『ブレッド&ローズ』(Bread & Roses)
監督 ケン・ローチ


 さすがケン・ローチというべきか、2000年になって、このように真正面からアメリカでの組合オルグ活動を描いた映画が作られるとは、実に意表を突かれた気分だ。 '60年代の政治の季節なら、時代の風俗としても、驚くに当たらない。 '70年代末の『ノーマ・レイ』を僕が観たのは '80年だったが、 '86年にシルクウッド観て以来、アメリカ映画でこういう作品を観ることがなくなっていたことに思い掛けず気づかされた感じだ。そして、この作品は、ロサンゼルスの清掃労働者たちを描きながらも、アメリカ映画ではなく、イギリス=ドイツ=スペインの合作作品だ。今のアメリカには、嘗てとは違って、こういう映画を撮る力がないだろうなという気がする。そして、ケン・ローチは、まさしくそのことを突いてきているような気がする。だからこそ、2000年になって撮られた映画なのだ。

 マヤがサムに「貴方の負っているリスクは何?」と問い質す場面がある。あれがなければ、サムは、組合加入オルグの成果があがらないから他を当たれと言ったり、弁護士費用を懸念する同僚オルガナイザーに、あのような反発を見せなかったように思う。人に何かを迫る以上、応分のリスクを負っていなければ、イーヴンの関係ではないと突き付けられたことで、サムは原点を思い出したのだろうというように見えた。「人はパンのみにて生きるにあらず」は、確か新約聖書マタイ伝だったと思うが、神の言葉ではなく「薔薇を」というのは、チラシによると1912年の移民労働者による闘争のスローガン[We want bread but roses too.]だそうだ。ここからタイトルを得ているところにも、ケン・ローチの原点に向かう眼差しが窺えるように思う。さすが大地と自由を撮り上げた監督だけのことはある。




推薦 テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/jouei01/0306-4bread.html#bread
推薦テクスト:「シネマの孤独」より
http://homepage1.nifty.com/sudara/kansou6.htm#bread
推薦テクスト:「La Stanza dello Cine」より
http://www15.plala.or.jp/metze_katze/cinema2003.html
推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20050112
by ヤマ

'03. 6.21. 県民文化ホール・グリーン



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