巻柏こぼれ話

巻柏に華が咲く

 「イワヒバって花は咲くのですか」と聞かれたことが何度かあるけれど、
私の方からイワヒバに華が咲いたと言ったら、「まさか」と思う人が多いでしょう、
でも確かに咲いたのです。

 「え、うっそ−、ほんと?、やっだ−、イワヒバってシダの仲間だって聞いたんだけど、
たしか学名は、植物界、緑色植物門、維管束植物亜門、U綱ヒカゲノカズラ類の
有舌類でイワヒバ目のイワヒバ科でイワヒバ属のイワヒバ種で、え〜と、それから
なんだったか、やっだ−、わかんない、で〜も、シダ植物類は〜、隠花植物だから〜
胞子繁殖で〜・・・・・」

 花なんて咲くはずがない、と思っているでしょう、思っているな?、思っているな?、
まあまあ、そう硬い事を言わずに、私の話を聞いてください。
花ではなく、華が咲いたのです。

 美しい品種が数有る巻柏の中で、渋い味わいの地味な品種で、天保14年の銘鑑に
掲載されて以来、後に発行された銘鑑に掲載される事も無く、130年もの間、人知れず
継承され、昭和47年に古来種として登録された峯乃雪」の話です。
 



 あれは五年程前のことです、「峯乃雪」の、白斑の一部がある時から
四方八方に分岐をはじめ、純白の小さな若芽の様になったのです。

その姿はどう見ても岩檜葉に咲いた花としか言いようが有りません。



緑の地肌に映える純白の雪の結晶の様な、それはそれは美しい華を咲かせたのです。
朝な夕なに眺めては悦に入っていたのですが、その華が梅の花ほどの大きさになった
頃に涼風が立ちはじめ、華は乳白色になり、気温が下がるに連れて、次第に黄色味が
強くなり、愛しい巻柏達が眠りに就く、寂しい寂しい冬が近付くに連れて茶色に変色し、
やがて霜が降り、私が最も嫌いな冬将軍が来ると、長い長〜い眠りに付いたのです。

長い長い冬が過ぎ、待ち遠しかった桜の便りが聞こえると、居ても立ってもたまらず、
近所の桜の木を眺める毎日が続きます。

桜が満開になるのを待ち兼ねて散水を始めると、紅葉の美しさそのままの巻柏たちが
一斉に目を覚まし、愛しい巻柏たちは私に微笑みかけてきます。私の一番嬉しい時です。

「幸せだな−、僕は君(イワヒバ)と居る時が一番幸せなんだ、死んでも君を放さないよ。」
     (いい年こいて恥ずかし気もなく、ぬけぬけと、よく言うよ) 

 その花に目をやると、茶色の花びらを広げ蘇生しようと頑張っていました。
若葉の季節になり、他の巻柏たちは甦り、秋の名残も消えて新しい斑色を現し始めた
のとは裏腹に、焦げ茶色から黒へと変色して、とうとう力尽きて朽ち果ててしまいました、
あれは紛れもなく巻柏の花でした。  

 ほかの巻柏たちが、金襴の衣装を身にまとい、その美しさを競っても、あの華には
及ばない、あれは千年に一度しか咲かない幻の花だったのです。

え、うちの「峯乃雪」もそうなったって、
そんなこと言わないの、せっかくのムードが壊れるでしょう。

 如何なる品種でも長年愛培していると、「え、これってこんなに綺麗になるの」と思う
答えが帰ってくるのです、その奥深さに魅せられて。

「集めた品種は三百種と、あそれ、スイスイス−ダララッタスラスラスイスイス〜イと、
これじゃ管理が届く訳ないよ、わかっちゃ居るけど止められね〜と、きたもんだ。」

(え、くだらないって、こりゃまた失礼しました。)


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