定性分析
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「定性分析」とは、ある物質が、どのような成分元素から構成されているのかを調べることです。 金属イオンの沈殿反応や呈色反応を利用することで、 河川の水や鉱物などに、どのような金属元素が含まれているかを知ることができます。 水質に関する「硬水/軟水」の調査や、地殻・隕石の構成物質の調査に利用されています。 ![]() 【硫化水素】 定性分析では、硫化物の沈殿を利用するため、硫化水素が用いられます。 硫化水素は、水素イオンを2つ放出して、硫化物イオンになることができ、 溶液中の金属イオンと結合して硫化物になります。 硫化物が沈澱するかしないかは、金属イオンや硫化物イオンの濃度によります(高校化学を学ぶべし!)。 酸性溶液ですと、溶液中に水素イオンが豊富にあるので、硫化水素は、あまり電離しません。 したがって、硫化物イオンは少なくなり、沈澱しにくくなります。 一方、塩基性溶液ですと、溶液中に水素イオンがあまりないので、硫化水素は積極的に電離します。 したがって、硫化物イオンは多くなり、沈澱しやすくなります。 溶液の液性によって、沈殿のしやすさが変化するので、 溶液を酸性にしたり、塩基性にしたりして、沈澱させるさせないをコントロールします。 【金と白金を除く】 高校化学の教科書では、「金属のイオン化列」として、上記の17種類が出てきます。 しかし、定期テストや入試で、これら全部が出ることはなく、一部の金属が抜粋され、出題されます。 その理由を考えていきましょう! まず、金(Au)と白金(Pt)は除外しても良いでしょう。 これらは、イオン化傾向が小さく、化合物をつくりにくいです。 単体として産出されることが多く、イオンとして混ざっていることは珍しいです。 【水銀を除く】 水銀(Hg)も除外できます。 常温で唯一の液体金属であり、これも混ざっている確率は低いです。 【マグネシウム、ニッケル、スズを除く】 イオン化傾向は、あくまで、陽イオンになりやすいものから順に並べたに過ぎず、 反応性の違いは連続的に変化します。 どっちとも判断できるような、微妙な反応をする“境界線上の元素”をテストに出すと、 正誤が分かれ、混乱のもとになってしまいます。 歴然とした反応性の違いを理解しているかどうか問うには、 微妙な位置にある元素を取り除いておいた方が、問題としてはシンプルになることでしょう。 そのような観点から、まず除外対象となるのが、マグネシウム(Mg)です。 マグネシウムを除けば、ナトリウムより左側と、アルミニウムより右側との差はハッキリします。 前者は、常温で空気や水と反応しますが、後者は反応しません。 次に曖昧な境界は、「ニッケル〜鉛」にかけての部分です。 常温の水とは反応しない、アルミニウムより右側のグループの中でも、 高温の水蒸気と反応するかどうかで分かれます。・・・その境界は、鉄とニッケルです。 この基準では、「ニッケル〜鉛」は、右側に含まれます。 一方、塩酸や希硫酸と反応して水素が発生するかどうかは、 イオン化傾向が水素より左側なのか右側なのかで分かれ、 この基準では、「ニッケル〜鉛」は、左側に含まれます。 だから、ややこしい・・・。 「ニッケル〜鉛」を除外してしまえば、ここの境界もハッキリします。 そのような訳で、ニッケル(Ni)とスズ(Sn)は除外されるのですが、鉛は除外されません。 ここが、テスト問題の嫌なところ。 “ひっかけ問題”を作るには、イレギュラーなものも多少入れておきたいのでしょうか。 【硫化水素との相性】 現時点で残っているのは「Li K Ca Na|Al Zn Fe|Pb Cu Ag」です。 3つのブロックに分けましたが、 左側のブロックは、酸性でも、塩基性でも、沈澱しないグループ 真ん中のブロックは、酸性では沈澱しませんが、塩基性では沈澱するグループ 右側のブロックは、酸性でも、塩基性でも、沈澱するグループです。 【塩酸を加える】 溶液に混在する金属イオンの中から、沈澱により、順番に分離していきたいのですから、 なるべく、沈澱の生じる金属イオンの種類が少なくなる状況が好ましいです。 ・・・ということは、酸性条件で硫化水素を加えたいところです。 ・・・ということは、まず、酸を加えることを考えます。 ・・・というわけで、塩酸を加えることになるのですが、なぜ、色々な酸がある中でも、塩酸なのでしょうか? 【鉛と銀を除く】 塩酸を加えると、以下の違いから、銀(Ag)と鉛(Pb)を分離することができます。 銅:沈澱しない / 銀:塩化銀となって沈澱する / 鉛:塩化鉛となって沈澱するが、熱湯を注ぐと溶ける ・・・と分かれます。 なぜ、このようになるのでしょうか? 【銅を除く】 塩酸を加えることで、銀と鉛を分離することができました。 塩酸を加えた後なので、溶液は酸性になっています。 この状況で硫化水素を加えると、銅(Cu)が硫化銅となって沈澱するので、分離することができます。 【塩基性にする】 この時点で、残っている金属イオンは、すべて、酸性条件では沈澱しないものになっているので、 次は、塩基性条件下での硫化水素との反応性の違いにより、 沈澱するグループと沈澱しないグループに分けることとなります。 強塩基は、アルカリ金属、あるいは、アルカリ土類金属の水酸化物であり、代表例は、水酸化ナトリウムです。 弱塩基で、よく知られているのは、アンモニア水です。 これらの加え方を工夫することで、硫化水素を加える前に、 アルミニウム、亜鉛、鉄の分離ができれば、それに越したことはありません。 この3種の、水酸化物イオンによる分離が、テストでも、しばしば問われます。 塩基投入の仕方は、以下のようになります。 @まず、アンモニア水を加え、3種とも沈澱させます。 A更なるアンモニア水を過剰に加えると、亜鉛だけ溶け、アルミニウムと鉄は沈澱物のまま残ります。 BAを濾過して、ろ液に硫化水素を加えると、硫化亜鉛の沈殿が得られます。 CAでこしとられた沈殿物の方に、水酸化ナトリウム水溶液を十分に加えると、 アルミニウムは溶けて、鉄は沈澱物のままです。 このようにして、3種の金属を分けるのですが、ここで、いくつかの疑問が生じます。 (疑問1)先に、アンモニア水でなく、水酸化ナトリウム水溶液を加えると、ダメなのだろうか? (疑問2)アンモニア水を加えると、一旦は、3種とも沈澱するのに、 過剰に加えると、亜鉛だけ溶けるのは、なぜだろう? 教科書には、「錯イオンを形成するから・・・」と書かれているけれど、それがなぜなのか知りたい! (疑問3)アルミニウムは、アンモニア水では溶けず、水酸化ナトリウム水溶液では溶ける。 どちらも、「塩基」ということでは同じなのに、なぜ、このような違いが生じるの? (※)「定性分析」を行う際、塩酸を用います。 今でこそ、小学校の理科の実験でも使う、ありふれた酸ですが、 歴史上、最初の塩酸は、どのようにして手に入れたのでしょうか? → こちら (※)「定性分析」を行うと、 沈殿する硫化物として、鉄や銅などの金属元素が含まれていることを調べることができ、 製錬することで、それらの金属単体を取り出すことができます。 しかし、最後まで沈澱しないで、溶液中に陽イオンのまま溶けている金属元素たちがいます。 元素の周期表で1族に属する「アルカリ金属」と2族に属する「アルカリ土類金属」です。 これらの元素の存在は、「炎色反応」により確認することが可能ですが、 金属単体を取り出すことが、なかなかできませんでした。 それを可能にしたのが「電気分解」です。 → こちら 「酸と塩基」に戻る |
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