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なぜ1週間以上の備蓄が必要か


電柱を立直すのにどれだけ時間がかかるか?
 2019年9月の台風15号で千葉県で倒壊した電柱の数は10月11日時点でまだ東電から公式集計の発表がないが、経産省が9月13日に出した試算では2000本としている。(千葉の電柱倒壊・損傷2000本 台風15号被害、経産省試算) その復旧には3週間以上を要したが、ここまで時間を要した原因の1つ目は東電が経営難のために自社直属の電気工事会社を大きく縮小していたため。東北電工、中部電工、関西電工など他の地域の業者を集めて電線復旧工事、電柱立て直し工事をしている様子がテレビで何度も放映されていたことでも分かる。メンテナンス部門を大幅に縮小しているため各地域の被害状況を収集できず、1週間たってもどこでどれだけの被害が発生しているかを把握することができていなかった。県や自治体の対応も悪かった。 
 復旧が長引いたもう一つの原因は倒木による電線、電柱の損壊のため、電気工事の前に折れた枝や倒木を除去する作業が必要で、それに時間を要したといえる。

 東電がこんなありさまでも、ほかの電力会社は大丈夫だろうと安心はできない。原子力発電所をほとんど停止しているので、どこの電力会社も経営は厳しくなっていてメンテナンス部門は縮小されていると考えられるからだ。

 それでは都心南部直下地震や南海トラフ地震が来た時、電柱はどれぐらいで復旧させることができるだろうか?次のように想定して試算してみた。 
1)台風15号で損壊した電柱は2000本と想定する
2)地震の場合樹木の倒壊による電線や電柱の破損は
  都市部ではあまり多くないと考えられるので、
  台風15号より3倍速く作業できると想定する。
  (つまり2000本なら1週間で完了できる)
3)都心南部直下地震で想定される電柱の倒壊数は9400
  本と想定されている。
 ※阪神淡路大震災で倒壊した電柱の数は電力4,600本、通信(電話)3,600本。これを国交省が面積比率で都心南部直下地震に置き換えて試算したものは、総数17000本、うち電力9,400本。(「電柱と災害との関係」

 2000本を1週間で復旧するというハイペースでできたとしても、全体の復旧には4.7週間、つまり1か月ちょっとはかかる、という計算になる。  
 大都市では倒木は少ないが、建物の損壊による断線、電柱の倒壊があるので、実際は倒壊した建物の除去をしないと復旧できない箇所がいくつも発生する。(阪神淡路大震災では電柱折損の17%は建物の倒壊による

 倒壊した建物の除去は倒木の除去と違って1週間から1か月はかかるので、結局全部復旧するにはどう見ても2か月を要すると考えなければならない。阪神淡路大震災では、電柱に設置している変圧器の焼失・損傷が1200件あったほか、変電所設備の損壊により  供給支障を生じた ものが17箇所、65設備あったので、それらの復旧も必要になっている。(阪神・淡路大震災における 電力ライフラインの 復旧について)これらも時間がかかる別のファクターになる。 
 阪神淡路大震災では火災は最初の10日間あちこちで起こり続けている。全壊、半壊などで避難した無人の家屋での通電火災によるものと考えられる。せっかく電力が開通しても、それが理由で復旧にさらに時間を要することもあるので、復旧は一直線には進まない。 

 変電設備に異常がなく、倒壊建屋も出火も延焼もあまりない地域だけは早々に電力が復旧するが、2週間や1か月で復旧したら運がいい方といえるだろう。 

 神奈川県の地震被害想定報告書によると都心南部直下地震の時、横浜市では7日から12日で電力は復旧すると想定しているが、東京電力の今の実力や倒壊建屋による電線・電柱の損壊、変電設備の損壊などを考慮していない数字としか言えないだろう。

北海道胆振東部地震でも台風15号でも繰り返し起こっているが、
電力が来ないという事は生活に重大な影響を及ぼす。 
〇水が出ない (ポンプ場が動かない)
〇従ってトイレも流せない 
〇スマホで情報の受発信ができない(電波の中継基地が機能停止)
〇コンビニ、スーパーのレジが打てない 
〇停電地域ではガソリンスタンドが営業できない
〇スーパーに食料品や生活物資が供給されない(トラックのガソリンが不足)
〇物流や宅急便が機能しない(配送センターの仕分けができない)

給水車は足りるか?
 国(首都直下型地震対策検討WG)の地震被害想定報告書によれば、都心南部直下地震発生時の断水人口は次のように想定されている。


この数字はとんでもない数字だ。阪神淡路大震災と異なるのは、日本で最も人口が集中する地域が被災するという点だ。

 1日に1人3リットル必要とすると、発災直後には43,320tonの水が、1週間後でも25,548tonの水が必要になる。
給水車の数に関してはH26年の調査で全国の自治体合計で1,169台という数字がある。(給水車数の推移―水道統計に基づく試算結果−
 給水車には4tonタンクのものと3tonタンクのものがあるが、仮にすべてが4tonタンクの給水車だとしても、発災直後には給水車はのべ10,830台、1週間後でものべ6,387台必要になる。発災した当時には全国の給水車は現地にたどり着けないので1日目に1400万人に給水するのは不可能だろう。各自治体が各地域の断水の状況を把握できるのはせいぜい3日目ぐらいなので、全国の給水車が集められるのは4日目になるだろう。
 1週間後でも避難所の最寄りのポンプ場停電で停止している地域も多く、遠方から水を運ぶとなると1日6往復以上して避難所に人数分だけ給水できる地域はかなり限られると考えられる。そもそも4ton(1,333人分)の水を一人ひとり配る時間に2時間要するとすると、6回給水するだけで12時間を要してしまう。ポンプ場と避難所の往復移動時間が20分程度なら朝の6時に初めて夜の8時に終わるが、往復1時間かかるような地域ではその日のうちに必要人数分だけ給水することはできなくなる。
 大地震による建物、構造物の倒壊や道路、橋脚の損傷、火災、放置車両などを考えると大都市圏で片道30分で移動できる距離は非常に制限される。さらに毎日避難所とポンプ場の往復をするのに必要なガソリンが、停電が続く地域では入手できない。

 つまり建物や道路、変電所、ポンプ場などのインフラのダメージの大きい地域の避難所では人数分の水の全量供給は難しいので、そういう地域では一人1日1リットル程度になってしまうかもしれない。場合によっては給水車が廃車されない日もあるかもしれない。台風15号でも給水車も来ないため500ccのペットボトルを配っている避難所が放映されていた。これは非常に厳しい事態だ。それが1週間も続けば健康を害するだろう。夏場では体がもたない。

仮に1週間分の水を備蓄していたとしても、それだけの大災害で、8日後には給水車が人数分の水を必要量を供給してくれるとは期待できないだろう。