『ムーラン・ルージュ』(Moulin Rouge)
監督 バズ・ラーマン


 もう幾度となくなぞられたであろう物語であっても、観せ方ひとつでこんなに生き生きと楽しく面白くなるのだから、不思議なものだ。『マトリックス』やらロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズで印象づけられたCGやスピード感あふれる映像リズムが既に斬新さを主張することなく、こなれた使われ方をしているところには、それが映画という映像表現の文体的なスタイルとして定着したことを感じさせてくれる。そういう意味では、紛れもなく2000年以降の映画なのだが、視覚と聴覚に直接訴えてくる部分での映像と音楽においては、かつてなら到底みられなかった刺激力のあるスタイルを打ち出しながら、ドラマの骨格やミュージカルとしてのコンセプトにおいては、驚くほどに古典的な構造を忠実に踏襲している。この両極端さというものを強く自覚したリミックスがうまく作用して、えらく新鮮で、充実した見世物ができあがったように思う。キャスティングもさることながら、製作スタッフの充実ぶりが全く以て見事だ。

 ほぼ百年前のパリを舞台にして現代の歌曲でミュージカルをというのは、昔の物語を現在に翻案して、という発想と似たようなものであり、特に画期的なアイデアだとは思われないが、現代としてカバーした時間の長さが半端でなく、大衆娯楽として歩んできた映画やポピュラーソングの歴史の厚みを窺わせているうえに、途方もなく贅沢で凝った作りを見せているものだから、こんな単純で先も丸見えの物語なのに、映画としての次の展開にわくわくして退屈する暇もなかった。目にすることにおいても耳にすることにおいても、さまざまな引用や踏襲、パロディを元ネタとともに気づき、楽しむことの豊かさがあくまでおまけとしての充実の矩を越えず、仮にそれらを知らなくても充分に楽しめるであろう作品づくりを心掛けているところに、作り手がネタ頼りに終わっていない面目が感じられて、嬉しくなる。これこそがエンタテイメント精神の真骨頂だ。そして、この楽しさと感動が、これは映画でしか叶わないと思える表現として造形されているところが素晴らしい。また、僕自身がアコースティック時代のエルトン・ジョンの音楽に十代の時分に親しんでいて、♪Your Song♪ は中でも耳に馴染んでいたということもあるのかもしれないが、このまさしく絵に描いたような恋物語に、気持ちのうえでもすんなり入り込めた。

 だが、ミュージカル映画の醍醐味とは、まさにこの絵に描いたようなお話に引き込む力のようなものではなかっただろうか。最初と最後に流れる♪Nature Boy♪の歌詞にある人がこの世で知る最高の幸せ、それは誰かを愛して、その人から愛されることなどといった台詞を高らかに謳いあげるには、やはり歌曲に乗せてというのがふさわしかろうし、ジドラー(ジム・ブロードベント)の叫ぶショーは続けなければならない!が真実味をもって響き、さらにはそこに映画の作り手たちの心意気や覚悟が投影されているようにさえ感じられたのも、それがミュージカル作品の歌曲として朗々と歌われていたからではないかという気がする。

 高級娼婦サティーンを演じたニコール・キッドマンがアイズ・ワイド・シャット以上に魅力的で、したたかな妖艶さとあどけない純真さをともに表情豊かに演じあげ、ユアン・マクレガーがその持ち味を生かして、素朴で純情なクリスチャンに血を通わせていた。ふたりの代表作として記憶に残りそうだ。

by ヤマ

'01.12. 1. 東宝2



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