第79番専教院(せんきょういん)

      山号 清水山(せいすいさん)
      住所 文京区小日向3-6-10
      参詣 2012年5月5日
 
二階に専教院の扁額がある
 
 近道をした積りが、すっかり時間を費やしてしまった。小日向の町はまるで迷路だ。何処をどう歩いたのか分らない。一旦、広い通りに出て、もう一度探し直すことにした。跡見学園前の信号に出て右を見たら、目と鼻の先が春日通りだ。何だ、小日向の町中をぐるりと廻っていたのか。地図を確認して、もう一度小日向の住宅街に入っていった。
 専教院は、三階建てのアパートの様な建物だ。前庭のかたわらに石仏が並び、専教院案内と書かれた案内札が建っているで、あぁ、ここがお寺なんだな、と云うことはわかる。三階は住居になっているようで、ベランダ一杯に洗濯物が干してあった。庶民の生活の匂いがして、寺院の雰囲気はまるでない。二階の軒下に専教院と書かれた扁額があり、そこが本堂である。外側に取り付けられた階段を上り、ガラス戸越しに本尊の地蔵菩薩を拝むことが出来た。…が、般若心経を唱える雰囲気ではない。
 案内板には、本尊・地蔵菩薩、開基・良法法印、創建・延宝九年(1681)と書かれている。これ以外の縁起は分らない。良法法印が、無縁の人々の菩提を弔うために開基したというが、如何なる人物なのか詳しいことは分らない。
小日向は台地である。凡その見当をつけ、細い路地を音羽通りに向って歩いていたら、急な下り坂にぶち当たった。「鼠坂」である。文京区教育委員会が建てた説明には、出所を『御府内備考』として、「鼠坂は音羽五丁目より新屋敷へのぼるさかなり、至りてほそき坂なれば鼠穴などといふ地名の類にてかくいふなるべし」とある。
 森鴎外の作品に『鼠坂』という短編がある。怪談と云うジャンルに入るのだろうか。陰鬱で後味の悪い作品だが、この冒頭に、「小日向から音羽へ降りる鼠坂という坂がある。鼠でなくては上がり降りが出来ないと云う意味で附けた名だそうだ。台町の方から坂の上までは人力車が通うが、左側に近頃刈り込んだ事のなさそうな生垣をみて、右側に広い邸跡を大きな松が一本我物顔に占めている赤土の地盤を見ながら、ここからが坂だと思う辺まで来ると、突然勾配の強い、狭い、曲りくねった小道になる。人力車に乗っておりられないのは勿論、空車にして挽かせて降りることも出来ない。車を降りて徒歩で降りることさえ、雨上がりなんぞにはむつかしい。鼠坂の名、真に虚しからずである。」と、表現されている。鼠坂を下って音羽通りを右折した。次の護国寺は近い。 (2012年5月11日 記)
 


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