僕の一番長かった日

月夜眠短編集2

「お母さん!卵まだ?」
「ちょっと待ちなさい!お父さんが先でしょ」
「もう、今日早く行かなきゃだめなんだから!お父さん先いいでしょ」
 パンを口に頬張りながら私はぷいと膨れてサラダのドレッシングに手を伸ばした。
「うるさいなあ、朝飯くらいゆっくり食えよ」
 朝のニュースを横目に父がつぶやく。
 私、ひろのっていうの。今高校2年生。今日は私の通っている高校の体育祭。この日の為に1ヶ月の間、朝は近くの公園でランニングと応援合戦の練習を欠かさない程、私はこの日を楽しみにしていたんだ。
「由嘉夫はまだか?まだ寝てるのか」
 長い髪と可愛い円らな目で膨れっ面する私の姿を横で見ながら、ふと父が呟いた。
「知らないよ、あんな奴。勝手に遅刻すればいいじゃん」
 吐き出す様に言って、もう一口大口でパンをかじる私。その時、
「何一人で怒ってるの姉ちゃん、あ、僕もう出るから。あ、それ僕貰おっと」
 いつのまにか制服のブレザー姿に着替え、母が今作って持っていこうとしたオムレツを皿ごと奪い、笑顔でフォークでそそくさと立ったまま口に流し込むのは、姉の私に似た可愛い弟、高校1年の由嘉夫。どういうわけか同じ高校受かっちゃった。
「由嘉夫!行儀の悪い!」
「こら、それあたしのだよ!」
 椅子から立ち上がり、詰めよった私に、さっと食べ終わった皿を手渡す由嘉夫。
「ありがと、おいしかったよお母さん、ありがとねお姉ちゃん、愛してるから、あ、蹴飛ばすのやめて、痛いから」
「もう!」
 そそくさと玄関に行く由嘉夫を半分見送る様に追いかけえいっと空キック、これでも由嘉夫は学校ではおとなしく、可愛い容姿から一部の女の子には悔しいけど人気が有るのだ。母もそんな由嘉夫を少し自慢にしている。
「由嘉夫、いってらっしゃい」
 母も後からついて来て声をかけた。
「はーい、行ってきまーす」
 玄関の戸を開けようとして、ちょっと由嘉夫は私達の方を振り返った。
「どうしたの」
「う、ううんなんでもない」
 由嘉夫は、母の言葉に何か引かれる様に呟き、家を出ていった。
「ああいうがさつな所が無かったら本当に可愛いのにね」
「うん、そうだよね。あ、私の早く焼いてよ!ふみちゃんが迎えに来ちゃう!」
 ちょっと慌しい平凡な家族の朝の風景。でもこれが両親にとって男の子の由嘉夫を見た最後の朝だった。

「ねえ、ひろの、保健室に新しく来たあの先生ね」
「あ、あの綺麗な人?」
「うん、そう。涼子先生って言うんだ」
 ふみちゃんといろんな話しながら中学まで。私の毎日の日課だけど、でも今日は少し早足気味。
「あの先生ねえ、占いとかもやるんだよ。それがすごく当たるの」
「へえ、占なってもらおうかな、あたしも」
「え、ひろの、まさか博との事!?」
「え、うん…、はははっまさか」
 足が少し遅くなる私。博とは一応今付き合ってる形になってはいるけど、ちょっとなんていうか、悪っぽくてチーマっぽくて。前はそういう野生っぽさが興味引いたんだけど。

「おい、ひろの待てよ!」
 うわっ来た。最近あんまり見たくないんだ、こいつの顔。下品だし、強がりで実は弱虫だし。
「なんだ、博じゃん。何!急いでんだから」
「急いでるって、学校行くだけじゃんか。つきあえよちょっと」
「何言ってんの!今日体育祭でしょ!」
「だから遅刻したって構わねえじゃんか、あったま悪いなおまえよ」
 なにバカな事言ってんのこいつは!
「いいかげんにしてよもう!」
「ひろの、早く行こっ」
 博の舌打ちする音と2、3言罵る声が聞こえる。決めたっ、今日終わったらばいばいしてやる。
 
「続いてのプログラムーっ、3年男子、名物バトル棒倒しーっ、さて今年は何人負傷者が出るでしょーかっ、尚、その次の3年女子1500m、出場者は…」
マイクに向かうと性格の変わる放送部のふみちゃんのアナウンス。皆がどっと笑っている中、応援合戦に出場する私は、いくつかのポンポンの入った大きなダンボールを抱えてチァリーディング集合場所へ急ぐ。思えば、あの可愛いチァリーデイングの衣装を着たくて、クラスで立候補したんだっけ。サブリーダーになって振り付けとか覚えて、皆に教えて、今日本番。楽しみ楽しみ。
「おーい、あねき!!」
その声は由嘉夫!部屋で私が練習してる時、いつのまにか入りこんで、私の真似したり、練習を邪魔してた奴。
「あーねーきー!」
ああ、うるさい!何よもう!!
 見ると1年男子の集まってる所の後ろで、由嘉夫他2人で、私のチアリーディングの真似してやがる!ポンポンの替わりにタオルなんか持って。
「ほれ、レッッゴ-、レッツゴー、ブルー、フィッシュ!あっはははは!」
 ああもう、バカは相手にしない。さっさと立ち去る後ろで奴らの笑い声がする。あと2ケースか、持っていくのは。でもこのままだと悔しいなあ、帰りに蹴飛ばしてやろっ!
バトル棒倒し。相手チームの支える棒5mの棒を倒した方が勝ちなんだけど、毎年双方入り乱れ、途中までは皆喧嘩一歩手前の大乱戦。
「やれー!やれー!」
「やっちめーぇ!!」
 所々歓声が上がる会場で、私は由嘉夫を探して走っている。あれ、さっきの所に、いない。どこいったのあいつ。
「あねき!どこに混じってんだよっ、たく!」
「あ、由嘉夫!わわっキャーーーーッ!!!」
 私の体は宙を舞い、いきなり目の前に地面が!そして左足に激痛!!
「いったああああ!」
「あ、あねき、あの、大丈夫!!あ、ごめん、その、そんなつもりで」
 私の足を引っ掛けたのは、由嘉夫だった!
「由嘉夫!このバカ!!」

「ねえ、どうすんの、チアリーディング、一人足りなくなっちゃう」
「今からフォーメーシヨンの変更なんて出来ないよ」
 知らせを聞いて保健室に駆け込んできたふみちゃんと、友達の明美。私の寝ているベッドの横で心配そうに話してくれるけど、あっいたたたっ。
「皆に話した?」
 私は痛みをこらえ、心配そうに尋ねる。
「こんなの言える訳ないじゃん、今さら」
「じゃ、どうすんのよ。あと1時間無いよ。本番まで」
 ふみちゃんが半分泣きそう。
「水嶋さん、どう?足まだ痛む?」
 奥から現れたのは、白衣に竜のペンダントをした涼子先生だった。
「あ、先生だめです。痛くて痛くて」
「ふうん、そっかー」
 先生は布団に手を突っ込み、私の足を軽くマツサージ。不思議とその時だけは痛みが引く。でもその時、先生が口で何かぶつぶつ言ってるのだけ気になるけど。
「ふうん、只の捻挫だとすぐ直るんだけど」
 その意味が今一つ理解できず、私は首かしげる。
「先生、ひろのの事も心配だけど、今日のチアリーディング」
「分かってるわよ。おかしくなっちゃうんでしょ」
「そうだ、涼子先生、替わりに出てよ。フォーメーション大至急変えて、一番楽なポジションの降り付け教えるから」
 ふみちやんと明美ちゃんが涼子先生に哀願。
「だめだめ、絶対間にあいっこないわ。それよりさ。ねえ、由嘉夫君、出てらっしゃい!」
「あ、水島クン!」
「あ、このバカ弟!!」
 カーテンの陰から申し訳なさそうに出てきたのは、事件の張本人由嘉夫クンだった。
「あねき、ごめん」
「もう、しらないわよ。どうしてくれんの!今日の事」
 暫く黙ったままうつむく彼。ふとその口が開く
「おねえちゃん。僕、代役やるよ」
私、ふみ、明美の3人はあっけに取られて口をぽかんと開けたまま、言葉を失った。
「ふふふっ、さっき私がアドバイスしたの。降り付けとか全部覚えてるらしいわよ、この子」
 涼子先生がふふっと笑った。

「パンツは嫌!汚いもん!」
「じゃブラだけでいいから外して」
「嫌!なんでこんなバカ弟に付けさせる為に!」
「困ったわね。保健室にパンツは予備が有るけど、ブラは無いのよ。ブラ無しだと胸がおかしくなるでしょ。誰が見てるか分からないし…」
「……分かったわよ。いいわよっ、貸したげる!あっちむいててっ」
 ベッドの上でジャージを着たまま器用にブラを外す私の横で、ブリーフ1枚になった由嘉夫。やがて先生が可愛いパンツを持って由嘉夫の前に。
「さあ、由嘉夫君。覚悟してね。履き替えなさい」
「え、やっぱ履くの?その、アンスコ履くんでしょ」
「つべこべ言わずに履き替えなさい!!あなたが原因でしょ!」
「それとこれと…」
 ぶつぶつ言いながら、可愛いパンツに履きかえるバカ弟。
「はいっこれっ」
 まだ生暖かい姉のブラを手にすると、涼子先生は由嘉夫の手に通す。
「うわっやっだ。見てらんない」
「いいよ、あっち向いててくれよ、あねき!」
 背中のホックが止められると、由嘉夫クンは少し恥ずかしそう。
「まあ、ぴったりじゃないこのブラ。詰め物は、綿でいいわね」
 少し照れて下を向く由嘉夫。その時カーテンが開いてふみちゃんが飛び込んでくる。
「ひろの、持ってきた…わ…、わあっ、由嘉夫クン可愛いじゃん」
「う、うるさいなあ」
 同世代の女の子に下着女装見られ、由嘉夫クンは、もう真っ赤。
「時間がないわ。早く着せてあげなさい」
 涼子先生に手助けされ、小さなハンカチをパンツと男性自身の間にそして、茶色のストッキングがそろそろと弟の足をなぞる。ブルマーに似た鮮やかな色のアンダースコートが、可愛い弟のお尻を包んで行く。
「由嘉夫って、こんなに可愛いかったっけ」
 ベッドの中からひろのはそんな弟をじっと見つめていた。
「はい、これ…」
 ふみちやんが由嘉夫にボックススカートとノースリーブのユニフォームを渡す。そして5分後。
「あ・ね・きっ」
 もともと私に似ていた由嘉夫。その顔は、自分の姿に少し納得したのか、もう赤くなくちょっと悪戯っぽくなっていた。お尻の貧弱さをうまくボックススカートが隠してる。紺のハイソックスに、可愛いレディースのスポーツシューズ。別におかしくはない姿…なんだけど。
「由嘉夫クン、時間ないから、フォーメーション教えるね」
 由嘉夫の横で下着も露わに素早く着替えたふみちゃんが、紙を広げて、演技する場所、タイミングの合図と移動位置、アトラクション説明とかする。弟はだんだんその気になってきたらしく、いろいろ指示とか復唱したり質問したり。ただ、事もあろうに、ベッドに寝ている私にお尻を向けて。弟のブルーのスカートからアンスコがチラチラする、。そしてそこから見える可愛らしい太もも。
「こら、バカ弟!あたしにお尻向けるな!気持ち悪いからっ」
「あ、ねえちゃん、可愛いでしよ。僕こんなになるとは思わなかった」
 やっと即席の打ち合わせが終わったみたい。
「じゃ、あたしこれから化粧するから、あっそうだ、由嘉夫クンの化粧」
「あたしがやるわ。ふみちやんご苦労様。由嘉夫クンこっちいらっしゃい」
「あの、由嘉夫クン、お願いだからちゃんとやってね!あんたの責任なんだから!恥ずかしがって逃げたり途中で止めたりしないでよっ、西ゴールポスト前、ちゃんと来てね!」
 診察室の隅、由嘉夫クンの化粧が始まる。髪をピンで女っぽく可愛く留めた後、ファンデがはたかれ、眉毛が細く整えられる、頬にチーク、目には薄くアイライン。
「ねえ、先生、何をぶつぶつ喋ってるの?」
 すっかりボーイッシュな女顔になった由嘉夫が喋る。
「うふふっ、おまじないっ」
何か喋ろうとする由嘉夫の口に可愛いピンクの口紅が引かれた。

「由嘉夫!?、あんたなの」
「おねえちやん、信じらんないでしょ。うふふっ僕だよ。可愛いでしょ」
 何故か口調まで変わってしまった弟。何故、どうして?何故化粧でここまで変わるの?不思議な雰囲気のするボーイッシュな女の子になってしまった彼に。
「はいこれ。付けると可愛いわよ」
 涼子先生が可愛く整えられたその髪に、自分の付けていたブルーのヘアバンドを留めてくれた。
「いいこと、終ったらすぐ、必ずすぐにここに戻ってくるのよ」

 どきどきしながら保健室のモニターで、体育際の中継を観続けた。そして
「続いてのプログラム、応援合戦、2年女子ブルーフィッシュ!」
 わーっと黄色い歓声、決められた位置に並ぶ可愛い姿のクラスメイト達。サブリーダの私は本来前から2列目、そこには、あ、あれえええ!
「あ、あたしが、あたしがいるっ」
 可愛く元気に、にこやかに。ぽんぽんを振る私。大きく膨らんだ胸を揺らしながら、可愛く、でも鋭く、そして女らしく飛びはね、スカートからチラチラする可愛いアンスコ。でも唯一違うのは、ショートに留めた髪と可愛いブルーのヘアバンド。これは涼子先生が付けた物だったけど。
 10分足らずの演技を終え、フィニッシュ。みんなポンポンを上に放り投げ、一所に集まってモニターに笑顔。可愛い女の子達に混じって笑顔している、あたし、のはずの弟…のはずの私!?
「いたたたたっ」
 足がまた痛みだす。私は大声で先生を呼んだ。あれ、でもいないみたい。

 すぐに走って帰ってきた弟の姿は、ここから出る時のボーイッシュな女の子だった。
「ご苦労様、由嘉夫クン。早く着替えて。あ、これ返してもらうわね」
 弟からヘアバンドを外し、自分のポケットへしまう先生。
「ねえ、由嘉夫…」
「なんだよ、あねき!早く脱ぎたいんだよ、この服。あ、何だか頭少し痛い」
「ねえ、あんた本当にチアリーディングに出てた?」
「何だよ、お姉ちゃん。モニターで見てたでしょ。ちやんと2列目に。あっれー、やべぇ」
 ぎくっとする私。
「俺さ、ブラに綿詰めるの忘れてた。やべっ、変に映ってたでしょ」
 もう慣れたのか、平気で私のブラとアンスコ姿になり、化粧されたままの顔で私の方に向かって舌をペロッ。
「あのさ、あんた胸膨らんでたよ。それに」
「またそんなバカな事。ブラ付けてたから、ブラが動いてたんじやないの」
 アンスコを脱ぎ、ブラに手をかけた由嘉夫クンが、面倒くさそうに話す。
「あんた、あたし女何年やってると思ってるの!あれは間違い無く膨らんだ女の子の胸だよ…」
「もうどうでもいいじゃんか、終ったんだし!」
 可愛い下着姿で、由嘉夫が自分の服の置いてある隣の部屋へ向かったその時、
「ひろの?ひーろーのっ、いるよね」
ドアを少し開けて除き込む、その顔、その声はふみちやんと明美ちやんだった。まだ可愛いユニフォーム姿。由嘉夫がいないのを確かめた2  人は、素早く私の所へ。
「ねえ、ひろの、生きてるよね?死んでないよね?」
「う、うん、そうよ、このとおりよ」
 2人は狐につままれた様。それは私も同感。
「だって、だってさ、あんたがいるんだもん!私達の中にさ!幽霊かって思ったもん」
「変だよ、まさか涼子先生の化粧で、そんなに変わったの!?」
 信じられないって顔で2人。その時、
「ひろのちやん、足見せてくれる?」
 いつのまにか涼子先生が現れ、布団をめくる。その顔はみるみる曇って行く。
「あ、やっぱり。すごい腫れてる。これヒビ入ってるかもしれないわ」
 紫色に腫上がったその足首。ふみちゃん、明美ちやんの興味はさっきの話しからそっちの心配へ移って行く。
「だめね。これじゃ今日どころか暫く走れないわよ。ひろのちやん残念ね」
「ひろの、もういいよ。ひろので絶対点取れる種目だったんだけどな。1500m」
 ふみちゃんと明美ちゃんも残念そう。競技開始まであと30分。
 その時、涼子先生が声を潜めて話しかけた。
「あなたたち、ひろのちゃんが出場出来ればいいの?」
私達は顔を見合せる。みんな一生懸命この日の為に練習したんだもん。そりゃいい成績出したいし。
「方法が一つだけ有るんだけど」
え、また由嘉夫クン使うの?無理だよ。ブルマ着用だし、男の走りしてたらばれちゃうもん。
「みんな、これからの事は絶対他に話さないって約束してくれる?」
 再び顔を見合せる私達。ふみ、明美が目でOKしてくれたの見て、私もうなずいた。
「はい、約束します。でも実はその前に、あの、さっきの事で聞きたい事が」
 そんな私の言葉を無視するように、涼子先生は由嘉夫を呼んだ。
「明美ちゃん、ふみちゃん。窓のカーテン全部締めて。終ったらひろのちゃんのベッドの横に来て。あなたたちの力が必要なの」
 顔を洗い、男子の体操服姿になった由嘉夫クンが入ってきた。
「あねき、俺なんだか胸が痛いんだけどさ、あれ、何するんですか?」
 涼子先生は部屋の奥から、いろいろな動物が彫刻されたモニュメントを4つ手に抱え、私の寝てるベッドの4隅に。びっくりした様に顔を見合わせる私達と、何が起きているのかわからない由嘉夫。明美ちゃんが恐る恐る口を開く。
「あ、あの、ひろののブルマとか、持ってきましょうか」
「いい、時間無いから、服ごとやるわ」
「先生、いったい何するんですか」
 先生の目つきがいつもと違う。そして先生は白衣を脱ぐ。奇妙な模様の黒のワンピース姿になった先生は、少し笑って私達に話す。
「これが私の正体なの。こういう世界は実は本当に有るのよ。由嘉夫クン、もういちどお姉さんに変身して頂戴。さっきのは軽い魔法だったけ ど、今度はそうはいかないわ」
「え、どういう事。また俺女やるの!」
「ふみちゃん、明美ちゃん。今から全てが終るまで、ひろののどこかを触ってて。絶対手を離したらだめよ!それから由嘉夫クン、ベッドに上がって、布団を剥いで、お姉さんに馬乗りになって」
「えええ、先生、そんなの嫌よ!こんなバカ弟に」
「早く!時間無いから!」
 厳しい口調に私はぎくっとする。弟はしぶしぶ私の上に。硬い体と体操服の汗臭い匂い。。そして、こいつ、姉のあたしに興奮して、その、固くしたのさ、腰に当たるのよっ!気持ち悪い!!
「え、それってなんだか、あはは、……、なんかあねきを犯すみたいで」
「由嘉夫クン!!」
 先生の鋭い声に、びっくりして黙る。皆も何が起きるのか分からず、只じっとなりゆきを見つめていた。
「本当はこの魔法はこんな事に使うんじゃないんだけど、しかも未成年に使うのはちょっと、刺激が強すぎるし。でも仕方ないわ。みんな何が起きても驚かないでね。そして絶対口外しちゃだめよ。もし言っても、私には誰が言ったかわかるんだから」
 この先生の占いって当たる訳がなんとなく分かった。
「由嘉夫クン。あなたは女のふりするじゃなくて、お姉さんになるの」
「ええ、マジ!」
 涼子先生が口で呪文らしきものを唱え始めた。最初は俺いやだなあなんて言ってた由嘉夫。でもそのうち。
「あ、あねき、なんだか俺変な気分」
 馬乗りになってる弟から、私は目をそらす様にする私。でも、あれぇ。
「あ、俺何だか。風邪ひいたみたいな。あ、わわっ」
 由嘉夫クンの体操服が、少しずつ透明になり、白いランニングシャツとブリーフが透け始める。
「せ、先生、俺やっばり!」
「死にたいの!由嘉夫クン。黒魔術の世界よ。少しでもベッドから出れば、あなたは死ぬわ!」
ベッドから降りようとする弟を止め、再び呪文を繰りかえす先生。やがて由嘉夫クンの服は透明なビニールみたいになり、消えて行く。
「あっあっあねき、お、俺、ああああっ」
 突然ノーブラの私の胸に顔を埋め、顔を擦り付ける弟、驚いて払いのけようとする私を、涼子先生は制止。明美ちゃん、ふみちゃんは、もう驚いて声も出ない。
「うーん、う…ん」
 暫く私の体にじゃれつく様に体を摺り付ける弟。なんだか声も甘えてる様に変わってく。その時、弟の頭ごしに見えるそのブリーフが、なんだかピンク色に変色している感じがした。気のせい?いや、違う
「ひろの!あ、あの、由嘉夫クンのパンツ…」
 間違い無い。弟のお尻を隠しているブリーフはいつの間にか可愛いピンク色に。その時、
「お、おねえちゃん」
 お、おねえちゃん!!あねき、としか言わないあんたが。ふと顔を上げた弟、そしてにこっとする。私は息を呑んだ。確かに弟、弟のはず。でもその顔は小学校時代、時々私に間違えられてた時のあどけない美少年の顔になっていた。
「おねえちゃん、柔らかい」
 再び私の胸に顔を埋める弟。
「涼子先生、ちょっとこれ…」
「ひろのっ、由嘉夫クンのパンツ!」
「ん、僕のパンツゥ?どうかしたの?」
 弟は、私の上で体を左に開き、私に添い寝する格好。そして私は驚いてキャッて声を上げる。ピンク色に染まったブリーフは、だんだん柔らかそうな生地になっていく。大きな由嘉夫のもっこりを包むそれのも前開きの部分が少しずつ消えてく。そして、足の方の淵には、小さなフリルが内側から生えて行く。そして股間の布がもう1枚貼り付いて行き、2重になったそれは、女の子の下着にみな有るマチのラインを作っていく。、
「ああん、不思議」
 すっかりおかまっぽくなっていく弟。
「おねえちゃん、僕かわいいい?」
 再び私に馬乗りになり、流し目を作って私に迫って来る弟。硬かった弟のあそこはなんだかぐにゃっとした感覚に変わってる。そして肩ごしに見えるあのパンツはとうとうウエストの上が透けて行く様に薄くなり。そして可愛いレース状になっていく。そう、それはひろのが今日着けているパンティーと同じだった。
「おねえちやん、あははっ」
 弟の声が少し高くなった様。そして今度はランニングシャツがピンク色に変色し始め、それがだんだん短くなっていく。それとともにだんだん露わになっていく弟のお腹は、みるみる白っぽく柔らかそうに。そして弟の履いていたハイソックスは、足首の部分がぶくぶくと波打つ様になっていく
「おねえちゃん。好き…」
 体を摺り寄せる弟。でも、その胸の感触が変、
「由嘉夫!あんた、胸尖ってる!!」
「え、僕の胸、ふふふっ、いいの。僕女の子になるんでしょお」
 ふと馬乗りになったまま膝をついて、体を起こす由嘉夫。
「あん、すっごく気持ちいい…」
 片手で髪の毛を手櫛ですく弟、髪はハラハラと指の間から流れ落ち、つんと顔を上げながら目を瞑る。その姿はもうおかまっぽくは無く、これから女に変わっていく幼い女の子の表情だった。
「あ、おねえちゃん。胸、おもしろーい、膨らんでくよぅ」
 ランニングのチビシャツみたいに変化したそれから、弟の大きく、黒くなった乳首が透ける。そしてそれはだんだんチビシャツにテントを張る様に突き出し、大きくなっていく。
「あ、感じるぅ、おねえちゃん、僕すっごく感じるぅ」
 その途端、そのチビランニングは弟の胸にぴったり吸付く。すっかり膨らんだバストの形が浮き出て行く。そして、肩の部分がだんだん細くなる。吸付いた胸の下にくっきり丸い線が浮かび、ワイヤーの様になり、それが中心まで伸びて行く。可愛いおっぱいを包んでいる部分の上部は透け、カップになった下の部分には可愛い花の模様。肩の部分はとうとうストラップに変形し、最後に全部に小さなレースの様な縁取りがまとわりつき、後ろにホックが生まれ、一瞬きつく弟の胸を締め付けた。
「キャッ」
 可愛い声を出し、弟は再び私に馬乗り。
「おねえちゃん、僕、女の子になってくぅ」
 弟の股間に有るはずの固い物は、ぐにゃぐにゃに柔らかくなったあと、だんだん小さくなっていくみたい。そして、私と同じ甘酸っぱい処女香が漂ってくる。とうとうキスをせがむ様に私に迫る可愛くなった弟。そして何故か軽く私はその唇に私の唇をフィット。
「わあ、なんて柔らかくなったの、この子の唇、それに…」
 いつの間にか細くなった眉、膨らんだ頬。くりくりしていく目。その目は何故か怪しく潤んでる。
「あ、僕、お尻が変…」
 可愛いパンティーに包まれた弟のお尻には不思議な白いもやみたいなのが取り巻いていた。だんだんそれは色が黒くなり、弟のお尻を包んで黒のショートパンツみたいになっていく。そこから生える、もう柔らかく、丸みを帯びた太もも。その先にはルーズソックスに変形したハイソックスが有った。
「あん、あああん、くすぐったあい…」
 あ、もう殆ど女の声じゃん、由嘉夫!
 そして可愛いホットパンツみたいになったその黒い物は突然弟のお尻を包み込み、きゅっと縮んだ様に変形。
「キヤッ、う、うん」
 ブルマーに変形してしまったそれは、だんだんしわがなくなりぱんぱんに張って行く。そして今度は、ハート型に大きく変形していくお尻を包み込み、ブルマー自体が、膨らむ様に大きくなっていく。
「あ、おねえちゃん、おねえちゃん!僕、僕!」
再び両膝ついて体を起こす弟。いや、可愛いブラを付け、ウエストのだんだんくびれていくその姿、それは、もうあたし、ひろのでしかなかった。
唯一の男の子の名残がブルマーの前の小さな膨らみになってる。
「あん、恥ずかしい」
 今度は可愛く胸の前で手をクロスする、ほぼ私と同じ形になった由嘉夫。その上からさっともやがかかり、丸首の可愛い女子用の体操服が蒸着する様に現れた。そして、ブルマーの前の股間が
「あん、ああああん・・んっ」
 ブルマーの生地はそのふくらみを後ろに引っ張り込み、お尻がぷるんと揺れた。その膨らみの有った場所には、可愛い逆三角形のしわが出来た。
「あん、おねえちゃあああん」
 すっかり変身した事を悟ったのか、由嘉夫は私に抱き付いていく。ぷるぷるの脂肪の塊になったその体は、私とそっくりの女の子だった。
 あっ突然崩れる用に椅子に座る涼子先生!
「明美ちゃん、あと何分」
 明美ちゃんはすっかり私に変身した由嘉夫を見つめ、口ポカンしてる。
「明美ちゃん!!集合まであと何分!!」
 疲れ切った様子で涼子先生。ふみ、明美、そして私はふとわれに帰った。
「あ、あと集合まで10分です」
「すぐ連れて行ってっ、後頼むわね。あとこれ付けさせて」
 先生さつきのブルーのヘアバンドをふみちゃんに投げてよこし、自分は水をコップにくみ、ぐいっと煽る。まだ私にじゃれつく弟を引き剥がす様に、ふみちゃんが弟を連れて行く。涼子ちゃんにも付き添われ、ドアから出て行く。先生のブルーのヘアバンドを髪に留め、ブルマーで包まれた可愛いおしりを揺らしながら2人のチアガールに付き添われて行く弟に、私はすごい不安感を感じた。
「いい、由嘉夫、じゃない、ひろのちゃん!何を喋られても、「今日は気分すぐれないから、後で」って言うのよ!」
「うん、わかったあぁ」
「大丈夫かな、この子」
 ふみちゃんの諭す様な言葉が廊下に消えて行く。
「あ、木崎先生ですか、ええ水嶋由嘉夫君の担任の。ええ、ええそうなんです。本人も足首負傷しまして、それで今日は大事をとって帰らせました。ええ、ええ、いえとんでもございません。はい、ははは、なかなか姉思いの子で、はい、それでは」
 由嘉夫のアリバイを作る涼子先生の声が響いていた。

 号砲が鳴ると駆け出すブルマー姿の女の子達。メンバーから行くと次はあの子、あたしになったあの子の番。モニターを見ていると、あ、いたいた。ヘアバンドを整え、ブルマーの淵をちょっと直す仕草までしてる。そしていよいよ弟の番。
「用意、バン!!!」
 号砲1発、走り出す可愛い女の子達。でも、あれ、予想以上に走るスピードが遅いあの子。あの子の表情を見ると何か変な表情。上向き加減で目を少し瞑りながら。
 スピードは他の女の子と変わらない。そして、手の振りとお尻のふりがばらばらになってる。
「あ、そうだった」
 モニターを見ながら涼子先生が話す。
「男の子と女の子で体型が全く違うから、男の子と同じ感覚で走ると、バストとお尻のバランスが取れなくて…」
 私は涼子先生を見つめた。
「かなり走り辛いかもしれない。それに」
「それに?」
 私はぎくっとして再度モニターを見る。
「あの子、あなたの体を服ごとコピーしたから、ほら。ブラジャー。スポーツブラじゃないでしょ。あのときのあなたのブラ。外してはいたけど、普通のブラでしょ」
 ああっそう。って事はあの子、普通のブラで…
「乳首の擦れる感覚の知らない子が、いきなりあの感覚に襲われたら…」
 あっちゃー、あの子あの乳首の擦れる感覚に襲われながら走ってるんだ。1500mも!
 モニターで見る弟の表情は、やはり苦しいのではなく、どこか恍惚とした表情だった。そして、結果は3着。ま、まあ、いいか。よく頑張ったわよ。
 涼子先生もやれやれという雰囲気で奥に向かった。
「さて、由嘉夫クン来たら知らせて。あの術を解かないとね」

 10分、20分経過しても由嘉夫は戻って来ない。おかしい、どうしたんだろ。先生も不安顔。
「どうしたんだろ、あの子。すぐに帰って来る様に言ったのに…」
 その時、ドアがガラっと開いて、ふみちゃんが駆け込んで来る。
「由嘉夫クン!来てない!?」
「ふみちゃん!まだ来てないのよ」
「ああ、じゃ、やっぱり!由嘉夫君、どうやら博と一緒にどこかへ行ったみたいなの!」
「ええええっまさか!」
「まずいわ、あと、…15分、15分までに戻ってこないと!!」
 涼子先生がそわそわし始める。
「どうなるの!先生!」

 言葉巧みに博に第2体育倉庫内まで連れてこられた、女姿の由嘉夫クン。そう、昔、博がひろのちゃんとつきあい始めた頃、自分の家に遊びに来るチーマっぽい博に、実は弟の由嘉夫クンも密かに憧れていたらしい。もっとも男女の仲ではなく、かっこいい兄貴としてだけど。
博は博で、今日胸を揺らしながら少し色っぽく走るひろの(由嘉夫)にとうとうイカレテしまったみたい。
 走っているうち、女の子の乳首の感覚がすっかり身につき、少しどうかしてしまった僕。
 そんな僕の目の前に憧れの博クンが。
「ねえ、お話って何?」
 可愛く尋ねる由嘉夫の顔を両手ではっしと抱え、強引にキスする博。
「あっ博クン、ちょっと!」
「ひろの、今日こそ言わせてくれ。お前が好きなんだ!」
「あ、博クン、うぐっ」
 再び唇を無理やり合わせられる。あ、僕帰らなきゃ。保健室へ
「あの、博クン、僕、じゃない、あたし保健室に用が…」
「何言ってんだてめえ、逃げようったってさ、今日はだめだぜっ」
 だんだん鼻息が荒くなる博、あ、やめて、胸を揉むのは、
「あん、あああん」
 さっき散々刺激されたおっぱいに、今度は硬い男の指先。それが由嘉夫を襲う。だめ、変になるっ
「ほら、みろよ、抵抗しねぇ癖に!」
 しないんじゃなくて、出来ないんだよ、僕。ああ、早く帰らなきゃ!
「ひろの、好きだぜ、好きだ」
 ああっ、どうして僕がおねえちゃんの替わりに襲われなきゃいけないの!あ、でも、こんな気持ち始めて。
 たちまち体操服脱がされ、上半身はブラだけの姿。そして博の左手が、あ、そこは、僕だってまだ見てないのに。あっあっ
 暫く由嘉夫のブルマの上から、女の子の秘部をなぞる博。何故か抵抗出来ず、かすかな声さえ上げ始めた由嘉夫。
「ふふ、ひろの、今日やって正解だったじゃねえか。今、俺の女にしてやるぜ!」
 ブルマがあっというまに膝までずらされて、そして、少し前までブリーフだった可愛いピンクのパンティの中に博の手。由嘉夫もまだ見ていないおねえちゃんの秘部に手が。
「あああああっ、博兄ちゃん、やめてえっ」
「ひ、博兄ちゃん!へ、変な事言うじゃねえかお前!」
 女性器になったそこに博の指先、そこは2枚の柔らかい花びらの様になっているって事を、由嘉夫は博に触られて初めて知った。その合わせ目の小さな突起を触られると、由嘉夫は声を出しのけぞった。
「あ、ああん、博兄ちゃん、うううん」
 由嘉夫は、博に甘える様に抱きついた。さっき、姉のひろのに変身中に、姉の体の上で感じた感覚が蘇ってくる。自分自身に出来た、貝の様になっていると思われる、女の子の秘部。そこが何だかじめじめしていく。そこを触る博の手。その手がふと抜き出され、僕の目の前に、
「ひろの、ほら、こんなに濡れてるぜ」
「博ィ…」
 その指を唇で軽くかむ由嘉夫。強く匂ってくる、彼(?)フェロモン香と、いつのまにか流し目になる表情。博は興奮し、とうとうズボンのベルトに手をかけた。それをじっと見つめる由嘉夫。
ああ、僕、犯されるんだ…。素敵な博兄ちゃんに。ああ、もうどうなってもいい。僕…
由嘉夫の目はそんな表情だった。

「わかったわ、第2体育館倉庫!」
 叫ぶが早いか、涼子先生は保健室を飛び出す。
「先生、どうして判ったの!?」
 後を追いかけながら明美ちゃんが聞く。
「あの、青のヘアバンドが、今そこに有るのよ。早く!あと6分!」

「博兄ちゃん、あん、好きっ好きっ」
「ひろの!可愛いぜ!あっあっ」
 今日始めて女になり、そして女の快感をいろいろ経験した由嘉夫クンの心は、暫く現実には戻れないだろう。
 その時、長年の博のワル特有の敏感な感覚が、小さな物音を捉えた。
「くそっ誰か来やがる!」
 そそくさと由嘉夫を放りだし、さつさとズボンを履く博。やっぱり薄情な奴。
「いいか、ひろの!俺の女になりたかったら、絶対俺がやったって喋るなよ!!」
 ひどい、そんな事言うんだ、博兄ちゃん…
「由嘉夫クン!由嘉夫クン!!、どこにいるの!!」
 それを聞いて博は、けっとツバを吐く。
「ちきしょう、人違いの人探しかよ!お前探しに来たかと思ったぜ。まあいいや、じゃ、またな!」
 うつろな目で博の消えて行く方向を眺める由嘉夫クン。その目には涙が溜まっていた。
「由嘉夫クン!由嘉夫クン!あああっ、誰にされたの!」
 真っ先に僕を見付けた涼子先生。でもその状況を一目見た涼子先生は、へなへなと座り込んでしまう。
「由嘉夫クン!由嘉夫クン!大丈夫!ああっ何…これ…、博!博にやられたのね!!」
「明美ちゃん、ふみちゃん、手を貸して。保健室に運んで!」
 座り込んでいた涼子先生がすっと立ち上がり、2人に指示した。

 保健室で、再び由嘉夫クンはあたしの上に乗せられ、変身解除の魔法を受けた。でも既に変身予定時間大幅超過。そして、対象者が性交したのも支障となったらしく、20、30分たっても、由嘉夫クンは全く元には戻らなかった。
「おねえちゃーん、おねえちゃーん、元に戻りたいよぉ…」
 泣き崩れる、女の子になった弟に出来る事は、優しく抱きしめて慰める事だった。横で必死に呪文を唱える涼子先生がいきなり倒れる。
「先生!」
 抱き起こすふみちゃん。やっぱりだめ?
「ふう、ふう…、やっぱりだめだわ。魔術に約束は絶対なのよ。これ以上やると私が死んでしまう。ごめんね、本当ごめん。由嘉夫君」
 涼子先生の目から涙が流れる。
「違う!先生悪く無い。ねえ、一番の悪を懲らしめにいこうよ!」
ふみちゃんが力強く言い張った。

 体育祭が終ったばかりの夕方。皆片付けに忙しそう。そんな校庭の真中に博が立っていた。明美ちゃんに頼んで、私の名前で校庭の真中に呼び出したんだけど、まあこのバカ、アホ面さげてのこのこ、あの後で良く来るわ。本当。

「じゃあ行くよ。」
 明美ちゃんに肩を借りて、私は校庭の真中へ向かった。やがて、私に気付く博。
「よ、よう、ひろの!元気そうじゃねえか。なんだ、どうしたんだよ。その足」
 博が私の方に向かってきた。その時、校内のスピーカーから大音量でふみちゃんの声。
「ピンポンポンポオオン!全校生徒の皆様にお知らせ致します。ただ今から校庭中央にて、当体育祭、最後のイベントを行いまあす!」
 私は胸に隠してあるマイクのスイッチを入れた。
「え、おい、何だよ今の放送さ、何だろ最後の」
 私は後ろ手に隠した、ラワン板の入った学校カバンを手に持った。そして
「グワアアン!!!」
 思いっきり博をぶったたく。ものすごい音が校舎中響く。
「いっいってええええ!」
 頭を押さえ、転がる博!
「スケベ!!変態!!強姦魔!!卑怯者!!いくじなし!!」
 校庭に響くすごい罵詈雑言の声、その言葉のたびに私はその博に板入りカバン攻撃の雨を降らせた。転がってもはや屈辱と痛みに抵抗も出来ない博に対する攻撃が続く。全校400人の生徒の目の前で。


 そして数ヵ月後、

 由嘉夫が女の子になった後、私達はすぐ転校・引越しをした。数ヵ月間、早乙女クリニックっていう所で精神治療受けた後、私が高校3年の時、由嘉夫はユカに改名し、女子高校生1年生として、秘密裏に社会復帰。当然ながら二人は全く瓜二つ。考えたあげく、姉の私が髪をショートにして、判りやすくしたんだ。

「おかあさん、まだ卵焼けないの、今日早く行くんだから」
「何よおねえちゃん、さっきからあたしが先だって言ってんじゃん」
「違うでしょ!あたしが先だって!ねえお母さん、ユカずるいよね」
「だめ、お母さん!お姉ちゃんにごまかされちゃ!あたしが先だよね!」
「何お母さん味方につけようとしてんのよ!卑怯だよ!元バカ弟のくせに!」
「何いってんのよ!お姉ちゃんの友達のせいであたし、こんなになったんじゃん!」
「あたしのせいだっていうの!」
「半分はそうじゃんよ」
「あんたが博を誘ったんじゃないの!?」
「そんな事してないもん!あいつが勝手にやったんだよ。お姉ちゃん、まさかけしかけたんじゃないの!」
 部屋中に響くすごい女の子同士の喧嘩声。2人とも同じ声だから更にたちがわるい。その時、
「ああうるさあい!!お前達!朝から騒ぐんじゃない!由嘉夫もユカになったんだから、少しは静かになったと思ったら!」
 傍らでぶるぶる新聞を振るわせていた父がついに怒鳴った。ついやってしまうのよねこんな喧嘩。最近週一でこんな喧嘩が起きてるなあ、あはは。
 そんな中、母はいつでも優しい。
「さあ、焼けたから、仲良く半分ずつなさい。すぐあと半分焼いてあげるから」
「はあい」
「はあい」
 兄弟、いや姉妹喧嘩はこの調子だとしばらく終りそうもないなあ。

 

おわり

←漫画版あります
Page Top