『パシフィック・リム』(Pacific Rim)
監督 ギレルモ・デル・トロ


 思いのほか面白かった。何よりも、怪獣にせよモビルスーツにせよ、血肉の通いの感じられる造形がいい。ヴァーチャルな戦闘ではなく、生き物同士が生身で戦っているような痛そうな戦いぶりに感心した。歩行や走行に合わせてモビルスーツの内部で駆けっこをしている図には流石に笑ったが、かつて恐竜時代にも狙ってきていた異星からの侵略者たちが、清浄な大気環境が合わずに撤退したのだけれども、前世紀来の地球温暖化と環境汚染で、ようやく彼らに適合するようになったので再訪してきたとの気の利いた設定に、何だか昔懐かしい怪獣ものに必ず取って付けられていた覚えのある、もっともらしくも如何にも胡散臭い科学的説明のことを思い出し、「いやぁ、わかってらっしゃる!」と嬉しくなった。

 また、少し不首尾が続くと、世論の非難を恐れてか、各国政府首脳がモビルスーツによる「イェーガー戦略」を見放して、PPDC(パン・パシフィック・ディフェンス・コープ)への財政支出を止めるなか、NGO組織として使命感の元に立ち向かうという設定も気に入った。思いっきり私的なモチベーションであるところに、却って説得力があるように思う。新旧の司令官がともに最前線での戦闘経験があるというのも好もしく、非常事態に際してはトップが自ら、昔取った杵柄を手にするという展開もいい。

 そして、ローリー(チャーリー・ハナム)たちが無事に奇跡の生還を果たすのを観て、ゴジラ・モスラ・キングギドラ/大怪獣総攻撃['01]を観たときに「身を投げ打って殉じさせることなく、生還させたところはよしとする」と書いたことを思い出した。かの作品は、自衛隊の全面協力で製作されたことに対するおもねりのように感じられる部分が気になったのだが、散華を称揚することを拒んでいるところを支持した記憶がある。本作の場合、実のところは、あの深さから、あれだけ短時間で浮上して無事でいられるとは考えにくいのだが、エンタメ作品にそのような難癖をつけるのは、野暮というものだ。

 それはそうと、イェーガーというのはドイツ語で“狩人”という意味であることを本作で教えられ、ライトスタッフ['83]の音速の壁を執拗に追う実在の主人公名は、そこから来ていたのかと今ごろになって思った。そして、これまでに例がないというカテゴリー5レベルの怪獣が海溝から現れたときに流れた管楽器の響きには、明らかにゴジラを彷彿させるサービスが施されていて、何だか嬉しくなった。怪獣の妊娠ネタには、おいおい卵生じゃなくて胎生かよと笑わされた。また、オタク的不協和というか如何にも社会性の乏しそうな二人の博士に、きちんと重要な役回りと気概を与えてあるところにも好感を覚えた。なかなか行き届いた愉しい作品だ。友人がこんな映画で思わずぐっと来て意表を突かれたと言っていたのは、エンドロールのクレジットに現れた、レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧げる献辞を観てのことだったのではなかろうかと思った。(実際は、出撃場面だったようだ。)

 僕より一足先に観てきた娘婿も話がよかったと言っていたが、マコ(菊地凛子、幼少期:芦田愛菜)が幼い時分に怪獣に襲われた街は東京のはずなのに、ビル街の広告看板などは見事に日本語ながら、車のナンバープレートが日本のものではなくて気になったなどと言っていたのが、妙に可笑しかった。確かにそうだった。



ネットの友達に教えてもらった傑作予告編
http://www.youtube.com/watch?v=y3Qygyy4204

推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20130816
推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より
http://dfn2011tyo.soragoto.net/dfn2005/Review/2006/kn2006_12.htm#05
推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-0946.html
by ヤマ

'13. 8.19. TOHOシネマズ8



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