『6才のボクが、大人になるまで。』(Boyhood)
監督 リチャード・リンクレイター


 マイケル・ウィンターボトム監督のいとしきエブリデイ['12]は、幼子の実の兄妹を使って5年の時間に及ぶ物語を実際に5年かけて撮り上げていたように思うが、本作は12年間だから、倍以上だということに驚く。人物造形とその変化に説得力が備わるのも宜なるかなではあるが、演技を超えたものがもたらすその効果には、いささか反則の匂いがしないでもない。

 だが、都合3人の父親の元で暮らすことになっていたメイソン・Jr(エラー・コルトレーン)ほどのことがあったわけではないにしても、「6歳の僕が18歳になるまでに、どんなことがあったっけ、そして、18歳になって地元を離れ、東京に出たとき、僕はどんな思いと状況だっけ。」と、ふと振り返ってみたくなるような人生の機微を感じさせてくれる、なかなかの厚みを持った作品だったように思う。

 併せて、若くして子供を持ったことで、夫婦生活にしても育児にしても、うまく対処できなかったことからの人生挽回の物語としても、なかなか味わい深かった。気付きにしても、選択にしても、人生において“タイミング”というものが如何に決定的であるかが偲ばれて、とても感慨深かった。己が人生や子を持つことに対する意識や感覚が12年前の二人に得られていれば、メイソン・Sr(イーサン・ホーク)とオリヴィア(パトリシア・アークエット)が離婚することはなかったろうし、オリヴィアの再婚やメイソン・Srの再婚といったことがなければ、二人は縒りを戻したのではないかという気がしてならなかった。そして、そのことを当人たちが誰よりも痛切に感じているであろう姿が浮かび上がっていて、人生のままならなさに感慨を覚えた。大学に進学するメイソン・Jrの旅立ちに際してオリヴィアが見せていた弱みに宿っていたのは、そういうものなのだろうという気がする。

 だが、そんな大人の事情に最も振り回されるのは、他でもない子供たちだ。その子供の存在が親を振り回し、親の事情がまた子供たちを振り回す。しかも、そのなかで夫婦の関係性も親子の関係性も、不断の変化に晒されているわけだから、家族の営みというものは、それが全うできさえすれば、それだけでもって幸いとすべきことなのかもしれないなどと思った。

 それにしても、鷹揚で紳士的だった大学教授ビル(マルコ・ペレッラ)にしても、中東で異教徒たちに対してさえ尊重と親和性を発揮していたらしき元海兵隊員にしても、メイソン・Srを含め、オリヴィアの夫になると三人ともが、次第に暴君化していったのは何故なのだろう。夫性以上に父性について、過剰に意識づけられてマッチョ化する要素が働いているような気がした。それが、サム・メンデス監督のアメリカン・ビューティー['99]でも浮き彫りにされていたアメリカ的価値観からくる部分が大きいのか、オリヴィアとの関係性によって生じてくる部分が大きいのか、ちょっと微妙な感じがした。だからこそ、メイソン・Jrの姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター)が案じていた最初の継父ビルの連れ子たちが長じてどのようになっていたのかは、オリヴィアの助言で一念発起して就学の道を切り開き、人生への希望を得ていた移民の青年の姿以上に、気になるところだった。

 パトリシア・アークエットは、『ヒューマン・ネイチャー』['01]での怪演が凄かったが、本作でも実に印象深い。また、メイソンの実父メイソン・Srを演じたイーサン・ホークがなかなか味わい深かった。少年時代という原題と同じ題名の日本映画(監督 篠田正浩)があったが、本作同様に秀作だった覚えがある。少年時代に何を得、何を経て成長するかは、その後の人生において最も重要なファクターとなるのだろう。親子関係が全てではないという側面を漏らさずに提示していたなかで、そのことが沁み渡ってきたように思う。




推薦テクスト:「映画通信」より
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推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
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推薦テクスト:「眺めのいい部屋」より
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by ヤマ

'15. 1.20. TOHOシネマズ8



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