によって大きく異なるのだろうが、殺処分を望まなかった13歳の少女グレース(スカーレット・ヨハンソン)や彼女の母親アニー(クリスティン・スコット・トーマス)がモンタナの地で得たものを思うと、やはり冷徹に殺処分に向かうべきものではないという気がする。 そして、暴れ馬の象徴しているものが、虐待によって手に負えなくなった人々であったり、愛情の減退によって破綻しかけている夫婦問題であったとしても、暴れ馬となったピルグリム同様に、易々と見放してはならないのだろうと思ったりした。 それにしても、トムとアニーのダンスの濃密さには驚かされた。『アイズ・ワイド・シャット』['99]の冒頭のダンスシーンには及ばないにしても、それを彷彿させるような危ういまでの官能性が漂っていたように思う。何を以てセックスと認知するかは人それぞれではあるが、あそこまで感情を通わせ、着衣のままとはいえ身体を密着させて擦り合わせる行為をセックスと呼ばないのは不都合であるかのようなダンスだった気がする。そして、おそらくは二人のそのダンスを観て察したであろう弁護士の夫ロバート(サム・ニール)が、妻アニーに向けて説いた弁がなかなかの優れものだった。 奇遇を覚えたのは、トムの弟フランクを演じていたクリス・クーパーが先ごろ観たばかりの『8月の家族たち』のチャールズと重なるようなキャラだったことだ。当然ながら、年齢には随分の開きがあるのだけれども、いい感じだった。 | |||||
by ヤマ '15. 2.15. BSプレミアム録画 | |||||
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