『ボウリング・フォー・コロンバイン』(Bowling for Columbine)
監督 マイケル・ムーア


 映画の力というのは、何にも増して具体性にあり、その威力は、縦横な編集によって何倍にも増してくるということを強烈に印象づけられる作品だ。痛烈な皮肉に満ちたユーモアと意図的にまとった軽佻さの向こうにある無骨な真摯さを全編に渡って感じ、大いに感心した。僕にそのような真摯さを感じさせてくれた最大のものは、何と言っても、一体どうやって拾い集めたのだろうと感心するほかなかったマテリアルとしての映像群だった。作品の性質からして、そうそう大きな製作費やスタッフが準備されていたとは思えない。自らカメラを持ち込んで得た映像にしても、どうやってそこに辿り着いたのかということに感心させられるのは、映像がゲリラ的なカメラの乱入を感じさせない正規さを備えているからだ。正規に対する規格外を感じさせるのは、マイケル・ムーアの体型と淡々とした押し出しの強さのもたらす小癪なまでの個性だ。

 しかし、映画で現実を変えることなど凡そ不可能だという冷ややかさをもって賢しがる向きには、この映画製作を通じて、Kマートの店先からどうやら本当に弾薬を撤去させたらしい事実は、どのように映るのだろう。瓢箪から駒のような面持ちで、凄い!と両手を広げ、コロンバイン校事件の被害者たちと喜び合うムーアの笑顔には、表現や製作に閉じ篭もっているわけではない活動家の充足感が窺える。

 もうひとつ感心したのが、銃社会の告発を具体性によって展開するのみならず、銃の蔓延性だけでは説明しきれないアメリカ社会の暴力性について踏み込んでいるばかりか、その原因をメディアと政策による“恐怖と不安の刷り込み”であると喝破している点だった。アメリカほどではなくとも銃の蔓延している国やアメリカと匹敵するくらいの血と殺戮の歴史を有している国と比較しても、アメリカは突出しているのだという。恐怖や不安を煽るような情報が喧伝されていること、そして何よりもそれがエンターテインメント番組に加工されて放映されていることが大きく作用しているように感じた。

 しかし、思えば、そういうネガティヴな面でも最も積極的なアメリカの追従者は日本だ。日本の凶悪犯罪が加速度的に増えていることや検挙率が激減してきていること、日本社会が全体的にストレス社会になって攻撃性が非常に顕著になってきていること、などを連想せずにはいられない。アメリカが“恐怖と不安の刷り込み”なら日本は“不信と不安の刷り込み”だという気がする。

 そして、メディアにこのような眼差しを顕著に向けていることや映像の編集スタイルに、思わず、カナダで最も商業的にも成功したドキュメンタリー映画であるとのマニファクチャリング・コンセントを想起した。映画を観た後、チラシで確認すると、図らずもこの作品もカナダ映画となっている。カナダは、現時点でメディア・リテラシー教育の最も進んだ国だと聞いた覚えがあるのだが、思わぬ符合に、大いに得心がいったのだった。マイケル・ムーアはアメリカ人だが、この作品が彼の陽性で率直な個性をうまく生かしたカナディアン・テイストの作品であるところに、やおら製作者やスタッフの存在感を強く意識したわけだ。僕の穿ち過ぎだろうか。けれども、世間で喧伝されているほどにマイケル・ムーアの過激なワンマン映画であるように、僕には思えなかった。映画の宣伝なり、ムーア自身のアピール戦略なりによって、そのようなイメージを与えているが、ラディカルながらも作り自体は、ムーアばかりが目立つこともなく、実にまっとうな映画であるという気がする。




参照テクスト掲示板『間借り人の部屋に、ようこそ』過去ログ編集採録

推薦テクスト:「K UMON OS 」より
http://www.alles.or.jp/~vzv02120/imp/ha.html#jump34
推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/jouei01/0307-2bowl.html
推薦テクスト:「岡山で映画を観よう!!!」より
http://www5b.biglobe.ne.jp/~blackish/Movie
/ReviewOfMovies/Movie4/BowlingForColumbine.htm

推薦テクスト:「THE ミシェル WEB」より
http://www5b.biglobe.ne.jp/~T-M-W/moviebowlingforcolumbine.htm
推薦テクスト:「銀の人魚の海へ」より
http://www2.ocn.ne.jp/~mermaid/hapinesuhikarinomati.html#ボウリングフォー
推薦テクスト:「神宮寺表参道映画館」より
http://www.j-kinema.com/rs200304.htm#bowlingforcolumbine
推薦テクスト:「帳場の山下さん、映画観てたら首が曲っちゃいました。」より
http://www.k2.dion.ne.jp/~yamasita/cinemaindex/2003hocinemaindex.html#anchor000915
推薦テクスト:「シネマ・サルベージ」より
http://www.ceres.dti.ne.jp/~kwgch/kanso_2003.html#bowling
推薦テクスト:「This Side of Paradise」より
http://junk247.fc2web.com/cinemas/review/reviewh.html#bowlingforcolumbine
推薦テクスト:「FILM PLANET」より
http://village.infoweb.ne.jp/~fwkh8320/recordB02.htm#bowlingforcolumbine
推薦テクスト:「La Dolce vita」より
http://gloriaxxx.exblog.jp/51307/
推薦テクスト:「シネマ・チリペーパー」より
http://homepage3.nifty.com/ccp/hihyou/BFC.html
by ヤマ

'03. 7. 9. 県民文化ホール・グリーン



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