[豊かな音声表現トレーニング] 1,総論として わたしたちのコミュニケーションには ◆イントラパーソナルコミュニケーション(自己内対話) ◆インターパーソナルコミュニケーション(対人対話) がある。音声はインターパーソナルコミュニケーションの分野にはいる わけである。 声は、話す内容や言葉と独立してはたらくのではない。言葉に気持ちを込めて(それにふ さわしい響きを伴って)話すと、その言葉にふさわしい表情・態度・仕草が伴ってくるので ある。 これを「セルフシンクロー(自己同調行動)」という。 言葉・気持ち・表情は三位一体なのである。 情報を伝達するものとして、言語と言語以外の割合について ◆バードウェステル説 言語−35%、 非言語−65% ◆マレービアン説 言語−7%、 準言語−38% 表情−55% と説いている。この非言語または準言語における大きな役割を占めているのが声の響きで ある。 ◆日本人の発音は平唇音…日本人はあまり大きく口を開けないで発音する ◆欧米人の発音は円唇音…欧米人は縦に大きく口を開けて発音する 2,お経を楽しむ 僧侶の読む経は、特有なリズムを持っている。あのリズムを取り入れて話すと表現に変化 が出る。 次のものをお経のように読んでみよう。 電車馬車自動車 人力車力自転車 交通地獄通勤者 受験地獄中高生 合唱練習土曜日 空腹帰宅晩御飯 (阪田寛夫) 鼻濁音を大切に ガ行(ガギグゲゴ)には濁音と鼻濁音がある。日本語の響きを柔らかくさせるために、鼻濁音が出せるようにしておきたい。 詩を読む 詩の心を生かすように読んでみよう 詩 (作者不詳 東北地方の坊さん) ひとつの言葉でけんかして ひとつの言葉で仲直り ひとつの言葉でおじぎして ひとつの言葉で泣かされた ひとつの言葉はそれぞれに ひとつのこころをもっている 歌舞伎の台詞まわしで決めてみる。 歌舞伎の台詞回しのトレーニングも表現を豊かにするのに役立つ 『弁天娘(べんてんむすめ)女男白浪(めおのしらなみ) (白浪五人男)』 河竹黙阿弥(かわたけもくあみ) 知らざあ言って聞かせやしょう。浜の真砂(まさご)と五右衛門が、歌に残(のこ)せし盗人(ぬすつと)の、種は尽きねえ七里ケ浜(しちりがはま)、その白浪の夜働き、以前をいやあ江の島で、年季勤めの児(ちご)ケ淵(ふち)。百味講(ひやくみこう)でちらす蒔銭(まきせん)を、当に小皿の一文子(いちもんこ)、百が二百と賽銭(さいせん)のくすね銭せえだんだんに、悪事はのぼる上の宮、岩本院で講中(こうじゆう)の、枕探しも度重り、お手長講(てながこう)の札付きに、とうとう島を追いだされ、それから若衆(わかしゅ)の美人局(つつもたせ)、ここや彼処(かしこ)の寺島で、小耳に聞いた音羽屋の、似ぬ声色で小ゆすりかたり、名せえ由縁(ゆかり)の弁天小僧菊之助たァ、おれがことだ。 日本語の基本 アクセント アクセントには発音が上にあがる昇調、発音が平らな平調、発音が下にさがる降調がある。 また中間調の半昇調と半降調とがあり、アクセント5調といわれる。 上下の高さの差はどれくらいかというと、音楽の音階(ドレミファ)の『ド』から『ミ』の間だといわれ、『ドミ理論』とよばれている。 共通語のアクセントを身につけておくことが望まれる。 7,言葉に感情を乗せる イントネーション (発声の抑揚・語調) イントネーションはアクセントに比べて、話し手の感情や意志を反映して、文またはその 一部分が上がったり、下がったりすることである。イントネーションの違いによって、感情 や気持ちの変化を表現することが出来る。言葉に生命を吹き込み生き生きとした、こころの 微妙な襞を表すことができる。 次の言葉を講師の指示に従って表現してみよう。 例えば「はい」という返事を『明るくいう、沈んでいう、嫌々そうにいう』などである。 1. 穴 2. 行きます 3. それ食べる 4. あの人が 5. ありがとうございます 6. 何してるの 7. いらっしやいませ 8. ばかだね 9. はい 10. あなた 11. おはようございます 12. こい 総集編 「貧乏神」を読み合わせる 2日間の仕上げとして「貧乏神」という作品を読み合わせてみる。 「貧乏神」 不景気だ不景気だといって考えこむばかりで、なんもしないでいたら、なおさらろくなことのあろうはずがありません。元気を出して、機嫌よく働いてこそ、諺にいう、稼ぐに追いつく貧乏なしで自然、幸福が舞い込むわけですが、夫婦喧嘩などしていた日には、とんでもないものが舞い込んでまいります。 女房 「もしおまえさん、この晦日をどうする気なんだよ」 亭主 「べらぼうめ、晦日がどうできるもんけぇっ、へっ、借金で首を持ってく 気づけえはねえや、平気でいろ、平気で・・・」 女 「平気じゃいられないよ」 亭 「だからてめえは貧乏神だってんだ」 女 「なに、わたしが貧乏神だって、おふざけでないよ、おまえさんこそ貧乏神 だ」 亭 「なにをいやぁがる、てめえが貧乏神だいっ」 女 「貧乏神はおまえさんだよ」 と双方、負けずに貧乏神と言い募っていますと、その声を聞いたのが貧乏 神で、 貧 「いよー、呼びこんでいるな、こりやあ居心地のよさそうなうちだぞ」 と、ぬーと入った汚い爺さん、荒布(あらめ)のような身なり、蓬(よもぎ)のよう な白髪交じりの髪(かみ)や髭(ひげ)、 骨と皮ばかりに痩せこけて、目の 玉は奥のほうでぼんやり光っているのが、仏壇の前へふわふわと座っ て、夫婦喧嘩をにやりにやり笑いながら見ています。 ー以下略ー
「会議、司会について」 [1]会議の基本とすすめ方 1,会議とは 会議とは、検討すべきテーマを、関係者が集まって評議することを目的と した、話し合いの一形態である。 2,会議の特徴 会議は、広い意味の話し合いの分野に含まれるが、次のような特徴がある。 @ 進行法に一定の形式あるいは規定があり、それに従って進められる A 業務遂行上の必要事項として行われる B 通常は最終結論までの時間制限がある 3,会議の分類 会議といっても様々な形があるが、会議目的の面からいくつかに分類で きる @ 親睦・融和を目的とするもの 何かを審議することよりも参加者間の融和を図ることを主目的とする 会議である。 ◆顔合わせ会 ◆朝食会 ほか A 連絡・報告を目的とするもの 情報の交流・交換を主目的とする会議である。 ◆連絡会議 ◆報告会議 ◆定例ミーティング ほか B 検討を目的とする会議 事故の原因を究明する、将来の見通しを検討する等検討を議題とす る会議である。 ◆学術発表会議 ◆事故原因検討会議 ◆新規出店会議 ◆QC活動会議 等 C 決定・決議を目的とする会議 案件の最終的な議決を諮ることを目的とした会議である。 ◆方針決定会議 ◆判決・評決会議 ◆株主総会 ◆国会本会議 ほか 4,会議のすすめ方 会議はその目的と性格によって様々だが、通常は次のように進められる。 ◆関係者の参会と開会宣言 ◆議題の提出 ◆出席者の意見提出とその検討 ◆意見の集約と再検討 ◆最終結論への収斂と決定 5,会議における発言の仕方 出席者は発言の権利を持つとともに、会議を成功させる義務を持つ。発言をしない者は権利を放棄することであり、いたずらに会議を混乱させたり、無気力な参画は義務に違反するものである。 @ 発言のしかた ◆必要なときに必要なだけ発言する 全員が発言する場であることを忘れない ◆論理的に的確に発言する まとめが悪いと饒舌に流れる ◆会議進行に合わせてタイミング良く発言する 進行状況や場の空気を認識しておく ◆主張は余裕を持ってする 意識が強いと言い募ることがある ◆反論は相手を守る心でする 反論は異質な意見であって、自分への攻撃ではない A 注意したい発言のしかた ◆発言を独占しない 独占欲や権力意識が強いとなりやすい ◆相手の腰を折ったり、割り込みをしない 相手の発言が劣っていたり、待ちきれなくなるとおこしやすい ◆断定、強圧的な発言をしない 自分の観念に固まってしまうとなりやすい ◆同じことの繰り返しをしない 意見を手際よくまとめられないとなりやすい ◆脱線したり、飛躍した発言をしない 発言中論点がそれていったり、関係ないことに話が飛ぶなど [2]司会の基本とすすめ方 会議に限らず何らかの集会において、進行をスムーズに進める役割を担うのが、司会で ある。司会を必要とする場面は主に次の場合である。 ■会議・会合・話し合い等、審議や評議を要する場合 ■儀式・イベントや簡単な集会等、会を進めるための進行役を要する場合 ここでは会議における司会を取り上げることとする。 1,司会者の役割 会議における司会には、一般的に役割上次のような性格がある。 ■進行役としての司会 報告会・発表会など、プログラム通りに会が進行して良いときなど ■調整役としての司会 審議・評議を行う通常の会議におけるときなど ■権力者としての司会 重要な議決を要するなど、司会者の影響力が強く求められるとき。 株主総会など。 1,司会者の資格と能力 @ 司会者に求められる資格 ◆客観性に富み、公平に事柄に当たれる人 ◆奉仕の精神を持ち、責任感の強い人 ◆人にすかれる人柄を持ち、協力を得られる人 A 司会者に求められる能力 ◆総合的把握と状況の分析が出来る能力 ◆混乱の中にあっても適切に判断できる能力 ◆会を好ましい方向へ導く指導能力 2,司会者の権限と義務 @ 発言を統制する権限 ◆発言の停止 ◆発言の補助 ◆発言の整理 A 全体をまとめる義務 ◆論点の整理 要所において発言を整理し、混乱を防ぐ努力 ◆段階ごとのまとめ 進行の状況をわからせ、同一方向へ誘導する努力 ◆最終的なまとめ 一致点、不一致点をあきらかにし、最終的結論を引き出す努力 3,具体的な司会者の仕事 @ 会議を開く前の仕事 ◆会の目的、テーマ、それに要する資料等を整える ◆予測できる問題点等を明確にしておく ◆会議進行のおおよそのプラン(アウトライン)を立てておく ◆必要に応じて事前打ち合わせ(根回し)などをしておく ◆会場の整備など、好ましい環境作りに努める A 会議に入ってからの仕事 ◆参加者を紹介するなど、雰囲気作りに努める ◆多くの発言の一致点をつかむ ◆意見や説明が重複したり、重複・脱線したときは注意を与える ◆必要に応じて進行状況を要約し参加者に知らせる ◆最後の締めくくりは公平に要約する ◆最後はあいさつし、参加者の協力を感謝する B 会議を終えてから ◆会議の事後処理は遺漏なくする ◆司会を務めたことの自己反省をする C その他のこと ◆潜在司会の重要性 潜在司会とは、参加者個々人が司会者に協力する意識とその行為を 指すのである。 具体的には発言を遠慮している人に発言を促す、参加者が疲れてき たら休憩を提案する、司会者に必要な助言をするなど、会の進行に気 配りをすることを指している。 [解説] 会議の分類として次のものがあるので参考に供したい。 ■会議の分類 @ バズセッション(ブンブン会議、六六会議とも言う) 参加者全員を6人ほどのグループに分け、ぞれぞれのグループが同一 テーマで討議するものである。その後各グループはまとまったものを発 表し合い、全体のまとめをはかるようにする。 A パネルディスカッション 司会者と数人の講師(または参加者の代表)によって定められたテーマ について討議するものである。他の人は聴衆となって討議を聴講する。 後の質疑応答時間になって聴衆は討議に参加することとなる。 B シンポジウム 司会者と講師数人によって行われる。一つの問題について講師は一人 ずつ与えられた時間内自説を述べる。その後質疑応答という形で、聴 衆は会議に参加することとなる。 C フィルムフォーラム フィルムを見てみんなで意見を述べ合い学習する方法である。 D ロールプレイング(役割討議ともいう) 参加者の中から何人かが役割を持って即興的に劇をし、その後行う討 議の素材とする。
「話し合いの仕方」 話し合いとは、周りの人たちとあるテーマについて意見を交わしあう、コミュニケーションの一つのすがたである。 つまり「衆知の結集」をはかり、問題を解決したり、事実の確認や真理の追究をはかることを目的としている。 1,話し合いの基本 (1) なぜ話し合いをするのか (話し合いの必要性) @人は誰でも自分が及ばないものを持っているから (人は常に自己の限界外にいる) A人は自分が生きるに必要なすべてを持っているから (人は聖を分有している) (2) 話し合いから生まれるもの @問題解決を図れる 衆知を結集することで、第三の意見が生み出される A相互啓発がなされる 相手の意見や考え方に刺激を受け、自身が啓発される B人間関係が改善される 話し合うことで相互の理解が広がり、人間関係が改善される (3) 話し合いの問題点 @時間がかかる 意見の収束や解決策の発見までに時間がかかる。そのことが新たな 問題を生んだりする。 A混乱が生まれやすい 意見の違いが当然あり、自分の主張を譲らないなどで混乱を生じや すい。 B反対・対立・対決の構図が生まれやすい 冷静で論理的であるべき主張に感情が絡むと、収拾のつかない状態 にまで発展する。 2,話し合いのすすめ方 (問題解決型の話し合いの場合) @テーマの意味を明確にし、話し合う範囲を確定する A現状を分析し、問題点をただす Bそれに対する解決策を提出し、検討する C最善の解決案を選ぶ D解決案を実施するための、具体策を考える E実施後、結果を検討する <よい解決案の基準> ア、実施しやすいもの イ、明白で仮定が少ないもの ウ、普遍性、一般性があるもの [付記] 一般に話し合いと呼ばれているものだが、性格の違いから次の3つに 分かれる。 ●「話し合う」 ●「話し合い」 ●「対話」 その実際は下表のようになる。 話し合い 話し合う お互いの意見を交換し、 理解認識を広め、自己 啓発をすることが目的 討論会 座談会 ディベート パネル・ディス ティーチイン等 話し合い 意見を集約し、一つの 方針を決めて、 問題解決を図る ことが目的 話し合い・会議 ミーティング 交渉・折衝・打合せ等 対 話 真理の追究をはかり、 あるべき姿を求めること などが目的 思想・哲学論 宗教家法論 倫理・人道論
「話の障害と克服」 話の障害というと、まず浮かぶのは「あがる」という現象である。しかし「あがる」という現象だけが話の障害ではない。 1,話の障害とは何か (1) 「あがり」のメカニズム なぜ「あがる」のか、「あがる」とはどういうことか、ここから考えよう。 ◆人前で話そうとの意識がはたらくと緊張してしまう ◆それは自律神経の内の交感神経がはたらくからである ◆するとアドレナリンの分泌が過剰になる ◆ために脈拍が早くなったり、また血圧が上がったりする ◆そしてドキドキ感がひどくなり、のどが渇いたり、身体硬直が起こったりす る ◆そして頭がはたらかなくなり、言葉に詰まったり、しどろもどろの現象を起 こす。 こうした一連の現象を「あがった」状態というのである。 (2) 話の内容に苦労する あがる現象は話そうとする内容と大きな関わりを持つ 内容が十分準備されていたり 自信があるとあがりは軽減されることに なる。 ◆何を話してよいかわからない(主題がはっきりしない) ◆内容(材料)が見あたらない ◆どのように話していけばよいかの組み立てができない 上のような内容面の点も障害の原因になっている。 2,話の障害を克服するには 話の障害の原因がわかっただけでは問題は解決しない。どうすればよいのか克服法を考えてみたい。 (1) 心理的な側面から考える @ 場数を踏む あがることの一番の原因は「経験不足」にある。できるだけ場数を踏む ことが大切である。一つ一つの経験は実績となって体の中に蓄積される。 蓄積されたものは次の経験に際したとき「こうしたらよいだろう」との予測 を生み出すことになる。予測に従って行った話がうまくいくと、成功体験 として意識され、その積み重ねがあがることからの解放につながるので ある。 A 「あがり」の悪循環を断ち切る あがるまいとする意識を強く持つと、かえってあがりの罠にはまる。 そこで「あがる」のは当たり前だと考えよう。 (2) 内容的側面から考える @ふだんから自分なりの見方・意見を持つようにする 日本人には主張がないなどといわれる。意見を求められても「言わない・ 言えない」ことがよくある。普段の生活態度が受動的だとどうしてもこうした 傾向になるので、 できるだけ能動的な言動につとめよう A 話の材料を集め、話の組み立てを意識してするようにつとめる 話す場面に立ってから話すことを考えたのでは、うまくいくはずがない。 ふだんから周りに関心を向け、話材を見つけるなどの習慣をつけるように する。 B 事前の準備をする 不意に話す場に立たされるということもあるが、ふつうは話すまでには時 間の猶予があるものである。その時間を有効に使い、しっかり準備するよ うにしたい。 C 「これを話すのだ」」と話の目的に集中するようにする。 「このことだけわかってもらおう」とのことに意識を集中して話すようにする。 ともすると「感心させよう」「ほめてもらおう」などの気持ちに支配されがち だが、これは邪念というべきもので、かえって聞き手に真摯な印象を与え ず、話の評価を落としてしまう。 [解説] 私のホームページをみて質問してくる人がいるが、質問のほとんどが「わたしはあがり症で人前ではドキドキして話せない。どうしたらよいか」というものである。やはり話の障害に悩む人が多く潜在していることを伺わせる。 さて「話の障害」と一口に言うが、もう少し突き詰めて考えると、障害にはいくつかのレベルがあり、それぞれの対応が違うことがわかってくる。私見めくが挙げてみたい。 (1) 「人(聞き手)が怖い」レベル まずは人前では緊張する、ドキドキする、赤面する、話す ことが消えてしまったなどのレベルで、誰もがぶつかる段階である。 ここでは「聞いてる人が怖い」ことを強烈に意識させられる。 ●聞き手の数が多くて竦んでしまう ●聴衆の中に抵抗になる人がいて話せない ●うなずくなどの反応がないので怖い ●ベテランが聞いていると思うと話に自信がなくなる、 など様々なことが起こってくる。 要するに聞いてる人への恐怖心がはたらくレベルである。 これを「人(聞き手)が怖いレベル」と名付ける。 (2) 「話が怖い」レベル 次いでぶつかるのが、話したことが「思い通りの結果を生まないことへ の怖れ」である。 ドキドキもなくなり、聞き手の顔も見えるようになり、聞き手の笑いも得ら れるようになってくる。このあたりから意識されてくるのが「話って難しい」 ことの実感である。 ●用意した話を用意したように話したが、聞き手の反応は薄い。 ●わかってもらおうと丁寧に話したのに、わかったようでもない。 ●場の雰囲気がだれてきているが、ピシッと締めるやり方が見つからない。 ●もっとハイレベルの話を作りたいのだが発想がわかない。 といったもので、つまり何を話しても思うように話せない、ということに悩 むレベルである。 これを「話が怖いレベル」と名付ける。このレベルは前よりはるかに深刻で、いつ抜け 出せるかわからないレベルのものである。 (3) 「自分が怖い」レベル さらに進むと ●自分の話の、相手への感化力が乏しい ●自分の考えや意見を述べても、支持・賛同する人が少ない ●表現の仕方に問題があるのか、思うように人が動いてくれない ●懸命に話してもせいぜい頷く程度で、感動させたという実感がない といった「自分の話の、及ぼす範囲の狭さに、自信をなくす怖れ」である。 これは「話のしかた」というよりも、話すという域を超えた自分自身の器の大きさ、人間的魅力のありように問題があるのだろう。 それはわかりながらも、それでも話さなければならない場合がある。なんとか合格点をとらなければならない場に立たされることもある。ちょうど痩せて貧相な人間が、着飾ることで自分を大きく見せようとするように、ムリに大きく見せつける話をすることがあるのである。 そしてみじめな思いで「自分て小さい人間だな」と責めながら、それでも話を続けなければならないとき、自分が怖くなってくる。 これを「自分が怖いレベル」と名付ける。 話すということは、話すことで何かを生産することが求められるものなのである。 会話は「楽しさ」というものを生み出し、近所の人とのあいさつは「連帯」というものを作り出している。自分の話を聞いて賛同する人がいた、何かを勧めたら従う人がいた、などは話が生み出した産物である。若い母親が、我が子に添い寝しながら聞かすおとぎ話は、子供の情操を育てるという、すばらしいものを生産しているのである。 振り返って自分の話は何を生み出したかというと、微々たるものであることに頷かざるを得ない。あらためて「自分が怖い」と実感することとなる。
「大勢に対する話のまとめ方」 前回は「大勢に対する話し方」のうち、話すときの心構えという総論的内容の学習であ った。続いて今回は具体的な話のまとめ方を中心に話してみたい。 大勢を対象とする話といっても、目的や集まりの性格によって話し方の違いがあるので、 まずそれを見ることとする。 1,大勢を対象とする話の場面 (1) スピーチ @ テーブルスピーチ(卓話) この名称は最近あまり聞かないが、結婚披露宴などでの話が代表とな る。この話の場面は、飲食が伴うのがふつうである。 A 会合でのスピーチ 様々な集まりで行われる話である。会社での儀式から、趣味のサークル までと幅がある。ここでは飲食が伴わないことが多い。 B 講 演 聴衆に対して、ある題目について話すこと。聴衆を説き聞かせることで あり、聴衆はレクチュアを受ける形となる。 C 講 義 教授者が受講者に対し、学説や意味を説き明かすことと辞書にある。 講演とよく似ているが、講義のほうがより学問的となる。 D 演 説 多くの人の前で、自分の主義主張や意見を述べて、聞き手を感化、説 得することである。選挙演説などが代表となる。また有名な日蓮上人の 辻説法なども演説といえる。 講演、講義、演説はオーバーラップしている面が多くあることはいうまでも ない。 (2) 司 会 会の進行を司ること、またそれに携わる人を指している。様々なイベントにおいて必要 な役割であり、主役ではないが大事な役目である。 @ 各種式典での司会 儀式としての性格を持つ会合での司会である。 記念式典、発会式典等多くの場面がある。 A 行事の進行としての司会 儀式張らない会合における司会である。会社での催し(忘年会等)からプライベート な集まりまで数多くある。 このほか会議・打ち合わせ等での司会もあるが、これらは大勢を対象とすることと少し性格が異なるのでここではふれない。 さて、上に上げた場面において話すとき、まとまった話をすることが求められるが、次に取り上げてみる。 2,大勢を前にしての話のまとめ方 @ 主題をはっきりさせる 主題とは、話の中心となる思想内容のことであり、テーマと呼ばれる。 何を話したいのかという核となるものをはっきりさせることである。 ◇むだを省き、言いたいことを一つに絞る ◇短くまとめる。時間オーバーに気をつける ◇場に合わせるようにする A 切り出しを工夫する 話では切り出しは重要である。多くの場合話し始めで聴衆の興味のあり ようが決まるからである。 B面白そう、聞いてみようと思う話題を出す 一般的に次のものに人間は興味を示すという。 ☆珍しい話題 ☆新しい話題 ☆動きのある話題 ☆対立のある話題 C 結びを工夫する 話し終わりをどう締めくくるかの工夫も必要である。それによって聴衆 の印象度が変わるのである。 ☆誓い、願望等を話して締めくくる ☆印象を与え、余韻を残すような話題で終わる D 気をつけておきたいこと ☆声・言葉遣いに気をつける ・透る声で話すこと ・発声・発音を明瞭にすること ・誰でもわかる言葉で話すこと E 気をつけたい話題 ☆自分側の自慢話 ☆人を傷つけるような話題 ☆品性を損なう話題 [解説] 「まとまりのある話」とは何か まとまりのある話というと、内容のまとめのことと、とかく考えがちになる。 しかし「内容にまとまりがある」ことと、「話にまとまりがある」こととは別のものであると認識しておきたい。 「まとまりのある話」と評価されるには、内容の構成だけでは不十分である。そのほかに話し手の話しぶり(音声、間等)、態度・表情(ゼスチュア、しぐさ等を含めた)、環境の変化に即時に応じる対応力等も話のまとめの条件となるのである。これらが総合してはたらき、目的を果たしたとき、はじめて「まとまりのある話」と評価されるわけである。