『ブラッド・ダイヤモンド』(Blood Diamond)
監督 エドワード・ズウィック


 先日の新聞紙面に「体験記がベストセラーになった元少年兵士」として、この映画の舞台になったシエラレオネで、政府軍の少年兵として12歳からの三年を過ごしたことのある26歳の青年のことが紹介されていた。この映画に出てくるのは、専ら反政府軍たるRUFの側の少年兵だったけれども、政府軍・反政府軍のどっちも似たような暴虐を尽くして子供や非武装民に対していたのだろう。

 武器を手にした連中の犯す暴虐を描いていた前半は、何とも言いようのない凄惨に包まれていて、少々気分が悪くなるほどだったが、RUFを悪として描く視点ではなく、利権と武力に取り憑かれた者たちの醜態として提示されていたところに作り手の見識が窺えたように思う。そのうえで大きな役割を果たしていたのが、利権からも武力からも遠いところにいる実直な漁師ソロモン・バンディ(ジャイモン・フンスー)の存在であり、このドラマが彼の目から描かれたシエラレオネの姿として現れていたからだったように思う。だからこそ、ダイヤの世界の流通量の2/3を占めているアメリカがイチバン悪いのだと言っていたアフリカ生まれの白人ダニー・アーチャー(レオナルド・ディカプリオ)の言葉よりも、白人たちがダイヤを欲しがるのはまだ分かるが、そのために、なんで黒人同士が殺し合わなきゃいけないんだ!と叫んでいたソロモンの言葉のほうが強く残ったわけだが、実際のところは、黒人・白人ということ以上に、アフリカが蒙っている悲劇なのだろう。

 勉強がよくでき、将来は医者になることを夢見つつ片道5キロもの道のりを歩いて学校に通っていた息子ディアは、ソロモンの誇りであり希望であったわけだが、そのディアがRUFに拉致され、少年兵士へと作り上げられていく過程は陰惨で何とも凄まじかった。だが、それらはまた、9歳の時に紛争による暴力抗争のなかで母親が犯されるのを眼前に目撃させられ、両親を惨殺されて孤児となった後に、傭兵部隊で兵士となる訓練を受けて育ち、今や“紛争ダイヤモンド”の密売屋となって31歳まで生き延びてきているダニーの辿ってきた道でもあったわけだ。豊かな資源を持つゆえに先進富裕国の餌食にされているアフリカでは、白人であろうと黒人であろうと、無傷で生き延びることなどあり得ないのが現実ということなのだろう。アフリカの大地の土の色が赤いのは、あまりにも夥しく流された血を吸い込んでいるからだという言葉が、前半部での台詞に留まらず、印象深い終盤のシーンにまで及んでいるのは、そういうことなのだろう。

 生活実感はともかく世界的視野からすれば先進富裕国とされても仕方のない日本にいて、映画の台詞としても出てくるダイヤと殺し合いにはともに縁の薄いところで生きている僕には、何とも重苦しい作品だった。後半から娯楽色の強い展開になっていき、最後にはそれに相応しい終え方もしたので、気分的には、なだめられはしたものの、引き続き観ようかと思っていたオール・ザ・キングスメンに向かう気力が萎えて帰宅してしまった。この虚弱さでは、アフリカの地で生き延びることなど到底できそうにないわけだが、さればこそ、こういう作品が娯楽色に配慮した形で制作されていることをありがたく感じる。

 ソロモンが自分に銃を向けている息子をいたわり赦し包み込むシーンは、やはり感動的で美しく、父親の何たるかが迫ってきて感銘を受けたし、アフリカの地を抜け出すためにピンク・ダイヤを売って大金を手に入れるのだと言うダニーに、そうして金も手に入れたら、結婚して子供を作るのかと問うたことへの答えがそのつもりはないというものだったことに対して、わからない…と呟くソロモンの姿が印象的だった。

 人が生きるうえで持つべき志として、何だか本末転倒とも言うべき獲得神話とか獲得使命がやたらと喧伝されているような気が常々しているのだが、それらを煽るものとしての商品経済や消費社会の存在があって、ますますそこから解放されるチャンスが得られにくくなったりしているものだから、人間存在の原点に立脚したソロモンの言葉のシンプルな力強さに打たれるのだと思う。自己実現や己が夢といった自意識優先の人生観を脱却し、「この世に生を受けて生きることの意味は、家族を為し、次代へ継いでいくことに尽きる」との生物的原点に近づいた境地に立ち帰ることができれば、ダイヤと殺し合いに耽る世の中ではなくなるはずなのだが、人間は、どうして富や力の呪縛から逃れられないのだろう。富や力が幸福を約束してくれるもののようには決して思えない、むしろ災いの種だという気がしてならないのに、「わからない…」。




推薦テクスト:「####【みぃ♪の閑話休題】####」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr/bin/day?id=9339&pg=20070403
推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/jouei01/0704_1.html
推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20070411
推薦テクスト:「超兄貴ざんすさんmixi」より
https://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=3722815&id=420800335

参照テクスト:NHK BS世界のドキュメンタリー
by ヤマ

'07. 4.20. TOHOシネマズ9



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