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「ミサイル防衛」の虚構と現実

米ミサイル防衛構想 テスト状況 日本の計画 日本の予算 イージス艦改造 関係文書

●絶対的優位をもくろむ

 「ミサイル防衛」は国連憲章が否定する先制攻撃を推し進めるために、米軍が敵国の反撃能力を無力化しようと進めているものです。かつて敵国の核兵器を科学技術で無力化しようという戦略防衛構想(SDI)を提唱した米レーガン大統領はその演説の中で「もし攻撃システムと組み合わされると、それらは侵略的政策を助長するものとみなされるおそれがある」と述べていました。

 自衛のためとしてイラクへの侵略戦争をしかけ、現在でさえ比類の無い軍事力を持つ米国は新型核弾頭の製造計画を推し進め、「科学技術」の粋を動員して新型兵器を次々と開発しています。まさに研ぎすまされた最強の「矛」を持つ米国がさらに最強の「盾」を手に入れて絶対的優位に立つことをもくろんでいるのです。「ミサイル防衛」は報復攻撃を恐れずに先制攻撃を可能とする、いわば先制攻撃保証システムであり、けっして防衛兵器ではないことに留意する必要があります。

●日本は米国防衛の最前線基地

 米国防計画では、ならず者国家やテロリストによる弾道ミサイル攻撃から米国本土、海外展開米軍、同盟国・友好国を防衛するために「ミサイル防衛」を導入するとしています。守るのは第一に米本土であり、第2に海外の米軍基地です。
 近い将来、北朝鮮に中距離弾道ミサイルを発射できる能力ができたとき、グアムやハワイへ向けたミサイルは日本上空を通ることになります。在日米軍再編の中で米軍は真っ先に沖縄県の嘉手納基地にPAC3を、青森県の空自車力基地にXバンドレーダーを配備しました。北朝鮮のミサイル発射基地とハワイを結ぶ大圏コース(最短距離コース)は車力近辺を通ります。また現在、米海軍が保有する弾道ミサイル迎撃艦18隻のうち、5隻を横須賀基地に配備しています。まさに日本列島を米国防衛の最前線基地にしようとするものです。

●未完成のシステムを「実戦配備」

 現在の「ミサイル防衛」システムは、実戦で迎撃できる保証がない未完成品であってもとりあえず配備し、その後実験・改良を繰り返していく、スパイラル(進化的らせん型)開発方式で進められています。

 「ミサイル防衛」は秒速3キロを超えるミサイル弾頭(およそ音速で発射されるピストルの弾丸の10倍以上の速さ)を、同じような弾頭で体当たりさせて破壊するというもので、実戦での迎撃は至難の業といえます。

 迎撃テストの結果は一応、公表されています。注意深く見れば、標的情報が迎撃体に伝えられていたり、弾頭ではなくロケットブースター付きのままでの迎撃(要するに当たりやすい)であったり、おとり弾頭を使用してなかったり、「抜き打ち」でなかったり、実戦とはほど遠い設定での「成功」であることがわります。しかも、それでも失敗するケースがあります。
 そんな基本的なことが日本ではほとんど報道されないまま、「PAC3」「BMDイージス艦」が次々と「実戦配備」になっています。

 つくられた「脅威」もさることながら、つくられた「安心」にも躍らされることなく、真実を見つめる必要があります。

●軍事企業の「打ち出の小槌」

 しかし「ミサイル防衛」システムは、未完成でありながら「実戦配備」し、テスト・改良を繰り返すというスパイラル開発方式で進められているのが現状です。開発には膨大な費用がかかり、レーガン大統領の時代から17会計年度までの累計はすでに1897億ドル(約20兆円)に達しています。

SDI計画時から現在まで 単位:10億ドル
レーガン ブッシュ(父)
FY85 FY86 FY87 FY88 FY89 FY90 FY91 FY92 FY93
1.4 2.8 3.2 3.6 3.7 4.0 2.9 4.1 3.8
  クリントン クリントン
  FY94 FY95 FY96 FY97 FY98 FY99 FY00 FY01
  2.8 2.8 3.4 3.7 3.8 3.5 3.6 4.8
  ブッシュ ブッシュ
  FY02 FY03 FY04 FY05 FY06 FY07 FY08 FY09
  7.8 7.4 7.7 9.0 7.8 9.4 8.7 9.0
  オバマ オバマ
  FY10 FY11 FY12 FY13 FY14 FY15 FY16 FY17
  7.9 8.5 8.4 8.3 7.6 7.8 8.3 8.2

 米ソ冷戦構造の崩壊によって活路を失った米軍需企業にとって、「新たな脅威」は新たな潤いの保証であることは言うまでもありません。「ミサイル防衛」の主要な米軍需企業と開発兵器は次のとおり。

レイセオン社:SM3、海上・陸上Xバンドレーダー

ボーイング社:GBI、ABL機体と戦闘管制システム

ロッキード・マーチン社:イージス・ミサイル防衛システム、PAC3、THAADミサイル、
            ABLのビーム発射装置と火器管制装置

ノースロップ・グラマン社:ABLレーザー発生装置、早期警戒衛星

●新たな軍拡競争へ

 アメリカは「ミサイル防衛」を推し進めるためにロシアとの間の「迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)」を一方的に脱退しました。その結果、93年に調印されていた第二次戦略核兵器削減条約は未発効に終わり、90年代に大きく前進した核兵器廃絶への流れにブレーキがかかりました。米ロは03年に「戦略的攻撃能力削減条約(モスクワ条約)」を発効させましたが、それは削減核弾頭の保管を可能とするもので、実質的に核弾頭数は現状維持でしかありません。

 またロシアは東欧への「ミサイル防衛」システム配備計画に大きく反発し、07年2月に米ロ間の「中距離核戦力全廃条約(INF条約)」脱退を示唆しました。また同年12月には欧州各国の通常兵器の保有数などを制限する「欧州通常戦力条約(CFE条約)」の履行を停止するに至りました。

 一方、「ミサイル防衛」がアメリカの絶対的軍事優位性をめざすものであることから新たな軍拡競争が展開されつつあります。中国は07年1月に、自国の気象観測衛星をミサイルで破壊し、「ミサイル防衛」で重要な役割を担う早期警戒衛星の破壊能力があることを誇示しました。それに対抗するかのように米も08年2月、制御不能になっている自国のスパイ衛星をSM3で破壊しました。また、ジュネーブ軍縮会議でロシアと中国が提案している「宇宙空間への兵器配備を禁止する条約案」に米は反対しています。

 日本も宇宙の軍事化への動きを強めつつあります。日本の宇宙開発は平和目的に限られています(宇宙航空研究開発機構法、宇宙平和利用決議)が、08年5月、政府与党は「安全保障に資する宇宙開発」を盛り込んだ宇宙基本法案を国会に上程し、自民・公明・民主等の賛成多数で可決・成立させました。

 日本政府は事実上のスパイ衛星である「情報収集衛星」を内閣官房予算で定期的に打ち上げ、運用しています。それでも「平和利用決議」のために、米軍並みの画像解像度は許されていない。しかし「安全保障」を含むことになると、文字通りの偵察衛星となり、いっそう宇宙軍拡へと拍車をかけ、また有事の際の攻撃対象となるのは必然です。

 またこれまで国産ロケットH2Aは宇宙航空研究開発機構(旧宇宙開発事業団)が打ち上げていましたが、07年9月の月周回衛星「かぐや」を搭載した13号から、打ち上げ業務が三菱重工に移管されました。三菱重工は日本でトップの軍需企業であり、「ミサイル防衛」でも主要なメーカーであることは言うまでもありません。

 ロシアは「ミサイル防衛」に直接対抗する措置として、軌道可変な多弾頭SLBM(潜水艦発射弾ミサイル)及びICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を進めています。
 これらの弾頭はハイパーソニック弾頭と呼ばれ、もともとSDIに対抗するために考案されていたものです。大気圏外から大気圏に再突入する段階で軌道を任意に変更できるため、「ミサイル防衛」システムをかいくぐって核攻撃を可能にするというものです。いわば弾道ミサイルと超音速巡航ミサイルの性能を兼ね備えたものといえます。