竜爪山( りゅうそうざん)                              [富士山周辺] 1051

 

 3年連続で今年も富士山を見に行く。
 おととし(2014年)は富士山の南東の金時山に、昨年(2015年)は北西の竜ヶ岳に登ったので、今年は南西側の竜爪山に登ることにした。(とすると、来年は北東の山か?)
 竜爪山は本来なら中腹にある穂積神社まで北側の黒川から車で上がれるのだが、現在は林道が崩れて通行止めになっており、下から登るしかないので インターから近い南側の平山口から登る。

 平山口からは新旧二本の登山道があり、駐車場のある旧道から登ることにする。この道は古くからの穂積神社への登拝道であり、登山口には鳥居が立っている。鳥居のすぐ左手には湧き水があり、老夫婦が車で水汲みに来ていた。

旧道登山口

 


 
登山道は少し行くと沢を渡り、沢の左岸沿いを登っていく。左手の沢には幾つか滝が懸かっているようだが、登山道からは良く見えない。滝への標識もあるが、とにかく富士山を見るのが目的なので先を急ぐ。
 杉林の中を石段が続き、古くから歩かれている道らしい雰囲気がある。丁目石も残っているが、さほど古いものではないような感じがする。入口の説明書きには穂積神社まで36丁とあった。

 

岩壁の迫る沢

 

石段が続く

 

 登山口までの道路が濡れていたので、昨夜はこちらの方は雨だったらしいが、登るにつれて落ち葉の上に白いものが見えるようになった。標高の高いところでは雪になったようだ。暖かい静岡なのでまさか雪はないだろうとスパッツやアイゼンは持ってこなかったが、やはり1000m級の山を馬鹿にしてはいけない。葉っぱに雪を載せたアオキの緑、赤、白の対比が美しい。
 
 1時間ほどで右から登ってきた新道と合流する。こちらは広い道で3人くらい並んで歩けそうなところもある。一旦、尾根道の旧道に入り、また合流したら穂積神社に到着。

アオキ 分岐を振り返る
(左が新道の下山路、細い右が旧道の下山路)

 

 穂積神社は神仏習合の時代は竜爪権現と崇められ、古くは修験の山でもあったようだ。背後の竜爪山のピークも薬師岳、文珠岳と仏教に由来する名前がついている。鳥居の前の巨石には「竜爪山穂積神社」と山号付きで彫ってあり、いかにも神仏習合的な雰囲気を残している。
 境内の説明板には古くは「弾除け」の御利益があり、出征兵士やその家族の参拝が多かったとある。現在の御祭神は大己貴命(おおなむちのみこと)と少彦名命(すくなひこなのみこと)という国土形成の神様なので、どういうことだろうと家に帰ってから調べてみた。
 どうやら神社の創基伝説では、神の使いである白い鹿を撃ったために病にかかった猟師が、神のお告げに従って山中に建てた祠が神社の始まりということで、鉄砲を嫌う神様なので「弾除け」が御利益になったらしい。

穂積神社

 

夫婦杉 穂積神社旧跡地

 

 境内は大きな杉の木に囲まれており、拝殿背後の二本並んだ杉の巨樹には「夫婦杉」の名が付いている。

 尾根道を少し進むと開けた場所に出るが、ここは穂積神社の旧地のようで、石積みの上に小さな祠が乗っている。傍らに「征清紀念之碑」と彫られた石碑が立っていて、兵士の参拝が多かったことを窺わせる。

 尾根道が山腹に突き当たり傾斜が急になると、工事足場のような階段が現れる。穂積神社からは東海自然歩道になっているので、ハイカーの安全を確保するための整備が必要なのであろう。しかしながら、安全性は高いだろうが、見てくれは悪い。(下りでは積雪のため手摺りが有難かったので、文句は言えないが。)

延々と続く階段

 

右は欅立山(ぶなたてやま)
 
雲上の富士

 

 登りの途中で背後が開けた。振り返ると富士が雲の上に顔を出していた。おお、綺麗じゃないか!
 こちらの方角から見ると山頂が山の字型に見えるが、このような姿の富士山を三峰型の富士という。今では富士山と言えば頂上が平らな台形に描かれるのがほどんどであるが、富士が信仰の対象であった頃は三峰型の図が良く描かれたらしい。室町時代の富士曼荼羅図などに描かれたのはこの形であり、三つの峰を薬師如来、阿弥陀如来、大日如来になぞらえたのだそうだ。確か秀吉の陣羽織の背中に描かれた金色の富士山もこの形ではなかったろうか。聖なる富士の姿であり、権威を欲した秀吉らしい図像であると思う。
 山頂が三つ峰に見えるのはこちらの方角だけであり、このようにきれいに見える場所は少ないのではなかろうか。

 

薄っすらと雪の積もる薬師岳山頂

 

文珠岳の登りから薬師岳を振り返る

 

  稜線に出て、雪が積もって白線が引かれたような杉林の中の道を南に少し行くと薬師岳の山頂に到着。展望はない。 杉の木に架けられた寒暖計が−2℃を指している。
 文珠岳に三角点があり、そちらのほうは展望が利くらしいのでそのまま進むが、標高はこちらの薬師岳の方が10mほど高い。

 
 

清水の街を俯瞰する

 

大無間山

 

 落葉樹林を抜けてたどり着いた文珠岳の山頂は広く開けていて、登山者が切株のベンチに分かれて何組も休んでいる。清水の街の方が開け、三保半島に抱かれた港が良く見えて、その向こうに遠州灘が広がっている。街は日が射して白っぽく輝いているが、こちらは雲が湧き続けて陽射しがない上に風が吹き抜けて寒い。こちらにも寒暖計が吊るしてあり、薬師と同じく−2℃。
 富士の方角は樹木が刈り払われているが、既に富士は雲の中。結局、今日、富士が拝めたのは登りの途中の一か所だけであった。
 北側は南アルプスの眺望が望めるとのことだが、こちらも雲が多い。大無間山の大きな山塊の右手に雪の付いた稜線が見え、おそらく茶臼岳や上河内岳あたりだろうが山頂部分は雲の中。期待した赤石岳の姿も見えなかった。残念。
 カップヌードルを食べても寒いので、コーヒーを飲み終わったら早々に下山にかかる。

 


 稜線から穂積神社に下る分岐からは北方に真富士山が見える。あちらの方が標高が高いので、山頂がかなり白い。

 安部川の東側を南北に連なる山々を「安倍東山稜」と呼ぶそうだが、その稜線上には十枚山、青笹山、真富士山などのピークがあり、竜爪山はその山稜の南端に当たる。十枚山、真富士山は登っているが、青笹山はまだなので、次は青笹山から今日見られなかった赤石岳を眺めることにしよう。

真富士山方面

 

 穂積神社からは新道を下る。こちらの方が旧道より緩やかに下っているので歩きやすいが、山腹に付けられているので所々崩れている。それに、ずっとヒノキやスギの植林地で変化がない。一か所だけ、西側が開けて竜爪山が眺められる。

 林道に出て右手に5分程下ると、旧道登山口の駐車場に戻ることができた。 

新道から文珠岳(左)と薬師岳(右)

 

 

竜爪山ルートマップ


[山行日] 2016/2/25(木)
[天気] 晴れのち曇り     2016年2月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 新東名・新静岡IC ( 県道74号、県道201号(竜爪街道)) → 平山口、旧道登山口駐車場       [約15km]  
      
・林道わきの空き地に10台程止められる。駐車料金100円。
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:10 8:55 旧道登山口駐車場   3℃
9:55 新道合流点    
10:05 穂積神社 0:15  
1:00 10:20  
11:05 薬師岳山頂   -2℃
11:20 文殊岳山頂 0:40 -2℃
0:50 12:00  
12:15 薬師岳山頂    
12:50 穂積神社 0:05  
0:50 12:55  
13:40 新道登山口    
13:45 旧道登山口駐車場   全行動時間
3:50     1:00 4:50
登り 2:10        
下り 1:40        
 
[地図] 清水、和田島 (1/25000)
[ガイドブック] 新・分県登山ガイド21「静岡県の山」 (山と渓谷社)
マイカー登山[東名高速道] (山と渓谷社)

 

[風景印] 麻機局
 (静岡県静岡市葵区有永3−2)

・図案
  富士山、ヘリコプター、遊水池、ショウブの花