『亡国のイージス』
監督 阪本順治


 『軍隊をすてた国』という映画が伝えようとしていたコスタリカを信奉するものでもないが、そもそも国土をまもるということについて治山治水の要は認めても、軍事力による国防ということに懐疑的な僕にとっては、フィクションだとはいえ、中途半端な形で軍隊を擁している今の日本の状況の危うさが、昨今の正規軍化を推進する機運のなかで急激に高まっていることを感じさせてくれる、何とも空恐ろしい作品だった。

 着々と軍事強化を図りながらも軍隊として存在することを許していない欺瞞と矛盾がほとんど頂点に達しつつあることの象徴がイージス艦の“無敵の盾”ぶりなのだろう。もはやこれだけの攻撃能力を備えた“護衛艦”を手中にして、専守防衛もあったものではないというわけだ。そんなイージス艦《いそかぜ》の副長・宮津弘隆2等海佐(寺尾聰)率いる“宮津学校”海上自衛隊幹部候補生たちの憂国による叛乱には、70年前の226事件を想起せずにはいられないところがあったように思う。物語は、彼らの叛乱を是とはしない《いそかぜ》先任伍長・仙石恒史(真田広之)を主人公にし、その“ダイ・ハード”な活躍によって事なきを得る展開になっているし、その叛乱が外国人工作員ヨンファ(中井貴一)との結託になっていたり、宮津決起の直接的な引き金が防衛大学校生の息子を防衛庁情報局に謀殺された疑念という個人的なものに矮小化されていたりするから、ある意味、幾重にもエクスキューズを掛けてあるわけだが、宮津らの弁ずる憂国の想いは、彼らを制圧しようとする防衛庁情報局[DAIS]内事本部長・渥美大輔(佐藤浩市)や内閣情報官・瀬戸和馬(岸部一徳)の口からも漏れるわけで、むしろ積極的に作り手が訴求力を付与しているところがなかなか曲者だ。この作品を観てどの部分に同調するかで、観る側が問われるような作品だという気がする。


 僕自身は、「国防」概念に囚われるところから「国亡」が始まることを改めて見せつけられたように思うと同時に、自衛官たちの置かれている今の状況の理不尽さがよく判るような気がした。先任伍長・仙石が、如月1等海士(勝地涼)に対して、決して「国」などというご大層なものを持ち出さずに、ひたすら「艦」を守ろうとする姿を示すことによって伝えようとしていたのは、地に足もつかないまま大義を標榜することよりも目の前の現実のなかで果たすべき責務を誠実にこなすことの美しさと誇りだったような気がする。そして、艦を国に置き換えてみれば一目瞭然であるように、仙石の果たした防衛とは、階位の高い一部の者の思いで(艦)全体を道具にして好き勝手させるわけにはいかないとの思いに体を張って対処することだった。

 「あんたは、本当の戦闘を知らない!」と詰る如月に「お前は、人間を知らない!」と返す仙石のような真っ当なバランス感覚を備えた自衛官がいたおかげで辛くも危機を免れた展開を観て、いざ平成の226事件が勃発したらと考えると、仙石頼りというのは如何にも心許なく、加えて、今の状況だと自衛官のなかでは仙石よりも宮津たちに心情的に同調しがちな者が少なからずいるのではないかとの懸念が増してきて、空恐ろしく感じられた。しかも、決起しさえすれば、何だかいとも簡単に出来てしまうことのように見受けられ、自衛官たちを中途半端な境遇に置いたまま軍備強化していくことの危うさというものに対する危機管理は、どうなっているのだろうかとほとほと心配になってくる。ある意味、外国からの攻撃よりも僕には現実感があって不気味だった。

 中途半端な境遇を解消するためには、正規軍化か武器を捨てるか、いずれかを選ばなければならない。むろん僕は後者に立っていて、自衛隊は内外にわたる救助活動専門部隊になっていくべきだと思っているのだが、もう東西対立も失効しているのに、郵政民営化も含めアメリカに尻尾を振ってばかりの現政権下で、更には、その政権を国民の過半が支持する状況下で、とてもそんな独自路線を歩めそうにはないのが残念だ。自衛隊のサンダーバード化をもし果たし得たら、それに携わることで、自衛官の傷ついた“誇り”も大きく回復されるはずだと思う。彼らの誇りが傷ついているのは、欺瞞と矛盾を放置した今の制度のなかで、その欺瞞と矛盾の解消よりむしろ助長に勤しむ状況に押し流されるままに、いつまでも中途半端さに晒されている自分たちの位置づけが一向に変わらないからだろうと思う。軍備は増強されても自分たちは放置されているわけで、それは、如何に自分たちの存在が蔑ろにされ続けているかの現れだと彼らが思うようになってきているという気がする。

 一年ほど前に、石破防衛庁長官がシビリアン・コントロール(文民統制)について重点的に議論を進める考えを公式に示したときの狙いが何にあったのかは、怪しい限りだけれども、旧来からの制服組の不満と思惑が文官統制見直し案として新聞報道されるくらいに公にできる状況が訪れていることに強い衝撃を受けたものだった。

 この作品を観て、宮津や渥美、瀬戸の憂いと嘆きの弁に過度に同調して、仙石の示した“守ることの本旨”というものを国防問題において履き違えることのないようにあってほしいものだが、近年の世論動向を見ていると、メディアや教育を通じたプロパガンダが効いてきたのか、かなり危うくなってきている気がしてならない。



参照テクスト:掲示板『間借り人の部屋に、ようこそ』過去ログ編集採録


推薦テクスト:「神宮寺表参道映画館」より
http://www.j-kinema.com/aegis.htm
推薦テクスト:「帳場の山下さん、映画観てたら首が曲っちゃいました。」より
http://www.k2.dion.ne.jp/~yamasita/cinemaindex/2005hocinemaindex.html#anchor001316
推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より
http://dfn2011tyo.soragoto.net/dfn2005/Review/2005/2005_08_22_2.html
推薦テクスト:「シネマ・チリペーパー」より
http://homepage3.nifty.com/ccp/hihyou/EJIS.html
by ヤマ

'05. 8.14. TOHOシネマズ2



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