メタモルフォーゼ

(31) 「えっプロの女性モデルデビュー?僕が?」

「えー、なんでそんな事になってんの!?」
「何いってんのよ、すごくいい話じゃん。あんた達プロデビューよ。モデルのさ」
 びっくりする僕に美咲先生がさらっと答える。何でもあの美咲先生の所有しているクルーザーのメーカーが来年日本へ本格的に進出する為に、安くてそして自然な感じの宣伝用プロモーションビデオを作りたいといった話をあの三宅さんに打診して、その結果こういう話になったみたい。
続々集ってくる皆の前で、去年までは何かといがみ合ってた美咲先生とあのひげもじゃカメラマンの三宅さんが、今日は何故か仲良く隣同士で座り、そして美咲先生の隣には、細身で黒のスリムジーンズにTシャツで決めた、見るからに業界の人ってわかる女性が座っていた。
「始めまして、スタイリスト件メークの安倍ちあきといいます。皆さんの事はいろいろ伺っています。あ、それとこれが終わったら明日の撮影に向けての簡単なレッスンを受けて頂きますので宜しくお願い致します」
 ノーメイクに長い髪、そして飾り気も無いけど、何だか大人って感じるその女性が再び頭を下げた。

 とにかく早朝のクルーザーと日の出のシーンやら、美咲先生のクルーザと新型船の併走シーンやら、みんなで遊ぶシーンとか、そしてシーンごとの役割とか、いろいろ決め事が大変だった。そして打ち合わせも終わりに近づいた時の事。
「明日の皆さんの水着ですけど、早乙女さんと美咲さん、そして水無川さん(みけちゃん)と堀さんはビキニ、そして他の方はワンピで、武見さんと渡辺さんはパレオ付でいいですね。皆さん自前でいい水着持ってらっしゃるので、それでいいですけど、いくつか予備で安倍の方で用意・・・」
(そっか、ともこちゃんとまいちゃんは、まだ僕みたいにヒップが発達してないから、ワンピにしたんだ)
なんかちょっと優越感にひたる僕。という話をカメラマンの三宅さんがしている時、
「はいっはいはいはいっ」
 僕の横に座ってた智美ちゃんがいきなり手を上げて話を中断させた。
「智美どうしたの?」
 ちょっと驚いて僕が尋ねる。
「やっばりあたしビキニにしますっ」
 スタイリストの安倍さんがちょっとびっくりして聞き返す。
「え?金井ちゃん、さっきスタイル自身無いからってワンピにするって言ってたでしょ」
「ううん、気が変わったの!やっぱりビキニがいい」
 僕の横で声を張り上げる智美ちゃん。
「えっと、まあいいか、あ、夜のドレスシーンは4人が5人になるけど、いい?」
「いいんじゃないか?別に。ドレスの予備は有るんだろ?」
 安倍さんと三宅さんが小声でいろいろ話している。え?ドレスって、そんなシーンあるんだ。
「なんでビキニにこだわるのよ」
 僕がふと智美ちゃんに尋ねると、智美ちゃんが体を僕にぶつけながら小声だけど鋭い口調で言う。
「なんで元男のゆっこがビキニでさ、あたしがワンピにしなきゃいけないわけ!?」
 僕は少しあっけにとられた後、ぷっと吹き出す。

 ミーティング終了後、過去に僕たちが美咲先生からいろいろしごかれたあの懐かしいフロアに集って、安倍さんのレッスンが始まる。
「簡単な調整だからさ、そんなに緊張しなくてもいいから。じゃみんな1列に並んで、ちょっとかっこよく歩いてみて」
 向かいの大鏡に写るその姿は何だかすごく壮観だけどどことなく可愛い。
「はい、もう一度」
 今度は皆が安倍さんにヒップを向けて歩く。そして数回それが繰り返された時、
「ストーップ。堀さんだけ残って、後の方は休んで」
 ちょっと鋭い安倍先生の言葉に僕はぎょっとする。
「堀さん、もう一度」
 僕はちょっと不安になりながらも、指示された通り一人だけで部屋を往復する。時々ちらっとゆり先生達の方を見ると、なにやら美咲先生と小声で話ししているみたい。なんだろ?何が変なんだろ。
「堀さん、ストップ」
 僕はちょっと怖くなる。どうして?なんでだろ、ひょっとして男が出てる!?
「なんでこの子ヒップが揺れないんだろ」
 安倍先生が僕の所に来て腰に手をかける。
「あのバカ、練習さぼってたな・・・」
 独り言の様に美咲先生が言う。そういえば僕、子宮移植された後何か歩き方で何か言われた様な記憶有る・・・。
「いや、別にそんなに目立つ事じゃないんだけど、ビキニ組みでこの歩き方は絶対かっこ悪いからさ。ほら、この床の線に両足合わせてさ、もっとヒップを振って、足の骨と骨盤の付け根に重心かけてさ」
 あ、そういえばそんな事も言われた。僕全然忘れてる。そして暫く安倍先生の歩き方のレッスンが続く。
「ほら!あんた達ビキニ組がかんばらないと、男が寄ってこないでしょ。それともビキニやめる?」
「いえ、がんばります」
「ゆっこがんばれ!」
 安倍先生の言葉にナイーブになってる僕を、調子にのって真琴ちゃんとますみちゃんがはやしたてる。ますみちゃんはともかくなんで真琴にいわれなきゃなんないのよ!
 安倍さんに腰に手を当てられ、そして普段使ってない筋肉とかを動かされ、何回も部屋を往復してそして痛みに耐える僕。安倍さんの教えてくれたリズムで下半身のあちこちを動かす練習をしているうちに、何だか僕の足の関節がほぐれた様になり、だんだん痛みも消えそして、自分でも恥ずかしい位にヒップが上下左右に動く様になっていく。
(あ、これが女の子の歩き方なんだ)
 僕がそう思った時はもう皆が集ってから1時間近くがたっていた。
「はい、堀さん、最後歩いてみて。ほら、みんながあなたに注目してる。ファッションモデルになったつもりで」
 合図と共に、僕は大きくなったヒップの柔らかな肉の揺れを感じながら、意識的に
それを揺らし、目線は教えられた通り、やや遠くをみつつ歩く。
「ほら、もっとかっこよく。ほら、ヒップ揺らしてそして、そしてタンタンとリズムにのって。はい、そこで腰に手を当てて、顔揺らさない。そう、可愛くなってきた。はい、終り。それ絶対忘れないでね。明日撮影終わってもさ。そうしないといい男寄ってこないわよ」
 そして僕がなんとかうまく女の子歩きができたって思った瞬間、
「バターーーン!」
 誰かの小さな悲鳴と共にすごい音がドアの方でしたかと思うと、白のブラウスに水色のチェックのスカートを履いた女の子達?4人がドアと共にフロアに倒れこんできた。
 一斉に皆ドアの方に目が行き、そして美咲先生が立ち上がって、何か怒鳴ろうとしたみたいだけど、ちょっとまずいと思ったのか、口に手を当ててそれを押さえた。
(あ!あの4人!?)
 多分みんなが
(あ!まずいっ)
て思ったに違いない。僕も突然の事にびっくりして思わず手を口にやってしまう。
「す、すいません!」
「ごめんなさい!」
 多分ボイストレーニングが進んでいるのか、ちょっと低めの女声でそう言ったと思うと、スカートを翻し、ドアをそのままに一目散に逃げていくあの4人。
「え、え、今の女の子達は誰?」
「あんな子達いるなんて聞いてなかったよ?」
 ちょっととまどいながらドアの方気にする三宅さんと安倍さん。
「あ、あの、いえ、なんともないんです。あの、気にしないで下さい」
 美咲先生がちょっと引きつった作り笑いを浮かべながら、ドアに手をかけ、引き起こしてはめようとするけど、なかなかドアがはまらない。ふと三宅さんがその手伝いをしにドアの方へ駆け寄った。
「あー、だめだよ、蝶番が壊れてる。後でこれと同じの買ってきて直してやるよ」
「あ、あの、すいません」
 なぜか親密そうに喋る三宅さんと美咲先生。あれ、あの2人そんなに仲良かったっけ?  今まであんな表情の美咲先生は僕見たこと無いよ。
「あの、今の女の子達は?あの後ろの髪の長い娘なんていいんじゃない?明日撮影に・・・」
「い、いいんです!いいんです!気を使わないで下さい。折角段取りも決まったんだし」
 今度は安倍さんに愛想笑いしはじめる美咲先生だった。長い髪の毛の女の子?って、さっき見たら多分久保田さんじゃないかと思う。やっぱり久保田さん、みんなより先に進んでる。僕はみんなに気づかれないようにちょっとほくえそんだ。
「なんかボーイッシュなのが3人と可愛いのが1人いたよな?」
「だーかーらっ、もういいんだってばー!」
 カメラマンとして気になるのか、しきりにドアの外を覗こうとする三宅さんの手を引っ張り部屋に引き込もうとする美咲先生。
「いったいあの子達誰なんだ?みんな揃いの服着てたし、お手伝いさんか?去年と違って今回は俺たちが全部メシから何からセッティングするんだぜ。仲間はずれなかんて可愛そうじゃないかよ。みんな若いのに。そうだ、お手伝いさんならみんなでサマードレス着てもらってさ、野外での料理のシーン撮ろう!そうだよ、釣った魚を浜辺に持っていったという設定にしてさ、うん!おーい、君たち!」
「もーーーーぅっ、頼むからお願い聞いてっ!」
 しきりにあの4人を追いかけようとする三宅さんと、必死になって部屋に引っ張り込もうとする美咲先生。そりゃそうだよね。女性化教育受けてまだ数ヶ月の男の子にそんな事させられないもん。
最初は僕達も秘密がばれるんじゃないかとひやひやしてたけど、なんか見てて微笑ましいその光景を見ているうちに、なんだかみんな笑い始めてる。そういえば、ゆり先生なんて最初から笑ってた。前の入所式の時もそうだけど、この人ってみんなひやひやしている時に笑う癖でもあるんだろうか?でも言われてみればあの4人可哀相だけどさ、去年は陽子ちゃんや真琴ちゃんもそうだったし。ねっ。
「あーもう、あいつら、後でとっちめてやる」
 ミーティングも終り、やっとあきらめた三宅さんが部屋の隅で安倍さんと一緒に、多分事務所だろうか、明日の段どおりとかを携帯で話始めた時、美咲先生が息をきらせながら、まだヒックヒック笑っているゆり先生の横に座った。
「何よゆり。あんた最近人の不幸見て笑う癖あるのね」
「もう、あの子たちの事、勘弁してあげなさいよ。あたしは最初からあそこにいる事知ってたし」
「知ってたって、ゆり、なんでその時言わないのよ!」
「だって、みんな廊下で4人がこの部屋覗き見しながら、あの歩き方練習してたのよ。かわいげあるじゃん。まあでも、あの歩き方ってゆっこちゃんみたいに骨格が女性化しないと無理だけどね」
 といってまた笑うゆり先生。
(僕、本当に女の子になっちゃったんだ)
 ゆり先生のその言葉に、僕は胸がキュンとなる。
「ねえ、ゆっこ」
 ふとともこちゃんが僕の所に寄ってくる。
「ねえ、ゆっこ。気づいてない?まさかあの2人・・・」
 小声で耳打ちするともこちゃんの言葉に僕はちょっと目を大きくした。

 翌朝早く、部屋の外が騒がしいのに気が付いて、僕が廊下の窓から外を見ると、
「わあ、すごい・・・」
 RVが数台玄関の横に止まっていて、そして男女10数人がいたる所で会話したり、携帯で電話かけていたり。そしてカメラ、レフ番、三脚、照明、アルミケース等外に出された様々な撮影機材の横で、機材の点検している人もいる。
「おはよっ」
 いつのまにかパジャマ姿でまいちゃんとともこちゃんが僕の横にいた。
「おはよーっ」
 女の子らしく手を取り合って挨拶する、もはやほぼオンナになった僕達3人。
「みんな僕達の為に来てくれてるんだよね」
 暫く玄関先の様子を眺めた後、ちょっと意味ありげに言う僕。
「ボクたち?」
 まいちゃんが不思議そうに言う。
「そう、ボク達、だったよね。2年前までは・・・」
 ともこちゃんの言葉に、(あ、そっか)という表情でうなづくまいちゃん。
「ゆっこのヒップ大きくなったよね」
「そーぉ?」
 僕は横を向き首をかしげて、手を大げさに腰に当て、流し目でともこちゃんを見て、そしてヒップの端をちょんと上げる。
「あー、昨日安倍さんに教わった事、もうやってるし」
 まいちゃんが意地悪そうに僕に言う。昨日は夜遅くまで、この別荘に泊った安倍さんに、いろいろな女の子の決めポーズを習ったんだ。最初は興味ある人だけだったんだけど、とうとう女の子?達全員とゆり先生まで出てきて、本当に賑やかで楽しかった。
 特に写真撮られる時の決めポーズは、立ちポーズから座りポーズ、可愛いポーズから大人びたもの、そして男の子を誘う時のポーズとか、本当いろいろ。もう一晩でみんな殆ど基礎的な事はマスターしちゃった。
 それにつられて、3人がおのおの昨日教わった事の練習をするかの様にいろんなポーズを取る。いつのまにか大きくなったヒップを自由に動かせる関節が腰に出来たのが何だかすごく楽しい。そして股間も以前よりは広がっていて、それが女の子らしいポーズを取りやすくしてるんだ。
 僕はともかく、パジャマ代わりのタンクトップとショートパンツに包まれたともこちゃんやまいちゃんのヒップもようやく大きくそして丸く目立ち始め、2人とも本当嬉しそうに、そして楽しそうにいろんなポーズを練習していた。
「よう、おはよう。ははは、朝からもうポーズの練習かい?」
 ふと声の方に振り返ると、大きなビデオカメラを担ぎながら三宅さんが、横に陽子と真琴をはべらせて廊下を歩いてくる。
「みんなおはよう。ねーねー、あたし達朝から早速モデルやったんだよ!」
 陽子ちゃんが嬉しそうに真琴ちゃんと一緒になってはしゃぐ。
「いやね、普段着の何気ない女の子達も結構絵になってね。そうだ、君達も、ほらその窓から3人顔を出して、身を乗り出す感じで」
「あと、もう少しお尻を上げて。あ、上着で隠さないで。もうちょっと3
人くっつけないかな」
 言われる通りに僕たちは3人で窓から外を見てるという風景を三宅さんに撮らせてあげた。ちょっとエッチかなと思ったけど、そのあたりはサービスだし。ひよっとしたら後で一杯撮ってもらえるかもしれないしね。折角女のコになったんだから、オンナの武器は一杯使わないと。
「三宅さん!何やってんの!」
 ふと廊下に目をやると、いつのまにかそこには美咲先生がちょっと怖い表情をして立っている。
「あんたたち、いつまでお尻突き出してるのよ。ゆっこちゃん!パンツが透けてる!」
「え、うそ・・・」
 僕は慌てて窓から身をひっこめて美咲先生の方を向いてお尻に手を当てる。水色の薄い生地のパジャマのショートパンツごしに、当てたその手にはショーツのマチの部分の感覚がくっきりと手に当たった。
「もう、三宅さん。準備とすかるんでしょ。ほらあんたたちも早く出発の用意するの!」
「ははは、またな」
 バツ悪そうに僕たちに向かって軽く挨拶した後、重そうなカメラを軽々と担いで階段を下りていく三宅さんの姿を、腰に手をやりながらため息をついて眺める美咲先生。
「もう、結城先生といい三宅さんといい、なんで男ってこうもスケベなんだろ。ガキに鼻の下伸ばしおってからに!」
 ともこちゃんがくすくす笑いながら僕の所に寄ってくる。
「ね、ゆっこ。だからさあ・・・」
 再び可愛い笑いをするともこちゃん。

 スタッフのメイクさんにしっかり日焼け止めの夏メイクしてもらった後、美咲先生のクルーザと、宣伝目的の中型の新型クルーザは、スタッフと機材を乗せた他のクルーザと共に美咲先生の所有する小島へ向かう。別荘下の洞窟の桟橋を出発してからというもの、新型のクルーザに乗った僕たち女子高校生モデル?組は本当大はしゃぎで、撮影クルーの要求に答えていた。併走する旧型?の美咲先生の「さふぁいあ」では運転をスタッフに任せた美咲先生が、ゆり先生と河合さんとで3人、河合さん以外はビキニ姿でカクテルグラス持って、撮影スタッフに愛想ふりまいてる。
「なんだよあれー、すっごいくさい演技っ」
 さっきから白のワンピにバレオが可愛いとスタッフに言われて、有頂天になってる真琴ちゃんが、そのシーンを指差しながら調子に乗って毒付く。
「いいなあ、ね?ビキニ組脱ごうか?」
「あ、うん、あたしも」
 みけちゃんが言い出してTシャツを脱ぎ始め、智美ちゃんが続き僕はタンクトップ、に手をかけようとしたとき、
「あ、ちょっと待って。3人一緒に脱ぐ所を撮るからさ」
 大慌てでスタッフの一人が別のカメラを用意し始める。
「ほら、3人共昨日夜教えてあげたでしょ?水着の脱ぎ方」
「あ、はい」
「ちゃんと覚えてます」
 一緒にいた安倍さんの言葉に、僕たちは軽く答える。
「はい、それじゃ、1・2・3・キューッ」
 合図と共に横に並んだ僕とみけちゃん、智美ちゃんが一斉に手を前にクロスし可愛さを意識して、そしてみけちゃんはちょっと大人っぽい物腰で上を脱ぎ、そして今度は3人揃って、下のパレオとかホットパンツを脱ぐ。
「いやあ、いい脱ぎっぷりだね」
「ヒューヒュー!」
 スタッフの一人の口笛に、さすがに僕は恥ずかしくなる。
「女っていいよね。服脱ぐだけで絵になるんだからさ」
 ふと陽子ちゃんが僕の横に来て意地悪そうに耳元でささやく。陽子ちゃんと真琴ちゃんもビキニ着たかったんだろうけど、まだ下に小さく付いてるから、ビキニになれないのが悔しいに違いない。
 小島の桟橋には既に2台の小型のクルーザーが係留されていて、浜辺にはビーチバレーの支柱とか立てられていて、そして
「何?あのドラムセットとかキーボードとか」
 僕が不思議がって聞くと、ますみちゃんが得意そうに答える。
「へへっ、あちき達ビキニで無い組で、クルーザの上とかでバンドシーン撮るんでしゅよ。もちろん音とかは後で当てるんでしゅけど」
 そんなものまでやるの?でも真似だけでも難しいのに・・・。
「ギター兼ボーカルはあちき、そしてまこ(真琴)ちゃんと、ともこちゃんがギター。んで、キーボードが河合さんと、まいさんでしゅ」
「え?じゃドラム・・・」
「当然あたしよ」
 陽子ちゃんが横で手を振る。
「陽子、ドラムなんてやってたの?」
 荷物降ろしとかが始まり、ちょっとざわつく桟橋の上で、僕もいろいろ手伝いながらちょっとびっくりして陽子ちゃんに聞く。
「まだ男の子だった時にちょっとね・・・」
 荷物を持ち、僕の横を通り過ぎる時、陽子ちゃんが僕の耳元で囁いた。

「女ってめんどくさいなあ・・・」
 真夏の太陽の下、そう思いつつ全身に日焼け止めを塗った後、女の子?達だけで船の上のランチパーティーが済んだ後、早速片づけて、船上の水着の女の子達のバンドシーンの撮影。でも、こうなるとそのあたり良く知ってるますみちゃんはあれやこれやと、自分がモデルの一人だという事を忘れてスタッフにいろいろ指示してしまう。でもそれがうまく行って、撮影に比較的時間がとれそう。
「ほら、みんな撮影なんだから、すまいるすまいる!陽子しゃん表情が硬い!まこちゃん遊んでるんじゃないれすよ!」
 あの小柄な体でギター片手に飛んだり跳ねたりしながらも、撮影クルーが話す前に、みんなに指示と激を飛ばすますみちゃん。なんか新型ヨットの宣伝じゃなくまるで自分のプロモでも作らせているかの様だったけど、スタッフの皆は結構喜んでいし、僕も時折笑ってしまう。音は後で入れるにしても、音楽にあわせてそれらしき振りするのは結構大変だったみたい。
それにしても真琴はともかく、陽子ちゃんのドラムはちゃんと音楽と合ってたし、そして笑顔の合間に見せるその真剣な表情は、ふと男の子に見える時が有った。
(なんか、男の子?としての最後のドラムを演奏してるみたい)

 それが終わったら、ビーチバレー、そして岸辺のバナナボート、そして場所を船に写して、トローリング(釣り)とスキューバダイビングのシーン、そしてその合間に新型クルーザの各場所での機能説明用のシーンの撮影と、もう本当分刻みの撮影で大変。そしてちょっとでも疲れた表情見せると、
「ゆっこちゃん、頑張って!」
 とスタッフから激が入り、安倍さんからすかさずメイク直しが入る。もう本当疲れた。只、ずーっとビキニで動き回ってるからいつのまにか、はだかに近いその姿を人に見せる事なんて全然平気になり、それに男性スタッフにビキニの紐とかを直されるのにもいつのまにか気にしなくなってしまう。信じられないけど、僕いつのまにかプロのギャルモデルになってしまってる。
 昼下がりにはクルーザを葉山に一旦係留させて、用意されてたマイクロバスに乗り込み、今度は地元の宣伝用の映像撮影の為、江ノ島へ。もうみんなぐったりして眠りこけてしまうけど、すぐにたたき起こされて、作り笑顔を作りながら、サーフショップとかバーとかへ行かされ、そしてまたもカメラが回る。
 でも、僕たちが歩く横にはいろんな撮影機材を持ったスタッフが付くから、周りの女の子達の視線とかが一同に集る。そんな中、冷たい嫉妬の視線も気にしながら、撮影を意識して、しっかり女の子で歩き、時には笑顔を振りまいて。
(あ、わかった!注目される女の子がどうするべきなのかわかった!)
 一瞬何か悟った感じがする。街を歩く僕の作り笑顔はだんだん自然になり、いろいろな所で笑顔を振りまき、時には横に彼女がいるちょっとかっこいい男の子にまで笑顔で挨拶して時には首をかしげてウインクしたり!

「ねえ!みけ!みけ!あたしわかったあ!」
 ようやく街で予定されていた撮影が終わって、クルーザーに戻る時、僕は目を輝かせて、みけちゃんを捕まえて今日思った事とかをばーっと喋る。
「何よそれ、そんなの常識じゃん・・・」
 みけちゃんに軽くあしらわれ、一瞬あっけに取られる僕。
「そんなこと大発見みたいにさ、ゆっこまだ女としての修行たんない!」
「えー、そうなの?」
「ほら、あたしたちの勝負は今夜の撮影よ。たとえ誰でも女の子はさ、一人でも多く自分のファンを作らないとだめなのよ。そしてその中から一番いいのをもらっちゃうの!」
 なんか、みけちゃんすごい真剣。でもなんとなく言ってる事はわかる様な気がする。今夜は、あ、最後の撮影はビキニ組のクルーザでのナイトパーティーの撮影だっけ。

「堀さん、用意できましたので来て下さい」
「あ、は、はい」
 急遽メイクルームに仕立てた別荘の一室では、後から来た安倍さんのチームの女性が一人、僕を呼んでくれた。部屋に入ると既にオレンジのカクテルドレスに包まれたみけちゃんが椅子に座って、安倍さんのメイクを受けていた。
 部屋に入った僕の極度に緊張した様子を見たその女性は、にっこりと僕に微笑んでくれる。
「あ、こういう大人のメークするの初めてですか?大丈夫ですよ。ちゃんと仕上げてあげますから。あ、その前に奥で着替えてください」
 恥ずかしげに駆け足で指示されたついたての後ろに行くと。
(わああっ、何これ・・・)
 小さく畳まれたそれをつまみ上げると、それは薄いピンクのシルクのショーツとストラップレスのブラ、そしてその横には畳まれたやはり薄いピンクのシンプルなスリップドレスと、同色のミュールだった。
(全身・・・ピンク・・・)
 とその時、自分の衣装を抱えた智美ちゃんが入ってきた。
「あ、ゆっこ。へえー、ゆっこピンクなんだ。あたし、ほら白一色っ!何してんのよ早く着替えなよ」
「えー、あたし全身ピンクだよ・・・」
「いいじゃん、別に」
  そういうと智美ちゃんはくるっと後ろを向き、ちょっと絶句している僕を気にせず、キュロットとタンクトップを脱ぎ捨て、ブラを外しはじめる。
「何見てるのよ、早く着替えなよ」
 後ろを向いているはずの智美ちゃんが僕をうながした。
「う、うん、わかった」
 ショートパンツとタンクトップを脱ぎ、ブラを外すと、ブラのカップからDカップ近くに膨らんだバストが勢い良くプルンと飛び出てくる。
(いつのまにかこんなになっちゃった・・・)
 ブルーのショーツを脱いで急いで、急いでそのシルクのショーツを身に付けた時、
(わあ、何これ・・・)
 すべすべした生地が僕の下腹部を包み込む時、なんかぞわーっとした感触を覚える。そして手際よくストラップレスのブラを付け、柔らかな胸の脂肪の塊をその中に押し込み、そして、
(えいっ)
 心の中でそう叫び、足を片一方ずつ通してストラップに手を通して、ミュールを履いた時、白一色に包まれた智美ちゃんがふと僕に寄ってくる。
「いい?あたしより可愛くなっちゃだめよ!ゆっこ元男なんだからね。元々オンナのあたしより目立っちゃだめよ!あたしを立ててよね?」
 僕は一瞬面食らったけど、
(なんだ、そういう事だっの)
 という顔をして、にっこり微笑む。
「わかったわよ、控えめにしとくからさ」
 そういってツンと智美ちゃんの胸をつっつく。

「わあ、みけ!すっごい綺麗!」
「みけって、しっかりメイクするとこんなに変わるんだ・・・」
 リスの様にくりっとした目に明るいメイク。矯正なんかしてないのに抜群のプロポーションと長い綺麗な髪。安倍さんのメイクが終わり薄いオレンジのスリップドレスにくるまたみけちゃんは、本当いつファッション詩の表紙を飾っても不思議で無いくらいの美人に変身していた。傍らの椅子に座って、余程嬉しいのか、折角のメイクを笑顔でくしゃくしゃにして小さなVサインを僕たちに向かって出しまくってる。
「安倍さん、あたしもみけと同じに!」
 智美ちゃんがそういう無理な要求をつきつける。
「あのねー、みんな個性があるから同じにしてもだめだって、わかるでしょ。でも智美ちゃんの個性はちゃんと出してあげるから」
 安倍さんが笑って智美ちゃんに答えた。
「あ、あのお願いします」
「はい、了解」
 僕はおとなしく、安倍さんのアシスタントの女性の横に座る。
(え?僕ピンク、似合うかも・・・)
 目の前の鏡に写る僕を見た時、ふとそう思った。最近ほっぺがふっくらしてきた僕にとって、今まで恥ずかしくて敬遠してきたピンクは、そんなに合わない色じゃないってわかったんだ。
「じゃ始めますよ」
 今まで経験した事の無い、いい香りの化粧水がはたかれ、僕の始めての大人の化粧が始まった。そして・・・
(うそ・・・僕ってこんなに変わるんだ・・・)
 まず髪の毛は丁寧にすかれた後、カーラーを巻かれて、前髪はホットカーラで整えられる。カーラーを外した後は、ウェーブがかかった髪をヘアワックスで手早く整えられていく。
(わあっ可愛い)
 緊張で閉まっていた僕の唇が、驚きと慶びで少し開き気味になっていく。
「まだこれからですよ」
 眉を細く整えられ、マスカラで調えられたまつ毛を更にビューワーでカール。そして薄いブラウンのシャドーにかすかにラメが入った僕の目は、アイドルミュージシャンみたい。ピンクのチークがたっぷりはたかれた頬、そして唇にはとろんと艶の有る口紅が塗られる。そしてきらきら光る綺麗なピアス、そして髪には小さな花のアクセントの有る髪留めをアクセント代わりに付けられると、
(もう、僕何も言えない。本当に僕、3年前男の子だったの!?)
 そこには、女子高校生とは思えない、本当今売り出し中の大人になったばかりの女性という雰囲気の女の子が座っていた。
 隣に座っていた智美ちゃんも、美人でちょっと知的な女子大生という雰囲気に完成していた。
 2人とも喜びいさんで、もうどっちが可愛いかなんてそんな事は言いっこなしで、僕達は手渡された小さな手提げポーチを手に、上機嫌で撮影場所のクルーザへ向かった。

「これ、最高だよ!いい絵撮れそうだ!」
 クルーザで待機していた、大人の雰囲気全開のゆり先生と美咲先生の横で、すごく上機嫌の三宅さんが本当に目を丸くして、賞賛してくれた。
  そしてライトアップされた新型のクルーザで、僕達大人組の撮影が行われた。大人にアピールする為が、もうそこら中にゴージャスな演出が入ってたり、無理矢理変な調度品を持ち込んだり。そしてドレス姿の僕達にちょっとセクシーなポーズもさせてみたり。でも大人のオンナとして扱われている事に満足な僕は全然嫌な気はしなかった。次はどんな撮影?どんなポーズとか仕草すればいいの?もう毎シーンうきうきして仕方がない!
5人の美女の中で、唯一元男の子は僕一人。でも、綺麗さでは他の女性に1歩も負けないもん。そして軽いダンスのシーンでは、ゆり先生と美咲先生、そして以前女性化教育で一通り教え込まれた僕の3人だけが、撮影された。
「クルーザーでダンスなんて、親父くさいよ」
 ジュースを入れたカクテルグラスを持ちながら、僕がちょっと不満を言う。
「いいのよ、どうせ親父しかこんなの買わないし」
「悪かったわねえ、親父でさあ」
 ゆり先生の言葉にすかさず突っ込む美咲先生だった。
「いーなー、いいないいなー、いーーなーーー!」
 撮影をクルーザーの隅で見ていた、ビキニじゃない組の5人が、あまりの羨ましさに、とうとう声を出して撮影の邪魔をし始めた。
「こらっ、あんた達昼間かっこいいバントシーン撮影したでしょ」
「こっちの方がいいなあ!ああ、こんな事ならゆっこよりあたしが先にやっちゃったらよかったーあ!」
 美咲先生の言葉に、ともこちゃんがちょっとドキっとする事を言う。まあ他の人には理由がわからないだろうけど。でもともこ知ってる?今日は他にここに来る事も許されない、あたしの元クラスメートとあたしの友達がいて、どこかで寂しくこのクルーザーを見てるんだって事!
「こっちの方がいいもーん、いいなーーーー、いーいーなああああ!」
 とうとう、意外にも河合さんが半分冗談だろうけど悪態をつき始める。河合さんにそう言われると流石に美咲先生もゆり先生も怒れない。
「も、もう、マキ。邪魔しちゃだめよ」
 ゆり先生がちょっと照れくさそう。

 長い撮影も、いよいよ記念写真も兼ねての最後の撮影になった。もう僕はその頃になるとまるで夢の中にもいる気分だった。そして、僕を真ん中に。みけちゃんと智美ちゃんとの3人で、まるでプロマイド写真でも撮るかの撮影の後、次はやはり僕を真ん中にして、今度はゆり先生と美咲が僕の横に付いて、手を組んでくれる。そしてその撮影に入った時、
「ゆっこちゃん、おめでと、これで本当にオンナの仲間入りね」
 ゆり先生が耳元で囁いてくれるけど、その途端僕の足から力が抜けてしまう。そしてまたもや僕の意思に反して。大量の涙が目からあふれ始める。
(ちょっと!ちょっと!ああ、なんで僕、また・・・)
 女になって困る事、それはいきなり涙が出て、その理由が後から分かる事!
「お、おい、大丈夫か?あ、朝から疲れたんだろう」
 三宅さんがすかさず僕を介抱しに駆け寄る。
「気分悪いの?」
 ゆり先生の言葉に、足がくだけながら首を横に振る僕。
「あー!わかった!あんた達、さっき嫉妬でさんざん悪態たれたでしょ!そのせいじゃない!?」
「えー!ちがいましゅよ!当然冗談でしゅよ!そんな事本気で言わないじゃないれすか!ちょっと、ゆっこしゃん!」
 美咲先生の言葉に、いち早くさんざん悪態たれていたますみちゃんが、驚いて戸惑いながら反論する。
「ちがうの、美咲先生、違うの・・・」
 冷たいタオルをすっと差し出してくれた安倍さん。
「あたし、嬉しいんだもん!本当、とっても、とっても、嬉しいんだもん・・・」
 後はもう言葉にならない。頭に当てるはずだったそのタオルで、僕はとめどなくあふれる涙を拭い始めた。

 夜遅くまで打ち上げパーティーをして、皆目が真っ赤だったけど、仕事だというので、三宅さん、安倍さん以下全員が早朝別荘を後にした。スタッフ1人1人の手を握って挨拶した後、僕達は名残惜しそうに、1台、そしてまた1台去っていく車そしてクルーザにいつまでも手を振っていた。
「ああ、楽しかったあ!」
 美咲先生がそう玄関先で伸びをして叫んだ時、
「あ、あの、もういいですか?」
 その声に皆一斉に振り向くと、今回完全に仲間はずれにされていた、久保田さん、中村さん、朝霧さん、佐野さん4人が、恨めしそうな顔をして立っていた。
「あの、美咲先生。言われた課題一応終わったんですけど」
「でも、もう昨日のお祭りが気になって、何も頭に」
 本当可愛そうな位気分的にめいった雰囲気で喋る中村さんと佐野さん。でもさ、去年陽子ちゃんと真琴ちゃんがそうだったじゃん!来年になればさ。それにそういう事美咲先生の前で言うとさ!と僕が一瞬気にした時、
「ごめーんごめん、寂しかったでしょ?でも今年は我慢してよね。ほら来年になればさ、あなた達だってさー、ね」
 と、意外にも美咲先生は4人を両手で抱きしめて、一人一人背中を撫で始める。久保田さんがとうとうたまらず、ぐすぐす始めた。
 僕達はあっけに取られ、僕とゆり先生は思わず顔を見合わせた。
「ねえ、いつもの美咲先生じゃないよね?」
「よっぽど楽しかったんじゃない?」
 やっぱり?そうなんだ?撮影する人があの人だったから?思わずちょっと噴出し、ともこちゃんの方をちらっと見る僕だった。

 

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