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米弾道「ミサイル防衛」の現段階

ABL KEI SM3 GBI THAAD PAC3

 弾道ミサイルは『大辞林』(第3版)では「ロケットで高高度に打ち上げ,目標に落下させるミサイル。飛翔経路が,大砲の弾道曲線に近い」と定義しています。弾道ミサイルはその射程(到達距離)によって分類されますが、米軍は次のように定義しています。

・長距離 :射程5,500km以上
・中距離 :射程3,000〜5,500km
・準中距離:射程1,000〜3,000km
・短距離 :射程1,000km以下

 弾道ミサイル迎撃の方法としては(1)発射直後のブースト段階で破壊するもの、(2)発射後、大気圏外で慣性飛行しているミッドコース段階で破壊するもの、(3)着弾前の再突入段階(ターミナル段階)で破壊するという3段階での対処が考えれられています。

 4種類の射程の弾道ミサイルへの対処方法は次のようになっています。

1.ブースト段階

 ブースト段階で破壊するための兵器は ABL (Airborne Laser) とKEI(Kinetic Energy Interceptor)です。

 ABLは酸素・ヨウ素化学レーザーを搭載した改造ボーイング747−400貨物機からメガワット級のレーザー・ビームを上昇中の敵ミサイルの燃料タンクに照射して爆発させるというものです。
 2007年に行われた飛行試験では、飛行中の目標を捕捉し、低レベル・レーザを発射・命中させて、また航空機搭載可能な高エネルギー・レーザー発生装置の取り付けが完了しました。
 08年には地上および空中での高エネルギー・レーザー発射試験を実施し、09年には実際の弾道ミサイルを用いた本格的な実証テストを行う計画となっています。

 KEIは敵ミサイルの発射を探知すると近隣に潜ませている発射台やイージス艦、潜水艦から高速で打ち上げて体当たりして迎撃するもので、中距離・長距離の弾道ミサイルに対処するものです。まだまだ開発中のシステムで、2014年頃に配備する計画です。

オバマ政権での見直し:オレイリー・ミサイル防衛庁長官(下院軍事委員会2009年5月21日)

 ABLは2機目をキャンセルし、基礎研究を続ける。
 KEIは計画を終了させる。

2.ミッドコース段階

 宇宙空間を慣性飛行している段階での対処としては陸上から発射される迎撃ミサイル(GBI: Ground Based Interceptor)とイージス艦から発射される迎撃ミサイル (SM3: Standard Missile 3) が挙げられます。

 GBIは中距離・長距離弾道ミサイルに対処するものである。これまでの迎撃テストの結果は著しく悪いにもかかわらず2007年末までにカリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地のロナルド・レーガンMDサイトに2発、アラスカ州フォート・グリーリーに24発配備されました。09年末には計30発にする計画です。
 一方、現在の敵対国であるイランから米本土に向かう弾道ミサイルに対処するとして、ポーランドに10発を配備する計画が進行中です。

 GBI用のセンサーとして海洋型Xバンドレーダーが完成し、アラスカ州アダック島に配備されました。さらに陸上移動式Xバンドレーダーが06年6月に空自の車力分屯基地(青森県つがる市)に、08年9月にはイスラエルに配備となっています。
 またカリフォルニア州ビール基地及びイギリス・フィリングデール基地、グリーランド・チューレ基地に配備されている早期警戒レーダーの改良を進めています。さらに欧州版「ミサイル防衛」用としてチェコに早期警戒レーダーを配備する計画が進行しています。

 SM3はイージス戦闘システムによって標的の近くまで誘導後、衝突30秒前に迎撃体が切り離され、赤外線シーカーが作動して標的に衝突していく仕組みです。SM3の製造はひじょうに遅いペースで、08年末の在庫は32発でしかありません。

 イージス艦はもともと米空母をソ連の戦闘機などから守るために開発されたもので、大気圏外を飛行する弾道ミサイルの探知・迎撃などは想定されていませんでした。そのため米海軍は従来のイージスシステム搭載の巡洋艦と駆逐艦を「ミサイル防衛」用に改造する工事が進めています。すでにSM3を搭載した監視・追跡・迎撃可能艦は21隻となっており、米軍は14年末までに迎撃艦28隻体制をめざしています。

母港 駆逐艦16隻 巡洋艦5隻
Yokosuka カーティス・ウィルバー (DDG-54)
ジョン・S・マッケーン (DDG-56)
フィッツジェラルド(DDG-62)
ステザム (DDG-63)
シャイロー (CG-67)
Parl Harbor ラッセル(DDG-59)
ポール・ハミルトン(DDG-60)
ホッパー (DDG-70)
オカーン (DDG-77)
レイク・エリー (CG-70)
ポート・ロイアル (CG-73)
San Diego ジョン・ポール・ジョーンズ (DDG-53)
ベンフォード (DDG-65)
ミリアス (DDG-69)
ディケイター (DDG-73)
ヒギンズ (DDG-76)
Norfork スタウト(DDG-55)
ラムゼー(DDG-61)
モントレー (CG-61)
ベラ・ガルフ (CG-72)
Mayport ザ・サリバンス (DDG-68)

 SM3の迎撃テストでの結果はGBIに比べれば高いですが、「非常に人工的」と評されています。また秒速3キロメートル程度の速度しか出ないので、短距離〜中距離弾道ミサイルにしか対処できないといいます。しかも現在配備中のSM3ブロック1Aでは準中距離ミサイル程度にしか対応できず、より速度の大きな中距離ミサイルに対応させるためにシーカーの赤外線を2種類に改良などしたブロック1Bの開発が進められています。いずれ1Aは1Bに取って代わられるでしょう。

 さらにSM3の地上発射システムも検討されています。

 一方、日米間では長距離弾道ミサイルに対応できるという新型のSM3ブロック2型を2015年配備を目途に共同開発を進めています。

オバマ政権での見直し:オレイリー・ミサイル防衛庁長官(下院軍事委員会2009年5月21日)

 GBIの発射口(サイロ)は30にとどめる。
 SM3搭載艦は計24隻まで増やす。

3.再突入(ターミナル)段階

 再突入段階での迎撃に使用される兵器としてはPAC3 (パトリオット・ミサイル能力向上型3)、 THAAD(サード:ターミナル段階高高度地域防衛)ミサイル が挙げられます。

 PAC3は08年末までに635発が配備されています。米軍は沖縄の嘉手納基地を防衛するという名目で06年10月にPAC3の配備を強行しました。PAC3の射程はわずかに20キロメートル、しかも準中距離弾道ミサイルまでにしか対処できないといいます。

 しかし、実際のテストは短距離ミサイルを想定したものです。PAC3システムはほぼ完成したと見られ、GAO(米連邦会計検査院)の対象から外れています。現在、その管轄は03年3月にミサイル防衛庁から米陸軍に移されています。一方、F15戦闘機にPAC3を搭載する実験が行なわれ、F16,F22や開発中のF35に搭載する計画も進行しています。

 なおSM3の前身であるSM2ブロック4を準中距離・短距離弾道ミサイルのターミナル段階で使用することが検討されています。また弾道ミサイル対処で自らの防御が手薄になったイージス艦を戦闘機などの攻撃からの守るためにSM2ブロック3のテストも行われています。

 THAADは PAC3より射程が長く大気圏外での迎撃も可能といいます。1995年から開発飛行実験が実施されましたが、重大な開発上の問題が生じてテストは99年で中止となり、全面的な改造が行われました。05年12月から新しい飛行テストが始まり、07年からはハワイに移動して本格的なテストが始まっています。12年を目途に2つの部隊を配備する計画となっています。

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