金時山(きんときやま)                              [富士山周辺] 1213m

 


 金時山の山頂のベンチに座って、ただボーっと富士山を眺めている。茶店の陰になるためかほとんど風もなく、陽射しが暖かい。先ほどまでは山頂の岩場の上に何組みものグループがいて、「ウィークデイでもさすがに人気の山だけある。」と思っていたのだが、明神ヶ岳の方へ縦走していったのか、急に静かになってしまった。だから今は、ほとんど富士を独り占め状態だ。茶店のおばさんの話では、昨日も富士はよく見えたが風が強かったとのこと。本当は昨日登る予定が、急用ができて今日になってしまったのだが、それが幸いしたようだ。

 それにしてもよく見える。 真正面の富士はもちろん、左手には愛鷹連峰、逆光の駿河湾、伊豆の山々。今日は霞んでいるが、伊豆大島も見えるらしい。右手には真っ白な北岳が富士の裾野の上に顔を出しており、その右に鳳凰三山、甲斐駒と続いている。さらに右手にやや木の陰になりながら八ヶ岳の赤岳、横岳がこれも白い稜線を見せている。丹沢の山々は金時茶屋の後ろに隠れてしまっているのが残念だ。

 そして、富士は何のためらいもなく左右にすそ野を伸ばしたいだけ伸ばしている。おいおい、ちょっと見せすぎだぞ。雲のベールで少し隠した方がいいんじゃないかい。見ている こっちがちょっと恥ずかしくなるくらい、すっぽんぽんの富士である。

  駐車場に車を止めさせてもらったので、まずは公時神社にお参り。祀られているご祭神は平安時代後期に源頼光 (みなもとのよりみつ)に仕えた武将、坂田公時(さかたのきんとき)で、金太郎さんのモデルになった人である。

 神社の社殿の背後には金時山がそびえていて、まるで金時山が御神体のように見えるが、そうではない。
 金時山は坂田公時が幼いころにその山中を駆け回って体を鍛えた場所(童謡では熊と相撲をとった場所)と考えられ、それで金時山という名前がついたと言われている。元々は猪鼻山と呼ばれていたようで、御殿場方面から山頂を見ると、イノシシの鼻のような形をしているかららしい。しかし、これにも金太郎さんに まつわる伝承があって、金太郎が落とした岩に誤って当たり死んでしまったイノシシの鼻を切って金太郎が弔ったからという説もあるようだ。

公時神社と金時山
 

金時宿り石(二つに割れている) 仙石原を見下ろす。背後の山腹の白いのは大涌谷の噴煙。
 


 神社の横の石のゴロゴロした登山道を登っていくと、老人が登っているのに追いついた。足ごしらえが長靴なので気になったが、下山者にも長靴をはいている人が多い。しかも同じような柄のものを。この辺りでは長靴登山が流行りなのかと思ったが、そんなはずはない。 明神ヶ岳からの稜線に出ると、道は霜解け、雪解けでドロドロになった。皆、よく知っているのだ。
 箱根の山は火山なので、火山灰由来の土は粒子が細かくてドロドロになりやすいのだろう。それにしても、コテコテのひどい道で、まるで雪解けの頃の上越の山のようだ。靴が泥だらけになるのはまあ諦めて、なるべくズボンの裾は汚さないように慎重にそっと登る。

 そのドロドロの道が雪の踏み固められたツルツルの道に変わると、山頂に到着となる。 泥道でなければ、至って楽に登れる山である。
 

 山頂には金時茶屋と金太郎茶屋の二軒の茶店がある。二軒も営業できるというのは、それだけ登山者が多いのだろう。座ったベンチが金太郎茶屋のそばで、同じベンチに座った初老の人がそこのぜんざいを食べていたので、僕も注文する。600円で焼き餅入り。少々高い気がするが、体は甘いものがうまいと言っている。

 その初老の方は藤沢から来たそうで、金時山にはよく来るらしい。その人に言わせると、二軒の茶屋は仲が悪いらしい。まあ、商売敵だから当然でしょうな。
 

金時山山頂。建物は金時茶屋。
 

長尾山の向うに愛鷹連峰 北岳
 


 時々、富士山の方からドカンドカンと大きな音が響いてくる。藤沢の人があれは自衛隊の演習場の大砲の音だ、と教えてくれる。天気が悪い日などは雷と間違えてしまう、と言う。
 自衛隊の演習場は富士の山麓にあるので、ここからは確かによく見えているが、それにしても大きな音だ。御殿場の人はたまったものではない。
 

 帰りは外輪山の稜線を乙女峠へ下る。いきなり雪がガリガリに凍った急な道。よっぽどアイゼンを出そうかと思ったが、雪の上に土が乗っていて滑らないところもあるし、めんどくさいので、ストックに頼りながら下る。周りの木にぶら下がったり、 所々出っ張っている岩を足場にしたりしながら、慎重に下る。少し滑っても周りは樹林帯で、斜面を転がり落ちることはないのでそんなに怖くはない。なんとか鞍部まで降りられ、一安心。しかし、長尾山まで何か所も凍ったところがあり、気が抜けなかった。

 そして、長尾山からは一転してまた泥道。なかなか手強い。標高差はあるが、公時神社からの道の方が楽だ。

雪の残る稜線の道
 

 乙女峠からも富士が見えるが、ちょっと灌木がうるさい。やはり金時山頂からの眺めの方がいい。ここにもベンチがあったので、コーヒーブレイク。ベンチから明星ヶ岳が眺められるが、こちらも笹薮が邪魔になる。

後ろは明神ヶ岳
 


 峠からは落葉樹の中を下る。乙女トンネルの出口に近づくと檜の植林地に変わってくる。

 登りの時にも気が付いたが、右のような看板が登山道わきに所々設置してある。「リスに注意」である。
 最近ではシカやイノシシなどの食害が山村生活の脅威になっているが、神奈川県では凶暴なリスがでるらしい。しかも、火消しのまといのようなものを持っており、これを凶器に使うようだ。所変わればなんとやら。いろいろ面白いものが見られる。(笑)

山火事注意の看板
 


 国道に出たら、あとは車に気を付けながら公時神社に戻るだけ。時間は短いが充実した山歩きだった。

 御殿場市営の温泉に入った後、インター近くの秩父宮記念公園に寄った。
 秩父宮雍仁(やすひと)親王は昭和天皇の弟君で、私の生まれる前の昭和28年に亡くなっているので、ほとんど馴染みのない方だが、戦中から戦後にかけて、ここ御殿場の別邸で結核の療養をされていたらしい。最近になって、公園として整備、公開されたのだが、その中に秩父宮の銅像が立ってる。この銅像は昭和天皇から贈られたもので、昭和19年に赤坂の本邸から移設されたとのこと。
 「スポーツの宮様」とも言われていたようで、特に登山とスキーがお好きだったことから、銅像は登山服姿である。富士を見上げて佇む姿が何とも言えずいい感じで、しばし見とれていた。死んだ後もこんな風に富士を眺めていられるなんて、うらやましい限りだ。

秩父宮の銅像
 

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[山行日] 2014/1/29(水)
[天気] 快晴    2014年1月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 東名・御殿場IC ( R138号)→ 乙女トンネル → 公時神社駐車場( 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原)     [約10km]
      
・神社の駐車場は無料で十数台駐車可。公衆トイレあり。(道の南側は有料駐車場のため注意。1日500円らしい。)
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
  1:10 9:40 公時神社駐車場 発  
  10:00 金時宿り石  
  10:30 稜線  
  10:50 金時山山頂 (1212.5m) 1:00
  0:50 11:50
  12:40 乙女峠 0:20
  0:45 13:00
  13:35 乙女峠口バス停  
  13:45 公時神社駐車場 着   全行動時間
2:45     1:20 4:05
登り 1:10
下り 1:35
 
[地図] 御殿場、関本 (1/25000)
[ガイドブック] マイカー登山[東名高速道] (山と渓谷社)

 

[温泉] ごてんば市温泉会館
・御殿場IC近くの日帰り温泉。月曜定休。御殿場市深沢2160-1。
・入浴料500円(3時間まで)。休日はとても混むので、時間制限があるらしい。ちなみに800円の一日券もある。
・浴室はあまり広くないが、浴槽の正面が一枚ガラスで、富士山が真正面に見える。
・露天風呂がないのが残念。
[公園] 秩父宮記念公園
・御殿場市東田中1507-7
・入園料300円。(他に駐車料金200円必要。)