シナリオ:小さな復讐者

シナリオ概要

注意!
これは「装甲騎兵ボトムズTRPG」の多人数用シナリオである。マスターのための章であり、プレイヤーは読んではならない

はじめに
 このシナリオで遊ぶためには、マスターがひとり、プレイヤーが2〜5人必要である。
 プレイヤーキャラクター(PC)たちはまず、バトリング場で最初の戦闘を経験し、次に敵の正体を暴き、最後に実戦を行う。マスター、プレイヤーの半数以上にTRPGの経験があるならば6時間程度、そうでなくても8時間程度で終了するだろう。前もってプレイヤーにPCを作らせておけば、もっと短く終わる。

あらすじ
 砂漠の街ワダは、中心部にわく豊かなオアシスをもとに栄えた交易の街である。ワダではさまざまな歓楽産業が盛んであり、なかでもバトリングは、商工会も力を入れているせいか、近隣の街と比べても大規模な興行が催されていた。
 現在、ワダの街で治安警察を束ねているベルハルト・ラムゼイ署長は、それまでワダの街を裏で牛耳っていた闇商人、オル・ブランコを追い出し、街に平穏を取り戻した辣腕振りで知られている人物だ。
 しかし、その裏で彼は、治安警察が押収した闇物資をほかの街に横流しして私腹を肥やしてもいた。ブランコとの抗争も出来レースであり、事実、ブランコはラムゼイ以下治安警察の黙認のもとで犯罪組織を操り、街を裏から支配し続けていたのであった。
 それに気づいたのは、この街で生まれ育った生粋の刑事、ファン・ルー警部だった。
 腐敗した警察組織には珍しく、元メルキア軍憲兵隊中尉であった彼は正義感のある堅物として有名で、表の商人たちからはうるさがられつつも慕われた人格者であった。
 ルー警部はラムゼイ署長が闇物資の横流しに関与しているという証拠を掴み、これを個人的ルートで軍の上官だった人物に知らせようとしたのだが、先手を打ったラムゼイ署長はブランコから借りた荒くれ者どもを使って、警部を亡き者としてしまう。
 それから半年。
 ルー警部のひとり娘ルゥは、父親の死に納得していなかった。
 彼女は荒くれ者どもの後ろにラムゼイ署長がいることまではたどり着いていなかったが、父親を襲ったゴロツキどものひとり、ラッセル・ギーレンがバトリング選手となっていることを知り、あとさきも考えず父親の復讐を計画したのだった。
 警察がやってくれないなら、アタシが父さんの仇を取る!
 もちろん、素人同然のルゥがそんなことをできるはずもない。
 PCたちが何もしなければ、であるが。

主要NPC
ルゥ・ルー
 殉職したファン・ルー警部のひとり娘。長い銀髪を持ったなかなかの美形だが、背も小さく、体つきは年齢よりだいぶん幼く見える。本人はそのことにコンプレックスを抱いているようで、無理に大人びた行動を取ろうとする癖がある。

ファーム・ブロウ
 ワダの街のマッチメーカー。穏やかな感じの中年男。メルキア軍の補給部隊にいたことがあり、いまでも軍との間に太いパイプを持っている。義理と人情を重んじる、この時代には珍しい好人物であり、街のバトリング選手たちからはおおむね好感を持たれている。
 PCたちがバトリング選手として契約を結んでいるのは彼である。

ベルハルト・ラムゼイ
 ワダの街の治安警察署長で、押し出しの強い大男である。裏では闇商人のブランコと繋がりさまざまな悪事に手を染めているが、そのことを知っているのは側近の何名かだけである。そのため、街の住民たちからは公正で頼りになる人物と思われている。
 ルゥの父親の仇だが、初めはPCたちの動きを監視するため、ルゥの仇討ちに協力するような態度を取る。

PCの作成
 このシナリオで遊ぶためには、マスターがひとりとプレイヤー2〜5人が必要である。PCの半分は装甲騎兵、バトリング・パイロット、クエント傭兵のいずれかであることが望ましい。
 マスターはゲームを始めるまえにシナリオをよく読んで、物語の流れをつかんでおくこと。時間に余裕があるのなら、自分でキャラクターを作って、戦闘場面をひとりで遊んでみるといい。これにより戦闘のバランスがわかるし、ルールをおさらいするのにも役立つ。
 PCは家で作ってきてもらってもいいし、その場で作ってもらってもいい。家で作ってきてもらう場合、あらかじめ「都市でバトリングをやるシナリオだよ」と言っておくといいだろう。

PCの立場
 シナリオの開始時点でPCはファーム・ブロウと契約したバトリング選手である。もし、それ以外の立場をプレイヤーが求めたのであれば、マスターはよく相談して変更を許可してもいい。ただし、ほかのPCと比べて極端に有利な社会的立場(軍有力者の子弟など)を与えるべきではない。
 PCがバトリング選手となった理由については、プレイヤー側によく考えさせるべきである。おおげさな理由である必要はない。「金のため」でも「戦いが好きだから」でも、それこそ「なんとなく」でも構わない。ただ、そこには次のシナリオに続くきっかけがあるかもしれない。

舞台紹介
 このシナリオは惑星メルキアにあるワダの街を舞台にしている。
 ワダの街は、砂漠に湧き出たオアシスを中心として発展した交易都市で、目立った軍事施設もなかったことから戦争の爪痕はほとんど見られない。ただし、100年戦争の停戦以降、食い詰めた元軍人や流れ者たちが大量に流れ込んできたことで急速に治安は悪化している。
 地盤が軟らかいため、街には近代的な高層建築が存在しない。街はオアシスを中心に3層のドーナッツ状のエリアに分かれており、一番内側が街の行政機構や富裕層の住居がある旧市街エリア。次が商店や歓楽街が立ち並ぶ新市街エリアでバトリング場もここにある。一番外側が貧困層が居住するスラム街で、エリア間には外壁のような施設はない。
 街の最大の産業は他の独立市との交易である。少々値段が張るもの(主に食料品:1割増)もあるが、惑星メルキアで入手できる商品の大半はここで購入することができる。
 表向き街を支配しているのは商工会(ギルド)である。街で商売をしたりバトリングの選手となるためには商工会の許可が必要となる。街の治安を維持しているのはほかの街と同じく治安警察だが、彼らは決して商人たちとことを荒立てようとはしない(商工会の方が力関係では上なのである)。
 その実、闇経済も発展しており、場所によっては禁止薬物や人間ですらも商品として扱われている。闇経済はワダの街に多大な利益を与えており、商工会も治安警察も、闇商人たちが街の住民や生活に手を出さない限り、それらを黙認しているのが実情である。

ブロック1:導入
 マスターは、プレイヤーが戦闘ルールに慣れるため、何試合かバトリングの試合を行ってもいい。対戦相手は一般的なバトリング選手とする。ファームはブロウ・バトル専門のマッチメーカーだが、PCがリアル・バトルへの参加を強く主張する場合、それを止めたりはしない。ただし強い口調で忠告は与える。
 マップはバトリング場のマップを使用する。配置ヘックスは自由だが、お互いに5ヘックス以上離れたヘックスに配置すること。

ブロック2:乱入
 マスターはPCが参加する試合ごとに1D6を振ること。1の目が出た場合、その試合の対戦相手はラッセル・ギーレンという地元のボトムズ乗りとなり、試合開始直後、他のATによる乱入を受ける。
 PCはラッセルの名前は聞いたことがあるが、詳しいことは知らない。PCが知りたがった場合、ファームや街のバトリング通に話を聞くことになる(「聞き込み」難易度10)。成功すれば、以下の情報が入る。

●ラッセルは、もともと街のチンピラだった(ファーム)
●実力的にはたいしたことがない(ファーム)
●愛機は標準型のスタンディングトータス(ファーム)
●戦績はレギュラー・ゲームで3勝2敗(ファーム)


●強い者には弱く弱い者には強気に出るチンピラだ(バトリング通)
●街の人間には嫌われている(バトリング通)
●ここ半年ほど、街から出ていたようだ(バトリング通)
●強くもない癖に、街から出る直前は随分と金回りがよかったそうだ(バトリング通)


 ラッセルとの試合はブロウ・バトル。彼は黄色を下地に赤の炎が描かれた、とげだらけのトータスに乗って現れる。そして、バトリング場でPCと向かい合ったラッセルは、あからさまにデビューしたばかりのPCを見くびり、以下の台詞を吐く。

ラッセルの台詞:
「駆け出しの坊ちゃんよぉ。ちゃんとトイレには行ってきたか? せいぜいションベンをもらさないよう、気をつけるんだな。ヒャッハハハ」


 試合開始のブザーが鳴った直後、1台のATが未使用のゲートを突破してバトリング場に現れる。ルゥ・ルーの乗るオクトバである。
 彼女は次のように叫ぶと、ラッセルのATに戦いを挑む。

ルゥの台詞:
「ラッセル・ギーレン! 見つけたぞ。父さんの仇!」


 しかし、ルゥのATはバトリング場を警備する治安警察のATにたちまち取り押さえられてしまい戦闘は発生しない。だが試合はここで中断となり、ラッセルとは後日改めて再戦ということで、PCはいったんバトリング場を去ることとなる。

ブロック3:ルゥの依頼
 翌日、ファームの事務所を訪れたPC達は、そこに初めて見る少女と出会う。腰まである長い銀髪を持った、なかなかの美少女だ。特注と思われるシルバーの耐圧服を着込んでいるが、到底ボトムズ乗りには見えない。
 ファームは彼女を「古い友人の娘」とPCたちに紹介し、彼女自身は「ルゥ・ルーです」と一礼して名乗る。ルゥは見た目、11〜12才ぐらいに見える。
 乱入を受けたPCは、声を聞いてルゥがあの乱入者であると気づく。
 ファームは、治安警察に身柄を拘束された彼女を引き取ってきたのだった。ファームとルゥの父親ファンとは随分と馬の合う友人だったらしく、ルゥのことも彼は昔から知っていたようだ。

ファームの台詞:
「親父さんがゴロツキどもに殺されてからしばらくの間、どこへ行ったのやら姿を消しちまっていたから、随分と心配しておったんじゃが……」

 ファームの言葉にルゥは、余りはっきりとしたことは答えない。しかしその態度から、随分と苦労をしてきたことはうかがえる。やがて、彼女は絞り出すようにこう言う。

ルゥの台詞:
「父さんの仇がわかった。あのラッセル・ギーレンはそのひとりなの。アタシは父さんの仇を討つ! そのためにいままで生きてきたの」


 マスターはPCが望めば以下の情報をファームの口から伝えても構わない。

●ルゥの父親ファン・ルーは、治安警察の警部だった。
●ファンは、堅物だったが街の住民からは好かれていた。
●ファンは、半年前、職務中に暴漢に襲われて殺された。犯人はまだ見つかっていない。
●治安警察の署長ベルハルト・ラムゼイは、ファンのよき理解者だった。今回、ルゥの乱入を不問にしてくれたのも、彼の力添えがあったからだ。


PCやファームが仇討ちの不毛さをいかに力説しようとも、ルゥの決意は変わらない。

ルゥの台詞:
「報酬は払うわ! アタシに力を貸して!」

ルゥはPCに助力を求める。PCが具体的な報酬を尋ねた場合、彼女は口ごもり、自分が払える報酬の内容を伝える。ルゥが実際に払えるPCへの報酬は次の通りである。

●3000ギルダンの現金(彼女の全財産である)
●オクトバ(彼女の乗機である)
●彼女自身(!)

 いずれかの報酬でPCが引き受ければ、シナリオは次のステージに移る。すべてのPCがルゥの依頼を断れば、彼女は悔しそうな表情のままファームの事務所を去ってゆく。この場合、数日後に破壊されたオクトバと乱暴されたあとで殺されたルゥの亡骸とが街の外縁部で発見される(シナリオは終了)

ブロック4:ラッセルとの試合
 ルゥはラッセルを殺害することを望んでいるが、普通にそれを行えば単なる犯罪である。犯罪にならないようラッセルを殺害するには、バトリングの試合で彼を倒すことが近道だ。
 もし、それ以外の手段(たとえば狙撃など)でラッセルの殺害を試みることをPCが言いだした時、マスターはファームの口を通じてさり気なく忠告すること。
 なお、仇を目にして頭に血が昇っているルゥはまったく気がついていないが、仇はラッセルだけではない。このこと自体はルゥも知っているはずなのだが、彼女はそこまで頭が回っていない。
 ラッセルがほかの仇についての情報を知っているということにPCが気づいた場合、マスターはラッセルとの試合前にPCが調査を行うことを許してもいい。再試合は3日後の夕方である。

●ラッセルに直接聞く場合
 余り賢い行動ではないが、場合によっては有効な手段である。
 普段、ラッセルは「プランD」というボトムズ乗りが集まる酒場で悪友どもとたむろしている。ラッセルは口数の多い男だが、泥酔してもルゥの父親殺害の件に関しては決して認めないし、場合によってはその事件を知らない振りもする。
 ただし、ラッセルも生命の危機に陥った場合まで口を閉ざすことはない。もっとも、酒場での彼は2D6人の悪友どもと行動をともにしており、PCが個人でラッセルを脅迫するのは難しいだろう。仮にそういった状況が発生した場合、ラッセルは大声を出しながら一目散に逃走を図ろうとする。
 ラッセルと1対1で対峙したうえで生命の危機を与えられるのは、やはりバトリングの試合決着の時点であろう。この場合、ラッセルは知っていることすべてをぺらぺらとしゃべる。

●ラッセルを買収する場合
 ラッセルは欲深い男なので、買収は比較的有効である。
 彼は、たいていの場合に買収に応じる素振りを見せるが、悪友どもと一緒の場合のみは、そうではない。ふたりきり(もしくはそれに準ずる状況)であれば、「交渉」で達成値20を出せばルゥの父親殺害の件に関して認め、仲間を売る。買収に使う金額100ギルダンごとに+1のDMを受ける。また、買収に応じる際、彼は自分の安全の保証をPCに要求する。
 買収に応じたラッセルから得られる情報は次のとおりである。

ラッセルの台詞:
「ファン・ルーが何で殺されたのかは知らないが、俺たちを集めたのはダ・キアの街にいるゲーツ・ハネックという男だ。奴も誰かから依頼されたらしいが、それ以上のことは知らねぇ」


●治安警察に協力を仰ぐ場合
 治安警察の署長、ベルハルト・ラムゼイは、ルゥの仇討ちにかこつけてルゥの父親殺害犯の口を封じようと目論んでいる。PCが治安警察に事件の情報を探しに向かった場合、門前払いされてもしかたがない案件にもかかわらず、署長室に通される。
 そこでラムゼイは、

●治安警察はすでにラッセルを疑っていること
●証拠があればラッセルを逮捕したいこと
●もしPCがルゥの味方であるのなら、治安警察は助力を惜しまないこと


をPCに伝え、どんなささいな情報でも必ず自分に伝えて欲しいと頼んでくる。

ラムゼイの台詞:
「ファン警部は私の右腕だった。もっとも信頼し、敬愛すらしていた部下を私から奪った報いは私自身の手で食らわせねば気が済まない」


彼はPCが退室する際、ひとりひとり強く握手をする。

●街中で情報収集する場合
 有益な情報は得られない。初日にこれを行ったPCは、この手段で情報が得られるのなら治安警察がとっくに情報を入手しているはずだと気づく。
 なお、街中で情報収集する場合、3時間ごとにGMは1D6を振り1の目が出たならPCはラッセルの悪友に因縁を付けられる。

悪友の台詞:
「ラッセルさんのことをイヌみてぇにかぎ回ってるそうだな。ちょっと痛い目みてもらおうかい」

 悪友どもの数は1D6人である。殺す気はないので、PCが気絶してもその場に放っておかれる。また、PCが銃を抜いた場合、もしくは行動可能な人数がPC以下になった場合、彼らは捨て台詞(「おぼえていやがれ!」)を残して逃げていく。
 彼らは有益な情報を何ひとつ持っていない。

 ラッセルとの試合は通常のブロウ・バトルとして行われる。PCが望んでもリアル・バトルになることはない。

●PCが勝った場合
 PCが勝った場合、ラッセルを殺害する事が可能である。ただし、脱出したパイロットを殺害することは明白な規約違反であるのでPCは一工夫する必要がある。
 生命の危険を感じたラッセルは聞かれたことにすべて答える。彼が知っている情報は次のとおりである。

●自分は金で雇われただけだ。
●雇い主のことは知らないが、ダ・キアの街で今はマッチメーカーをやっているゲーツ・ハネックなら雇い主のことを知っているはずだ。
●ゲーツ・ハネックとは直接会っていない。だから、どんな奴かはわからない。
●ファン・ルーを襲ったほかの連中(ラッセルは、カーリーとバンドマンと呼びます)は死んでしまった。消されたに違いない。
●ワダの街に戻ってきたのは、ここが自分の生まれ故郷だからだ。ここならむかしの仲間もいるし 安全だと思った。


ラッセルの台詞:
「カーリーとバンドマンを殺ったのもおまえらなのか? 許してくれ! 金に目がくらんだだけなんだ。俺は……俺は死にたくねぇよぉ!」


 ラッセルは一気にそれだけを言い放つと、泣きそうな声で命乞いをする。ラッセルを殺すかどうかはPC次第だが、ルゥは強くラッセルの殺害を要求する。

●ラッセルが勝った場合
 ラッセルは再試合には絶対に応じない。
 本能的に身の危険を感じた彼は、ダ・キアの街へ逃走を図る。PCがどんな手段を講じてもラッセルの脱出は阻めない(土地勘が違いすぎるのだ)。治安警察の助力を得ている場合でも同様だが、これは意図的な見逃しがあるからである。
 試合に勝ったラッセルをPCがバトリング場以外で襲撃することもできる。この場合、ラッセルは1D6−2人の悪友と行動をともにしている。この際、PCが派手な行動(ATを持ち出すなど)をしても治安警察はこれを黙認する。戦闘は任意の市街地マップを2枚使用すること。ユニットの配置はマスターがPCの作戦や状況に応じて決定する。
 ほかのPCが試合に乱入した場合、違約金として1万ギルダンを商工会に払う必要があるが、やはり治安警察がPCを罪に問うことはない。

GM注:
 カーリーとバンドマンを殺害したのは治安警察のラムゼイである。彼は、表向き協力関係にある闇商人のブランコを全く信用していない。ラムゼイは、ファン・ルー襲撃犯がどこまでの情報を知っているのかを知らないので、自己保身のためにファン・ルー襲撃犯を抹殺しようとしているのである。できるだけ自分の手が汚れないように。
 そんなラムゼイにとって、ワダの街にラッセルが戻ってきたことは衝撃だった。彼は、これがブランコの指示によるものと思ってしまったのである。PCがラッセルから得られる情報にもあるが、それはラムゼイの勘違いにほかならない。今回の件に関してブランコはいっさい関係していない。
 ラムゼイにとって復讐者ルゥ・ルーの登場は渡りに船だった。彼女と彼女の仲間たちにラッセルを殺害させれば、彼は自分の手を汚さずに目標を排除できる。治安警察がPCたちに協力的なのは、そんな彼の意向によるものである。
 治安警察がラッセルのダ・キアへの脱出を見逃すのは、自分の懐の外に出たラッセルをラムゼイが自身の手で始末する機会を得るためである。
 ただし、ラムゼイはここでふたたび大きな勘違いをしてしまう。ゲーツ・ハネックを追って街を出ようとするルゥとPCたちの後ろにブランコがいるのではないかと疑ってしまったのだ。

ブロック5:ダ・キアの街へ
 ゲーツ・ハネック(またはラッセル)を追ってPCたちは、ダ・キアの街におもむくことになるだろう。ATを運搬するトラックなどはファームが貸してくれる。ルゥは必ずこれに同行しようとする。腕ずくで置いていこうとしない限り、彼女の同行を阻むことはできない。
 なお、PCたちがダ・キアの街へ出発する直前、治安警察から連絡があり、ブロック:4で「治安警察に協力を仰ぐ場合」が発生していないのであれば、治安警察本部へと呼び出され同様のイベントが発生する。この際、ラッセルと書いてある部分をゲーツと読み替えること。

 ワダから北に300キロ行ったところに位置するダ・キアの街は、古い時代にはワダの街にとって北の守りというべき存在だった。
 ダ・キアの街はワダと比べるとかなり小さな街である。ワダの街から北に延びる街道上に帯のように広がり、街道を行き来する輸送車両の中継地点として機能している。産業らしい産業は無く、街としては衰退しつつあると言っていいだろう。

 PCはダ・キアの街へと向かう前にゲーツの情報を調べるかも知れない。その場合、マスターは以下の情報を与えてもよい。

●ファーム・ブロウに聞く場合
 ファームはゲーツ・ハネックというマッチメーカーは聞いたことがないと言う。少なくとも、地元のマッチメーカーではないと断言する。

ファームの台詞:
「この儂が知らんということは、そいつは余所から流れてきた奴か、それとも実体のない幽霊か、そのどちらかということじゃ」


●商工会で調べる場合
 商工会の資料を見せてもらうには1時間につき5ギルダンの料金がかかる。「セキュリティ」で達成値15を出せば、ワダの街に登録されたマッチメーカーの中にゲーツ・ハネックという名前が見当たらないことに気づく。

●治安警察に聞く場合
 PCが治安警察に行くとふたたび署長室に通される。
 入室するとラムゼイは難しい顔をしながら席を勧め、PCに事件の進展具合をこと細かく尋ねてくる。ラムゼイにゲーツの情報を尋ねると彼はゆっくりと首を左右に振り、次のように言う。

ラムゼイの台詞:
「済まないが我々も調査中なのだ。奴はなかなかしたたかで、我々にしっぽをつかませない。もしかしたら、署内に内通者がいるのかも知れない。そこで部外者である君たちの行動に私は期待しているのだよ」


 ワダからダ・キアへは、6時間程度で到着する。ダ・キアの街は輸送車両の乗員を相手にして生計を立てているので、たとえ深夜に到着しても宿に困ることはない。
 宿でゲーツのことを聞いても有益な情報は何ひとつ得られない。これは酒場や商店を渡り歩いても同じである。
 マスターはひとりのPCによる1時間の聞き込みごとに1D6を振る。1の目が出た場合、彼/彼女は、みすぼらしい情報屋風の男から接触を受ける。男はそれとなく金を要求しながら、こう言う。

男の台詞:
「あんたら、ゲーツの旦那に用がありなさるのかい? ことと次第によっちゃ、あっしが取り持って差しあげてもようござんすよ」


 接触を受けたPCが金を払うと男は金額の大小を問わずそれを受け取り、その日の深夜、町外れの倉庫施設跡にくるよう告げて、その場を去る。PCがあとをつけても、男はたくみに建物の中を出入りして結局はPCをまいてしまう。

 男の言葉どおり町外れの倉庫施設跡にやってきたPCは、ATによる襲撃を受ける。襲撃してくるATは2機。マップは任意の市街地マップを使用する。敵のATはPCから5ヘクス以上離れた射線が通らないヘクスに配置する。

ATM-09-ST スコープドッグx2 武装:GAT-22 ヘビィマシンガン

 もしラッセルが生きているのであれば、スコープドッグを1機減らしてラッセルと彼のATを加えること。ラッセルのATは修理が済んでいることとする。
 敵のATはPCたちを殺しにくる。PCが仮に降伏しても、彼らは容赦しない。敵ATのどちらかが行動不能となった場合、残った1機はPCたちから逃げようと試みる。

●PCたちが勝利した場合
 ラッセルとスコープドッグのパイロットは可能な限り逃げようとする。捕まった場合、必死で命乞いをする。スコープドッグのパイロットはどちらも30前後の男でゲーツではない。マスターはその場にワダの街で治安警察に行ったPCがいた場合、その男を治安警察の建物の中で見たことがあると伝えること。
 問い詰められた場合、男は署長の命令でダ・キアの街にきたことを白状する。しかし、それ以上詳しい事情を彼らは知らない。
 ラッセルが生きていてルゥがその場にいる場合、彼女はPCが止める間もなくラッセルに発砲し彼を殺害する。

ルゥの台詞:
「父さんの仇だ……」


 銃を持ったまま身動き一つせず、ルゥはぼろぼろと涙をこぼす。
 初めて人を手にかけた少女へのアフターフォローはPCの判断に任せることとする。

●PCたちが敗北した場合
 PCが全滅した場合、シナリオは終了する。ATを破壊されたが生き延びた場合、夜陰に乗じて逃げ延びることは可能である。建築物に逃げ込んだPCを敵ATは追おうとはしない。また、形勢不利を見てPCが逃走を図った場合、PCがマップの外に出るまでは追いかけるが、それ以上は追いかけてはこない。

 一部のPCは気づいているかもしれないが、ゲーツ・ハネックという人物は実在しない。それは、ラムゼイ(もしくは彼の代理人)がゴロツキどもと接触する際に使用する偽名だったからである。ゆえに、街でどれだけの調査を行ったところでゲーツに関する情報は得ることができない。マスターは、その不自然さを強調すること。

 昨夜の襲撃に勝利した(またはからくも逃げ延びた)PC一行は、翌日の早朝、街道を進む多数の車両に気づく。ワダの街の治安警察である。
 複数の装甲車とダングからなる治安警察の部隊は、PCたちがいる区画とは別の一角を包囲し、警告もなく攻撃を開始する。火炎放射器による攻撃で、一帯は炎に包まれる。
 部隊の先頭にはラムゼイ署長がおり、陣頭指揮を執っている。PCがラムゼイを訪ねると彼は、次のように告げる。

ラムゼイの台詞:
「君たちのおかげでゲーツ・ハネック一味のアジトが判明したのだよ。奴は生きていてはいけない悪党だ。私の手で始末するのが筋だと思ってね。君たちをおとりに使ったことについては謝罪する。すまなかった。そして、ありがとう」


 その時、炎に巻かれた建物の中から1機のATが姿を見せる。昨夜の戦闘でPCたちが勝利している場合はスコープドッグが、PCが敗北している場合はラッセルのATかスコープドッグが現れる。現れたATは、治安警察からの一斉射撃であっという間に撃破されてしまうが、パイロットは死ぬ前にこう絶叫する。

ATのパイロットの台詞:
「約束が違う! 署長、あんたの命令でやったことじゃないか! 死にたくねぇよ。ちくしょー!」

 この台詞を聞いたPCに向かって、ラムゼイは言いわけをするでもなく、こう言い放つ。

ラムゼイの台詞:
「この期におよんでたわごとか。見苦しいにもほどがある。地獄に堕ちるがいい!」


 もし昨晩の戦闘でスコープドッグのパイロットを捕虜としてラムゼイと対峙させた場合、ラムゼイは初め誰だか知らない振りをするが、PCが説明するかスコープドッグのパイロットが口を開くかしたら、ラムゼイはすぐさまピストルを抜きスコープドッグのパイロットを射殺する。その理由についてPCがラムゼイを問い詰めた場合、彼は次のように説明する。

ラムゼイの台詞:
「彼がゲーツの手下であるなら、私の右腕だった部下の仇だ。そして、私に罪をなすりつけようとするのであれば、それは私の名誉に関わる重大事だ。殺されて当然ではないかね」

ブロック6:ラムゼイとの戦い
 この時点でPCたちはラムゼイに対し決定的な不信感を抱くことと思われる。しかし、PCの実力では治安警察に挑むなど無理な話である。特にルゥが死亡している場合、PCたちにはこれ以上、本件に首を突っ込む理由がない。
 PCが望むなら、ここでシナリオを終えても構わない。ルゥは引っかかるものを感じていてもPCに説得されれば納得するし、ラムゼイも無理にPCたちを始末しようとまでは考えない(監視はし続けるだろうが)。
 PCたちがあくまでもラムゼイの身辺を探ろうとした場合、以下に進む。

 ワダの街に帰還しファームの事務所を訪れたPCは、流れ者のマッチメーカーでルゥの父親の旧友だったという男の訪問を受ける。髪をオールバックにしゴーグル型の眼鏡を掛けた理知的な雰囲気を持った男である。ルゥは彼と会ったことはないと言う。
 ミーマ・センクァーターと名乗ったその男は、(生存しているなら)ルゥに対して父親への悔やみの言葉を丁寧に告げ、

ミーマの台詞:
「彼はかつて私の部下だった男だ。惜しい人物を亡くしたよ」


と神妙な面持ちで語る。
 ミーマは流れ者のマッチメーカーを名乗ってはいるが、その正体はメルキア軍情報部の中佐である。ファン警部が密かにラムゼイの悪事を知らせようとしていた軍の上官だった人物とは彼のことである。ファームもそのことは知らない。ファームはミーマを本当に流れ者のマッチメーカーだと思っている。
 ミーマは軍の新型ATの開発にあたり、一部の新型パーツが闇市場に流れていた事件について調査している。彼はファン警部がつかんだ情報を得ることはできなかったが、半年という時間を経て闇商人ブランコとラムゼイ署長との癒着にたどり着いたのだった。
 ミーマはPCたちがルゥを助けていることを知ると、

ミーマの台詞:
「ところで君たち。強盗のまねごとをしてみる気はないかね?」


と闇商人の非合法取引現場をATで襲撃することを提案してくる。
 ミーマが言うところによると、明日の午後、ワダの街外縁部にある古城跡で地元の闇商人と他の街の闇商人とが違法物資の取引をするとのこと。彼はPCたちに、それを襲撃して違法物資を奪うことをけしかける。
 ミーマはPCたちに報酬を前金で払う意思があることと自分も襲撃に同行(参加ではない)することを告げる。ミーマからの報酬は次のとおりである。

●現金1万ギルダン

 ミーマはその日の夕方まで返事を待ってくれる。彼は自分がチェックインしたホテルの場所をPCに教えたうえでいったんファームの事務所を出ていく。
 PCがミーマの誘いを受けなかった場合、彼はPCを非難するでもなく街を出ていく。数ヶ月後、ラムゼイは失脚するが、それはPCとは関係のない話となる(シナリオは終了)。

 ミーマの誘いに乗った場合、古城跡には数人の男たちと小型のトラックが2台来ている。
 PCのATが現れた場合、彼らはパニックを起こし慌てて逃走を図る。ミーマは近くに停めたジープの中から無線で、目標はトラックの中にあることをPCに伝える。トラックは逃げようとはするが威嚇射撃を浴びせるだけで停車して降伏する。
 襲撃が成功したことをミーマに告げると彼はジープに乗って現れる。
 トラックの中身はATのパーツである。PCの目で見ても新しい、どう考えても放出品とは思えない品だ。それを見たミーマは「やはりな」と呟いて難しい顔をする。もし、PCが疑問を抱いてミーマに説明を求めた時、彼は以下の情報を必要に応じて答える。

●このパーツは軍内部から直接持ち出されたものだ。持ち出すには軍の協力者と大がかりな密売ルートが必要である。
●大がかりな密売ルートであれば治安警察に感づかれずに動くことは難しい。この取引はワダの街の治安警察が組織的に黙認していた可能性が高い。
●ファン警部は、ワダの街の治安警察がこの大がかりな密売ルートに絡んでいる事実を、自分に伝えようとしていたに違いない。
●おそらく、そのことでファン警部は治安警察に消されたのだ。


 この答えを聞いてPCがミーマの正体について疑問を持っても、彼は正直には答えない。あくまでも自分は流れのマッチメーカーだと言い張るだけである。
 ミーマはトラックの中身を確認するが、一部の物資をジープに詰め込んだのみで、大半のものには興味を示さない。PCは望めばトラックの中身を持ち去ることが可能である。トラックの搭載物でめぼしいものは以下のとおり。

●SAT-03 ソリッドシューター x1
●SMAT-38 ショルダーミサイルガンポッド x1
●強化型アームパンチ 1機分
●3000ギルダンの現金


 ここまで来るとPCもルゥの父親を殺した真の仇がラムゼイ署長であることに気づくだろう。ラムゼイもPCが闇商人の取引現場を襲撃したことで、PCたちを排除する方向に動き出す。
 ここでPCが取れる選択肢は大体次のとおりになると思われる。

●ワダの街を脱出しメルキア軍に訴え出る
 ミーマが主張するプランである。この場合、ワダの街を封鎖するであろう治安警察を突破する必要が出てくる。マスターは1D6を振ること。
 襲撃したその日:3以下
 襲撃した翌日以降:6以下
の出目で治安警察の封鎖線に引っかかる。闇商人たちを襲撃したその足で脱出を図る場合は−2、夜間にATや車両を使用しないのであれば−1の修正を受けることができる。
 封鎖線を突破する場合に遭遇する治安警察の戦力は次の通りである。

ATM-09-STR ライアットドッグx3 武装:GAT−22 ヘビィマシンガン

 突破戦にはミーマも同行する。ミーマは戦闘自体には参加しないが、もしPC側の敗北が濃厚な場合、待機させておいた部下のATを投入してPCを援護させる。援軍は以下の1機である。

ATH-16-ST ライジングトータス 武装:大型3連バズーカ
パイロット:ケヴェック・ヴォクトン


 援軍のATはマスターが望んだターンからマップの中に盤外より進入し、戦闘に加わる。
 PCたちが封鎖線を突破した場合でも、治安警察の追撃は行われない(ミーマの部下たちが防いでくれたのだ)。その後、ミーマに導かれるままにメルキア軍と接触したPCたちは1週間ほど外出は許されないが、基本的にこの件に関する証言を求められるだけで解放される。
 数日後、PCたちは軍の憲兵隊がワダの街の治安警察を強襲し、ラムゼイ署長以下上層部の署員多数を逮捕したことを知る。

●自力でラムゼイを討つ
 ルゥが主張するプランである。ファームもミーマも勝算がないことを告げて反対する。マスターはPC全員に意見を聞くこと。PCが誰ひとりルゥの主張に賛成しなければ、彼女も自説を引っ込める。
 もし、ルゥに賛同するPCがいた場合、彼女はそのPCと一緒にファームの事務所を出て、新市街地エリアに住居を借り、そこを根拠地とする。
 この場合、1D6日後に治安警察による襲撃が行われる。GMは1D6を振り、襲撃の対象を決めること。

1〜5:ルゥの住居
6:他のPCの住居


 治安警察による襲撃は表向き合法的なものである(口実はマスターが適当に決めること)。そのため、警官たちはルゥやPCの生命に危害を加えるような真似はしない。例外は、PCがATや銃器で抵抗しようとした場合のみである。突入してくる警官の人数は1D6+10人で、全員が棍棒を装備している。
 PCが逮捕された場合、治安警察の留置場に監視付で放り込まれる。自力での脱走は不可能である。そして、その日のうちにもう一方のPCたちに治安警察から連絡が入る。

治安警察からの連絡:
「君たちの仲間を検挙した。事情聴取を行いたいので、今夜12時にバトリング・スタジアムまで出頭していただきたい」


 治安警察本部に出頭してこいと言わない時点で明らかな罠なのだが、これはワダの街の治安警察も一枚岩ではないためである。保身を第一とするラムゼイ署長は、署内でPCを消すことで自分に火の粉が降り懸かることを恐れたのだ。
 PCは仲間を見捨てることもできる。その場合、逮捕されたPCたちは殺害される。残ったPCは改めて身の振り方を考えるべきだが、ファームやミーマはPCを見捨てていっさいの助力を断る。
 PCがバトリング・スタジアムに行く場合、ファームとミーマはこっそりとPCのあとをつける。
 バトリング・スタジアムには、武装した治安警察のATが待機している。ラムゼイは特等席に座り、マイクを使ってPCたちに語りかける。

ラムゼイの台詞:
「もうしわけないが、君たちには消えてもらう。理由は言うまでもないだろう。知りすぎたのさ、君たちは。いずれ私もそこに行くことになるだろうが、それまでの間、ファン警部となかよくやっていてくれたまえ」


治安警察のATは以下のとおりである。

ATM−09−STR ライアットドッグx5 武装:GAT−22 ヘビィマシンガン

 マップはバトリング場を使用する。PCのATと治安警察のATとは5ヘックス以上離して配置すること。配置は治安警察の側が先に行う。
 バトリング・スタジアムからラムゼイのいる特等席を攻撃しても彼に危害を加えることはできない。流れ弾対策で極めて強固な防弾がなされてあるからである。
 治安警察のATはPCたちを殺すつもりで襲ってくる。降伏は認められない。
 逮捕されたPCたちは、手足を拘束されているので自力で移動することはできない。監視している警官は2名である。
 深夜のバトリング場はほとんど無人で警備のほうは穴だらけである。場合によっては、先に潜入したPCが仲間を救出することも可能だ。ミーマやファームもできる限りそれを援護しようとする。
 バトリング場にはビジター用のATが保管されている。PCはそれらのATを勝手に使うこともできる。その場合、ATのデータは無改造のスコープドッグまたはスタンディングトータスを使用すること。
 もしPC側の敗北が濃厚な場合、ミーマは待機させておいた部下のATを投入してPCたちを援護させる。援軍は以下の1機である。

ATH-16-ST ライジングトータス 武装:大型3連バズーカ
パイロット:ケヴェック・ヴォクトン


 援軍のATはマスターが望んだフェイズに盤外より進入し、戦闘に加わる。
 治安警察のATが全て行動不能となった場合、ラムゼイはバトリング場から逃走を図る。PCが追撃を試みた場合、マスターは1D6を振ること。ラムゼイを追撃したPCひとりにつきサイコロを振り、5以上の目が出た場合、そのPCがラムゼイの乗るリムジンを捕捉する。もしルゥが生きていて追撃に参加しているのなら、+2のDMを受けることができる。
 ATがリムジンを捕捉した場合、リムジンを停車させることができる。捕まったラムゼイは内心でおびえてはいるが、強気な姿勢を崩さない。彼は自分を捕まえたPCを1D6万ギルダンで買収しようと試みる。
 PCがラムゼイを捕まえた場合、次の選択肢がある。

●ラムゼイを殺害する。
 ルゥが望む結末である。直接の手は彼女自身が下そうとする。ミーマの説得の際、PCの誰かがそれに同意しない限り、ルゥはピストルの引き金を引く。

●ラムゼイを軍に引き渡す。
 ミーマが望む結末である。彼はこの方向でルゥを説得する。

ミーマの台詞:
「(ラムゼイに銃口を向けるルゥの手に右手を重ね、頭を左右に振りながら)この男は君が手を下す価値もない。いずれ軍事裁判で終身刑となるだろう。気持ちはわかるが、ここは引いてくれないかね?」


 PCのいずれかがこの意見に賛同しない限り、ルゥはラムゼイを射殺する。

●ラムゼイを見逃す。
 まずはありえないことだろうが、PCはラムゼイを見逃すこともできる。ただし、ルゥやミーマはそれを望まないので、これをできる機会は、ラムゼイのリムジンを単独で捕獲した時ぐらいだろう。
 PCがラムゼイを見逃した場合、ラムゼイはその足で治安警察に戻り、組織の総力を挙げてPCたちの抹殺を図る。見逃してくれたことを恩義になど感じないし、買収の件も反故にする。
 そのあとの結末についてはGMが判断すること。

 これ以外に、PCがラムゼイの捕獲に失敗する場合が考えられる。その場合、ミーマの部下ケヴェックがラムゼイを捕獲したことになり、ラムゼイはPCの前に引き出されることなく軍に引き渡される。

ブロック7:終幕
 治安警察のラムゼイ署長がワダの街から退場したことで街の治安はかえって悪化した。後任の署長は強欲を隠そうともせずに私腹を肥やし、警官たちのモラルも見る見るうちに低下していく。
 噂では、商工会は現署長を廃して、自分たちの息がかかった無難な人物を後任に据えることを目論んでいるとのことだ。
 しかし、街の住民にとって自らの生活に影響がない限り、そんな権力闘争などどうでもいい話にさえ聞こえるのだった。

 ファーム・ブロウは、相変わらずひょうひょうとマッチメーカーの仕事を楽しんでいる。
 若い選手がどんどん育ってきていることがうれしくてたまらないようだ。
 ミーマ・センクァーターは、流れ者らしく、雲のようにどこかへ流れていってしまった。
 いまごろはどこで何をしているのだろう。
 ルゥ・ルーは、ファーム・ブロウと契約しバトリング選手を目指すとのこと。
 デビューはまだまだ先の話だが、きっと人気選手になるだろう。
 さて、PCはどんな道を歩くのだろうか?

 ワダの街を根城に、小さなゴタゴタに巻き込まれながら気の抜けない日常を送るのか。
 ワダの街を出て、途方もないトラブルに自ら頭を突っ込んで行くのか。
 それとも、バトリング選手として自分を鍛えさらなる栄光を目指すのか。


 すべてはプレイヤーの選択次第である。