vol 7 : 噂 


今日は土曜日。学校も休みや。
昼まで寝たいのに、珍しく朝に目が覚める。
あ~ぁ・・・マツキチんち行こかなぁ~。どないしよ。
やたらと体が怠く重い。ベッドでゴロゴロし結局時間は13時を越える。
携帯が光っている為、確認すると大樹からのメールや。

[今日、来ないの?]

なんや・・・素気ない。顔文字くらい入れろや。
メールが届いていたのは11時15分。
どないしよかな・・・。行こうかな。
重い体を起こしてトランクス1枚姿でゴソゴソと服を漁る。
ジーンズに黒のシャツ。上には白のジャケットを着てボサボサの髪に、
ワックスを付けて整えてから出かける。
昼飯?食欲・・・なんや無いねん。
まだ寒い空気を肌に感じながら、自転車を漕ぐ。
気持ち悪い。
吐き気が除々に酷くなり、いきなり頭蓋骨が真っ二つにされたかのような、
頭痛に侵される。体調悪いんやろか・・・アカン。
自転車を停めて、吐きたいけど吐かれへん状態に追い込まれる。
それでも、ゆっくり歩きながら織田家に到着。
インターホンを鳴らすと大樹が出た。

「大樹・・・来た、で?」

やっとの思いで出る言葉は途切れ途切れ。
暫くして玄関に出迎えた大樹が笑顔。なんや幸せそうな顔しやがって・・・、
勝手やけどムカつく。

「カン、いらっしゃい。メールくれたら良かったのに。」

どう見ても余裕ない不機嫌そうな俺の顔をビクビクしながら、
お伺い立てるかのように見つめる大樹。

「うん・・・ちょっと・・・ヤバっ!」

返事をしようとした矢先に嘔吐感が増し、慌てて靴を脱いで廊下に駆け上がりトイレに直行。鍵も掛けずドアは開きっぱなし。
名前を呼びながら追いかけて来た大樹はオロオロしながら問いかける。

「カン?何?吐くの?」

おい!カン、大丈夫か!吐くなら吐け!俺がいるぜぃ!
とか言えんのか・・・ヘタレめ。
便座の淵に手を置きダラダラと唾液だけが落ちる。
吐きたいのに・・・吐かれへん。

「大樹・・・ベッド貸して。横になりたい」

「う、うん!立てる?」

「大丈夫や。」

階段を上がり大樹の部屋に行きベッドにゆっくり横になる。
大樹の部屋は6畳の部屋にベッド・デスク・テレビのシンプルな部屋。
ただ、部屋に入った途端に空気が変わり痛みも気持ち悪さも増した。

「風邪?薬・・・今日誰もいないから・・・」

オドオドと落ち着きなくベッドの隣で床に正座する大樹に、いつもやったら、
からかってんのに・・・余裕なし。
この感じ、体調やない。

(誰かおるんやろ)

心の中で問い掛ける。反応なし。
大樹が心配そうに見てる中、ずっと痛みと吐き気に苦しんでた。
2時間が経過したんかな・・・苦しいのに限界で・・・。
情けなくも辛くて泣いてしもうた。

「カン・・・救急車呼ぼうか?」

グズグズと鼻を鳴らして涙を流す俺に大樹は問いかける。
俺は何も言う気力すらない。痛い、苦しい。
霊やとか体調とか、もうそんなんどうでもええ。
辛い。この言葉だけが胸に残る。

「救急車、呼ぶから。待ってて」

立ち上がろうとする大樹に俺は咄嗟に大樹の腕を掴み、

「・・・いらん。大樹、充電とかいうやつしてぇや?」

泣き声でなんでか大樹がいつも俺にする充電が恋しくなった。
俺ってキモっ!

「・・・カン」

ベッドに上がる大樹が隣に寝て俺を包むかのように抱きしめる。
余計になんや胸苦しくて・・・。

「うぅ・・・っ」

微かに声を出して泣く情けない俺。
そんな俺の背中を優しく撫でる大樹。
コイツ、どんな思いでやってるんやろか。

そのうち、デカい睡魔に襲われたと思うも体が動かない。
大樹からすれば、寝たと思ったんやろな。
そやない。金縛りや。
意識がはっきりとある中、映像が映しだされる。
そこは部屋や。薄暗い部屋で俺は女やねん。
胸の付近にナイフが刺さって苦しくて、息が段々出来なくなる。
目の前に男がいる。友人や。俺は知らん奴やけど、この中では、
めちゃくちゃ信用してる友人やねん。
徐々に息が出来なくて苦しく痛いのに、叫ぶ事や逃げる事なく、
ただただ思うのが、

(なぜ?)

目の前が真っ暗になっていく。

(どうして?なぜアナタが私を殺したの?)

胸に突き刺さるような思い。友人に殺された。
理由も解らないままに。

夢やない。金縛りに起こった出来事。
真っ暗になると金縛りは解け、ゆっくり瞼を開ける。
目の前には大樹の胸。優しく背中を撫でる大樹。

「無理しないで。寝ていいよ」

俺は結構長い時間、金縛りにあってたけど、
実際は1分程の出来事やったみたい。

不思議な事に、頭痛も吐き気も治まってる。ただ、怠るいだけ。

「大樹、もう痛ない。」

不思議そうにする大樹に今朝からの話を順を追って説明する。
大樹は俺の話に耳を傾けて聞くも、徐々に顔をしかめ、

「また、霊か。なんでカンを苦しめるんだよ。
お前は何の為にそれを望んでるんだ?。こんな苦しい思いを毎回して!」

興奮した大樹は声を荒げて俺に問いかける。
その瞬間、屋上で死にかけた事、頭痛で苦しむ日々、今の泣いた俺自身が、
走馬灯のように思い出す。何の為?それは・・・。
頭の中が真っ白になった瞬間、大和の姫の出来事やニコニコさんとの出会い、
いつも話を聞いてくれて心配する大樹や、いつも出迎えて受け止めてくれる、
マツキチが出てきて、胸が熱くいっぱいになった。

「それは・・・霊にも理由があるんよ。何の為って、助けてやりたい。
それだけや。大樹」

眉尻下げて弱弱しく笑みを向ける俺に大樹は、つられて眉尻を垂らした。
そうこうしているうちに千代さんとマツキチが帰宅し、元気になった俺は、
夕飯を食べて、どうしても車で送ると言う大樹を断り自転車で家路に向かう。
なんか、冷たい風の夜道を走りたかったから。
家路に着くと、オカンにこんな時間までと怒られ、しかも夕飯も作ったのに、
と小言を言われるのを聞き流しながら居間のコタツで寝そべる俺。
あの殺される出来事が頭から離れへん。
なんやったんやろ・・・。
オカンが向いのコタツに入って来た。

「アンタ、噂になってるみたいやで?」

噂?。
俺は起き上がり、ハイ?と言いたげにオカンを見る。

「あっちの世界もこっちの世界と同じ、世界があるねん。せやからな、
噂されるんよ。生きてる世界のカンっちゅー子が自分達の事解ってくれる。
話聞いてくれるって噂されるねん。噂聞いた人たちが、どんな子やろって、
アンタを見に来るんや。」

その夜、電気消して寝ようとした時に、暗がりに大人の女の人が現れた。
感じでわかる。昼間の俺に映像見せた人や。

ゆっくり俺に近づいて来て、俺の体に入っていく。
目を閉じて、俺も彼女を受け入れた。

(友達に、殺されたん?)

(ええ、そう。とても親しかった人に。)

(なんで?)

(わからないの。彼がなぜそうしたのか。口論になったわけでもなかったわ)

(俺になんで?)

(噂を聞いたの。死んだ人に興味があって優しい子がいるって。)

噂。

(その子は光ってるから、すぐにわかる。いつも私達を探してるから。)

(せやけど、俺なんも力ないし、なんもしてあげられへんよ?)

(いいえ。してくれたわ。私の気持ちを感じてくれた。経験してくれた。
他のアナタのような見えて聞こえる人はたくさんいるわ。でも、それを、
楽しんだり、怖がってお祓いしたり。
まともに私達のことを思ってくれる人なんていないもの。
君は力があれば救おうという気持ちでいっぱい。ありがとう。)

俺の体から消えていく。満足し笑みをこぼして消えていく。
言われてることが解らん。
俺が光ってる?

慌てて階段を降り、母親の部屋に行くと寝ている母親を起こした。

「オカン!なんで噂ってわかってん!」

「・・・なんやの。うるさいなぁ。アンタ、ニコニコさん何なん?」

起こされて不機嫌そうにオカンが問いかける。
そんなん、そんなん決まってるやないか。

「守り神やんけ!俺の。」

「せやから、お母さん知ってるんや。アンタは守り神って何か勉強し!」

その言い方にムカッときた。守り神くらいしっ、

「知ってへん。守り神はなぁ、いろんな神さんがいてはる。でも、アンタは、
助けてもらう為にニコニコさんを守り神にしたんやろ。
ニコニコさん頼らんと一人で唸って。ニコニコさんの存在あるんか?
アンタの中で。
この人達は助ける為に修行してココにいるんやで?よう考え!」

守り神。俺の理想の守り神。
俺では解決できへん時に呼んで力を貸してもらう。
一緒に霊を助ける。
それが俺の理想の守り神。

「アンタが呼ばんでも、ちゃんとしてくれてはるけど・・・」

俺は沈下モードで部屋に戻る。
部屋の棚に祀ってあるニコニコさんを手にとって見つめる。
そうか・・・俺、ニコニコさん大好きやのに、全然頼ってなかったんや。
ポロポロと涙が溢れ出る。拭いても拭いても。

(カン、ワシはそういうオマエだから好きだ。だからこそ、
もっとわがまま言いなさい。ワシにも出来ない事もあるが、その時はその時。
いつもお前と共に居る。よいな?。カン。)

「うん・・・」

幸せな気持ち。恵まれてる気持ちで堪らん。

(今まで、お前がやって来た結果。今までの自分にも褒めてやらなのぉ。)

俺の回りが暖かくなった。大きな大きな手のひらで包まれているかのよう。

ありがとうニコニコさん。
俺、いっぱい甘える!覚悟しといてや!

(ハハハハ!愉快だのぉ。)

俺は早速、大樹にメールを打つ。

[大樹、オレやっぱり望んで良かったわ(o^∇^o)ノ。おやすみ]

メールを見た大樹は、意味解ってくれるやろか。
まぁ、もう俺は何でか説明できるよ。

少し、成長した気がしたんや。





道端にて・・・。

「ぬぁ!」

何かが俺の中に入ってきた。頭が痛い。問いかけてみるも応答なし。
頭痛の中、大きく息を吸い込みゆっくり吐く。そして・・・。

(ニコニコさ~ん!話聞いたって~!)

心の中でニコニコさんを呼ぶ。

(よし。任せておけ!)

こうやって、ニコニコさんとの連携プレイが始まった。

が!!

ニコニコさんはすぐに来てくれるも、俺と同じお祓いやらが嫌いな為、
俺の中で頭痛の相手と話をする。せやから、話が終わって、霊が納得せんと、
それまで俺の頭痛は消えへんのよ・・・。
うわ~ん!やっぱり甘くはないのね~ん!

この出来事で、また新たな噂があの世で広まり、俺の霊との日はますます、
増えるようになっていく。



これが、噂。

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