“ボリウッド4”+1 in あたご劇場

『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム
 (Om Shanti Om)['07]
監督 ファーラー・カーン
『タイガー ~伝説のスパイ~
 (Ek Tha Tiger)['12]
監督 カビール・カーン
『命ある限り』
 (Jab Tak Hai Jaan)['12]
監督 ヤシュ・チョープラ
『闇の帝王DON ~ベルリン強奪作戦~
 (Don 2)['11]
監督 ファルハーン・アクタル
『きっと、うまくいく』
 (3 Idiots)['09]
監督 ラージクマール・ヒラーニ

 十五年位前にインド映画の一大ブームがあって高知でもインド映画祭”と銘打った企画上映がされたりしたのだが、その後、韓流ブームに押し流される形になって、ほとんど観る機会が得られなくなっていて、高知では四年前に『DON ~過去を消された男~』['06]を観る機会があったほかには上映されていないように思う。

 そのようななかこの六月に『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』を観て、久しぶりに接するインド映画の楽しさに改めて魅了された。ラジュー、出世する['92]で観たジューヒー・チャウラーにも惹かれたが、ディーピカー・パードゥコーンには、それ以上に魅惑されたように感じたのにも、そのことが影響していたように思う。明るく華やかな美貌に笑窪が愛くるしく、豊かな表情と豊満なバストに、引き締まった身体で弾けるように踊るのだから堪らない。陶然と見惚れていたような気がする。

 上映時間が三時間近くもあったとは思えないくらい引き込まれ、実に楽しく面白く観た。三十年後に、ムケーシュの犯罪を暴き出す作戦を実行していた場面での歌には、どこか『オペラ座の怪人』を思わせるものがあったように思う。

 また、エンドロールで、キャストのみならずスタッフ紹介までが映像で流れるのを観ながら、製作現場のチームワークの良さと映画作りの楽しそうな様子が偲ばれて、気分の良さが倍加されたような気がする。ディーピカーの出ている『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』をなんとかスクリーンで観たいものだと思った。



 この上映が好評を得たのか、三か月後に“ボリウッド4”と称するインド映画の連続上映企画も果たされた。高知でのトップバッターは『タイガー ~伝説のスパイ~』だったのだが、インドのエンタメ映画に感じられる大らかさが何とも気持ちよかった。

 今どき敵国同士の男女スパイの恋物語などというベタなロミオ&ジュリエットは、企画段階でボツにされそうなのだが、海外ロケを構えて派手に展開し、しっかりと目を奪うのだから大したものだ。まるでシルベスター・スタローンのようなタイガー(サルマーン・カーン)の名は、ジェット・シンではなくて、アビナーシュ・シンだったけれども、なかなか魅力のある役者だと思った。だが、彼以上に魅力的だったのが、パキスタン側の女スパイのゾヤを演じたカトリーナ・カイフで、ダンス、目線、仕草が絶妙だった。本当にインド映画の女優のコケティッシュな魅力にはすっかり悩殺されてしまう。

 ご都合主義の展開などという突っ込みを粉砕してしまうだけの画面の魅力が、映像美などという高尚な代物よりも、圧倒的な身体パフォーマンスによって支えられているところが何とも凄い。歌と踊りだけではなく、アクションや表情演技、所作などインド映画お得意のサービス満点の画面作りだ。ここのところをしっかり見せてくれるから、他がどうでもよくなるような気がしなくもない。



 第二弾として出て来たのは『命ある限り』で、これが実に素晴らしかった。ヒロインのミラを演じたカトリーナ・カイフが『タイガー ~伝説のスパイ~』のとき以上に魅力的で、踊りが非常に良かった。だが、何と言っても効いていたのは、アキラのキャラとそれを演じていたアヌシュカ・シャルマの表情の魅力だと思う。

 使い古された記憶喪失ものという設定や神との契約などというものを持ち出しながら、陳腐で見飽きた時代錯誤を感じさせるどころか、文芸作品的なことの終わり['99]を彷彿させ、むしろ「古風なメロドラマって素敵にかっこいいだろ」ということを現代に訴えかけるようなパワーを備えていて、大いに感心させられた。現代に対して訴求するうえで、アキラのキャラは必要不可欠なわけだが、古風を強力にプッシュしながらも、インドのエンタメ映画では初めて観た実際にキスする場面とか、官能表現をすべてダンスと歌に追いやってはしまわないベッドシーンの導入とか、古風どころか、むしろ表現自体は斬新と言うか旧態を打破しているところにも感心した。

 それにしても、サマルを演じていたシャールク・カーンの若々しさはどうだろう。1965年生まれだそうだから、もう五十歳が近い年のはずなのに、驚いてしまう。『DON ~過去を消された男~』['06]を観たときに、『ラジュー出世する』['92]から余り変わらぬ若々しさで歌ったり踊ったりしていることに感心したのだが、より一層激しい踊りをしていたような気がする。大したものだ。



 第三弾は、その『DON ~過去を消された男~』の続編となる『闇の帝王DON ~ベルリン強奪作戦~』で、前作をスケールアップさせて一大海外ロケを敢行し圧巻ではあったのだが、自分がインド映画に求めているのはこういう路線ではないのだということを改めて認識した。

 アクションは派手になっているけれど、踊りが少ないし、女優と絡む場面が少なくてやや不満。四年前に観た前作は、これでもかの豪勢なインド美女の踊りと衣装が実に嬉しい作品だったが、物語的にもなかなかの仕掛けが施されていて、ズルいと言えばズルいのだけども、気持ち良くしてやられたのが楽しかったのに、本作はどうも物量作戦で押してきているような印象が残った。ロマを演じたプリヤンカー・チョープラーの容色も、五年を経てちょっと変化していてキツくなっているような気がした。



 ボリウッド4の最後を飾った『きっと、うまくいく』の原題が「All is well」ではなくて、三馬鹿だったことに意表を突かれたが、なかなか良い邦題ではないかと思えるような作品だった。はみ出す不安を抱えつつも「これでいいんだ」と自らに念じながら我が道を進もうとする先には「きっと、うまくいく」との願いが込められているわけで、グローバリズムという名の強欲資本主義に翻弄されつつも、本末転倒をきたさぬよう抗うべきところは抗う勇気を持つことは、実はとても大事なことなのだ。

 何とも楽しげな学生生活を微笑ましく羨みつつ、四十万人が受験して二百人しか入れない狭き門であるとか、若者の自殺者が急増しているらしいこととか、経済成長と学歴競争のなかでインドも高ストレス社会になってきているからこそ、このような映画が作られ、歴代興行成績ナンバーワンの大当たりになるのだろうと思った。最近、目にすることが多くなった度の過ぎたレイプ事件の頻発も自殺の増加と同根のストレスフル社会化にインドがあるからではないだろうか。

 日本ではもう当たり前に使われるようになっている“勝ち組負け組”などという品位と見識を著しく欠いた言葉が僕は大嫌いで、とりわけそれが収入の多寡や社会的ステイタスでの区分でしかないときには、余計に気分が悪くなる。そもそも人生は勝敗で区別するべきようなものではないし、ましてやその評価基準として金と地位で見てしまうのは、不見識極まりなく下品な気がしてならない。だから、本作でのランチョー(アーミル・カーン)の打つ若々しい大正論が気持ちよく、インドでも日本でも、高ストレス社会というのは、若い時分から既にそういう感覚を損ねられている社会なのだと改めて思った。

 それにしてもインド映画というのは「実は別人」みたいな作品が多過ぎるような気がする。巨大な人口を抱えているから、実際に人違いというようなことが多いのかもしれない。

 そんなシリアスな社会背景を窺わせつつ、かほどにハートウォーミングな物語を明るく力強く謳いあげられるところがインドのエンタメ映画の底力だと改めて思った。

 僕は、ランチョーのような勉強好きでも天才でもなかったが、学校時分には、先生にしょっちゅう理屈をこねて口答えをし手を焼かせていたから、何だか若気の懐かしいものを観るような気分にも誘われたが、あんなふうに篤い友情を育む付き合いまでは流石にできなかった。それでも、学生時分の友人と会うと、数十年の時間が即座に飛んでしまうからありがたいものだとつくづく思う。そんな年齢になってきた。

 ラージュー(シャルマン・ジョーシー)の父親の病気の重篤化に、大学での試験よりも病院で父親に付き添うほうが大事だろと、はみ出し三人組で病院に泊まったり、ファルハーン(R・マーダヴァン)の財布に両親の写真を入れさせて、まさかのことが起こったときの両親の顔を思い起こせと諭したというランチョーは、既に両親を亡くしているのだろうと思った。ラージューであれ、ファルハーンであれ、ピア(カリーナ・カプール)姉妹であれ、親子問題の場面でのランチョーにえらく力が入っていたのも、それゆえのような気がする。

 そして、何度目かのハイライトシーンの後で学長がランチョーに告げた“宇宙船で鉛筆を使うのが適切ではない理由”というのが成程の代物で、大いに感心した。やはり映画というものはこうでなければいけない。序盤で利かせた伏線の回収の仕方として抜群に気が利いている場面だったように思う。

 併せて思ったのは、先進技術大国の競争相手として名前の出てくる国がアメリカではなく、日本になっているのも、インドの現在の状況を反映しているのだろうということだ。映画というものは、時代と社会を写し取るようなところがあるから、クラシカルな名作もいいけれど、やはり同時代作品の観賞のほうを優先したいと僕がかねてより思うゆえんだ。また、『命ある限り』を観て驚いた「実際にキスするシーン」というのが三年先んじる本作にもあってそういう意味での僕の目を惹いたのだが、インドのエンタメ作品で日本映画の『はたちの青春』['46]や『また逢う日まで』['50]に相当する映画というのは、いつ頃のもので何という作品なのだろう。




*『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム
推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/14011302/
推薦テクスト:「ユーリズモ」より
http://yuurismo.iza-yoi.net/hobby/bolly/OSO.html


*『タイガー ~伝説のスパイ~』
推薦テクスト:「ユーリズモ」より
http://yuurismo.iza-yoi.net/hobby/bolly/ETT.html


*『命ある限り』
推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/13091601/
推薦テクスト:「ユーリズモ」より
http://yuurismo.iza-yoi.net/hobby/bolly/JTHJ.html


*『闇の帝王DON ~ベルリン強奪作戦~』
推薦テクスト:「ユーリズモ」より
http://yuurismo.iza-yoi.net/hobby/bolly/Don2.html


*『きっと、うまくいく』
推薦テクスト:「ユーリズモ」より
http://yuurismo.iza-yoi.net/hobby/bolly/3idiots.html
by ヤマ

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