奈落の穴
巨大ホッパーの脇を抜けて、
更に山上を目指す。
雪深いがスノーシューで快適に歩く。
残存する竪抗と遺構群を抜け、
幾春別から旧奔別町へ登る。
途中には長方断面の斜坑のような遺構がある。
入坑してみる。
かなりの急角度で下っており、平衡感覚を失う。
本坑の中にはベルトコンベァーの遺構がある。
ベルトは既に無く、
しかしかなりの長さがある。
ホッパーかコンベアー上のワークを、
振り分ける装置だろうか。
氷柱に覆われている。
斜坑は更に続く。
しかし柔らかい床の泥が突然抜けて、
股下まで埋没した。
地面に肘を着いて脱出したが、底なし沼の様相だ。
これ以上は危険だ。
奥は続いているが、ここで撤退する。
氷柱の下がる坑内を戻る。
帰り道も踏み抜きに留意して、
斜坑を遡る。
旧市街に到達した。
奥には巨大な廃墟が見える。
先に北方の森に入る。
木々に覆われた中に二棟の廃墟が佇む。
片方は鉄筋むき出しの大きな工場的施設で、
もう一方は2階建ての事務所のような廃墟だ。
並ぶ廃墟のうち、まずは白い建物に侵入する。
おそらく電気の関係の施設だと思われる。
大雪を抱えた入り口付近。
積雪は1m近くありそうだ。
内部はそこそこ天井も高く、
電気に関する機材が設置されていたようだ。。
この昭和の色合いは手稲鉱山や幌内炭鉱でも見た形状だ。
奥には変電に関した機材の設置場所があり、
壁には3相を導く碍子がある。
この建物には2Fがある。
上部へ登る。
2Fは机と機材があり、
どうやら計測室のようだ。
殺伐とした工業的な施設だ。
巨大な計測器とオシログラフが見える。
送電事故の際の電圧低下か電流増大を監視したのだろうか。
電気事故を解析し、リレーでの遮断が適正か検出しいていたのかもしれない。
当時の新聞が落ちている。
1970年6月14日。
昭和45年・・・
ぽつんと残るストーブ。
壊れた窓から隣の施設を望む。
その隣の変電所は、
煉瓦の基礎にIビームの鉄筋製だ。
壁と屋根は酷く崩れ落ちている。
変電所内部に入る。
屋根が無いため、
内部も積雪している。
露出した梁には雪が積もる。
幾何学的な鋼材の間から、
空が見える。
変電所から先ほどの大きな廃墟を望む。
あれは斜坑捲上用の基台のようだ。
接近してみよう。
崖上の巨大廃祉を目指す。
劣化激しいRC造の、
一見ホッパーのような建物だ。
末端のシュータ部分へ潜り込む。
斜坑からコンベアーで運ばれた炭塊が、
ここで落下して、選炭施設に運搬されたのだろう。
原炭が集まる下部付近。
豪雪で隙間が少ないが、
本来は高さがあったようだ。
長い距離をベルトの上で過ごした原炭が、
ここで集められた。
シューターから続く長いスロープと、
連絡用の隧道が見える。
この延長に斜坑があるはずだ。
スロープを垂直に横断する隧道跡に入坑する。
積雪で本来の高さが無いが、
少し除雪して隙間から入る。
内部は短く目立った遺構は無い。
単純にスロープの対面に抜けるだけだ。
スロープの最奥には立派な坑口が存在する。
斜面に在り、
やはり密封されているようだ。
斜坑口はコンクリートで完全密閉されている。
幅も高さもそこそこ大きい。
足元に何か落ちている。
エゾシカらしい背骨の残滓だ。
骨はあたりに散らばっている。
ここが羆のテリトリーなら非常に危険だ。
近くには第2の斜坑がある。
こちらは直接、捲座のスロープとは繋がっていない。
木々と積雪に覆われた廃墟があった。
なんらかの機材室のようだ。
壊れた扉から侵入する。
荒れた通路を進む。
鉱員が行き来した安全灯等の充電室のようだ。
広い一角に出た。
抜け落ちた屋根から一部積雪し、
この時期ならではの光景だ。
付近には門扉のような構造物がある。
これは学校の跡らしく、
校舎などはもはや見えない。
その先にはスロープと巨大な筒が見える。
これは吸気か排気のブロワーのようだ。
地に潜るスロープは埋没しているが、
90度に折れ曲がる煙突の末端には、
ファンが見える。
巨大なファンとその奥を確認する。
どうやらこれは排気ファンらしい。
制御室もあるのだろうか。
排気煙突は太く、直径3m程度はある。
地中の坑道と繋がっていたのだろう。
ファンから立ち上がる筒に沿って歩く。
奥の制御建屋を見てみよう。
巨大な駆動モーターとその制御盤。
設備は新しい。
少し小規模な別のブロワーもある。
こちらはヒーターと構成され、
温風を送っていたようだ。
その付近には屋根の抜けた巨大な建物がある。
ここは繰込所らしく、
内部には4台の廃車が佇んでいる。
更に奥にはブロックで組んだ建屋がある。
入口が取り壊された所を見ると、
何らかの大きな装置を搬出したのだろうか。
廃墟の中はそこそこ広く、
しかし今は何もなさそうだ。
内部にはやはり大きな基礎があり、
ブロワかモーターか巨大な装置が、設置されていたようだ。
ふと、その脇を見ると・・・。
なんとゲートで閉ざされた、
深い穴があるではないか。
しかも氷筍に覆われている。
氷筍の向こうのその穴は数m進んだのち、
鋭角で奈落の底に向かっている。
その先は垂直に近く、非常に危険だ。
ほぼ垂直らしい穴に石を投げ込んでみると、
約15秒間は転がる音が持続する。
空気抵抗が無く、重力加速度を9.8として、
垂直だとしても9.8×(15秒)×(15秒)/2≒1100mの深さとなる。
実際は計算値の2/3程度だろうが、恐ろしく深い。
すぐ近くには窓の無い大きな廃祉がある。
これはあちこちの鉱山で見た形状で、
おそらく貯水の関係施設だろう。
壁面には配管とバルブがあり、
窓から内部を覗くと、
深く何もない部屋が見える。
更に山中には目の前の視界を奪う土手があり、
そしてその下部には人口の穴のようなものが見える。
水路の跡だろうか・・・。(A地点)
それは人道サイズの隧道であった。
入坑するや否や隧道は左に折れ曲がり、
水路やトロッコの軌道ではない。(B地点)
隧道の床は厚い氷で覆われ、
やがてすぐに今度は右に折れ曲がる。
迷路のようにグネグネとした本坑は何なのか。(C地点)
次の角を曲がると長い直線となり、
出口の明かりが差し込む。
隧道跡の途中で氷筍が迎えてくれる。(D地点)
氷筍は隧道跡を遮るように、
床から延びる。
最後の明るい角を右に曲がると、
そこは開けた坑口だった。
壊れた扉の向こうには赤い鋼製の扉の建造物がある。(E地点)
坑口を出てすぐの遺構。
これはかなり丈夫な造りで、
一連の炭鉱関連施設から離れた位置にある。(F地点)
この廃祉は屋根こそないものの、
壁は厚く、重厚な造りだ。
これはなんなのか。
この赤い扉はおそらく火薬庫だ。
土留めの盛土もクランクした隧道も、
すべて説明がつく。
つまりはすべては「防爆」。この目的のためだ。
斜坑の掘削のために必要だった火薬。
もしもの暴発の際も、すべてを守るために、
このような遺構を残す結果となった。
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