『エリザベスタウン』をめぐる往復書簡編集採録
チネチッタ高知」:お茶屋さん
ヤマ(管理人)


 

ヤマ(管理人)
 お茶屋さん、こんにちは(笑)。
 今ひとつ日誌を綴る気が起きてなかった『エリザベスタウン』ながら、捨て置くも忍びない後ろ髪を引かれる作品だったのは何故だろうと思ってたのが、“かるかん”読んでスッキリしたよ(礼)。相変わらず、ぴしっといいとこ掴んだ文章で感心。
 「相手のことを思い遣れる優しさが、既に彼女の性格になっていて、それは数々の失意を乗り越えたうえに獲得した性格と推察されます。多くを期待しないようにしているしね。」
 わずか三行のこれで、そーだ、これが宿っていたからなんだなと思った。

(お茶屋さん)
 いや〜、こんなに誉めてもらって嬉しいです(^o^)。なはははは! そうですか、わずか三行でいいとこ掴んでおりまし か。いぇーい!(ちょっとhigh)

ヤマ(管理人)
 うん、モヤっとがスッキリ!スッキリ!(笑)

(お茶屋さん)
 見てるんですか、IQサプリ(笑)。

ヤマ(管理人)
 たま〜に、ね(笑)。
 それはともかく、“かるかん”に書いちょった、手の込んだ仕掛けをしていてもアメリとはちゃうっていうのは、すんごい分かりやすかった(笑)。僕『アメリ』は、世評の支持の高さが今イチ不思議でしょうがないほどに、自分には全然ピンと来んかったしね。
 『エリザベスタウン』も映画としては、はっきり言って、かなりとっちらかったというか、描写で言えば盛り込み過ぎで、主題的には焦点散漫になった、ちょっと勿体ない映画だったように思いながらも、妙に惹かれるところのある作品やったわけよ。
 で、それを僕は、ドリュー(オーランド・ブルーム)の母親ホリーが夫の告別パーティ(式と言うよりパーティだよね、ありゃ)で見せた“スピーチとタップ・ダンスによる弔辞のインパクト”とあんな破天荒な弔辞に魂を吹き込み得ていた“スーザン・サランドンの演技力”によるものかと思いよったがやけんど、どう観ても、そこんとこは脇筋やし、なんか得心出来ざったがよ(笑)。

(お茶屋さん)
 確かに下手にタップを踊るところが上手かった(笑)。

ヤマ(管理人)
 それもよかったけど、僕にとってそれ以上だったのが、ジョークをノリよく語りながら時折、声を詰まらせ掛け、笑顔のなかに泣きの表情を垣間挟む演技の見事さというか、味の深さにすっかりやられてしもうたんよねー。

(お茶屋さん)
 亡き夫の精神を受け継ぎ、参集の皆さんへのサービスを怠らず、また、彼女自身も夫のように生きようと決心したことがわかって、そこはよかったですね。

ヤマ(管理人)
 そう。それはわかったんだけど、なぜそう決心したのかは、今イチわかんなかった(とほ)。さらには、なぜ告別パーティに娘共々出てくるようになったのかも今イチわからんかった(たは)。自分がケンタッキーによう来んから、ドリューに遺体を引き取りにやったはずやったのにね。

(お茶屋さん)
 そういや、そうですね。忘れてた(笑)。
 それと、下ネタにはあまり笑えず、ちょっと覚めてしまいました。

ヤマ(管理人)
 そーか、それは残念だったね。僕は笑うよりもグッと来てしまってた(笑)。

(お茶屋さん)
 あー、あそこはグッと来るところだったのかー(笑)!

ヤマ(管理人)
 キモだよ、キモ! 脇の肝っち、何やそれ!やけど(笑)。
 クレア(キルステン・ダンスト)のことは、どっちかというと、まぁドリューにとっては、虫のいい話というか、とても都合よく現れてて、ちょうど今回サイトアップしたMAZE』の拙日誌で「男たちにとって、女性というのは、裕太を遣わした好子がそうであるように、男を優しく見守りつつ手を差し伸べてくれる大きく温かい存在なのだ。」と綴ったような「男にとって少々虫のいい甘えた男女観」みたいなところに引っ張られてたんで、お茶屋さんの“かるかん”で「それは数々の失意を乗り越えたうえに獲得した性格と推察されます」とあるのを読んで、あ、これや!と納得できたよ(礼)。
 この推察が、お茶屋さんの好意的解釈に過ぎないものでは決してないのは、その後に続けている「多くを期待しないようにしているしね」で示されているような、ドリューに向かうスタンスの一事だけでなく、ベンにまつわる失意を窺わせつつ、華に乏しいキルステンの備えている翳りの生きたキャラクター効果によるものも大きかったね。言うなれば、嵌り役だったわけや。

(お茶屋さん)
 そうそうそう! それがこの映画で最も強く感じたことです。
 それと、「多くを期待しないようにしているしね」のとこ、わかってくれましたか。クレアが失意を乗り越えた人である証拠を書いておかなくちゃと思ったのよ。

ヤマ(管理人)
 やっぱりそうだったか〜(得意)。今度は僕が、いぇーい!(ちょっとhigh(笑))。
 それにしても、造り的には、振り返るとむしろ粗のほうが目立つような作品なのに、妙にこう気持ちのよさが残る作品になっていたのは、演技陣の力だけではないようにも思うんだけど、どぉお?

(お茶屋さん)
 私は、気持ちよかったのはクレアのおかげなんですけど…。
 他には、脇役や端役を含めて登場人物が庶民のよさを体現しているからでしょうかねー。よくわかりませんが。

ヤマ(管理人)
 それ、演技陣の話やん(笑)。

(お茶屋さん)
 みんな、滑稽なところもあるけど、基本的に優しいですよね。

ヤマ(管理人)
 これは、人物像やから演技陣だけやないね。

(お茶屋さん)
 あの結婚式を控えた花婿とか。ドリューたちがカリフォルニア(だっけ)にいると思い込んでいる親戚のおじさん、おばさんとか。あの従兄弟もマイペースだけど、嫌味がない。

ヤマ(管理人)
 うん、これは確かにそう。田舎人の暑苦しさと野暮ったさと善良さが強調されてたね。

(お茶屋さん)
 優しさだけを描かれるとウソ臭いけれど、ちょっと笑をまぶしているのが、ミソでしょうか。

ヤマ(管理人)
 そうやね、くどさと冗漫さという面にも繋がってたけど、きちんと効果もあげてたね。

(お茶屋さん)
 結末は、雑誌の記事も思っていたほど悪いものではなくて、登場する庶民を含めて、ある意味、楽天的な映画と言えますが、作り手自身が失意を知っているから、楽天的であっても能天気ではく、楽天の加減が程ほどで気持ちいいのかもしれませんね。

ヤマ(管理人)
 なるほど、なるほど。“脳天気ではない楽天”か、ええフレーズやなぁ。

(お茶屋さん)
 ありがと(^_^)。
 ヤマちゃんは、どうして気持ちよかったか聞かせてくれんの?

ヤマ(管理人)
 物語的には散漫だったけど、人物像の描き方がどれもニュートラルで、善悪好悪の単純な色づけをしてないでしょ。ドリューの恋人だったエレンにしても、彼の「大失敗」で見放したって電話には付き合って約束してた食事会には行かなかったし、フィル社長の通告にしても、悪し様に罵って責を負わせるような醜態ではなくて「大失敗」の応分の責を求める形の冷静で紳士的なものだった。

(お茶屋さん)
 そうそう。アレック・ボールドウィンだったので、とても印象に残っています。それにしても、ちょっと貫禄つきすぎ(笑)。体形が・・・・・。

ヤマ(管理人)
 ケンタッキーで彼を癒す田舎の人々にしたって、絵に描いたような善人ではなく、どっちかというと善悪というよりも“暮らしてる世界観の違い”みたいなとこで関わっていて、ホテルで出会った新郎にしてもいい奴だけど、いかにも暑苦しいヘンな男だったよね。
 そういう人物造形が、ある種カリカチュアライズされた可笑しみを湛えながら、いかにも普通っぽい人々の姿としてあって、…

(お茶屋さん)
 うん、『エリザベスタウン』が気持ちいいのは、これが一番大きいよね。

ヤマ(管理人)
 ちょうど東京原発で描かれた役人たちの姿のようなリアリティを感じたわけ(笑)。そういうなかで得られていた癒しだったから、そこんとこが、たとえ「勝ち組 VS 負け組」「都会 VS 田舎」「マネー VS ハート」みたいな対比の図式が類型的ではあっても、どこか気持ちのよさに繋がったのだろうという気がするよ。
 それに『MAZE』の日誌にも綴ったことに通じるような、虫のいい救いが凹んだ男にもたらされる話という心地よさもあるわけだし(笑)。

(お茶屋さん)
 『MAZE』の日誌は、これから読ませてもらいますが、私は、高知の男は酒癖悪いーと(思われるのではないかと)思いました(笑)。

ヤマ(管理人)
 確かに(笑)。

(お茶屋さん)
 北村一輝が、結婚を申し込む理由が「はぁ????」でして、あの理由がもっとまともな理由だったら、よかったのにと今でも思います。

ヤマ(管理人)
 あれは理由っていうよりも、手掛かり・足掛かり(笑)。

(お茶屋さん)
 『MAZE』の日誌、たいへんよかったです。そうかー、ゲンじいとセイジが裕太によって再生する話だったのかー! そう言われると、ぐぐっと映画の株があがりますねー。

ヤマ(管理人)
 おおー、ありがとー(嬉)。
 脚本を読んだときは、ちっともそんなふうじゃなかったのに、映画を観ると、そんなふうに見えた。面白いもんだね。

(お茶屋さん)
 ゲンじいとセイジって、もー、ぜんぜん好みのタイプじゃなくて(笑)。どっちかというと、嫌いなタイプ。

ヤマ(管理人)
 確かに困った奴らだよ(苦笑)。だから、僕もああいう話に心地よさを覚えている自分を困ったもんだってね(たは)。

(お茶屋さん)
 それなのに、そんなに嫌な映画でもなくて、なぜかと思っていましたが、ヤマちゃんの日誌で納得がいきました。

ヤマ(管理人)
 それはなにより、ありがとう×2。

(お茶屋さん)
 『ハルウララ』とちがって、高知らしさが出ているし、全国公開されるといいな〜。

ヤマ(管理人)
 公式サイトの劇場案内では「来春、全国ロードショー予定!」となってるよ。チルソクの夏のような展開を見せることができるといいんだけどね〜。

(お茶屋さん)
 そうですねー。どんな展開かしらんけど(^_^;。

ヤマ(管理人)
 地方での先行公開から全国公開に展開し、それを撮った佐々部監督は、その後、大活躍と相成りました〜(笑)。

(お茶屋さん)
 それって、『チルソク』だけじゃないですよね。そういう作品が増えてきているというではありませんか。フィルムコミッションが各地に出来た影響でしょうか。

ヤマ(管理人)
 それもあるだろうけど、文化庁の映画振興施策の変化の影響も大きいように思うよ。

(お茶屋さん)
 ところで、ヤマちゃん、クレジットされていましたね。どんなお手伝いをしたの?

ヤマ(管理人)
 なんもしてない(苦笑)。

(お茶屋さん)
 あり?(笑)

ヤマ(管理人)
 ボランティア・スタッフの連絡日記として「クジラの落書き帳」を構えたり、ロケ地マップの作成を提案して、一緒に作ったりしたくらい(たは)。

(お茶屋さん)
 ロケ地マップは、大事ですね〜。ロケ地巡礼の必需品じゃないですか。もしかして、パンフレットにそのロケ地マップが載っていた? パンフ買ってないんだけど。

ヤマ(管理人)
 僕もパンフは持ってないから、知らない(たは)。たぶん載ってないと思う。
 でも、シネコンにも貼り出されてたよ〜。
by ヤマ(編集採録)

'05.11.29. TOHOシネマズ1



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