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| 『未来』['26] 『人はなぜラブレターを書くのか』['26] | |||||
| 監督 瀬々敬久 監督・脚本 石井裕也 | |||||
| 期せずして、手紙というものが非常に重要な意味を持つ映画を続けて観た。先に観た『未来』は、十五歳の佐伯章子(山﨑七海)と須山亜里沙(野澤しおり)にしても、高校生の森本真珠(近藤華)にしても、また、大学生の篠宮真唯子(黒島結菜)にしても、まさしく文字通り原田勇輝(坂東龍汰)の部屋にポスターを貼ってあった青春残酷物語そのものという作品で、いささか気が滅入った。二十年後の章子の察しは程々のところでついたが、30周年アニバーサリーの謎はそれだったのかと大いに意表を突かれた。 それにしても、実に不愉快な男たちのつるべ打ちで、真唯子の母や実里の母の下劣さも霞む酷さだった。湊かなえの原作小説は未読だが、原作ではカラオケビデオではなく、AVに違いない。この改変は流石に脚本家も不本意だったろうという気がする。AVに対しては、セックスワークも含めて昨今さまざまな言説が飛び交っていることもあり、製作サイドからの要請で面倒を避けたのではないかという気がした。それとは別に、夜行バスのなかで章子が亜里沙に「いい、それでいいの」と言う場面が、原田が真唯子に『東京物語』を見せる場面とともに原作小説にあるのか、確かめてみたい気にさせられた。驚くほどに引用の長かった『東京物語』はまだしも、『青春残酷物語』は原作には出てこない気がする。 それはともかく、脚本構成はもう少し整理できなかったのだろうか。謎めかしたものを小出しにしつつ時制を変えて、観る側を意図的に混乱させて判りにくくしていたような気がする。おかげで文乃(北川景子)を遺して先立った夫の良太(松坂桃李)が娘に残した思いの情緒的な部分がきちんと響いてくるのを妨げていたように思う。破格の境遇に育ったがゆえに心神耗弱を来している部分の残る文乃の人物像が、北川景子の熱演にもかかわらず、今ひとつ釈然としないものになっていた。 ろくでもない男たちのつるべ打ちのなかでも出色は、早坂を演じた玉置玲央だと思った。大河ドラマで藤原道兼を演じた際にも光っていたように思うが、本当に不愉快な奴だった。 すると『ユリゴコロ』['17]を想起したというコメントが寄せられた。なるほど、九年前に観た『ユリゴコロ』かと思った。なかなか強烈な映画で、マイベストテンの第2位に選出した作品だ。「人間という存在の怖さと深さと切なさに何だか心打たれた。かなり特異な設定と運びなのに、…ちっともあざとさを感じなかった」と日誌に記している。それからすると、本作は少々捏ね過ぎている気がした。 翌々日に観た『人はなぜラブレターを書くのか』では、アバンタイトルで吊革を握りながら車中で本を開いている姿に、これは一体いつの時代設定なのだろうと思っていたら、二十四年前のことだった。二十年後の自分からの手紙を受け取る少女の五年後を描いていた『未来』を観た後に、今度は二十四年前のことを綴った手紙を受け取る遺族の姿が描かれる映画を観たわけだが、手紙の持つ力、文章が与える勇気を描いてなかなかの佳作だと思った。 すると、エンドロールに「富久信介 富久邦彦」とクレジットされて吃驚した。細田佳央太の演じていた富久信介その人の名が出てくるとは、全く思い掛けなかった。もしかして実在した人物なのかと訝しんだが、帰宅後、チラシを見ると「全ては“愛の実話”から始まった―24年の時を超え、一通の手紙が奇跡を起こす。」とあって驚いた。実のところは、2000年に起きた地下鉄脱線事故で亡くなった高校生の富久信介さんの遺族の元に2020年に届いた手紙だったようだが、死してなお二十年も後に、秘めていた想いを告げる手紙を書いた女性がいたということだ。 享年十七歳の少年が残し継いだものとして描かれたもの自体は、フィクションなのだろうが、ややもすれば、ひたすら努力を重ねて頑張るような人の営みを“時代遅れ”として冷笑するような向きが目に付く昨今、愚直なまでの真っ当さというものが遺し伝え継ぐものが確かにあることを奇跡の物語として描き出すことの意味は大いにあるような気がして、心打たれた。地道な努力を重ねる才能を欠いている僕が、古稀も視野に入る今に至るまで、数年にも及ぶ努力を懸命に重ねて取り組んだことなど、何一つないからこそ、眩しく気高く映って来たのかもしれない。だが、チラシを読むと、菅田将暉の演じていたボクサーは、第17代WBC世界スーパーフライ級チャンピオンになった、実在する川嶋勝重選手で、世界戦ができるなら富久信介さんのイニシャルを入れたトランクスで闘いたいと、2002年に言っていたようだ。 チラシの裏面に記されていた「あなたが生きた“存在”は、消えない。」がジーンと沁みてくる作品だったように思う。「一応言っとくけど、不器用な男が甘やかされる時代ではなくなってるからね」と娘の舞(西川愛莉)から良一(妻夫木聡)が言われていた言葉ともども。そして、劇中の亡き富久信介が遺し継いだものと同じく、寺田ナズナ(綾瀬はるか)が娘に遺し継いだものに、良一が堪え切れずに「立派過ぎるんだよ」と嗚咽を漏らすラストに心打たれた。 | |||||
| by ヤマ '26. 5.25. TOHOシネマズ6 '26. 5.27. TOHOシネマズ6 | |||||
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