『過去のない男』(Mies Vailla Menneisyytta)
監督 アキ・カウリスマキ


 何が起こってもおかしくないという人生観を、禍福はあざなえる縄の如く綴る、いつものスタイルが、過去の作品には余り覚えのない、取りあえずは手放しのハッピー・エンドで終わったことに少々驚いた。これまでには、この作品のように、率直な救いに満ちたエンディングは、なかったように思う。“救世軍”に本当に救われてしまうという、裏の裏をかいたような仕掛けに、すっかり外されてしまったわけだが、外しというのはカウリスマキの真骨頂なのだから、してやられたと快哉をあげるべきところかもしれない。
 ただいかにも残念だったのは、かの『真夜中の虹』ばりに、ユニークな情感の漂い方をしていることが察せられるのに、自分のコンディションが悪く、自然体で鑑賞することができずに、かなり意識的に映画に向かうことを必要とした。その分、頭で観ていく感じが強くなって、せっかくの情感に身を任せるような溶け込み方ができずに終わった。
 それにしても、キリスト教救世軍が映画のなかで、こんなふうに前に出てきた作品は、初めて観たような気がする。昔はよく見掛けた“社会鍋”も近頃はめっきり見ることがなくなったように思うだけに、余計に新鮮に感じた。イルマを演じたカティ・オウティネンがイリスを演じた『マッチ工場の少女』を '91年に観たとき、どうしてこの作品が国際プロテスタント賞やカトリック教会OCIC賞を受賞したのか、さっぱり解らなかったが、実は、カウリスマキとキリスト教とは非常に近しいところにあるのかもしれない。


推薦 テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/jouei01/0306-3kako.html#kakononai
推薦テクスト:「La Stanza dello Cine」より
http://www15.plala.or.jp/metze_katze/cinema11.html#kako
推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より
http://dfn2011tyo.soragoto.net/dayfornight/Review/2003/2003_04_14.html
by ヤマ

'03. 6.18. 県民文化ホール・グリーン



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