『8月の家族たち』(August:Osage County)
監督 ジョン・ウェルズ

ヤマのMixi日記 2015年01月04日17:34

 例によっての市民映画会紹介記事のためのDVD観賞。
 当地の西土佐で記録した40℃を上回る42℃のオクラホマの物語は不快指数満点だった(笑)。

 寄り添って天寿を同時に全うした障害者夫婦を描いた『バルディ!』のカップリング作が、まさかこんな話だとは!(苦笑)

 「人生はとても長い T.S.エリオット」と書き残して、癌を病み元々の攻撃性が薬物中毒で激烈になっている老妻バイオレット(メリル・ストリープ)を置いて家を出るアル中詩人ベバリー(サム・シェパード)の“夫婦に訪れる終末”を描いて何とも激烈でへヴィな後味を残す家族物語だった(たは)。

 長女バーバラを演じたジュリア・ロバーツとメリルの鬼気迫る競演には圧倒されたし、実に観応えはあるのだけれども、いかにも人には薦めにくい作品で、紹介稿には難儀しそうだ(笑)。

 それにしても、アメリカの精神科医の薬の出し方も相当なもんじゃないか!
 母親の余りの惨状にバーバラが怒鳴り込むのは当然だと思った。
 だが、かの激烈な口撃の原因が薬の副作用ばかりではなく、母親と祖母との母子関係に起因するものでもあることが判り、加えて、夫婦間の問題としても、バーバラが抱えた夫の不倫以上の深刻さがあることが判明してくるにつれ、女の人生、ほんと遣り切れないって感じになってくる。

 バーバラが奇しくも娘に「自分の人生を壊してでも生き抜け!」との言葉を残していたことが後からじんわりと効いてくるような作品だった。
 それとともに、なんとなく原因はベバリーよりもバイオレットの妹にあるように描いていたり、夫婦関係の修復を望むビル(ユアン・マクレガー)をその頑なさによって拒んで硬直させているのは、今やバーバラのほうであることを示して嘗てのバイオレットを偲ばせていたところに感心。

 バーバラやバイオレットにチャールズ(クリス・クーパー)のような部分が幾らかでもあれば、事態は激変していたのだろうが、口撃することで我が身を守るのが精一杯だとなかなかそのようにはなれないもので、是非もない話だとも思った。


コメント談義:2015年01月04日 22:05~2015年01月11日 09:15

(ケイケイさん)
 身に詰まされまくりながらの鑑賞でした。あの親子喧嘩、劇場のスクリーンだと大迫力ですよ(笑)。私の感想です。


ヤマ(管理人)
 ケイケイさん、拝読しました。身近の様々なことを想起する特別な作品だったようですね。


(ケイケイさん)
 あの両親の間に育ったから、心身ともタフになったんで、今では感謝していますよ(笑)。


ヤマ(管理人)
 素晴らしい! 年季は重ねるものってわけですね(拍手)。僕は、映画レベルでさえグロッキー気味だったヘタレですから、ケイケイさんが映画日記にお書きのように本作の状況に身を置いた自分など、想像することも困難でした。強いて言えば、ベバリーになるのかな、身に詰まされるという観点からすれば。その場合、もっと早くに逃げ出してそうですが(たは)。

 容姿だけではなく、心が荒み醜く朽ち果てた老齢女性の痛々しさに、まず圧倒
 そのとおりでしたね。上に「鬼気迫る」と書きましたが、ほんとに凄かった。前半の1時間、二人の毒気に当てられっぱなしで、かなりの苦行でした(笑)。

 (どうして)人がそのような姿になったのか? そこには必ず理由がある
 多分ここのところが本作の核心部分なのでしょうね。マティ・フェイやビル、チャールズも含めて。
 だとすれば、リトル・チャールズを産んだマティ・フェイは、いかなる理由でそういう顛末になったと解しますか?


(ケイケイさん)
 退屈な男だと、夫に物足らなさがあったんじゃないかと。そこへ異性として憧れていた(と思う)ベバリーと接近。


ヤマ(管理人)
 うん、まぁ、オーソドックスな線かな(笑)。


(ケイケイさん)
 二人の接近は、ベバリーのほうから仕掛けたんじゃないかなぁ。
 バイオレットがあれだけ毒舌家であるというのは、知能も高いと思うんですよ。でも毒舌家だからしんどい(笑)。それで下世話で庶民的なマティ・フェイになびいたんじゃないかと。女好きは筋金入りみたいだしね(笑)。


ヤマ(管理人)
 僕はね、バイオレットの知能が高いってのは、同感なんですが、でもって「二人の接近は、ベバリーのほうから」とは思ってません。妻がしんどくての浮気なら、何も義妹に手出しをする必要はないわけでね。
 バイオレットが自身の親について愚痴ってましたが、いつも可愛がられていたのはマティ・フェイで、自分は母親から意地悪ばかりされていたと言っていました。若き日のバイオレットは、バーバラと同じなんですよ、きっと。白黒がはっきりしていて強く正しくて。
 バーバラがバイオレットから厳しく当たられていたように、姉のバイオレットは、いつも厳しい目を向けられ、マティ・フェイは、カレンのように明るく奔放(笑)。そして、わがままで、カレンがそうだったように、頭のいい姉さんに対してコンプレックスがあったんじゃないかと観てます。そこへもって、ケイケイさんも書いておいでのように“異性として憧れるに足る知的なベバリー”だったものだから、姉さんへの対抗意識というか当てつけで誘ったのじゃないでしょうかね。
 ぶら下がっている目前の人参を食わずにいられる馬はなかなかいないというのは、ゴーン・ガールの馬鹿ニックでも知的なベバリーでも一緒なわけで(笑)。

 少し意外に思ったのは、ケイケイさんがベバリーを「女好きは筋金入りみたい」というふうに観ていることでした。映画日記にも「アル中で浮気を繰り返す夫に憎悪さえ感じているようなバイオレット」というふうに書いておいでですが、なんかそういうエピソードが語られてましたっけ?

 僕はむしろ浮気なんぞに慣れていないからこそ、義妹と関係を持った挙句、ああいう顛末に至ったりしたんじゃないかと思えて仕方がありませんでした。深く悩み込み、アル中にまでなったのも、それゆえかと思ってます。


(ケイケイさん)
 姉への対抗意識かぁ。あり得る話ではありますね。


ヤマ(管理人)
 でしょ。


(ケイケイさん)
 ベバリーが女好きだというのは、最初のほうでバイオレットが言ってたように思いますよ。酒も女も現実からの逃避でしょうね。


ヤマ(管理人)
 最初のほうでバイオレットが言ってたベバリーが女好きだという話は、確かバーバラに向かって言ってた話だったように思いますが、それはバーバラの父親にも浮気歴はあるというような意味合いで、若い女には敵わないんだよってなニュアンスだったように僕の中では残ってます。だから「浮気を繰り返す夫」というのに驚いたのでした。


-------チャールズの器--------

ヤマ(管理人)
 もうひとつ、チャールズが、おっしゃるところの妻の尻に敷かれているように見えて、実は誰にも負けない夫としての器の大きさを持った人のような姿になれた理由は、いかなるところにあると想像されますか。


(ケイケイさん)
 リトル・チャールズの父親になった事。


ヤマ(管理人)
 これは、そうですね。で、どうしてあれだけの父親になれたのかがポイントなのですが。


(ケイケイさん)
 もしかしてね、リトル・チャールズが種無しだったとして、そのことを妻には内緒にしていたとする。うじうじして退屈だった彼は、一層卑小になる。そこへ妻が妊娠した。多分父親は、自分も男として敬意を持っていたベバリー(あの演説は本心だと思う)。
 妻の産んだ子というより、ベバリーの息子の良い父親になりたいという思いがあったんじゃないかなぁ。ベバリーには娘はいても、息子はいなかったでしょう? ベバリーが男の子を望んでいたかどうかはわかりませんが、自分は息子を我が手にした。ベバリーに対して、微かな優越感も得た。それを糧に、息子に立派だと思われるような人間になろうと、思ったんじゃないですかね?
 ヤマさんの推測や如何に?(笑)。


ヤマ(管理人)
 なかなか面白いですねー(礼)。
 チャールズ種無し説は、思い掛けなかったですが、ベバリーへの敬意については同じ。
 種無し説について素朴に思うのは、妻から求められる前に自分で種無しかどうかを調べる男はあんまりいないんじゃないかなぁってことですが、根拠はありません(笑)。


(ケイケイさん)
 妻から求められたんじゃなくて、結婚前に知ってたわけですよ、病気か何かで。


ヤマ(管理人)
 なるほど。それはありかもしれませんね。いずれにしろ、種無しか不在か妻から遠ざけられていたか、何らかの理由で思い当ることがあって妻の妊娠が確信的に腑に落ちなかったのは間違いなさそうですね。僕が推測しているチャールズとベバリーの遣り取りも、そう考えると流れがスムースになりますし。妻に抱いた不審を義兄に相談したことから起こった展開のような気がしてきました。

 で、我々の見解が一致している“ベバリーへの敬意”ですが、それがなにゆえ生じたかがポイントです。詩人で知的だからってのでクラッときたりはしないでしょうから、リトル・チャールズにまつわる何かがチャールズとベバリーの間にあったんでしょうね。


(ケイケイさん)
 「詩人で知的だからってのでクラッと」ってありじゃないですか? 自分にない知性と容姿とカリスマ性。男が男に惚れるって事もありだと。チャールズから見て、憧れの存在であったと私は思いますけど。


ヤマ(管理人)
 妻に抱いた不審を相談する程度にはね(笑)。まぁ、そうでなくても、絶対にないとまでは言いませんが、詩人で知的だから義兄にクラっていう男だというのが、僕には、クリス・クーパーのイメージとしてしっくりこないだけなのかも。

 僕は、おそらくチャールズを感動させる熱意と誠心誠意で、徹底的にマティ・フェイを庇い、チャールズにひたすら謝罪しつつ、リトル・チャールズの父親になってくれるよう懇願したんだろうと察しています。とても自分には、ここまで出来ないという構えでね。そこで、よしわかった、マティ・フェイとの過ちは水に流そう、リトル・チャールズのことは任せろ、と…。クリス・クーパーの漂わせていた男気がそのように言ってました(笑)。


(ケイケイさん)
 ベバリーはそういうことをしない男だから、チャールズは憧れていたと私は思いますけど(笑)。逆の立場で、チャールズなら、しそうですけどね。


ヤマ(管理人)
 ということは、このへんは、正反対の人物イメージなんですねー(笑)。
 結婚前の若い時からのアル中で、頭を下げて頼んだり謝ったりするようなことをしない知的な詩人「だから」憧れるというふうに観る感覚が、僕にはなかなかピンと来ないですが、男が男に惚れるっていうか憧れの存在って、そういうイメージなのかと、ちょっと驚きでした。


-------ベバリーの人物像-------

(ケイケイさん)
 ベバリーは何事にも執着しないように見えて、実はどんな難儀からも逃げきれない男だったと思います。


ヤマ(管理人)
 元々悩み深き知的な詩人タイプだったんだろうから、それは僕もそう思うんですけどね。


(ケイケイさん)
 ヤマさんが書いてはるように頼むことのできる人だったら、自殺はしなかったと思うなぁ。


ヤマ(管理人)
 そーか、自分をさらけ出せる人物ではないから、自殺もするし、チャールズに頭を下げたりできなかったろうということなんですね。なるほどね。でも、その両者って三十年近くの開きがあって、昨日今日の差異ではないし、その三十年近くの針の筵の歳月の果てに近年とみに増した妻の薬害口撃に晒されていれば、同列では考えにくいように僕は感じるんですよね。

 でもって、チャールズが立派に約束を果たし、他方、実母のマティ・フェイは、我が子に対して屈託がある様子を、アンタッチャブルな立場でずっと見るしかなかったわけです。アル中にもなりますって。バイオレットからは無言の針の筵ですし(笑)。そこへもって、最近は薬中毒ゆえの悪口雑言三昧で、すっかり疲れ果てた末の自殺だったように思うわけです。


(ケイケイさん)
 リトル・チャールズの事は一因ではあるでしょうけど、彼に取ってはそれほどの事じゃないと思います。


ヤマ(管理人)
 え~!そうなんですか? 悩み深き詩人は、そんなことは然程に感じないんですか?(驚)


(ケイケイさん)
 多分マティ・フェイの事は愛してなかったでしょうから。彼に取ったら子供が出来たのは、交通事故みたいなもんですよ。


ヤマ(管理人)
 うーん、そうなんでしょうか(狼狽)。交通事故なら、怪我もしますよね。ときに大怪我、死亡さえ。


(ケイケイさん)
 それより愛の少なかった幼少時代、愛憎だらけのバイオレットとの生活が、彼の神経を蝕んでいったんじゃないかと思います。


ヤマ(管理人)
 勿論それはそうです。だからこそ、義妹が妊娠したときと老妻が薬害口撃を激しくしてきたときとを同列には見られないと思うわけです。


(ケイケイさん)
 アル中は、結婚前からみたいなセリフもあった気がする、不確かですが。


ヤマ(管理人)
 僕には、そういう印象はないですね。むしろ躓きは義妹との過ちから始まったみたいな感じです。台詞がどうだったかはともかく、この受け取りの違いってベバリーの人物像にも大きく影響してきますから、大きな違いですね。たぶんケイケイさんは、ベバリーの幼少時代の育ちを重視しておいでるんでしょうね。

 これが、僕の推測であります。キーポイントは、マティ・フェイのほうからの誘いです。宮部みゆきの『誰か Somebody』の梶田梨子でしたっけ、姉の婚約者を誘惑したのは。まぁ、あれみたいなもんですよ。


(ケイケイさん)
 なるほど。残念ながらこの作品は未読です。でも私は、どちらが誘ったかというのは、あんまり興味がないんだなぁ(笑)。


ヤマ(管理人)
 ま、観方は人それぞれですしね。ましてや描かれていない場面です。ただ僕的には、ここんとこはマティ・フェイとベバリーの問題としては、どちらからでも大した意味合いはないかもしれないけれども、姉妹間の問題としては重要だと思っています。僕は、紹介稿にも書いたように本作を“母娘や姉妹の間にある相克と葛藤の物語”として観たので、そこんとこに着目したんでしょうね。


(ケイケイさん)
 了解でーす。こんなに見方が違うのかと、私も少々びっくりです。
 この手の作品は自分の人生観や家族観が入るので、「観たいように観える」度が高いんでしょうね。


ヤマ(管理人)
 どの映画も大なり小なりそうなんですが、ほぅ、そんなふうに映るのかと意見交換し、伺う解釈の刺激が談義することの醍醐味だと僕は思ってます。面白いものですよね。


(ケイケイさん)
 私の観方としては、結果ですね、リトル・チャールズは何をやってもダメな人生じゃなく、養父チャールズを「男」にしたんですから、やっぱり彼は祝福される子なんです。生まれながらに、ベバリーやバイオレット、従妹達より恵まれていたんですよ。それが重要なんじゃないですかね?
 私はね、リトル・チャールズのことは、4人が誰にも言ってない、聞いてないと思うんです。妊娠したとき、みんな半信半疑、それが段々確信になり、でも1%はまだチャールズの子じゃないかと思っている。全員がね。


ヤマ(管理人)
 もちろん姉妹の間では言ってないし、それぞれの夫婦間でも言ってないと思いますね、僕も。でも、義理の兄弟の間で話があったのでなければ、チャールズは、息子の実の父親が義兄だとは、流石に99%の確信で思うには至らないんじゃないですか?


(ケイケイさん)
 そうですかねぇ?
 妻に関心があれば、綺麗になった、今恋している、なら誰だ?と、妻の周囲を見渡せばわかると思いますけど。用意周到で、抜け目のない女性には見えませんでしたし。>マティ・フェイ。 彼女がバーバラに「ただの太っちょのマティおばさんだけじゃないのよ、私は」と言うセリフも、夫は昔から聞いていたはずで、根拠もないのに、プライドは高い人だったかも。
 そこでヤマさん説登場(笑)。昔から姉へのコンプレックスを抱いていた妻なら、相手は義兄だと察したんじゃないですか?


ヤマ(管理人)
 僕は、本作をバーバラ=バイオレット、カレン=マティ・フェイの姉妹イメージで観ているのですが、カレンがバーバラに抱いているコンプレックスが彼女のプライドから来るもののようには感じていないのと同様に、マティ・フェイにプライドの高さはあまり感じませんでしたね。

 また、チャールズが妻の浮気どころかその相手さえも見抜くような男だというイメージも持ってませんでした。クリス・クーパーやしなぁ(笑)。妻のなかにある姉コンプレックスを見抜き「昔から姉へのコンプレックスを抱いていた妻なら、相手は義兄だ」と察するようにはとても思えないんですが、これはもうそれぞれの受け止めの領域であって、へぇ~の連打状態なわけです(笑)。正誤問題ではないですからね。


(ケイケイさん)
 私は男二人は、そもそも世間話をするくらいの間だったように感じています。だからチャールズはベバリーに憧れたんじゃないかなぁ。ベバリーは素敵な人ですが、それは手応えのある素敵さではないでしょう? チャールズのほうがずっと実のある人ですよ。そこがわからなかったから、憧れていたんだと思います。
 だから妻の相談なんて、「この頃増々太っちゃって」程度の話しで切り上げていたと思いますね。なので、不審の相談もないと思います(笑)。


ヤマ(管理人)
 「ベバリーは素敵な人ですが、それは手応えのある素敵さではない」とおっしゃるのは、深い話をすると馬脚を現して憧れの対象ではなくなるってことですか?


(ケイケイさん)
 いいえ。親しくなるとアイドルじゃなくなっちゃうから(笑)。


ヤマ(管理人)
 そもそも世間話をするくらいの間柄というのは、話の深浅ではなく、親しさの度合いってことなんですね。


(ケイケイさん)
 そうそう、高嶺の花で居て欲しかったと思います。


ヤマ(管理人)
 それにしても、アイドルとは! 大いに意表を突かれました(笑)。
 それで、知的な詩人というのは、所詮「っぽさ」に留まっている若い結婚前からのアル中男だっていうことですよね。そりゃ「チャールズのほうがずっと実のある人ですよ」とおっしゃるのは分かりますけど、若き日のベバリー、「それは手応えのある素敵さではない」とまで言われるような人物なんですかね?


(ケイケイさん)
 これも、いいえ。っぽいのではなく、ベバリーは知的で深みのある人だと思っています。例えアル中でもね。手応えのない素敵さと言うのは、悪い意味ではないんです。儚い、脆いが近いかな?


ヤマ(管理人)
 若き日のベバリーの儚く脆いイメージの素敵さってのも、かなり意表を突かれました。
 サム・シェパードですよ?(笑) まぁライト・スタッフまではいかなくたって、出版も果たし大学に職を得、あの老いてアル中でぼろぼろの最後になってても、残し行く妻の日々の生活介助が出来る女性を雇い入れ、そのネイティヴ・アメリカン女性にエリオットの詩集を与えたうえで去って行った人物ですよ。若き日に過ちはしているし、チャールズのほうがさらに上をいくようには思いますが、それなりの人物だったように僕は思いました。


-------秘密と嘘の持つ意味-------

ヤマ(管理人)
 それにしても、種無し自覚なり実父からの告白なりがなければ、四人のなかで、むしろチャールズだけはリトル・チャールズを自分の息子だと思ってるはずですよね。でも、どうやらそうではなさそうだという点で我々の見解が一致してるのが面白いですね。そこが一致して、チャールズは、息子の実の親が義兄だと知りつつ、義兄の持てなかった“息子という存在”を得たことで微かな優越感を手に入れて、良き父親になりたいと思ったという受け止めは、かなり思い掛けないものでしたが、なるほど息子か、ケイケイさんらしいなぁと思いました。


(ケイケイさん)
 何故誰も口を開かないか? 自分の家庭を壊したくない、姉妹としてずっと付き合いたいから。


ヤマ(管理人)
 これは同感です。僕も姉妹間、それぞれの夫婦間では口にしてないと思ってますし。


(ケイケイさん)
 バイオレットが黙っていたのは、夫に優位に立ちたいだけではなく、マティ・フェイの姉で居たかったからだと思います。マティ・フェイもそうだと思います。苦しいからって、告白したら負けなんですよ。破壊的な秘密を抱えている家庭って、多かれ少なかれ、そんなもんだと思います。
 そう思って観ていたから、ベバリーが必死でチャールズに頼んだとか、不審の相談をしていたとか、ヤマさんの予想を拝読して、すごくびっくりしちゃった。ちょっと笑いました(笑)。


ヤマ(管理人)
 それは、チャールズならしそうだとケイケイさんも書いておいでたことを「ベバリーならしない」と思われる部分が、ちょうど我々の間で正反対だから可笑しかったのですか?


(ケイケイさん)
 そうではないですね。ヤマさんのベバリーとチャールズの男同士の熱い絆の予想が、私の知っているヤマさんとは全然リンクしなかったからです(笑)。こんなにたくさん映画の事でやり取りして、実際に何度も会ってお話しているのに、まだ知らないヤマさんがいたんだなぁと、それで思わずクスクスと。何か松岡修三的だわ(笑)。私の認識しているヤマさんは、クールではないけど、もうちょっと低体温なので(笑)。


ヤマ(管理人)
 いや、チャールズやベバリーに僕自身を投影しているわけではありませんから(笑)。自分の妻の子の実父が義兄であることを知っていてなお、屈託を抱えて育てている実母の妻の風当たりから庇ってやりながら父親の役割を果たそうとするような異例の関係が、どのようにすれば生まれ得るのだろうと想像するなかでの出来事ですから、僕の体温とはあまり関係ないんじゃないでしょうか(笑)。当然ながら、僕の延長で考えては、クリス・クーパーもサム・シェパードも似合わない気がしますしね。


(ケイケイさん)
 おぉ、そうなんですか(笑)。私はもぉ、どっぷり自分を投影していますよ(笑)。と言うか、だいたいどの作品もそうかなぁ?


ヤマ(管理人)
 ええ、概ねそういう気がしますね。長年の付き合いから受け取っているものとしては(笑)。だから、僕には出来ない着想や視点が興味深くて、つい意見を伺いたくなるの(たは)。


(ケイケイさん)
 あっ、ちなみに松岡修三は好ましく思っています。でも男二人でそんなこと会議されたら、私なら怒ります。


ヤマ(管理人)
 ええ、僕も。ただ、親しく付き合うのはシンドイ気がしますね。ついていけないもん。
 会議はもちろん、“いい塩梅”に秘密裡に決まってるじゃありませんか。それに互いの妻のための会議じゃありませんし(笑)。


(ケイケイさん)
 お話ししてて、ヤマさんは良きご家庭に育ち、今も継続中なんだなぁ、いいなぁと改めて思いました。
 私はベバリーの弱点は、育った家庭だと観ているので、大人になりきっていない人だと見ているんです。家庭の愛に恵まれなかった事は、人はどこかで取り戻さなきゃいけないんです。


ヤマ(管理人)
 なるほどね。


(ケイケイさん)
 それは、結婚であれ子供を持つことであれ、その他でも、自分のほうから愛を出す事が手っ取り早い。


ヤマ(管理人)
 で、バイオレットで取り戻せなかった部分をその妹に手を出すことで、手っ取り早く取り戻そうとしたと御覧になったわけですね?


(ケイケイさん)
 手っ取り早くでもなかったでしょうけど、妹を通して姉を観ていたというんは、あるのじゃないかなぁ。バイオレットの妹でなければ、マティ・フェイとは深い関係にはなっていないとは想像します。
 ベバリーだけじゃなくバイオレットも、相手を「愛せる」と思って結婚したんだと思うんですね。でもやっぱり「愛されたい」のほうが勝る。子供でも愛することに失敗した。


ヤマ(管理人)
 バイオレットとの相似性は、娘バーバラよりもむしろ夫ベバリーだというわけですね。「家庭の愛に恵まれなかった」者同士ということで。なるほどね。


(ケイケイさん)
 バーバラもそうでしょうけど、ベバリーもそうだと思います。愛したいのに愛されたいが勝る。愛し方がわからない。どこかで素直に愛情を出せれば、こういう人たちは救われると思います。
 チャールズは、ベバリーの逃避は毒気の強い妻からの逃避だけだと感じていると思うんです。深く付き合って、それだけじゃなくてベバリーは真には大人になり切れていない人だとわかると、チャールズは失望する気がするんですよ。これはチャールズに限らず、理解されにくい感情だと思いますから。


ヤマ(管理人)
 家庭の愛に恵まれなくて大人になり切れていないことで現れてくる相手の感情というものに、深い付き合いのなかで出くわすようになると、その感情を理解しにくくて、相手に対して失望するようになるということですか。なまじ知的な憧れを誘うような人物イメージだと尚更にってことなんですね。
 僕自身は、家庭的修羅というのは上下の世代を含めて、幸いにも家族としては経験してませんが、露わになっていない秘密というのは多かれ少なかれ、どんな人間関係においても不可避なものだろうとは思います。それが破壊的なものになるのかどうかは、露わになってみないと判らないことなので、何とも言えませんが。


(ケイケイさん)
 それはそうですね。「嘘」ではなく、「秘密」だからいいんであって。問われていないんだから、嘘ではない。問うと、本当のことを言うと崩壊するし、嘘をつくとまた嘘を重ねちゃう。それでどんどん苦しくなる。秘密というのはいい塩梅なんですよ。


ヤマ(管理人)
 はい。


(ケイケイさん)
 それを四人は知っていたんですね。


ヤマ(管理人)
 むろん、チャールズが妻の相手を義兄と見抜いていたうえで相談にかこつけて当たってみるようなことをするとは思えません。


(ケイケイさん)
 その1%の希望を破ったのは、次女とリトル・チャールズですよね。


ヤマ(管理人)
 風が吹けば桶屋が儲かる的なことで言えば、彼らが付き合わなければ生じなかった問題でしたね。


-------リトル・チャールズの存在-------

ヤマ(管理人)
 リトル・チャールズだけが男の子であることにも注目しておいでましたね。僕にはなかった着眼点で、とても興味深かったのですが、祝福されるべきリトル・チャールズという点で言えば、実母からは屈託を抱えられ、養父に庇われて育った彼に関わる場面として、とても痛烈なシーンがありましたよね。
 バイオレットの次女アイヴィー(ジュリアンヌ・ニコルソン)が、母親から秘密を告げられて「あんた(たち)はモンスターよ」と言い残して家を出た場面のことですが、祝福される子としては、リトル・チャールズとアイヴィーの仲は、割かれるべきものなのか否か、どうお考えになりますか。


(ケイケイさん)
 二人ともその手の根性はなさそうなので、もうセックスは出来ないんじゃないかなぁ。


ヤマ(管理人)
 是非を問うまでもない予測ということですね。


(ケイケイさん)
 だとしたら、別れなくてもいいですよね。プラトニック・ラブに非常に近い、親密な姉弟でいいと思います。


ヤマ(管理人)
 セックスをしなければ、別れなくてもいいということなんですねー。元々アイヴィには妊娠の可能性はなくなってるので、子供ができる可能性だとかとは違う観点で、セックスはタブーだよというスタンスと解していいのかな。もっとも常識的で穏当なご意見だと思います。
 ところで、その“秘密の按配のよさ”を知ってたはずのバイオレットが次女アイヴィーに、最悪の形で秘密を告げたのは、なぜだと解してますか?


(ケイケイさん)
 やっぱり近親相姦はダメだからでしょう。1%のファンタジーを言ってる場合じゃないと(笑)。彼女なりの母の愛なんですよね。これも周囲にはわかりづらい。


ヤマ(管理人)
 周囲どころか、当のアイヴィーにも伝わらずに「モンスター」呼ばわりされてましたね。
 僕は、TAOさんとこにも書いたように、娘への愛なんぞじゃ無論なく、ちょうど泥まみれのぼろブーツをクリスマスプレゼントとして渡して幼い娘(バイオレット)の心を砕いて哄笑していたバイオレットの母親の悪意と被さってくるような激烈な悪意だったように思います。(母親から受けた悪意に満ちた意地悪の連鎖の物語ですもん。)
 絵に描いたように、正反対ですね(笑)。


(ケイケイさん)
 バイオレットの母親の悪意ってのは、凄かったですね。


ヤマ(管理人)
 店頭にあったブーツではなく、泥のついたぼろブーツだったことに愕然としているバイオレットを観て笑った母親の顔と、愕然としているカレンに向けたバイオレットのいい気味そうな顔が重なり、ぞっとしました。


(ケイケイさん)
 その母親は祖母として孫たちにはどうだったんですかね? これは今までの話には出ていなかったと思うけど、結構この作品を紐解く重要ポイントだと思います。


ヤマ(管理人)
 バイオレットには、バーバラとカレンだけではなく、間にアイヴィーがいて、離れて行ったバーバラとカレンを呼び寄せましたが、アイヴィーのような存在がなかったバイオレット姉妹では、バイオレットと母親は絶縁していたのではないかという気がします。
 単に孫ができる前に先立っていたのかもしれませんが、バーバラ、アイヴィ、カレンの誰からも祖母の話は出てなかったと思います。バイオレットの口を通じてという形で祖母の話は初めて聞いたというような風情だったように受け止めているので、僕には糸口がないですね。






推薦テクスト:「雲の上を真夜中が通る」より
http://mina821.hatenablog.com/entry/2014/05/08/142705
推薦テクスト:「映画通信」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1925369563&owner_id=1095496
推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=3700229&id=1926532867
編集採録 by ヤマ

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