環境・安全を考える時、最も重要な事は「何がリスクであるか見抜く力」である。問題が発生したときの言葉として「想定外」という言葉がはやっているが、逃げの言葉としか思えない。
リスク管理で必要なことは「最悪の状態を正しく想定し、それに見合った技術的、経済的に可能な対策を実施する」ことである。
究極のリスク管理事例として3.11東日本大震災での津波に耐えた東北電力女川原発と甚大な被害をもたらした東京電力福島第一原発のリスク管理について調べてみた。
1.なぜ女川原発は津波に耐えたか。
原発建設当初、津波高さ3メートル(後に9.1メートルに改定)と想定されていた時期に、貞観地震(861年)などの記録を踏まえ15mが妥当とし持論を曲げなかった経営者と津波の怖さを共有する企業文化があったらしい。その結果、14.8mの敷地に原子炉建屋が設置され、地震で地盤が1m沈んだが、12.5mの津波に耐えた。
この辺のところは東京新聞(2012.3.7)、毎日新聞(2012.3)、日経新聞(2012.8.20)に紹介された。そのほか下記資料にも詳細が触れられており、参考となる。
・電力と震災(町田徹著、日経BP2014.2.24)
・そのとき女川は:東北エネルギー懇談会2014.4
2.東京電力第1原子力発電所では
「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 中間報告(事故の概要P11)」によると、東京電力は平成20年時点で津波高さが15mを超える説を知っていた、同時に9mという説もあることを知っていた。しかし、どちらも十分に根拠のある知見とは見なさず、福島第一原発における具体的な津波対策に着手しなかった。すなわち、「判断の先延ばし」を図ったものとも考えられる。
3.一般的に考えて1000年に1度の大地震を想定する事はなかなか困難である。いつ起こるかわからないものへ数百億円かかると言われる防潮堤の新設などは、在任期間中の利益確保を優先するサラリーマン経営者では判断できないだろう。
4.しかし、リスクマネジメントの視点から考えると、防潮堤が無理なら、次善の策として、予備のポンプ、非常用電源を高台に準備しておくこと、また今回のような過酷事故を想定した緊急時の対応訓練などあれば、今回のような甚大な被害には至らなかったのではないか。
5.「判断の先延ばし」に関して
1)これは日本文化そのものと考える。すなわち、日本文化では「最悪事態」を想定する習慣が一般化していない。「判断の先延ばし」は日本人のDNAに記憶されていると思えるが、グローバル化が進む現在これでは生きていけない。リスクマネジメントの考え方をもとに改善を考えたい。
2) 日本文化について
日本人は温暖な気候と水に恵まれ弥生時代以降稲作を中心に文化が形成された農耕民族である。ここでは、自然と共生し、地震、津波、台風被害でのリスクマネジメントは「じっと我慢して嵐、災害の去るのを待ち耐える」こと。翌年はまた稲作し自然の恵みを受けることである。
3) 欧米文化
上記日本文化に対し、欧米は狩猟民族であり、彼らは獲物を追って移動していた。この時、分かれ道にさしかかれば左へ行くか、右に行くか判断が必要である。生活の中で常に判断が求められた。リーダが判断を間違えると、その日1日の食べ物は無い。飢え死にするかもしれない。リーダが判断を間違えないように「群れ」全体で常にチェックを繰り返す。これは、マネジメントシステムに組み込まれている内部監査の起源と言われ、移動しながら自分の立ち位置を確認し舵を切る。これが狩猟民族の知恵(リスクマネジメント)でありPDCA手法である。
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