『純愛中毒』をめぐる往復書簡編集採録
チネチッタ高知」:お茶屋さん
ヤマ(管理人)



ヤマ(管理人)
 お茶屋さん、こんにちは。
 『純愛中毒』観てきたけど、日誌までは綴る気にならんで、早速かるかんを拝見したとこ。大いに納得の感想で妙に嬉しい気分になった(笑)。あれは僕も「それやったらあれは反則やン」って思うたとこやったし。
 元々執着しちょった嫂やったからってことで、テジン(イ・ビョンホン)が兄ホジン(イ・オル)に根掘り葉掘り細々と訊いちょったことや、それに兄が応えちょったことは、あの兄弟仲でのホジンのオープンなキャラなら分かる気もするんで、ウンス(イ・ミヨン)が夫婦間でしか知らんことやと思うちょったことをきちんと覚えちゅうテジンに、ホジンの魂の憑依を信じる気になったとこはシーンとしてもよかったし、納得やった。
 けんど、あの鎖の切れたペンダントの件も、事故の日の朝のことやったき、お茶屋さん御指摘の“兄の事故の記憶のフラッシュバック”同様、テジンが知るはずもないことでねぇ〜(笑)。

(お茶屋さん)
 あれ、ペンダントもそうでしたか? 事故の日の朝やったら、反則やねえ(笑)。

ヤマ(管理人)
 まぁ、そういう重要やけど、細かい(笑)とこは大目に見ると、かるかんに「見ている間に、これほど気持ちが二転三転した映画はめずらしい」と書いちょったように、観る側にとっては、テジンに対する感情がころころ変わることへの自覚を促され、人の人に対する感情の不確かさというか可塑性みたいなもんが刺激されて、ある意味で映画の中のウンスとも同じように翻弄され、なおかつウンス同様に、お茶屋さん同様に、決して不快感ではない形で気持ちを二転三転させられたところが心地よかったね。
 普通、人の印象がころころ変わると、それ自体が不快というか、裏があるとか一筋縄ではいかないとか、したたかやとかって、あんまりええ印象は残さんもんやけど、それがそうじゃないとこがこの映画の美点やね。

(お茶屋さん)
 それで、この映画を見てない人に「始めコメディ、中オカルト、でも、最後は純愛もの」と紹介したら笑われました(笑)。

ヤマ(管理人)
 それ、かるかんのサブタイトルにしちゅう「ビョンホン中毒向け?」よりエエやんか(笑)。
 それはそうと、ことの真相が明らかになって驚いたときに僕が真っ先に思い出したんは、兄夫婦の三年目の結婚記念日の夜、ホジンから今夜は耳栓をしとけよとかって言われたテジンが、タバコの吸殻のフィルター部分をちぎって耳に詰めよった場面のことやった。

(お茶屋さん)
 私はどこやったかな?
 時間が経ちすぎて、どの場面を思い出したか忘れたのが残念。

ヤマ(管理人)
 あの場面を観たときは、律儀にそうまでして耳栓をすることへの違和感があったんやけど、ことの真相があれやったら、ああいうのはさぞかしキツイやろうな〜と(笑)。

(お茶屋さん)
 そうやね〜(笑)。

ヤマ(管理人)
 お茶屋さんが「よく考えたらとっても可哀相ーー」って書いちゅうことと通じるんやろうけど、三年以上にわたって辛抱しつつ、ウンスの見えるとこから離れられんかった中毒ぶりには、やっぱり哀れのほうが先に立つよね。

(お茶屋さん)
 ですよねー。真相がわかる前は、それとは別の意味でも可哀相だったし。

ヤマ(管理人)
 兄ちゃんに身体、乗っ取られ、慣れんことさせられ、怪我させられ、散々(笑)。

(お茶屋さん)
 私は、ホジンが憑依していると思っていたときは、「テジンはいずこに?」とずーっと思っておりまして……。なぜなら、テジンのほうが、イ・ビョンホンという意識が働いて(笑)。だから、ウンスがなかなかホジンと認められない気持ちを、同時に体験していた形です。

ヤマ(管理人)
 おー、お茶屋さんは、ビョンホンのファンやったねー、そう言えば。

(お茶屋さん)
 ウンスがホジンと認めてからは、ますます「二人ともどうして、テジンのことを思い出しもせんが!? テジン、かわいそー。」と叫んでおりましたのよ。

ヤマ(管理人)
 そやね(笑)、ホジンは弟思いで、テジンと仲良かったにねぇ。まぁけんど、どっち取るかゆうたら、やっぱりウンスじゃろ、そりゃ(笑)。
 それともうひとつ重要ながは、ホジンへのなりすましがテジンの画策で始まったことじゃないってとこやね。
 思い掛けなく同時に事故に遭い、長々と意識不明を続けながら、たまたまテジンのみが生還してホジンが植物状態になったわけやけど、そこにテジンの意図は何ら働いてないもんね。

(お茶屋さん)
 だいたい似たような感想だったのですね。

ヤマ(管理人)
 うん、そうよ。 ところで、例によってお題を二つ(笑)。
 テジンがホジンになりかわってウンスを守っていこうとするのみならず、ホジンになりすましてウンスを求める意志を固めたのは、いつの時点やと思う?
 それと、あのチョコレートを髣髴させるような最後の顛末で、テジンは真相を知られてないと思い、ウンスは知ってしまったわけやけど、今後の二人はどうなっていくと思う?

(お茶屋さん)
 ああ、そう言えば『チョコレート』や。

ヤマ(管理人)
 そやろ?(えへ)


-----お題1「いつテジンはウンスを求める意志を固めたか」-----

(お茶屋さん)
 う〜ん、時間が経ちすぎて思い出せませんが……。
 どうして、ヤマちゃんが先に答えんのよ(笑)。

ヤマ(管理人)
 先に問うたもん勝ちや(笑)。

(お茶屋さん)
 えー、病院の鏡の前で、記憶喪失の振りをしようと思いつくんですよね。

ヤマ(管理人)
 あれ? そやったっけ?
 僕も時間が経ちすぎて思い出せんなっちゅう……(苦笑)。

(お茶屋さん)
 あ、ここはね、鏡の前で何を考えたのかは不明です。とにかく、意識が回復して一人で病室から出て行って、鏡の中の自分をじーっと見ていたのですよ。その後、ふらふらと歩いて行って、倒れましたよね。
 だから、観客がホジンがテジンに憑依していると思っている間は、「鏡を見たとき、自分(ホジン)の姿じゃないないのを不思議がっていたのか」と思わせるし、テジンがホジンの振りをしていたとわかってからは、「鏡の前で思いついたのか」と思わせるようになっています。
 で、私は真相がわかってから、記憶喪失の振りをしようと、あそこで思いついたのではないかと思ったのです。

ヤマ(管理人)
 そーか、そーか。それなら納得や(笑)。

(お茶屋さん)
 それで、退院して帰って来たとき、記憶喪失を装ってウンスとホジンの寝室へ行こうとしたけど、そうは簡単にはいかず(そりゃそうだ(笑))、ウンスに自室を案内され、自室のベッドで考えをめぐらせて、死んだ(はずの)ホジンに成りすまそうと思ったのだと思います。←ちと早いかな(笑)。「ホジンが家にいない=死んだ」というのを確かめてからだとは思うけど。

ヤマ(管理人)
 早うない、早うない、僕もそう思うた。

(お茶屋さん)
 ウンスを守ろうと思ったのは、ホジンが生きていると知ったときかな。

ヤマ(管理人)
 これは、僕は、ちょっと違うなぁ。

(お茶屋さん)
 ウンスとしては、ホジンが死んだ場合よりもずっと不安定な心理状態に置かれているわけで、それを知ったテジンが彼女を支えてあげたいと思うのは自然だと思います。既にホジンの振りをしていたわけで、今更それを止めるわけにもいかんし。

ヤマ(管理人)
 成りすましが先で、守ろうが後なわけやね。

(お茶屋さん)
 そうそう(笑)。
 ところで、生きていると知って、もし、兄の意識が回復したら、どうするつもりだったのでしょうね? テジンに戻るつもりだったのかな? このへん、曖昧ですよね?

ヤマ(管理人)
 うん。けど、僕は、そんときはそんときで、ホジンの魂は二つはないわけやき、テジンの身体から抜けて行ってテジンの意識が戻ってきたことにしたら、まぁ、辻褄は合わせられんことはないやろ(笑)。

(お茶屋さん)
 そうそう。私も見ながら、そういうふうに辻褄を合せていました。しかし、怖いところでもあると思います。「兄ちゃん死んでくれ」と思っても不思議ではないもの。

ヤマ(管理人)
 まぁ、ああなってからはねぇ。

(お茶屋さん)
 テジンはホジンが死んだものとばっかり思っていたので、生きていると知ってビックリしていましたね。生きていると知っていたら、ホジンに成りすますことはなかったと思います。道徳的にセーフ(笑)。

ヤマ(管理人)
 そやね、死んじゅうと思うちょったきこその憑依のふりやったろーね。

(お茶屋さん)
 はて、ヤマちゃんは、どのようなお考えですか?

ヤマ(管理人)
 なんでホジンになりすまそうとしたかは、僕は、最初からまずウンスを守っちゃりたいと考えたからやろうと思うたよ。
 ホジンとテジンが同時に意識不明の植物人間になって長いこと凹んじょったウンスには、テジンの意識回復を喜びつつも、ホントはそれがテジンじゃのうてホジンのほうやって欲しかった想いがあったはずで、「テジンは意識を回復したに、なんでホジンは?」ってな形で、義弟の意識回復が気持ちのうえで余計につろうさせちゅう部分があったと思うがよ。
 ほんでテジンは、ウンスに中毒なわけやき(笑)、兄貴が死んで(このときはテジンはそう思うちょったわねぇ)自分が生還したことでウンスにつらい想いをさせゆうことに敏感に気づいたろうし、それがたまらんと同時にウンスの心の中に宿っちゅうホジンへの想いの深さも身に沁みてわかったろうと思うがよ。ほんで、自分の生還は、兄貴の魂が戻ってきたからやということにして、自分がホジンに成り代わってウンスを守ろうとしたがやと思う。
 それがね、ウンスの前ではずっと細心の注意を払うて、慣れん料理や家具作りを怪我までしながら懸命にやって、嗜好も変えて、夜、へとへとになって独り寝床で横になってテジンの自分に戻ると、今度はやっぱり“テジンとしての自分”が可哀想になって来るというか、つらかったろうと思うんよね。
 耳栓の夜にも負けんばぁつらかったろうという気がするなぁ。そんな独り寝の夜を毎晩毎晩繰り返すなかで、ホジンへの成りすましもすっかり板についてきて「これなら、本当にウンスを信じさせることができるかもしれん」という思いを持てるまでになってきたときに、いつものツラい寝床のなかでムクムクっと「ここまでホジンになりきれるんやったら…」という形で、封印してあったはずのテジンの念願が欲望として顕在化してきたように思うがよ。

(お茶屋さん)
 なるほど、なるほど。
 いや〜、純度が高いですねー!

ヤマ(管理人)
 あら、そぉ? ひね者らしくないか?(苦笑)。
 まぁけど、純愛ドラマってことやし(笑)。

(お茶屋さん)
 これぞ純愛中毒。

ヤマ(管理人)
 ちょっと冷やかし、入っちゃあせんかね、それ(笑)。

(お茶屋さん)
 ヤマちゃん、テジンに成り切りやん! 意外と純愛路線やったがやねー(笑)。

ヤマ(管理人)
 まぁ、常日頃の僕の路線とは、ちょっと異なるかも(苦笑)。
 けんど、意外性のなかにぞ宿る真実!ってこともあらせんか?(笑)

(お茶屋さん)
 ジョゼのときは、私がジョゼに成り切りでヤマちゃんに感心されたものでしたが、今度は私が感服でございます。

ヤマ(管理人)
 あ、そぅお?(にまにま)。

(お茶屋さん)
 ヤマちゃんの見方だと切なさ倍増で、『純愛中毒』を最も楽しめる見方であろうと思いますよ。

ヤマ(管理人)
 そやろ〜、お得じゃろ(笑)。


-----お題2「今後のテジンとウンスはどうなっていくと思うか」-----

(お茶屋さん)
 あのままはヤダね〜。
 ウンスが真相を知らないままなら、あのままでもいいけど、知っていてというのは、なんか気持ち悪いですよ。何とかテジンに戻してやらんと。

ヤマ(管理人)
 そやね。

(お茶屋さん)
 だから、ウンスは、「テジンに会いたい。テジンの顔なんだから、ちょっとテジンの振りをして」とお願いするのですよ。お願いの回数を増やして行って、その間にテジンを好きになって行っているというのを彼自身にもわかるようにして、最後に「最後のお願い。テジンに戻って。」と言ってめでたし、めでたし(笑)。
 コメディタッチで始った映画だから、コメディタッチで終ってもらいましょう。ダメ?

ヤマ(管理人)
 お茶屋さんは、元々ビョンホンのファンで、ホジンよりテジンがええんやから、ウンスがお茶屋さんやったら、「テジンに会いたい〜」でもおかしゅうないのかもしれんけど、そりゃあ、やっぱりダメでしょ〜(笑)。

(お茶屋さん)
 ははは、やっぱりぃ〜(笑)。

ヤマ(管理人)
 けんど、僕も「めでたし、めでたし」のほうを想像したがよ。
 ウンスはね、この自分が信じ込むほどにホジンになりきれたテジンに圧倒されるとともに、どうしてそこまでやれたのかってことを確かめんとにはおれんと思う。ほんで、その始まりと真意が上に書いたみたいに自分を力づけ守るためであったことを知り、そのうえで、テジンに欲望への決意を抱かせるに至ったツライ夜々のことを知り、さらには、事故以前からもずっと想いを寄せつつ封印しちょったこともテジンの口からきちんと明かしてもらうことになるように思うたがやけどね。
 そうしたら、ウンスはやっぱり心打たれるんやないかと思うんよ、甘いかもしれんけど。もう既に身体での交わりでも歓びを共にし、体感するに至っちゅうがやから、心打たれつつ、欺かれちょったことは赦すがやないろうかねぇ。ダメ?(笑)

(お茶屋さん)
 ダメなことはないでしょう。いいと思いますです。

ヤマ(管理人)
 よっしゃ〜(にま)。

(お茶屋さん)
 ただ、もう映画の中で既にウンスは、テジンを許しているんですよね。テジンが自分を愛していたことに気がついています。それも純愛ということに思い当たっています。

ヤマ(管理人)
 うん、そやったね。で、これからをどうするかってことや。

(お茶屋さん)
 ウンスを支えるためということに思い至るには、あと一歩。そのあと一歩が純愛路線のヤマちゃんには、大切な一歩なのですね。

ヤマ(管理人)
 そーなんよ、大事なとこ。
 けど、僕の観方は、やっぱりどうしても甘々路線という気もして、女心への欺きは、そのこと自体は赦しはしても、そんなふうに払拭はできんぞねって気もしてね(苦笑)。

(お茶屋さん)
 そこが配役の妙なんですよ。なんちゃって(笑)。

ヤマ(管理人)
 『チョコレート』のほうは、別に欺いて夫の死刑執行を隠しちょったわけじゃないやろ。それからゆうたら、手の込んだ騙しを掛けちゅうわけやき、タチが悪いと言えば、タチが悪いわねぇ。じゃから、女から見て、今後の二人がどうなると思うか、訊いてみとうなったがよ。
 「いいと思いますです。」とお墨を付けてもろうて、満足満足(笑)。ありがとーでやんした(礼)。
by ヤマ(編集採録)

'05. 2.18. 東宝3
      



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