美術館冬の定期上映会“インド映画祭”


『雨季』          未見 監督 ラージ・カプール
『黒いダイヤ』      未見 監督 ヤシュ・チョープラー
『カランとアルジュン』 未見 監督 ラーケシュ・ローシャン
『ボビー』         未見 監督 ラージ・カプール
『ボンベイ』 監督 マニラトナム
『Mr.インディア』 監督 シェーカル・カプール
 アジアのハリウッドと題し、6本ものインド映画を上映してくれたというのに、最後の2本しか観ることができなかった。いかにも残念だったが、観た作品には充分満足した。昨年四月に、かねてから観たかったインドの大娯楽映画とラジュー出世するで出会って瞠目させられ、その期待からか『ラトゥ・踊るマハラジャ』には、楽しみながらも少し物足りなさを覚えたのだが、今回また『ボンベイ』で鮮烈な印象を刻み込まれた。

 インド映画は、大衆娯楽の王道を堂々と闊歩する‘歌えや踊れや’のインド流大娯楽作品とサタジット・レイに代表される海外映画祭向けの芸術映画に二極分化するのかと思いきや、現実に起きた宗教暴動を題材に社会性の色濃いテーマや作家性をアピールしながら、インド流大娯楽作品の備えるべき要素を細大漏らさず取り込んだ、大胆でダイナミズム溢れる問題作と出会わせてくれた。監督自身の採りたかったスタイルが元々これだったというわけではなく、商業映画の宿命に対して作家的抗いを見せたなかでの結果的な所産だったのかもしれないが、期せずしてそれが他に類例を見ない極めてオリジナリティに満ちた“奇蹟のエンタテイメント”として結実していたような気がする。

 それと同時に、そのことが映画という表現の新たな可能性を示唆しているようにさえ思えるくらいに新鮮で強烈だった。娯楽作品のなかに何か問題意識や社会性を取り込んでピリっと風刺をきかせるとか、社会的テーマを親しみやすい語り口で描くといったある種の主客を感じさせるのではなく、ドキュメントなリアリティとドラマチックなファンタジーとが木に竹を継ぐような形で調和を求めずに混在していて、そのことが破綻や違和感に繋がらずにダイナミズムとして結実したところが奇蹟のエンタテイメントということなのだろう。

 また、キスシーンすら実際には唇を重ねないほどに表現規制の厳しいインド映画であればこそ、安易に刺激過剰な表現に走りようもないお陰で『ラジュー出世する』のような明るく健全な作品にシンプルな力強さと楽しさを満喫させるだけの表現力が与えられたのではないかと思っていたが、当然のことながらそんな作品ばかりではないのだ。『Mr.インディア』は、そういう面から観てとても興味深い作品だった。

 大筋は、透明人間になれる装置をめぐる勧善懲悪の特撮映画で、歌と踊りに恋物語をちりばめた、大人から子供までを対象にした娯楽作品である。何度も繰り返して出てくる「モガンボ、コシュア(モガンボは、満足じゃ)」という台詞には、取って付けたようなその響きとムードに子供たちの遊びの場での流行言葉になりそうな魅力があったし、主人公自体が貧しいなかで身寄りのない子供たちを引き取って明るく楽しく暮らしている、子供たちにとってのヒーロー的存在という設定なのだ。

 でも、一見健全そうなこの作品には、人気絶頂期にあったという女優シュリーデーヴィの魅力を余さず引き出すうえで、なかなかに妖しいフェティッシュなテイストが潜んでいて、密かにほくそ笑みながら観ていた。勇ましいコスチュームに身を包んで鞭をふるう姿や鎖で四肢を張り付けにされ立ったまま身を捩ったりする姿だけでなく、いわゆるWAM(ウェット&メッシー) テイストを明らかに意識していると感じさせる官能的な撮り方で彼女のズブ濡れ姿を映し出したりしていて、どこまでもがインド映画らしいてんこ盛りのサービス精神に満ちている。こういう隠し味をも密かに楽しませてくれる点などを観ても、インド流娯楽映画は意外と多彩で奥が深いと知らされたような気がした。




参照サイト:「高知県立美術館公式サイト」より
https://moak.jp/event/performing_arts/post_212.html

『ボンベイ』
推薦テクスト: 「マダム・DEEPのシネマサロン」より
http://madamdeep.fc2web.com/bombay.htm
推薦テクスト:「ユーリズモ」より
http://yuurismo.iza-yoi.net/hobby/bolly/Bombay.html
by ヤマ

'99. 2.14. 県立美術館ホール



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