『ゼロ・ダーク・サーティ』(Zero Dirk Thirty)
監督 キャスリン・ビグロー


 世界を震撼させた9.11.自爆テロの首謀者としてアメリカが追跡していたウサマ・ビンラディンを十年後に仕留めた実話に基づく話題作品を観た。映画のなかでは攻撃側の犠牲事案として1件しか言及されていなかったが、あの程度の確度で作戦遂行をしていたのなら、ハズレの作戦行動は膨大な数にのぼるのだろうなと思った。コラテラル・ダメージなどと言って誤爆などものともせずに国家威信と面子にのみ囚われていたのであろう上層部の判断とやらに、さもあらんという気がするだけの迫真性があったものの、158分は如何にも長かった。言うなれば「暗黒の午前零時半」と名付けられた作戦行動の“ダーク”が図らずも印象深い作品だ。

 あたかも吉良邸に討ち入りした赤穂浪士の上野介探索の如く、ビンラディンをなかなか見つけられなかったのは、実話に即しているのだろうか。それにしても、と驚くほどに手薄な警護だったように思う。また、この作戦でも名を馳せたネイビーシールズのアタックについてもなかなかの迫真性が窺え、モキュメンタリー映画とも言うべきネイビーシールズ['12]で描かれていた手際の良さとは掛け離れたもたつきようだったのだが、映画の始めのほうで描出されていた、些か気分が悪くなるようなCIAによる拷問場面は、おそらく実際のほうが遥かに凄惨だったのだろうなとも思った。

 イラク兵の捕虜に対する米軍の虐待問題がおおやけになったときに伝えられたように、イスラム男性にとって女性の前で男性器を晒しものにされる恥辱には、西欧文化圏に住む人々の想像を超えるものがあるらしいのだが、本作でも、連絡員容疑者がCIAの女性情報分析官マヤ(ジェシカ・チャステイン)の眼前で下半身を露出させられ犬の首輪をつけられて這いずり回らされていた。だが、かつてユーチューブで流れ出たイラク兵捕虜のように全裸にされているわけではなかったし、嘲笑に晒されているわけでもなかった。また、肉体に直接的に加えられる暴力にしても、先ごろ観たばかりの日本映画人間の條件['59〜'61]で憲兵が梶(仲代達矢)に加えていた拷問や、軍隊で古参兵が新兵に加える虐待のほうがもっと強烈だったように思うくらいだから、きっとこんな生易しさではなかったはずだ。

 物語としては、登場人物の相関関係やポジション、背景などの描出に乏しく、長尺作品の割に十年の時間経過におけるプロセスも含め、妙に事情把握がしにくかったように思う。モデルとなった個人を特定できる情報を映画に盛り込むことで関係者に危害が及ばぬよう、慎重に避ける配慮を敢えて加えていたのかもしれない。女子供のほうが警護員よりも多かったように見えるビンラディン邸襲撃時の有様の再現が刺激するであろうことへの危惧が作用したものだったのではなかろうか。それだけ危うくデリケートな題材であり、映画化すること自体が大変な代物であることが容易に推察された。

 それにしても、他には何ら功績を挙げた経歴を持っていない情報分析官マヤの思い込みの強さが、なんだかまぐれ当りをたまたま引き寄せただけの顛末だったような気もした。彼女の執念は実際それなりのものだったのだろうが、いくらなんでも、男女の数が合わないからもう一人姿を見せない男がいるはずで、それがビンラディンに間違いないなどという確信は、情報分析のレベルではない。映画では語られていない事実が流石にあったのだろうが、それを加味したうえでも、作戦に関わる多くの者が60%くらいの確度だろうと考えていたのは事実だったのではなかろうか。だからこそ、少しでも確度を上げようと百数十日も時間をかけたのだろうが、結局は叶わないままに「イラクの大量破壊兵器開発の誤報の時でさえ写真が付いてたぞ」などと厭味を言われながらも執拗に突入を迫るマヤの望みに、上層部の判断が追い付いてくる展開によって、瓢箪から駒が出てきたというのが実情だったらしいことが偲ばれた。



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by ヤマ

'13. 2.19. TOHOシネマズ3



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