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『レッド・クリフ partT&U』(Red Criff) | |||||
監督 ジョン・ウー
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後編も観ないことには何も始まらないという、本当にさわりのような観後感を残しながら、それで145分の長尺作品だったPARTTを観て、日誌を綴るなら、PARTUも観てからだと思った作品だ。PARTTは、僕にしては珍しくも公開初日に観たのだが、いくらPARTTとはいえ、登場人物の紹介と人物関係や状況説明がほとんどで終わってしまう作りというのは、どうかと思うものの、やはり呆気に取られるような大きな絵作りには、圧倒された。チェン・カイコーともチャン・イーモウとも画面の作り方が違うところに満足したし、ヴィッキー・チャオを『ヘブン・アンド・アース』以来の活き活きした役柄で再見できたのも嬉しかった。 我が家には、今はもう独立した子供らが幼い時分に買った横山光輝の漫画本が全巻揃って残っているのだが、僕自身が三国志に触れたのは、確か中一の時だったと思う。今は亡き叔父から吉川英治の全三巻の豪華装丁本を借りて読み始め、あまりに数多くの人物が出てくるために、初出箇所のページと人物名をノートに控えながら読んだ覚えがある。一日千里を走る“赤兎馬”という名を知ったのもそのときだった。 そんな僕が好きなのは、趙雲(フー・ジュン)と関羽(バー・サンジャプ)だったから、この映画での扱いにはけっこう満足している。だが、周瑜(トニーレオン)が主人公だというのには、意表を突かれた。また、曹操(チャン・フォンイー)があからさまに“奸雄”として紹介されたことには少々違和感があった。もっとも、関羽に対して礼節を以って臨む態度も描かれていたのだから、“奸雄”という扱いではなかったのかもしれないが、言葉として少し引っ掛かった。アメリカ市場を意識した善悪二項対立の判りやすさを打ち出さざるを得ない制作上の止む無さがあったのかもしれない。 また、僕のおぼろげな記憶でいくと、趙雲が阿斗を救出するのは、赤壁の戦いのまだ後のときのことだった気がするし、曹操が関羽に礼節を以って臨むのは、呉の孫権(チャン・チェン)が登場するよりも遥かに前のことだったように思うのだけれども、敢えてそのエピソードを持ってきているところに、この作品での趙雲と関羽の扱いの重さが表れている気がした。 PARTUは、半年前に観たPARTTよりも面白くて大いに満足した。堂々たるスペクタクル作品だったように思う。主要登場人物の全員にきっちりと見せ場があり、145分が些かも長くなかった。PARTTのとき以上に、曹操に味があったのがとりわけ気に入った理由で、彼もまた、やはり堂々たる英雄の扱いだった。ただ連戦連勝で奢っていたがゆえに、見失ったものがあるという物語になっていたように思う。 PARTTのときの草鞋編みに続き、団子丸めの似合う劉備(ユウ・ヨン)がまた笑える。僕が特に気に入ったのは、孫権の妹ながら男装して曹操軍に潜入していた尚香(ヴィッキー・チャオ)が「デブ助」と呼ばれていた理由が披露される場面と、周瑜が曹操軍に囚われていた妻の小喬(リン・チーリン)の落下をナイスキャッチする場面だ。周瑜が滑り込んで受け止めたときの両者の形体と交わす視線の風情が素敵だった。 それにしても、圧巻の火攻めだった。水軍で鳴らしていたはずの呉軍なのだが、水よりも専ら火が目立つ戦略だったように思う。僕は、雑兵がバッタバッタと無造作に殺されていくだけの戦闘映画が嫌いなのだが、この作品では、雑兵の戦闘が俯瞰でばかり捉えられるのではなく、彼らの活躍がきちんと見せ場として頻出していたように思う。名高い者たちも名高い者たち同士でばかり戦うのではなく、雑兵たちのなかで共に奮闘していた。だから、『ロード・オブ・ザ・リング』を観たときに感じたような気分的なノリの悪さに見舞われることが全くなかったのだろう。 小喬にまつわるエピソードの一つとして登場した「孕む」の字義が「汝の子」であることは、僕は全く知らずにいたことなのだが、たまたまPARTUを観た前日に、漢詩好きの中高時分の同窓生の友人と久しぶりに会っていて、漢詩の話をしていたこともあってか、台詞の随所が詩文調になっていることに改めて気づいた。そこのところは、おそらくPARTTでも同じだったのだろうが、PARTTを観たときには、押韻とか?音の調子とかにあまり気を留めていなかった気がする。そういったことを充分に味わえるほどの素養がないのだから仕方のないことではあるが、期せずして前日にそのあたりの話を楽しんだばかりで、彼に求められ、文芸部に属していた高校時分に作った漢詩二編をFAXしてやったばかりだったことが奏功して、ちょっと得をした気分にもなれた気がする。 | |||||
by ヤマ '08.11. 2. & '09. 5.17. . TOHOシネマズ7 & TOHOシネマズ2 | |||||
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