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桃まつりpresents 真夜中の宴 & とさ・ピク展
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一年前の三月に東京渋谷ユーロスペースで行われた“映画美学校卒業生の女性監督たちによる短篇映画祭”などという、人口の多い大都会でもレイト枠でないと難しいような企画が、なぜか高知の街中のギャラリーで、2/4~2/8の四日間にも渡って開かれていた。金曜夜に【壱の宴】、土曜日に【参の宴】【弐の宴】を観た後、地方都市での開催を聞きつけて自費で金曜夜に高知入りしたとの四人の監督を囲む、土曜夜9時過ぎ~1時半の“真夜中の宴”に誘われ、参加した。 もう五十歳になっている僕が若い頃に出くわした作品群に対するイメージからすると、自主映画の状況もかつてとは随分異なってきていることを実感した。その変化は、逆行し得ない形で歴史がもたらしている状況であって、善し悪しの問題ではないと思うが、僕のなかにある自主映画のイメージとは風味の異なる作品群が並んでいた点が興味深かった。すなわち、かつての自主映画というのは、それに携わることが一般興行に掛かる作品の映画監督に繋がる一つの道筋であるといった前提や期待の下での製作など想定できることではなかったと同時に、今や映画の自主制作に携わるうえでそういった夢や期待を持つほうがむしろ自然な状況になっていることを実感したということだ。先人の開いた道がもはや獣道ではなく、公道に近い形で整備されるに至っているのだから、道の延長線上にあるものに囚われない“伸びやかで自由闊達なエネルギーとアイデアの放射”を期待しても叶うはずがないのは道理なのだろう。出来映えの程に違いはあっても、ほとんどの作品がはっきりと「習作」としての意識の元に作られていて、自主制作映画という枠組みならではの表現の可能性を求めているような作品が見当たらなかったように思う。 自主制作の枠組みのもたらす端的な特徴は、低予算と極小スタッフという物理的な不自由さの代わりに付与されている精神的な自由度の高さで、ある意味で何をやっても咎められない“絶対的自由”だというイメージが僕のなかにはあるのだが、その特徴を感じさせてくれる作品があまりにも乏しかったことが、前述のような実感を引き出してくれたような気がしている。いわゆる自主映画的な風味を残し、感じさせてくれたのは、わずかに『座って!座って!』と『きつね大回転』だけだったように思う。 【壱の宴】の『明日のかえり路』は、そういう意味での自主映画風味から最も遠く、習作色が強かったように思うが、降りる人もいない田舎の小さな駅で束の間、居合わせた二人の男の関係について、僕の想像力を刺激してくるところがあってなかなか興味深かった。朝9時という時間帯にあれだけ寂れている駅に現れた若い男の年頃からして、また父親への恨みと憎しみの想いを生前にきちんと返しておくべきだったと語る話の内容からして、若い男は、幼い時分に家庭内暴力で母子を苦しめたままに別れ別れとなっていた初老の男を結婚式に招いた息子本人ではないかという気がしたのだが、だとすれば、息子の父親への積年の恨みつらみの意趣返しとしては、少々手の込みすぎた陰湿さがあって、男の手口ではなく、極めて女性的な気がした。そういうところが女性作家の手による作品らしい感じを受けたのだった。 『emerger』は、今回の12作品のなかで群を抜いて役者の魅力が際立っていたが、その話法と作劇においてどの部分が現実でどの部分が幻想や回想によるイメージ部分なのかが余りに曖昧で、却って想像力を換気しにくくなっている気がした。サワ(占部房子)に、語られているようなセックスへの渇きが感じられなかったのは、この作品が僕には面白く響いてこなかった大きな理由の一つだ。サボテンに垂らすワインのイメージ喚起力も『明日のかえり路』での白い紙袋に入ったまま割れて流れ出した赤ワインの場面と比べて、随分と見劣りがしたように思う。 『座って!座って!』のもたらしてくれる辟易感とその向こうに透けて映る哀れには感心するところがあったが、面白くは観てもそう好きにはなれない素材だ。監督・脚本のみならず主演もこなした笹田留美の馬力は、天晴れだと思った。 【参の宴】を観て思ったのは前夜の【壱の宴】鑑賞の名残も尾を引いてのことだったのかもしれないが、どうして揃いも揃って暗くネガティヴな感情を押し出した作品ばかりなのだろうという気の重さだった。それは最初に観た『たんぽぽ』のカメラワークやモノローグに対して抱いた思いから始まり、最後の『功夫哀歌/カンフーエレジー』のような弾けた遊び心を投入できるはずの作品でさえ“哀歌”として、かなり陰惨な物語を仕込まれることに覚えた抵抗感だったような気がする。ただ後者では、ビルの屋上でトレーニングに励む姿を映したショットがけっこう気に入った。 『granite'』では、父親の放火による一家心中から一人生き残った青年の受けた心の傷跡を映し出す、ざらざらした灰色の手の映像イメージが、昨今流行のジャパニーズ・ホラー的な既視感に包まれながらも、僕の目にはかなり効果的に映った。自主映画でもこういう映像を作れるのかと感心もした。ただ、自分だけが残され囚われ苦しんでいると思っていた父親の放火事件が叔父をも苦しめていたことを知ったときに、青年が抱く感情は驚きだけではなく、それよりむしろ怒りではないかという気がした。青年は心に残された傷に苦しみながらも自分の心のうちで闘っていたのに、叔父のほうは安易に外へ放射して解消していたのだから、青年の苦悩の時間の長さからすれば、驚きだけでは済まないと思う。何らかの形で現れてくるべきその怒りが映画に宿っていないところが不満だった。 『みかこのブルース』では、先ずよく集めてきたなと感心する昭和レトロ的な小道具類が目を惹いたが、書けない小説家たる冴えない中年男に惚れる質屋の看板娘りつこの存在に現実感が乏しく、それが少女の目に映った大人の女性の華やかさとして過剰なものであったにしても些か不釣合いな気がした。同時に、極貧生活との設定ながら、みかこがヘッドフォンステレオを手に入れているのも、いまどきの若者にとっては常備品であるにしても、昭和レトロの時代においては決してそうではなく、少々違和感が付きまとった。 最後に観た【弐の宴】では、善きにつけ悪しきにつけ、極めて私性に彩られているはずの自主映画において、社会性なり思想性を前面に出している作品があったことに驚かされた。【弐の宴】のオープニングを飾った『感じぬ渇きと』のことだ。高知出身の写真家 野町和嘉の作品を引用してアフリカの飢餓に目を向けつつ、他者の不幸や痛みに露とも思いを馳せようとしない日本の若者とそれに心が揺れ動く若者の姿を映し出していたが、青の冷たさがうまく活かされているように感じた。 『きつね大回転』は、いい意味での自主映画らしい味わいが宿っていたように思うが、どこかモチーフの通じる作品として地元高知の自主制作作品『赤ぱっち』を観ていると、ついつい比較してしまうようなところがあって、少々見劣りがしてしまった。 『daughters』の陰鬱さは、それこそが作り手の主題の一つなのだろうから、そこに不満を覚えるのは筋違いながらも少々参った。画面が暗く動きの少ない分、会話のほうに触発力に富んだ想像力を喚起してくれる言葉があれば、僕が不満を覚えた陰鬱さは、逆に感銘を与えてくれるものになった気がするのだけれども、そうは映ってこなかったように思う。その原因が脚本にあるのか、役者の力量にあるのか、演出なのかという点では、特にどれが際立ってというものではなく、押し並べてのものだったような気がする。ただ、その主題性においては、今回観た12作品中、『emerger』と並んで最も興味深く、奥行きのあるものを孕んでいたようには感じる。 『あしたのむこうがわ』は、作り手の思いと表現の仕方のミスマッチが観る側に違和感と不可解を残してしまう作品になっているような気がした。いくらケーキ屋が己が仕事に自負を抱いているとはいえ、あのような不審電話を掛ける側に回ってしまう常軌の逸脱をさせては、それによって「コミュニケーションの必要性」や「食べることの大切さ」「かけがえのない者を失うせつなさ」を描くことには繋がりにくくなる気がする。ちょうどその三つのことを見事に描き出していた是枝裕和監督の秀作『歩いても 歩いても』と比較することは酷に過ぎるとは思うけれども、短編映画で主題性を欲張ることは、かなりリスキーなことだという気がした。『明日のかえり路』が興味深い作品になっていたのは、そのような欲張りはしていなかったからのように思う。 最後に観た『希望』は、そのシンプルさに詩情を湛えようと試みた部分が奏功している作品で、短編映画としてのコンセプト設計がうまく具体化している点においては、『明日のかえり路』『座って!座って!』『感じぬ渇きと』などと同じ域にあるように思う。同じ監督の『たんぽぽ』より、ずっと好もしく感じた。 それにしても、昔は自主制作映画などというものに現を抜かしているのは、決まってバカな男達だったように思うのだが、今はむしろ聡明な女性達が野心的に取り組んでいるような気がする。バカなことやってるなぁという形でニヤリとさせられるような作品をもっともっと観たい気がするけれども、そういう作品は、聡明な女性達には向かないのだろう。思えば、地元で映像による作家活動を続けている人も主に女性で、男性はあまり見掛けない。ここでもまた“女性の時代”なのか、単に僕が知らないだけなのかは、判らないけれども。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
by ヤマ '09. 2. 6.& 2. 7. ファウスト ギャラリー | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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