私の名は姫。本名ではなくコードネームみたいなもの。福島県のとある湖の湖畔に立つ日本政府のとある秘密機関の女医にすぎません。
ここは、日本に数箇所ある施設の一つで元はとあるホテルを改築したもの。政府主導の元、ある計画に基づき、小さな、しかし日本の行く末をも左右する極秘の任務に就いています。私の様な仕事をしてるのは性転換師は多分日本で百人位、一時期日本の少子化問題は深刻な状態にまで陥りました。その折、とある計画が提唱されて実行され、今日に至ります。
そのプロジェクトとは、毎年夏休み時期に国から容姿性格等で候補に上げられたティーンエイジの男の子の中で、希望する子を女の子に改造する事。その子達には結婚と出産を条件に今後教育と医療においてかなりの優遇制度があります。
そして私の使命は女の子への変身を志願してきた男の子達が本当に女の子になる意思があるのか、そして女の子になって本当に幸せになれるのかを見極めた上で、肉体的そして精神的に女の子にして無事二日後に世の中に送り出す事。
医療技術の進歩は目覚しく、今では二日で少年を少女の体に変える事が出来るけど、心と日常動作を女にするのはやはりその後別所にて約半年から一年のトレーニングは必要。但しそれは私の担当外の事。
これは日常の私の、有る意味自然の摂理を捻じ曲げる様な仕事のごく一部を記述したものです。
「聡美ちゃん、お花替えといて。あと何か音楽かけといてね」
「はーい」
ここの制服は全員白とピンクのツートンのミニのワンピース。ドクターはブルーだけどアシスタントは水色のスカーフ。制服を着た水色のスカーフを巻いた女の子の元気な返事。背中にうっすらと透けるブラの右の肩紐が落ちそう。彼女も実は二年前、この部屋で私が女の子にしてあげた元男の子。女性化養成所でトレーニング受けた後女子高校生になり、二年目の夏休み。優遇措置を受ける事と、ゆくゆくはここのドクターとして将来ここで私と同じ仕事を希望している子の条件として、今日はここでお手伝い。
壁のデジタル時計の表示はちょうど十二時になり、ポーンと柔らかな電子音が鳴った。
(篠原一輝君、十七歳か…ぎりぎりの年齢だよね)
「篠原一輝クン。お入りなさい」
十数枚程の彼の資料を手にインカムのマイクに向かって喋ると、程なく部屋の戸が開く音。
「どうぞー」
と声をかけるけど、なかなか本人の姿が見えない。
(ああ、また恥ずかしがりやさんが来たみたい)
ふと笑ってもう一度
「一輝クン、どうしたの?恥ずかしがらないで入って来なさい」
私の声に花を生けた一輪挿しを私のテーブルの上に置いた聡美ちゃんが、てってってーとドアの方へ駆け寄っていく。そして彼女に連れられたジーンズに半そでの綿シャツ姿の篠原一輝君が、恥ずかしいのかずっとうつむいたまま彼女に手を引かれながら私の前に現れた。
「はい、こんにちは。どうしたの?恥ずかしい?いいのよ。そんな風に恥ずかしがる子は一杯いるからさ。でもうつむいたままじゃお顔が見れないわ。顔上げてお顔良く見せて」
私が優しく言うとやっと顔を上げる一輝君。うん、ほっそりしてるけど顔立ちはいいわ。候補で選ばれた事だけはある。
「はーい、改めてこんにちは。電話とメールではお話したけどお顔あわせるのは初めてだよね。あたしが担当の姫です。コードネームだけどね。そして私の横にいるのがアシスタントの聡美ちゃん」
「聡美です。よろしく」
「あ、あの、篠原一輝です」
あいかわらずうつむき加減でぼそっと挨拶する彼。
「あ、そこの聡美ちゃんも実は二年前はあなたと同じ男の子だったからね」
「え!」
驚いた様子で顔を上げ聡美ちゃんの顔を見る一輝君。えっと、時間も限られてるから早速本題に。
「えーっと、一輝クン。心は決まったんだよね」
「う、うん」
「女で生活する事のリスクは十分判ってもらえたかな」
「あ、はい、そのつもりで…」
私はスキンシップの意味も含めて、彼の二の腕をそっと掴み、その手で彼の太股を指で押す。ほっそりしてるけど筋肉質。これなら余計な脂肪は付きにくいかも。
「バスケやってたんだっけ」
「あ、はい。遊び程度ですけど…」
「ふーん…」
私はもう一度彼の二の腕を指でつんと突く。
「わかってるわよね。これなくなっちゃうからね。それに女になると重いもの持てなくなるし、早く走れなくなるけど、いいのね。バスケ続けるなら今まで通りのやり方出来なくなるからね」
「あ、はい…」
そう言って彼はふと部屋の中を見渡す。
「なんかその、普通の綺麗な事務所みたいですよね」
「え、どんなの想像してた?」
「なんか、機械とかなんやかやで実験室みたいな所を」
「そんなんじゃ一輝クンみたいな人が怖がっちゃうじゃん」
笑顔で答えて私は続ける。
「今日と明日は一輝クンにとって一生で一度の日。あなたみたいな男の子に落ち着いて女の子になってもらおうと思ってさ、こういう部屋になってるの。他にもいろんな部屋あるけどさ」
木の葉模様の絨毯に木目調の机とか椅子とか。別室は施術室とかだからちょっとこことは違うけどね。
「じゃ、いいわね」
「あ、あの、僕、どんな女の子に…」
「さあ、はっきりとは今の段階じゃわかんない。もしあなたが女の子で生まれてきたらって感じに、少し修正かける位かな」
「そうですか…」
私は彼の右手を両手で軽く握る。
「大丈夫。今まで結果に不満を言った子はいないし、ある程度の整形もやったげるから」
「そ、そうなんですか」
「一輝クン、お姉ちゃんいるよね?二つ違いの」
「あ、はい」
「お姉ちゃん、何か言ってた?一輝クンが女の子になる事についてさ」
「あ、あの…」
ちょっと恥ずかしそうにした後彼は続ける。
「お、俺が女になったら、選んでやるから一緒に服と下着買いに行こうって。そして二人で温泉行こうって…」
「へえー、いいお姉さんじゃん」
そう言いながら私は目を通していた彼に関する書類を手早くまとめた。
「じゃ聡美ちゃん、施術室に案内してあげて」