『シカゴ』(Chicago)
監督 ロブ・マーシャル


 ♪5、6、7、8 と掛けられた声とともに、「なんでもあり」と訳されていた“オール・ザット・ジャズ”との歌声で始まり終わった作品であったが、まさにその名の映画を観たのは、もう二十二年も前のことになる。ボブ・フォッシー監督の自伝的作品で、ある種の因業を感じさせる物語だったが、当時、カンヌ映画祭のグラン・プリも受賞した作品だ。本年度のアカデミー賞受賞のこの映画の原案となったミュージカルも、ボブ・フォッシーの遺した作品で、これは彼に捧げるものだというクレジットが出る。この映画は、『オール・ザット・ジャズ』ほどの因業を感じさせるわけではないものの、実に素直にない癖のある物語で、名を得て成功する顛末の皮肉で破天荒な有様にはキング・オブ・コメディを想起させるところもある。

 華やかなステージのスター・ダンサーに憧れるロキシーには、バックダンサーの経験があり、お人好しだが気の利かない自動車修理工の女房となってからも、密かに野心を燃やしているのだが、目に映る総ての事々がミュージカルになって見えてしまう姿には『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のセルマを想起させるところがありながらも、セルマの夢想が辛い現実を生き延びるうえでの支えとしての逃避であったことに比べ、ロキシーの場合は野心への強い執着を表していた。そして、同じように殺人で裁かれながらも、この物語では、正反対の顛末を迎える。人の世の出鱈目加減というのは実際のところ、そんなものだろうとは思いながらも、『キング・オブ・コメディ』のような風刺も殆どないままに、こういう物語を娯楽色を前面に出して描かれると、あまり愉快ではない。ピカレスク・ロマン的なキャラクター造形の魅力があれば、そういう印象は残らないのだろうが、人物を語り描くところに主眼があるのではなく、「なんでもあり」の世の中をケレン味で見せつけることに力点が置かれているのだから、仕方がないとも言える。

 そういう面では、主演の三人ともが自ら歌い踊って役者としての力を見せつけていたし、ステージ構成、プロダクション・デザイン、衣装、撮影、編集、音響といった、見せる力を生み出すうえでのスタッフ力の充実は、圧倒されるほどに見せつけられたような気がする。ただ、身のこなしの鍛練には感心させられながらも、ヴェルマを演じたキャサリン・ゼタ=ジョーンズの骨太のいかつい体格やロキシーを演じたレニー・ゼルウィガーの貧弱バストには、チラシにいう「セクシー!スタイリッシュ!ゴージャス!」を感じるに至らなかったのが残念だった。




参照テクスト:掲示板『間借り人の部屋に、ようこそ』過去ログ編集採録

推薦テクスト:「シネマ・サルベージ」より
http://www.ceres.dti.ne.jp/~kwgch/kanso_2003.html#chicago
推薦テクスト:「This Side of Paradise」より
http://junk247.fc2web.com/cinemas/review/reviews.html#chicago
by ヤマ

'03. 6. 1. 松竹ピカデリー1



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

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