残暑のむし暑さが残る8月のお盆休日の朝、机にうつ伏せて一人思い悩む女の子が一人。数年前、とある事件に巻き込まれ女の子になってしまったユカ君である。
あの事件以降、定期的に早乙女クリニックに通い、又、責任を感じていろいろ世話を焼いてくれる元母校の涼子先生の協力の元、何とか女子高校生としての生活を終え、2年前の春めでたくデザイン会社にも就職したのだが…。
「シュウの奴！盆休み1回も顔出さないで！電話1本くらいよこしゃいいのに！」
何とユカ君にはボーイフレンドまで出来ていたのだ！ところがその彼が全くさえない。涼子先生の紹介で、やはり魔界に携わっている人なんだけど、今年32才になるのに、魔界でのクラスはどん底！生活費稼ぐ為に細々と街角で占いをやっているらしいのだが…。
突然ユカの目の前に緑の物体が2つピョコンと現れた。大きな目をした緑色のバナナみたいなそいつらは、尻尾で器用に立ち、軽く会釈して大声でくっちやべり始める。
「どうもー！芋虫兄でーす！」
「どうもー！芋虫弟でーす！」
「いやあー暑い日が続きますねー！」
「兄ちゃんそういえば、どっかの原子力潜水艦がまだ沈んだままだってニュースで言ってたよ！」
「ああ、言ってた言ってた。それ助ける為にイギリスとかから救命船が行ったんでしょ」
「そうそう、現地到着するやいなや、その辺の近海で、サンダーバードのテーマが…」
顔をしかめ、大きなアゲハの幼虫みたいなそいつらの首根っこを掴み、自分の黒リュックに押し込むユカ君。シュウと付き合いはじめてまもなく、「幸福を呼ぶ芋虫」と称してプレゼントされたのだが、一向に幸運らしきものは訪れず、しかも毎日食っちゃ寝してとうとうこんな巨大芋虫に成長したのだった。
人語を解して喋る。透明になる。原付バイク並のスピードで飛跳ねて走ったり、時折下手な漫才する等の特技は有るが、ユカにとっては自分の黒リュックをねぐらにしている只の芋虫にすぎない。
暫くするとそいつはゴソゴソと再びリュックから顔を出した。
「ちょっとユカちゃんひどいよぉ！落ち込んでるみたいだから元気付けてやろうとしたのにさ！」
「どったの？なんで落ち込んでんの？あ、またお金が無いんでしょ」
2匹でたわいもない話を兄弟でキャッキャッ言い合ういつもの光景。そんな声に耳も貸さずユカは再び大きな溜息をつく。
「ねえ兄ちゃん。やっぱお金無いみたいだよ。ねえ、いくら欲しいの？１万円位？」
「にゃはは、まかしとけ！1万ぽっち軽い軽い！午後には揃うよ。行くぜ弟！」
窓から飛び出ようとするその2匹はたちまちユカの手の中に握られ、尻尾をばたばたさせる。
「昨日から下手な同じ漫才5回も聞かされりゃ誰だって気がめいるわよ！それにお金持ってくるって、また熱田神社の賽銭泥棒やるんでしょ！残念だけどお金に困ってないから、とっととねぐらに戻りなっ！」
ユカの形相に握り締められ、作り笑いのまま冷や汗をかく芋虫兄弟であった。以前ユカの知らない間に彼女の財布を勝手に持ち出し、賽銭箱に忍び込んでお金を詰め込んだのはいいが、替わりに学生証を落したのに気付かないまま帰ってきて、ユカは賽銭泥棒の疑いをかけられ、警察でたっぷり絞られたのである。まあ、いろいろ世話を焼いてくれる気持ちは受け入れてやるんだが…。
うるさい芋虫共を黒リュックに詰め込み、ユカはどこかに電話し始めた。
「先週あたりからね、栄の方で店出してたみたい」
「あ、僕も見ましたぁ。この暑いのに相変わらず黒いローブに水晶球持ってましたぁ」
男の子の時のクラスメートの常盤クンと友坂クンを連れて、今日はとりあえずシュウの店に様子を伺いに行く事に。可愛い系の常盤クンとちょっとおっとり型の友坂クン。今のユカの過去を知っているのは、クラスメートではこの2人だけ。只、芋虫の事は内緒だけど。
「ねえ、2人もお願いだからお客になってあげてよ」
「えええ、この前占なってもらってあげたよぉ。でもさあ、ちっとも当たらないんだもーん、別にもうあきらめてるけどぉ」
「1回1000円なんて、高いよ。しかもあの古ぼけたローブ匂うしさ、名古屋じゃ有名になっちゃってるよ。最も当たらない占い師ってさ」
実はあの古ぼけたローブ以外ろくな服持ってない事をユカは知っている。何か服でも買ってやろうと思っても、全く連絡とれない。
3人が繁華街を歩いて暫くすると、ビルの影に隠れる様に、机を前に少し俯き加減に座っているシュウを発見した。常盤クンと友坂クンが駆け寄ろうとするのを手で制し、客のふりをしてシュウの前に立つユカ。
「すみません、占ってほしいんですけど…（うわあ、臭い。お前客商売って何かわかってんのかよ）」
「………」
「あのう、占なって…（この野郎寝てやがる…）」
「……う、はい？」
「占い、お願いしたいんですけど！私には彼氏がいつ出来ますかっ！」
「おおお、そこにおわすはうら若き乙女！世がそなたの未来の白馬の王子を占なって進ぜようぞ」
相変わらずの調子の狂った日本語に、ユカはずずっと2歩程後ずさり。シュウはそんなユカの顔も見ず、ローブのフードに覆われた頭をぶるぶるっと頭を揺らし、やっと気が付いたといった感じで、水晶球に手をかざした。
「おお、うら若き花の香りの乙女、そなたに恋愛はまだ早いと思われるぞよ。もっと人生経験を積み、その後…」
「パコーーーーーン！！」
ユカは後ろ手にリュックのサイドポケットから（シュウ専用）と書かれたプラスチックハリセンを取り出し、フードの上から1発お見舞い。
「あたしの彼氏はあんただろうが！あたしの香水とか気配とか、魔界の人でなくても判りそうなもんじゃない！！」
シュウはやっと目が覚めたという様子でローブから顔を出す。ビジュアル系で慣らした美形ロックシンガー、イ○ムそっくりのその顔立ちは、ユカの横にいる男の友坂君や常盤君も息を飲む優男。
「おお、そうであったユカ君。そなたの事は一時も忘れたことは無いぞ。ところで物は相談だが、昨日から何も食しておらぬ。あいすまぬが1000円ばかり…」
「パコーン！パコーン！パコーン！パシッ！！」
その優男の顔に、続け様頭に3発、頬に1発見舞った後、ユカはシュウを睨み、その襟首を掴んで引き寄せる。
「シュウ！御願いだから、少しはあたしが皆に自慢出来る彼氏になる様努力してよね！」
回りの人がじろじろ見ている中、やっと常盤君と友坂君がユカを止める様にシュウの元へ駈け寄って行った。
「由嘉夫！由嘉夫！？」
ふと自分の昔の名を呼ぶ声が。あれ？ここあたしの部屋。どうして、常盤君と友坂君が？？
「由嘉夫、じやないユカ！やっと気が付いたのか」
ユカのぼんやりとした目がだんだんはっきりして、覗き込む友坂君と常盤君の顔が判ってきた。
（ううっ頭痛い。あっそういえばあの後二人と栄町へ飲みに行って、さんざんシュウの悪口言って…ああっそれから覚えてない！）
「ユカちゃん、今日はすっごい荒れてたですよぉ。もう少しで警察呼ばれる所だったんですからぁ」
少し迷惑そうにすねる友坂君。
「ごめん、何だか2人に迷惑かけたみたい。ねえ、今何時？」
「まだ夜の9時前ですぅ」
自分の腕時計を見ながら吐き捨てる様に答える友坂君。
「ねえ、ちょっと酔い覚ましに散歩しない？いいから。今日泊まって行けばいいし」
「え、だって元男友達といえ、女の子の部屋に泊まるなんて」
常盤君が少し面食らった様子。
「いいのいいの、こうしてあんたたち2人でいるとさ、なんか昔の由嘉夫に戻ったみたいでさ」
ユカがにっこりした。
「ああっ、風が涼しい。昼間もこんなだったらなあ」
ドレスシャツを風になびかせ、ユカが子供っぽくスキップする。
「由嘉夫、あのさ、ユカになってからすっごく子供っぽくなったよね」
「やっぱり、女の子になって、しかも彼氏出来たからですかぁ」
ふと黙り込むユカ。そう、意識したわけでもないのに、女として無理矢理生活しているうちに、いつのまにかこんなになってしまった自分。今歩いている道は、昔男の子だった自分が友坂君と常盤君と良くふざけあって通った通学路。ふと男の子の時の自分を思い出してしまう。
スポーツといたずらが好きで、特に常盤君と一緒にひろの姉さんを良くからかってたっけ。男の子の時の自分を思い浮かべながら、綺麗な満月の月を無意識に見上げている。
ドレスシャツの裾から、生暖かい風が入り込み、もはや艶かしくて白くて柔らかくなったユカの足を撫でられるとふと我に返り、女の子になってしまった自分という現実に戻されてしまう。
「あのさ、この先に公園有ったでしょ。ブランコ乗らない？」
「えええ？ブランコ！？この年で？俺男だぜ？」
「ユカちゃん、やっぱり心の底まで女の子になってしまったんですねぇ」
常盤君と友坂君は嫌がりながらも、ユカに付いて行く。
「でもさ、シュウさんて顔だけはすごくかっこいいよね」
「うん、僕が女だったらぁ、ユカちゃんみたいに、惚れちゃうよぉ」
公園のベンチで座る常盤君と友坂君を横で見ながら、一人ブランコをこぐユカ。柔らかく敏感にすべすべになった体をなぞる風が、ユカにとってはとっても気持ちいい。
「ねえ、2人ともさ、あたしと同じ体にならない？とっても気持ちいいよ。涼子先生に頼んでさ」
「えええ、僕はいいですぅ。やっぱりぃ、可愛い女の子が好きだしぃ」
すぐさま否定する友坂君の横で、常盤君が不思議そうに話す。
「ユカその、俺女ってさー、男と比べるとすごく得だと思うんだけど、どうなの？」
ふとブランコを止め、ちょつと考える素振りを見せるユカ。
「え、どうなんですかぁ、女の子って得じゃないの？綺麗で可愛いし、色々な服着れるしぃ」
今度は友坂君が不思議そうに質問する。
「二人とも本当にそう思ってる？」
再びブランコを漕ぎ出すユカ。少しの間3人の間を闇と沈黙が支配した。
「確かに、綺麗で可愛い服着れるし、いいかもね。スカートは走ると邪魔だし、ブラとガードルは締めつけで苦しいし、水着だって着ると暑苦しいし、お化粧していつも綺麗でいなきゃならないし、もう絶対男みたいに上半身裸になんてなれないのよ！トイレだってすっごい不便！気軽に立ちションなんて絶対出来ないんだから！」
ユカは更に力強くブランコをこぎ始める。
「生理が来るのよ！あのいまいましい生理！面倒で臭くて痛くて！絶対男が羨ましい！しかも毎月来るのよ！あんたたちも一度なってみれば！？そしたらこの辛さ判ると思う！」
常盤君と友坂君は黙ったままだ。
「それとさ、男の子に抱かれなきゃいけないのよ！自分で考えてみろよ！あの汗臭い男に自分が抱かれる姿をさ！俺は、その、最初は嫌だったけどさ。博に抱かれる前はね。今はシュウがいるから、そんな事は思わないけど…」
興奮したユカは、とうとう自分を「俺」と言い出す始末。
「ごめん。悪かった。ユカもさ、好きでユカになった訳じゃなかったんだもんな」
それにこっくり頷く友坂君。ユカもそれを見てにっこりする。
綺麗な満月の月夜。久しぶりに昔の親友2人と水入らずの時間が過ごせそうな夜。それから3人は真夜中まで昔話に興じた。
「涼子先生、こんにちは。ユカでーす」
半年ぶりの涼子先生の屋敷。玄関から奥へと並ぶ不思議なアンティーク調の調度品の数々は見るだけでも楽しい。涼子先生は相変わらず学校で保健の先生をする傍ら、ちょっと不思議な魔道の仕事も裏で営んでいるみたい。
「あら、ユカちゃん久しぶり。どうぞ上がりなさい」
「はーい、お邪魔しまーす」
黒に不思議な模様の刺繍のワンピースの涼子先生に招かれ、怪しいけど何だか心休まる形の丁度品の並ぶ応接室へ。
「ひろのお姉さん元気？」
「うん、元気だよ。結婚しちゃってからはあんまり会わないけどね」
一瞬だけどユカは、昔、姉の体の上で女の子に変身した時の事をちらっと思い出した。
「茶、ダージリンでいい」
「あ、何でもいいです」
挨拶がわりのたわいも無い話をしているうちに、ユカの目の前の氷入りグラスに紅茶が注がれていく。それを見届け後、以外にも涼子先生は、細長い洋モクに火を付けユカの前のソファーに腰掛けた。
「あれ、涼子先生？タバコ吸いましたっけ」
「え？タバコ？あ、うん。ちょっと気が滅入った時にね」
え、じゃ、今は…
「のね、先生、シュウの事なんだけど…」
「あら、あたしもシュウ君の事でお話しようとしてたのよ」
（え？一体何なんだろ）
ちょっとびっくりしているユカをちらっと見て、ふっと上品に煙を吹いた後、涼子先生はまだ、半分残っている細長い煙草を小さな灰皿に押し付けた。
「27才でロックバンド辞めて、魔界従事者になって、今年でもう5年目なのよね、彼」
「え、あ、そうなんだっけ」
あまり詳しい事知らないけど。
「今度私達の掟が変わってね、33才までに最低でも（4級使い魔）に昇格しないと、追い出されちゃうの！彼まだ使い魔の資格すら持ってないでしょ！」
「ええー！本当！？」
（魔界にもリストラって有るんだ？へーっ）
ちょっとびっくりしたユカだったが、次の瞬間彼女の顔は青ざめた。
「33才の誕生日って、あと１ヶ月じゃん！！！」
涼子先生が次の煙草を取り出し火を付けて天を仰ぐ。
「彼をあなたに紹介したのあたしだもん。何か責任感じてね」
「何か方法は無いの！ねえ、先生！」
少しうなだれた様子の涼子先生の手を引っ張り、横でユカが騒ぐ。
「まだ付き合ってくれてるの？あの男に」
涼子先生の目を見つめ、はっきりと頷くユカ。その様子を見た涼子先生は、嬉しそうな表情を見せ、横のパソコンに向って座り直した。
「良かったわ。ユカちゃんも普通の女の子になってくれたみたいだし、あの男をなんか幸せにしてくれてるみたいだし」
カチカチとパソコンを操作する涼子先生。やがて前のディスプレイに何やら怪しい画面が出現した。ユカも興味有りげにそれを覗き込む。
「先生？これ何？」
画面には（3級魔道師 椿涼子様 ようこそ）の文字が浮かんでいる。
「インターネットを利用した私達の連絡板なの。最近魔界も進んでてね」
一瞬ずるっと肩を落すユカ。気にせず画面を進める涼子先生が何かを見つけたみたいだった。
「ふーん…、幸せを呼ぶ芋虫。日本円で2匹100円にまで落ちたのね。シュウがなんか気にいってたみたいだったなあ」
「先生、それってさぁ」
ユカはソファーの上の自分の黒リュックから例の物2匹を片手でつまみ出し、涼子先生の前に突き出した。
「こいつらの事？」
涼子先生は、丸々太った2匹の緑色の芋虫にぷっと吹き出して笑い出す。
「そうそう、そいつらよ。よくここまで育てたわね。どう？幸せが巡って来て？」
「ぜーんぜん！１日中何か食ってはつまらない話ばっかりするし、透明になって賽銭箱にしのび込むわ、こそ泥みたいな奴！」
ユカのその言葉に2匹は明らかにびくっとした様子だった。
「うううー、ユガぢゃん見捨でないでぇーーー…」
「いつか必ずお役にたつ時がきますぅーーー…」
ユカに片手で猫みたいに摘み上げられた芋虫兄弟は、目をうるうるさせ始めた。
「まあ、芋虫だけど、そいつらも魔力貯めて成長すると、いい使い魔になるんだけどねぇ」
そう呟きながら涼子先生が再びパソコンを検索し始め、ユカは芋虫兄弟をソファーにぽんと投げ、画面に見入った。しかし…
「だめだわ、探してみたけどウルトラＣというべき仕事が無い。とにかく１ヶ月以内にシュウの水晶球に魔力を蓄積して、青く光ったら魔王様の所に持っていかないと」
「涼子先生、占い家業だけじゃだめなの」
「あれはどちらかといえば魔力と超能力の練習にすぎないのよ。占いが当たれば水晶球に魔力が溜まるんだけど、微々たる物だし、今から１ヶ月で満杯になるなんて思えない。まだガラス球みたいだったでしょ？シュウの水晶球」
（全くもう！シュウの奴今まで何やってきたんだよ！）
「ねえ、先生どうしたらいいの！？」
「そうねぇ…」
何か考え事をする様に腕組みする涼子先生が、しばらくすると再び操作を始めた。
傍らのソファーでは、さっきのしおらしい態度はどこへやら、芋虫兄弟がユカへの涼子先生のもてなしのクッキーに、美味しそうに音を立て噛り付いている。側に有った消しゴムを見事に兄芋虫に命中させ、ユカは画面を覗き込んだ。
「ユカちゃん。この家の鍵渡すから、時々来てこの画面を見ていて欲しいの。何か仕事らしい情報でいいのが出たら、すぐにシュウの認識サイン（*******）を打ち込んで、そしてシュウに連絡してあげて。只ね、最近不況だから件数少ないし、割りにあわないのが結構来るんじやないかな。そしてね…。
涼子先生の説明が続く。
「りがとう先生！明日から毎日来るから！」
ユカの分を平らげ、涼子先生の分のクッキーまで口に咥えた芋虫をリュックに押し込み、ユカは屋敷を出た。
涼子先生が仕事で留守の間、ユカはポテチ・コーラ・ＭＤラジカセ等を持ち込み、画面に向ったが…
「ああん、また持って行かれた！こんなのテレクラと同じじゃん！」
1時間に1回位画面に仕事が出るんだけど、画面に書かれた説明を読んで、シュウの出来そうな物にサインを入れ様としたら、もう誰かに取られてしまっているのである。
とうとう3日目に入ったが、まだ仕事は見つからない。2ｍ四方の穴を掘る・秘密の儀式の見張り・蟻2千匹集める等、ユカも手伝えそうな仕事も有ったが、慣れないユカには要領が分からず、次々他人に取られていく。やはりシュウみたいな奴らが必死になっているんだろう。
「もう！シュウが来て自分でやればいいんだよ！！」
シュウはまたもや行方不明！まあそろそろメシ代をたかりに電話入れてくる頃らしいが。
「もういい！次は何でもいいからＨＩＴしてやる！」
ポテチの袋に口を付けて、ガーッと口に入れ、コップ1杯のコーラをぐいっとあおり、咽に押し込む。2匹の芋虫に自宅からのポテチ追加を持ってくる様に指示したその途端、画面に難易度「中」を示す黄色の文字で何やら表示された。
「えいっ！」
ユカは中も確認せずいきなりシュウのコードを入力！画面が変わり、何やら細々と表示されると同時にプリンターがカタカタ音を立て始めた。
「やりぃ！難易度「中」だし、1発で目標3000Ｐ確実！」
印刷された説明書らしき文章を恐る恐る手に取り、読み始めるユカ。
「えっとぉ、［魔剣師師団長ジルの精力ＵＰの為に、人間男性2人分の男性精力を水晶球に封じ込め持参の事。持参者には規定3000Ｐの魔力プラスα支給］ふーん…で何やればいいの…」
2枚目以降の説明書には何やら訳のわからない事が書いて有ったが、最後の方の文章を読んだユカは、咽をごくっと鳴らし手をぶるぶる振るわせた。
［尚、生贄となりし二人の男性は、以降一生を女性として過ごす事になる］
「キャンセル…出来なかったんだっけ…。どうすんの、こんなの受けちゃって…」
ユカが途方にくれている時、ユカの携帯が「なんちゃってギャル」のメロディを鳴らし始めた。
「はい、…シュウ！！どこに行ってたの！いろいろ伝えたい事有ったのに！」
「おお、わが愛しきユカ姫！早速で申し訳無いが、栄町のラーメン屋「沈沈軒」にお金を持って来てはくれぬか…、あ、はいすぐラーメン代金持って来させる上、何卒ご容赦の程を…ユカ姫！ユカ殿！…」
受話器を思いっきり電話機に叩き付けた後、ユカは涼子先生の屋敷を後にした。
「便利屋みたいな非道な手段で魔力なぞ貯めたく無いぞ。やはり修行を行ない真っ当な方法で…」
「それも後1ヶ月で辞めさせられるってわかってんのかよ！お前は！」
家財道具が殆ど見当たらないシュウの部屋は蒸し暑く、とっても汗臭い。ラーメン屋の店員に殴られた頬を赤紫に晴らし、寝ぼけた様子でもごもご喋るシュウの脳天にハリセン1発。さすがのシュウも臭いローブを脱ぎ始める。鼻をつまみ、それを台所の流しに突っ込み、上から洗剤をぶっかけるユカ。
「とにかく、もう後へは引けないんだから！その仕事を絶対にやんなきゃいけないの！」
流しでジャブジャブローブを洗い始める間、シュウは黙って、ユカの持ってきた仕事の説明書に目を向ける。その傍らでは2匹の芋虫もそれを何とか覗き込もうとしていた。
「ああ、人間界はなんと差別的であろうか。人間のこの私より、芋虫の方がいい生活をしていると見える。この太り具合が羨ましい…」
シュウの額にハリセンが飛んでくる。
「あんたがこの5年間怠けてばかりしていたからでしょ！！ところで判ったの？仕事のやり方！」
「要は指定された場所に行き、祭壇にこの水晶球を設置して、特定場所に結界を張り、生贄を閉じ込め、魔界の契約呪文を唱えるだけであるが、生贄はどうするつもりなのじゃ？ユカ殿？」
返事をせずごしごしとローブを力任せに洗うユカ。暫く沈黙が続く。
「シュウ！あんたに心あたりないの？」
「最近、余の姿を見るなり逃げて行く名古屋の町衆が後をたたぬ。そなたに心当たりは無いか？」
古ぼけた縞模様のトランクスのお尻をごりごり掻き毟るシュウ。こりゃシュウに期待する方がおかしいわとユカは諦めた。こんなシュウでも付合った昔はカッコ良くて優しくて、早く昔みたいな素敵なシュウに戻って欲しい！もう背に腹は変えられない！ユカの目がキラッと光る。シュウが再び「説明書」を何気なく読み始めた。
「男精気を抜かれ、女性に変身すべき生贄はかなりの体力を必要とする。儀式開始前に十分な栄養を取らせる事。尚、変身後の生贄の衣装は適当に決められる…」
ユカは無言でローブを洗い続けた。
「なんで今日は、こんなにいっぱいご馳走してくれるんですかあ…」
美味しい事で有名な地元の洋食屋。ユカにそこに呼び出された友坂君の前には、ハンバーグ・オムライス・ソーセージ盛り合わせとビール…。彼の好きな物がずらっと並ぶ。
「え？、あっ、会社でさ、臨時ボーナスが入ったんでさ、おごったげようと思ってさ、あははは」
「何かわかんないけど、美味しそうだからいただきますぅ」
嬉しそうにナイフとフォークでハンバーグに切れ目を入れ始める友坂君。傍らのリュックの中では、美味しそうな料理の匂いを嗅ぎつけた2匹の芋虫が、何とか外へ出ようと内からチャックを咥えて引っ張っている。
「シッ！こらっお前ら静かにしろ！後で牛丼食わしてやっから！！」
ユカは小声で芋虫を叱り付ける。牛丼という言葉を聞き、一瞬大人しくなるも、すぐまた暴れ出す芋虫兄弟。そいつらをリュックの上から押さえ付け、ユカは友坂君にあいそをふりまいていた。
「ゆかちゃーん、女の子になってからいい人になりましたねーぇ。ピンクのＴシヤツとグレーのミニスカートも可愛いですよぉ」
真夏のまだ暑い、午後の昼下がり。店を出た友坂君は、ほろ酔い気分でユカの横ですっかり上機嫌。やがて2人はシュウの指定したある屋敷にたどり付いた。
「友坂君。あのさ、これからいいもの見せてあげたいんだけどさ。一緒にここに入ってくれる？」
「え、何見せてくれるんですかぁ、僕楽しみだなあ」
小さな洋館みたいなその屋敷は、魔界従事者が集会場に使っている所らしくて、涼子先生の屋敷と同じ様に不思議な彫刻・絵画や様々の丁度品が飾られていた。屋敷に入った二人は不思議そうにきょろきょろする。やがて樫の木で出来た重い扉を開けると、シュウが落ち付かない様子で二人を待っていた。
「あ、シュウさんこんにちわあ。何か面白い物見せてくれるって本当ですかぁ」
「あ、ああ、友坂殿。時々余の店の客となって頂いているお礼に、ちょっといい物をお見せいたそうと思い、ユカに案内させたのじゃ。あいすまぬが、そこの隅の椅子にお座り頂けぬか。」
「え、あ、ここですねー」
何の疑いも持たずに指示された椅子に座る友坂君。
「不思議な部屋ですねー、真っ黒な布で覆われて、あ、あの金の竜の刺繍なんてすごい綺麗。その横のは何かの祭壇なんですね…」
これから自分の身に起こる事を何も知らずに、一人上機嫌で不思議そうに部屋を見渡す友坂君。
「シュウ。じゃ始めて」
冷たい口調でユカに命令されたシュウは祭壇の前に座り、何やら呪文を唱え始める。すると部屋の隅に椅子に座っている友坂君を中心に何やらもやの様な物が、そして暫くすると、彼を閉じ込める様に薄いオレンジ色に透けるオーロラの様な壁が現れた。
「わあ、おもしろーい。シュウさんこんな事出来るんだあ」
手を叩く様にして喜ぶ友坂君。しかし、暫くしてもそのオレンジの壁は何も変化しない。
「ねえ、シュウさん。これだけ？」
シュウは呪文を呟いたまま。ユカはあさっての方向を向いて取り合わない。友坂君は椅子から立ち、そっとその壁に触れ、始めて自分がその壁に閉じ込められている事を知る。
「シュウさん。ありがとう。もう止めてくれていいよ。面白かった」
祭壇のシュウの水晶球が淡いブルーの光を放ち始めた。とうとう哀れな生贄の男精気を吸い取り始めた証拠である。
「シュウさん、出してよ。もういいから。あ…痛っ…」
オレンジの結界の中で膝をつき、頭に手を充てる友坂君。
「、友坂君、どうしたの？大丈夫？」
「う、うん。何だか頭が痛い…」
初めて気が付いたという感で問い掛けるユカに、友坂君が弱々しげに答える。
「シュウさん。出して。もう今日家に帰るから。あ、ああっ」
友坂君は突然襲ってきた全身のむずがゆさに、床に倒れ、体をばたばたさせる。
「ユカちゃん、何これ！ねえ、何か僕にしたの！？早く出してよ！」
黙ったまま床でばたつく友坂君を見つめるユカ。やがて彼の動きが幾分穏やかになり、両手を胸元で組む様な仕草になっていく。
「ユカー、出して、出してーっ！」
やがて友坂君は両足を閉じて手を胸元に寄せ、何だかおかまっぽく体をくねらせはじめた。そしてだんだん足を抱きかかえる様な姿勢に変わっていく。
「あーん！、あーーーん…」
声はだんだん喘ぐ様に変わり、傍らの祭壇では水晶球の光がだんだん強くなっていく。
「ごめんね。友坂君。こうしないとシュウが大変な事になるんだもん」
だんだん可愛らしい動きになっていく友坂君を見つめ、ユカは独り言を呟くいた。そして、次の生贄に連絡をとり始めた。ユカの携帯から常盤君の声が聞こえる。
「あ、常盤君。あのね、面白い物が有るの。この前教えた洋館のあの部屋にさ、すぐ来てね。あ、ご飯食べてきた方がいいよ。うん。じゃねっ」
「あ…あーん、あーん…」
それから10分位悶えた後、友坂君のジーンズとシャツが透明なビニールみたいになり、そして消えて行く。ブリーフ1枚になった彼の体が次第に白っぽく変化し始める。
女っぽく身悶えする彼の体は、筋肉の凹凸が次第に埋まり、頬が少しふっくらし始め、開き気味になった唇が丸みをおびていく。乳首はいつのまにか隆起し、乳輪が少し大きくなっている。
「あ、ああん…」
その胸に手を当て、少しのけぞる彼のブリーフは、だんだん柔らかそうな布地に変わり、前の開きが消え、薄い紫に変色していく。やがて縁に小さな可愛いレースが生え始め、まだ大きな脹らみの有る前の部分にも可愛いレースが生え始めた。ふと楽になったのか、そのままの姿で起きあがった友坂君は、男とも女とも分からぬ変わり果てた自分の姿に声を上げてユカを睨みつけた。
生唾を飲みじっと見つめるユカの元に寄り、バリアみたいになった壁に手をかけ、友坂君は更に睨み付けた。
「なんでかわからないけどぉ、僕を女の子にする気なのね…」
少しオクターブが高くなった声で、友坂君は呟いた。
「あ、あはは。ごめんね！友坂君！あの、これにはさ、その、訳が有ってさ、あはは」
「…呪ってやるう…」
男でもなく女でもない、まるで妖精みたいになった彼の目線がユカの目を貫く。
「呪ってやるう、絶対呪ってやるぅ…」
彼の唇が一瞬きらっとしたかと思うと、彼のそれは一瞬でピンク色に変る。友坂君の目に涙が溢れ、ピチっと音がして、丸味を帯び出した友坂君の両肩に紐が食い込む。それは彼の両胸をクロスし背中へと伸びて行く。胸の部分のそれは次第にブラジャーの輪郭に変わり、大きくなった彼の胸を包み込み、乳首の上を可愛い布が覆っていく。彼の目はだんだんぱっちりと大きくなり、睫毛が伸び、眉が可愛く変化していく。伸び始めた髪の毛は、風もないのに結界の中でゆらゆらとたなびいている。
「絶対呪ってやるぅ…」
彼の白い足にキラキラと星みたいなのがまとわりつき、足をすっぽり覆った後、ストッキングとなって足を締めつけ、足元に集まったキラキラが可愛い女物のサンダルに変化していく。そして今度は何やら塵みたいな物が彼を中心にぐるぐる回り始め、やがて薄紫色の雲みたいになりそしてリボンみたいになり、それが彼の体に巻きついていく。
「なんで僕が女の子にぃ、呪ってやるぅー！」
ブリーフが変化した彼の可愛い女の子のパンツに包まれた男性自身、その脹らみは次第に小さくなり、彼のブラの中では、胸が急激に大きく脹らみ、黒ずんだ大きな乳首がブラに透けていた。そのブラの上から薄紫のリボンが彼の体をピッチリと覆い、次第にキュートなミニのスリップドレスに変わっていく。
「ユカ、許さないから…。絶対に呪って、あっああっ…」
少し意識が遠のく様に目を閉じ、再びその場に倒れる友坂君。結界のバリアの前でそれを眺めるユカの頭に、あの日涼子先生の手によって姉の姿に変身した時の思い出がよぎる。ショーツ・ブラ・ブルマ・上着が体にまとわりついて、子供っぽい心になった後、全身がぷりぷりして、丸味をおびて、女の子の香りが鼻について…そしてその時、体の中で何かが弾けた。
（あたしもこんな風に変身したんだ…）
その時、どたどたと音がして常盤君が部屋に駈け込んで来た。
「ごめんユカ！遅れちゃったみたいでさ。あれ？何やってんの？なんか普通じゃないぜこの部屋」
「あ、常盤クン、こばわー。あのね、部屋の隅見てごらん」
彼に離しかけながらユカは用心して常盤君の後ろへ回る。オレンジ色結界のバリアの内側では友坂君が倒れたままうんうん唸っている。彼？の薄紫のスリップドレスが少しめくれあがり、可愛いパンツが覗いていた。
「ええ、ユカちゃん！この可愛い娘誰？誰なの？紹介してよー！」
可愛い女の子？のパンチラに吸い寄せられる様に結界に近づく常盤君。しかし、そのオレンジの壁に気が付き、ふと足を止める。
「あれ、何この光のカーテンみたいなもの。あれ？シュウさんじゃない？一体何やってるの、こんな所でさ」
結界のバリア越しにその女の子の顔を確かめた常盤君は、その正体が判り大声を上げた。
「ユカ！シュウさん！あれ、友坂じゃないの！ちょっと！！おい友坂、お前なんて格好してんだよ！」
その時、結界の中の友坂君にとうとう最後の変身が始まった。スリップドレスのお尻の部分に2つの大きな脹らみがくっきりと目立ちはじめ、ウエストがきゅっと可愛くくびれ始める。常盤君に気付いた友坂君は、すっかり女っぽくなった声で弱々しく話しかける。
「常盤君、助けて…。僕、ユカに女の子にされちゃった…」
女性化していくお尻とスリップドレスにに慣れていないせいか、ぎこちなく体を起こし、ドレスの端を直す友坂君。
「ユカ！一体どういう事だよ！！」
怒って振り帰った常盤君の目には、ユカのミニのスカートの中のピンクのパンツが目にくっきり焼きついた。
「いっ！！」
ユカのキックは見事常盤君の胸に命中し、哀れ、彼は一方通行のバリアを突破し、友坂君の横に転がった。
「務完了！！」
意地悪そうににんまりとほくえそむユカに飛びかかろうとした常盤君だったが、たちまちバリアに妨害された。
「カ！本当に一体どういう事だよ！何だよこの変なの！」
拳でバリアを叩きながら、常盤君がバリア越しに怒鳴る。ユカはとっさに指を口に入れ、両方の目の下に唾を付け、盤君に向き直る。
「ごめんね、常盤クン！あたしとシュウの幸せの為に、女の子になって頂戴！あたしも大切な男友達亡くすのとっても辛いのよ！ほら、涙がこんなに、うっうっ」
両手の人差し指で、目の下の偽涙を指指すユカ。その時、友坂君の短い悲鳴が部屋に木霊した。
「友坂！どうしたんだ！」
傍らではすっかり女らしいヒップになった友坂君が、ペタン座りで両手で自分の下腹部を押さえながら、悲しい目で常盤君を見つめていた。
「常盤君、僕とうとう最後の時が来たみたい。あそこが、なんだか湿っぽいの」
「友坂待ってろ！今助けてやるから」
「ああん、常盤くーん…あそこがじゅくじゅくするよーぉ」
友坂君の下腹部には、とうとう女性器が口を開き始めたらしい。常盤君はくらくらする頭を片手でかばいながら、部屋の片隅の椅子をもう片方の手で掴み、結界のバリアに振り下ろそうとした。
「げっ！やばい！！」
所詮そのオレンジの壁は、生贄を外に出さないバリアみたいな物であり、そんな物をぶつけられたらたちまた割れてしまうに違いない！
幸い？にも、常盤君の最初の一撃は、足がふらつき不発に終った。彼もとうとう初期変身が起こり始めたらしい。
「くっ！くそーぉ！！」
今度は両手で椅子を抱え上げ、バリアにぶつけようとする常盤君。
「あーん！やばい！バリアが破れたら殺されるーっ！」
ユカは恐怖に怯え、逃げようと身構えた。とその時、
「あん…、嫌だあ。常盤クン。一人にしちゃ…」
常盤君の足元では、すっかり女の子になった友坂君が、常盤君の足に両手で抱き付き、破壊活動を妨害し始める。
「バカ！友坂！離せよ！今出してやるから！」
「えー、なんでぇ、もう遅いよぉ。僕…いや、あたしもう変身しちゃったんだもん。それよりぃ、僕一人女の子になるなんてやだもん」
生暖かいねっとりした脂肪の塊になった友坂君に絡み付かれ、常盤君は椅子を落した。
「バ、バカ！よせよ！俺は女になるのは嫌なんだよ！ここから出るから離せ！」
しかし、友坂君は常盤君の足を抱きしめて離さない。
「常盤君も道連れにしてやるぅ」
「友坂、やめてくれ！離してくれぇ！あっあああああっ」
「道連れにしてやるーぅ…」
とうとう、がっくり膝を付く常盤君の首に、嬉しそうに友坂君が抱き付いた。
「常盤くーん、こうしてみるとすごく格好いいんだぁ、ふーん。残念だね、女の子になっちゃうなんてぇ」
「友坂…ユカ…覚えとけよ…」
「あ、常盤くーん、あたしねぇ、女の子の名前考えたんだぁ、あたし、「悠」にしよっかな。あ、「かな」もいい名前だなぁ、常盤くーん、「かな」にしないぃ？」
常盤君は答えず、やがて膝を抱きかかえる様な姿勢になり、友坂君同様女っぽいうめき声をあげ始めた。逃げ様としていたユカもようやく安心し、バリアの中の二人をじっと見つめる。
変身で体力を使い果たしたのか、眠り始めた悠ちゃんの横で、常盤君のジーンズとシャツが透明になり、ブリーフだけの男らしい体が現れた。身悶えする彼の体は、友坂君同様白っぽくなり、胸のあばらが埋まり、筋肉は溶ける様に消えて行く。
「やっやだあ！俺、女になりたくない！」
男らしさが消え、美少年ぽくなっていく常盤君をじっと見つめるユカ。もう彼は抵抗出来ないだろうと思ったユカは、くるっと後を向き、シュウの側へ行く。
「あたしのおかげだからね、シュウ！あんたが昇進出来るのは」
「ユカ殿…ムニャムニャ…本当にいいのか、ムニャムニャ彼らにも生活という物が有るのではないか…ムニャムニャ」
「いいのいいの、結果オーラーッイ！」
ユカがちらっと結界の方へ目をやると、まるで熱にうなされる女の子の様に身悶えする常盤君が映った。既に乳首は少し大きくなりツンと隆起し、彼のブリーフは真白な女の子のパンツに変わっている。まだ男性自身の大きな脹らみはそのままだったが。
頭痛が収まった彼は、自分の体が柔らかくすべすべするのが判ると、両手で胸を隠し細い声でユカに哀願した。
「御願い、ユカ。恥かしいから、せめて女になっていく俺を見ないでくれ！向こうへ行っててくれ、頼む」
「やだ。だってこんなのお金払っても見れないもん！」
意地悪なユカの返答にがっくりくる常盤君。やがて紐みたいな物が胸に食い込む感触を感じた彼がびっくりして目を開けた。彼の目には、細いストラップがだんだんブラジャーの形を作っていくのが映る。乳首がキュンと感じ、ふっくらと盛り上がって行くそれを、柔らかいブラのカップの布が覆って行く。
「やっ、やだあああっ」
彼は少しオクターブの上がった声で、女の子みたいな悲鳴を上げる。次にピンクと紺色の小さな雲みたいなのが、あお向けに寝ている彼の上を旋回し始める。
「やっ、やーーん！」
その雲は、だんだん女っぽい悲鳴を上げる彼の体を取り巻き始めた。紺色の雲は下半身へ。ピンクのそれは上半身へ。それは真綿の様に彼の体に巻きつき、きゅっと彼を締め付ける。見る間に彼は紺色のホットパンツとピンクのキャミソール姿に変わっていく。ホットパンツからはきらきらと星の様な物が、彼の白く柔らかく丸みを帯び始めた足を覆い、ストッキングと厚底のサンダルへと変化した。
「い、いやっいやーーん！胸が大きくなるーっ」
恥ずかしそうに両腕で胸を押さえる彼の髪は、すーっと長く伸び、髪に可愛い髪留めがついたかと思うと、腰まで有る長い髪の毛に変わっていく。
「あん…あん…あん…ん…」
細かい所まで女の子への変化が始まっているのだろうか。可愛い声で喘ぎ始める彼。遂に彼は自分の運命を悟り、あきらめた様子だった。長く伸びて行く髪の毛を感じながら彼は、先日公園でのユカの言葉を思い出していた。
（やだなあ。生理が来るなんて。トイレ不便だって行ってたっけ。男の子に抱かれる様になるんだっけ…）
お尻が熱っぽく、ふわふわとなり、弾ける様に脹らみ、ホットパンツがはちきれそうな感触を感じた彼は一筋涙を流す。
（もう、俺戻れないんだ…）
そしてとうとう彼は、軽くなった股が少し裂ける様な感覚を覚える。
「ばいばい、男の子の俺…」
裂け目に湿っぽいじゅくじゅくした感触を覚えた彼は、ふっと気を失った。
その時、シュウの水晶球を見ていたユカが悲鳴を上げた。それは閃光花火の様な火花を発し、うっすらと煙を上げ始める。
「シ！シュウ！！水晶球が燃えてる！！」
その言葉にびっくりしたシュウは水晶球を見て、引き攣った様子を見せながらも呪文を唱え続けた。
「あ、これは、もしやムニャムニャ、余の水晶球は久しく魔力を満杯にした事が無いもので、ムニャムニャ、劣化して規定通りの魔力が貯められないのでは…！ムニャムニャ、しまった。余とした事が！この魔力は男精気から取った特別な物だった！」
「ちょっと、シュウ！光が漏れてるよ！」
「いっいかん、このままでは、爆発するぞよ！！」
咄嗟にユカはその水晶球を祭壇から持ち上げようと手をかけた。その途端！
「キャーーーーーー！」
高圧電流に振れた様なショックを覚え、ユカは痙攣しながら床に転がった。
「あ、ユカ殿！そうなってしまった水晶球は人間では触れないのに！ユカ！ユカ姫―っ！」
その途端、間一髪？で女の子に変身した常盤君と友坂君を閉じ込める結界が消え、息苦しい空間から開放された二人は、眠ったまま気持ちよさそうに大きな息をする。
ころころとその水晶球は床を転がり、さっきからユカのリュックを抜け出し、餌を探していた2匹の芋虫兄弟の元へ転がっていった。
「ねえねえ、兄ちゃん。この綺麗な水晶球なあに？これ食べれるのかな？」
「あ、おい弟！確か以前魔王様がこんな球手に持って、とっても喜んでいたの見た事があるぞ」
「あ、兄ちゃん。じゃあこれ魔王様の所へ持っていこうよ。何か美味しい物くれるかもしれないよ」
「お、そうそう！じゃ早速持っていこう。行くぜ弟！」
芋虫兄はそれを飲み込み、傍らの魔界へ通じる鏡へ飛び込む、弟芋虫がそれに続いた。
ユカを介抱していたシュウは、その様子を見るなり、大声で叫ぶ。
「ば、ばかもの！それは余の苦労のたまものであるぞ！さっさとこちらへよこすのだ！待て！泥棒芋虫！！」
その時、シュウの腕の中でユカが苦しそうにうめく。
「シュウ…苦しい…助けて…」
「ユカ！ユカ姫！今手当てしてやるぞ！あ、こら！待て！大泥棒！！」
さて、シュウはどうするのか？ユカを介抱するのか？それともユカをこのまま置き去りにして水晶球と芋虫兄弟を追いかけるのか！？
翌日の午後、以前と同じ様に自分のアパートの中の机の前でうつ伏せ、以前より深刻な顔で思い悩む女の子が一人。昨日、水晶球に触ったショックで気を失ったユカ君である。自分の昇進よりユカを選んだシュウの手により手厚く介抱されたユカは、今朝には元気を取り戻し、今こうしてここにいる。シュウはあの集会場でタダ同然で配られる、水晶球を手に入れ、重い足取りで名古屋駅前に占いの店を出しにいった。そしてあの場所で美少女に変身した友坂悠ちゃんと常盤かなちゃんは、たぶんシュウが連絡したのだろう。涼子先生が引き取り、今彼女の屋敷で寝ているらしい。
そして、そして！昨日より一回り大きくなって今朝ひょっこり戻ってきて、今ユカの前で楽しそうにくっちゃべている諸悪の根源！シュウの（4級使い魔）への昇進はもう絶望的だろう！こいつらのせいで！もう怒る気もしない。
「あのねあのね、ユカちゃん！昨日あの水晶球魔王様の所へ持っていったらね、魔王様すっかり喜んでね、こんなのくれちゃった」
薄目で弟芋虫を睨み付けるユカ。そいつは全然気にしないで口から1枚の分厚い羊皮紙みたいなものを吐き出す。
「芋虫兄弟へ。よくがんばったね。私はとーーーっても嬉しい。3級使い魔の資格上げるから、これからも頑張ってね。じゃーね。魔王より」
そこに書かれている文章を読み、ユカは何だかバカらしくなり、更に溜息をつく。こいつらの組織って何なんだっけ？しかも、今はこいつらの方がシュウより2階級も上！？？」
「そいでね、そいでね。魔王様からこーんなの貰ったんだよ」
今度は兄芋虫が、薄い緑色に輝く綺麗な水晶球を口から吐き出す。
「これがね、３級使い魔の証明品だよ。芋虫用に小さくしてあるのだな。そしてそしてだな。今日から僕達もこれを使って占い家業の免許皆伝なのだな」
いったいこいつらの腹の中ってどんな構造になってるのだろう！後で腹掻っ捌いて調べてやる！
ユカのそんな心の中を知らず、弟芋虫が目を輝かせて付け加える。
「そしてね、そしてね！魔剣師ジル様から特別褒美として、人間と芋虫含む72生物の言語解析能力と3Ｋｍ四方のテレポート能力を身につけたのだな。ユカちゃん！僕達偉いでしょ！」
それを聞いたユカの耳がピクっと動く。そして兄芋虫がユカの前に１歩出て、何か話しづらそうにもじもじする。
「そ、それでだなユカちゃん。今朝魔王様の所から帰ってきたら、僕達のエサ箱が無いのだな。部屋中捜したけど、どこにも無いのだな。後は、そのユカちゃんの座っている机の引出しの中だけなのだな…」
（当たり前じゃ！今日という今日はお前達を叩き出してやる腹積もりだったんだからな！）
弟芋虫も冷や汗を掻きながら、ユカの前に1歩出る。
「ユカちゃん、そいで…だな。僕達昨日から何も食べてないのだな。つまり、はらぺこなのだな。そいでそいで、昨日友坂君と喋っていた時の牛丼…、その、高い奴じゃなくていいから、（牛丼亭）の（並）でいいから、その、食べさせて欲しいのだな」
どうやらこいつらは、自分達のしでかした事がどういう事なのか薄々感づいているらしい。既に片手で2匹を持てない位でかくなったそいつらを、両手で1匹づつ鷲づかみにして、ユカはその2匹にすごい形相で睨み付けた。
「いいかお前達！一度しか言わないから良く聞け！これから1ヶ月間、毎日シュウの所で占いの手伝いをするんだ！判ったな！1ヶ月後シュウが4級使い魔に昇格しなかったら…お前ら、まじで腹食い破るぞ！！！」
「そ…そんな事言われてもだな、シュウさんの占い当たるかどうかわかんないんだな…」
「お前らが替わりに占なってもいいし！当たらなきゃ無理矢理当てるんだよ！頭悪いなおめーら！！そのジルなんとかから貰った能力とやらを使ってな！！！」
「は…はい。わかりましたのだ」
「今回、きっとお役に立つのだ」
2匹を机の上に放りだし、そいつらの頭をハリセンで1発ずつはたくユカ。
「今行ってこい！すぐ行って来い！！」
「ユカちゃん…、僕達ハラペコで…倒れそうなのだな…」
「ええい、しかたねえ奴らだな！全く！！！」
ユカは机の引出しから、彼らの好物の缶詰（ホリペットフード、芋虫用金印）を2個取りだし、2匹に投げ付ける。そいつらは1個ずつ口で受け止めると、嬉しそうに姿を消した。
うとうとしたユカの耳に、携帯電話の「なんちゃってギャル」のメロディが聞こえてくる。はっとして電話に出ると、それはもはや美少女化した常盤、いや、今は常盤かなちゃんからだった。
「あ、常盤…かなちゃん。あ、もう絶対電話かかってこないと思ってた…。その何て言えばいいか…」
携帯からは、可愛い声になった常盤かなちゃんの声が聞こえる。予想外にもあまり怒っていない様子だった。
「あ、ユカ。まあ昨日のお礼は後でたっぷりしてもらうとして、シュウ君てさ、美青年でとってもかっこいいよね。あたしあんな人に女の子にしてもらったなんて思うと、ぞくぞくしちゃって。うん、友坂悠ちゃんもおんなじよ。ねえ、悠ちゃん」
え、ちょっとぉ！てっきり絶交の電話かと思ったのに！？暫くすると今度は友坂悠ちゃんが電話に出た。
「あ、ユカちゃん。昨日のお礼は今度一杯ご馳走してもらうって事にしてさぁ、僕とかなちゃんでね、とーっても素敵なシュウさんのファンクラブ作る事にしたんですぅ」
ちょ、ちょっと待て！何でそうなるんだあ！！！びっくりして言葉も出ないユカ。
「それでねぇ、今からシュウさん所の出店にお弁当作って持って行ってぇ、ついでにかなちゃんと2人で弟子入りする事にしましたぁ！」
ユカは思わず椅子から転がり落ちる。たった一晩でそこまで女性化するかあ、おのれらはっ！
「待て！ちょっと待て！お前ら、人の彼氏取る気かあ！」
「だってぇ、こうなっちゃったのユカのせいだもーん。じゃあお弁当作る準備有るから。そいじゃねー。ブチッ」
「待て！待て！お前らをシュウが好きな様にしてやったのは、そう思うとこのあたしじゃんか！！」
あの二人が魔界従事者になったりしたら、シュウとの距離がぐっと縮まって、そしたら、シュウは乱暴な私より…！
携帯を手に取り、どこかへ連絡をし始めるユカ。
「も、もしもし、もしもし！あ。涼子先生！あたし！ユカです。え？？？あ、昨日の事？常盤君と友坂君の事？え、いいじゃん結果オーライって事でさ！二人とも何だか喜んでたみたいだし…わあ！わあ！ごめんなさい！ごめんなさい！ってさ、あの先生！突然で申し訳ないんだけどさ！弟子にしてくんない！？え、誰がって、あたしを！ユカを！…弟子はとらないってさ、先生！あたし誰のせいで女の子になったと思ってんのよ！あ、すいません！先生謝ります！すいませーん！…」
名古屋駅界隈に、イ○ム似の良く当たる占い師がいるとの噂が広まったのは、それから1週間後の事である。
おわり
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