第36番薬王院(やくおういん)

      山号 瑠璃山(るりさん)
      住所 新宿区下落合4-8-2
      参詣 2012年7月2日
 
懸崖造りの本堂

通称「東長谷寺」と呼ばれている。昭和41(1966)、大和長谷寺より牡丹100株を分けて貰い、今では、境内一円に広がっている。既に牡丹のシーズンは終わっていたが、花の季節に訪ねれば、見事な景観が広がっていただろう。牡丹だけではない、境内には、松、欅、銀杏、桜など、様々な樹木が植栽されていて、緑の空間が広がっている。
 大和長谷寺の本殿は、京都清水寺と同じ様に舞台造りになっているが、薬王院も大和長谷寺を模したのか、本殿は崖に懸り、小規模だか舞台の設えになっている。舞台に上がって、本殿の前で般若心経を唱えようと思ったが、舞台に続く通路に鍵が掛かって、入れないようになっている。庫裡に寄って案内を請わなければならない。しばらく躊躇したが、止めた。
 縁起だが、新編武蔵風土記稿には、「新義真言宗大塚護持院末、瑠璃山醫王寺と号す、本尊薬師行基の作坐像九寸許、外に観音の立像あり長一尺余運慶の作、開山は願行上人なりと云、其後兵火に逢て荒廃せしが、延宝年中實壽と云僧中興し、元文年中再び火災に罹り記録を失いて詳なることを傳えず、」と記されている。また記述からすると、下落合村の鎮守である氷川神社の別当寺でもあった様だ。
 一つ前のページで、上落合村のところに、「村名は神田上水の溝渠と井草川と當所にて落合し故かく名付と云」、と書かれている。江戸期では、井草川は現在の妙正寺川全体を指す名称であった様だ。その証拠に、井草川は「南の方を流れ中程にて上水堀に合す、」と書かれていて、今の妙法寺川の流路そのものである。その井草川が、都市化と伴に暗渠化され、付け替えられて妙正寺川に注ぎ込む支流に形を変えられてしまった。そのため、井草川は地図上から姿を消した。
 私は、平成9(1997)の夏、西国第8番の札所として大和長谷寺を訪れている。長谷寺は奈良県桜井市初瀬(はせ)にある。寺の名前は長谷と書き、土地の名前は初瀬と書く。
 本尊の十一面観世音菩薩像は、高さが10mもあり木造仏では日本最大級である。左手に花瓶を持ち、右手ではお地蔵さんが持っているような錫杖を突いている。これは「長谷寺式」と呼ばれる独特な姿だそうだ。菩薩像を拝みながら、流れ出る涙を抑えることが出来なかった。この涙が何を意味していたのか、今になってみれば、よく分からない。妻が逝って4年目が過ぎ、弟が逝って2年目が過ぎようとしていた。 (2012年7月15日 記)

 


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