メタモルフォーゼ

(30) 「とうとうビキニ着ちゃった」

待ちに待った夏休み最初の日の早朝、イベント企画会社のチャーターしてくれたマイクロバスで、僕達一向は美咲先生の別荘兼研究所へ向かった。車内では僕とみけちゃんと智美ちゃんは、いろいろ学校の事とかクラスメートの事とか話して、後ろではますみちゃんとともこちゃんと真琴が騒々しくトランプとか何かのゲームをやっていた。
 ともこちゃんと真琴ちゃんは、河合さんの雑貨屋でアルバイトするうちにすっかり仲良くなってて、おそろいのピンクのタンクトップにジーンズ姿できめていた。真琴の胸がともこちゃんと同じ位大きくなっているのにはちょっと驚いたけど。
ますみちゃんはバンドの衣装とか雑貨を最近河合さんの店でいろいろ買うみたいで、もう後ろで仲良し3人でおおはしゃぎしてた。朝の9時頃には、いつも途中休憩する稲村ヶ崎に車を止めて遠く江ノ島と富士山をながめて休憩。この時もいろんな過去の思い出が僕の頭の中をかけめぐっていく。そして、今日はなんていい天気!絶好の海日和!

「ほら!あれ佐野ク・・・じゃなかったミキちゃんじゃない?あ!中・・・じゃない、あきちゃんか!ほら、ほら!ちゃんと女してんじゃん!」
 マイクロバスから降りて、それが下の駐車場へ行くのを見届けると、荷物を持って別荘の玄関に近づいた智美ちゃんが興味深そうに声を上げた後、大声で笑い始めた。
「ほら!あれゆうちゃんだっけ!?あっははははっ、ほらちゃんとブラ透けてるし!」
 今年は僕達のクラスメートが3人もここで女の子化教育受けてるなんて、ちょっと僕はゆううつで、顔あわせるのも嫌だった。でも玄関に近づいてちょっと様子を伺ってみると、
「う・・・うそぉ」
 3人の他に、別荘の横でほうきで掃除している久保田さんも発見。いつのまにか、ここの制服は白のブラウスに水色と白のチェックのスカート、白のハイソックスに変わっていたし、4人のブラウスの下にはしっかりブラが透けていた。荷物運びとか掃除をしている4人の動きは、男の子のがさつな動きは全くみられず、清楚な少女の仕草があふれていた。
「ゴールデンウィークから、たった2ヶ月だよ・・・」
 やがて4人の女の子?達が玄関に両手を前に組んで整列する。なんかおかしい!思わず笑ってしまう。
「久しぶりじゃん!みんな元気にしてたの!良く似合ってるじゃん!」
 みけちゃんと智美ちゃんが信じられないという様子で4人に声をかける。と、
「なんでしゅか!みんなこんなもの付けて!」
 ダッシュで4人の元に行ったますみちゃんが、大笑いしながらまずあきちゃんの背後にまわり、胸をタッチ。
「ちょっと、ますみちゃん!」
 大分ボイストレーニングも進んでいるのか、ちょっとハスキーな女声であきちゃんが悲鳴を上げる。
「わー!しゅごい!小さいけど胸あるでしゅよ!!」
「うっそーっ!」
 みけちゃんが、ゆうちゃんとミキちゃんの胸に次々とタッチ。
「ね、ねえ!佐野ク・・・じやないミキちゃん、ゆうちゃん。これ、詰め物じゃないよね?」
「そんなわけないでしょ」
「う、うんはずかしいけど・・・」
 2人とも恥ずかしそうにうつむいた。
 遅れて玄関に入ってきた僕は、元クラスメートの3人の顔だちをみて、改めて呆然とする。昔の面影は残っているけど3人とも頬にふっくらとした透明感の有る肉がつき、手の指からはごつごつとした男の感じは消えていた。そして3人は今度はたちまち真琴ちゃんのタッチ攻撃に逃げ回り始める。
「ゆーっこ・・・」
 呆然としている僕の背中に冷たい柔らかな指の感触。それはエブリマートの久保田雅美ちゃんだった。
「久保田さーん!元気にしてたーっ」
 以前にもまして、すべすべになった手を取り。僕は思わず踊る様な足のステップを取る。元々女っほかったせいか、心なしか胸のふくらみは4人の中で一番大きく見える。
「久保田さん、おひさしぶり。元気にしてた」
「やっぱり久保田さんが4人の中で一番女らしいよー」
 ますみちゃんと、真琴ちゃんが、まだ元クラスメートを追い掛け回している中で、みけちゃんと智美ちゃん、そしてともこちゃんが、雅美ちゃんを中心にはやくも女の子の輪を作り始める。
 そこに、
「ゆっこー、ともこーっ」
 別荘の2階の階段の手すりから、まいちゃんが手を振っている。その横には同じく手を振っている陽子ちゃんもいた。
「あのねー!美咲先生がすぐに海に行こうって。陽子と真琴に水着デビューさせるんだって!」

 その後すぐ美咲先生が現れて、訓練生4人をつれてどこかに消えてしまう。折角久しぶりに会えたのに、いろいろお話もしたかったけど、それは後のお楽しみにして、僕達は早速近くの浜辺へ行く準備を始めた。
(お風呂かりようっと)
 僕はこっそりと風呂にはいって裸になると、なにやらポーチを持って洗い場に座る。
(なんで女の子って、水着になる前にこんな事・・・なっちゃったから仕方ないか・・・)
 ビニールのポーチの中には専用クリームとレディスのシェーバー。あのゼリーを貼り付けられた後、僕の下腹部からは男性としての毛根は全て消え、かわりにふさふさした柔らかい女の子のヘアーが逆三角形に生え揃ってきていた。去年とかのワンピースだったらなんとかなったけど、今日着る予定のビキニではかなり目立ってしまう。
 クリームを付けて丁寧にヘアーを剃り始める僕だけど、なんだかその姿かっこ悪い。
「こんな姿、絶対男の子に見せられない」
 と独り言。その直後、(男の子に)と言ってしまった事に、僕は自分がまた一つ女の子になってしまった事を実感してしまう。
「あーもう、こんなめんどくさいこと!」
 シャワーのお湯で流そうとした時、誰かが風呂場に入ってくるのに気が付いた。剃るのに夢中で脱衣所にの人の気配に気が付かなかったみたい。
「だ、誰!?」
 驚いて僕が振り向くと、
「ほーら、やっぱりいたー!」
「ゆーっこー。いたいたー!」
 そこには胸にバスタオル撒いたみけちゃんと智美ちゃんの姿。
「ほーらね、ゆっこだったら絶対持ってきて、今頃剃ってると思ってた。ねえ、ゆっこゆっこ、後で貸してね、それ」
 みけちゃんが僕の首筋に手をかけながら言う。
「貸してって、みけちゃん今日持ってこなかったの?」
「えーっ智美も忘れたんだよ。あとで貸して。あたしも今日ビキニだからさ」
 僕はちょっと呆れる。
「貸してって、みけ!あたしよりずっと長く女やってるんでしょ!だらしないじゃん」
「いーのいーの、細かい事いいっこなし。あ、お湯わいてるじゃん。入っちゃえ!」
 智美ちゃんと一緒にタオルを外し、ドボーンと浴槽にお尻から飛び込む2人。僕にすくなからず湯しぶきがかかる。
「みーけっ!智美―っ!」
 シャワーでヘアーの部分を洗い流した後、僕はあきれ顔で浴槽に近づく。と、
「あ、ゆっこ。女になったんでしょ。見せて」
「あ、あたしも見たい!」
「見せてって何を、あ・・・」
 2人丁度浴槽に入っている所に、僕が裸で前も隠さず歩み寄ったものだから、僕の、その女になり始めた部分が丁度みけちゃん達からしっかり見られた。慌てて僕は手で隠すけど、もう遅かったみたい。
「いいじゃんゆっこ、去年みんなでおっぱい見せっこした中じゃん。ちゃんとした形かどうか見てあげるから」
 何かお姉さんか、お医者さんに諭される様に言われて、僕もちょっと不安になった。先週のゆり先生の診察によると、僕のあの切れ目はようやくただの切れ込みから女の子の大事な部分へと形を変え始めたらしい。ちゃんと変化していってるのか、ちょっと不安だったし。
「じゃ、みけちゃんがそういうなら・・・」
 僕はそっと2人の女の子の前で、下腹部に当てた手を外した。でもいざそうしてみるとなんだか不思議と恥ずかしい気がしなかった。既に頭の中では、前にいる2人は僕にとっては同性で、秘密の部分を見られても、男みたいに危害を与えないって、いつのまにか認識されてたんだ。
「ありがと、ゆっこ、もういいわ」
 僕はさっとタオルを持ち、Cカップ一杯にまで脹らんだ胸の上にすらすらと巻く。
「どうだった?あたしの・・・」
「あのね、うーんと、小学校の女の子のあれに似てたかな。まだとっても小さかったけど、ちゃんとあそこの形してたよ」
 智美ちゃんもうなずいてた。すると今度はみけちゃんが浴槽のへりに手をかけ、僕をいたずらっぽい目で見つめた。
「あたしの、見たくない?」
「ちょっと、みけ!」
 智美ちゃんがびっくりして叫ぶ。
「だって、見たら、見せてあげるのが礼儀でしょ」
 その後の事はあえて書かない様にする。結局最後には智美ちゃんも見せてくれた。でもそれは決して変なシチュエーションじゃなかった。まだ変身途中で子供のあそこを持つ女になったばかりの僕に、大人の女性2人が、その違いを見せてくれたという、ただそれだけの事だった。
やっぱりいつ見てもそれは決して可愛いっていう形じゃないし、むしろグロテスクだと思う。女の子達がその部分を隠したがるのは、それが原因なんじゃないのかと思ったりする。只、そう思ったのは僕が女の子になっちゃったせいなのか、それとも本当に可愛くない形だからなのか、僕にはまだわからなかつた。
 でもこれだけは言える。可愛く思おうが思わなかろうが、僕のあの秘密の部分が、まもなくみけちゃんや智美ちゃんと同じ形になるという事は間違いのない事だった。
(なんで神様ってさ、女の子の大事な所って、あんな形にしちゃったんだろ。僕もいずれそうなるなんてさ、なんか複雑・・・)

 マイクロバスに乗った僕達は、暫く山道を下った後、綺麗な浜辺に到着。穴場とはいえ、絶好の海日和に、その浜辺もそろそろ人が多くなりはじめていた。
 むっちりしてきた太ももを、海辺以外でみんなに見せるのが恥ずかしくて、あの4点セットのパステルピンクの水着の上にTシャツとミニスカートを着こんでいた僕は、暑くて暑くて、気分的には早く海辺に行きたい気分だった。
 しかし、一旦海辺に出ると、僕はとうとうビキニ姿を披露しなくちゃいけなくなってしまった。長い間男として暮らしてきた僕にとって、自分自身が女の子のビキニ姿になるのは、どうしてもやはり抵抗があった。
(やっぱりせめてワンピースの水着持ってくるべきだった。それともずーっとタンクトップとショートパンツのままで泳ごうかな)
 とか思いつつ、マイクロバスの中でいじいじしてると、あんのじょうますみちゃんとみけちゃん、そして智美ちゃんが迎えに来た。というか、バスから引きずりおろしに来たという方が正しいかもしれない。
「もう、早く!」
 智美ちゃんがじれったいっていう感じで僕の背中を押す。そして浜辺では、多くの海水浴客の前で、白のワンピにパレオ姿の真琴ちゃんと、ブルーワンピとパレオ姿の陽子ちゃんが、初めての水着姿を披露していた。冷たい水、そして多くの人に女として見られる気持ちよさかもしれない。2人の笑顔には幸せ感が浮かんでいた。
「何してんのよ!」
 みけちゃんが強引に僕の手を引いて、ビーチに敷かれたビーチマットまで連れて行く。
「ゆっこ!泳ぐよ。来なかったら本当怒るからね!」
 みけちゃんはムームーを脱ぎ捨てて、あいかわらず健康そうではちきれんばかりの胸を赤で包んだキニへ、智美ちゃんはTシャツを脱ぎ、いくつかのパステルカラーの混じったワンピースに変身して、海辺に急ぐ。
 一人ぼっちになった僕はとうとう覚悟を決めた。僕を除くみんなで海に入りながら始めたビーチボールに、僕はすごく孤独感を感じてしまう。立ち上がって、まずタンクトップを脱ぐと、薄いピンクのカップに包まれた、僕の白く柔らく膨らんだ胸に感じる太陽の光。そして目をつむり、今度はショートパンツを脱ぐと、海風が僕のピンクのビキニに当たり、くすぐり始める。その気持ちよさにだんだん恥ずかしさは消え始めていく。
 そのまま歩きだすと、何人かの視線が僕のパステルピンクのビキニ姿に集中。
(わあ、見られてる、絶対見られてる!)
 十数年、男の子として生きてきて、時には女の子のビキニ姿にときめいた事も有る僕だったけど、2年半の女の子生活の後、まさか自分が男の子達を刺激する姿で、今こうしてここにいるなんて、
(本当、絶対信じられないよ)
「あ、ゆっこだ!」
「ゆっこかわいい!綺麗!」
 誰が綺麗なんて言ったかわからないけど、その言葉に少し勇気付けられ、僕は波打ち際に進んだ。大きな胸、くびれたウエスト、そしてまだ小さめだけど健康的な形になったヒップ。そして、完全に平らな女の子のシルエットになった下腹部。こんな可愛い姿にしてくれた神様に祈る様に、手を広げて太陽の光を少し浴びた後、僕はみんなのビーチボールの輪の中に飛び込んだ。

幸子(幸男)とうとうビキニ/月夜眠
幸子(幸男)とうとうビキニ / 月夜眠



 家族連れ中心だけど、穴場のビーチにもだんだん人気が多くなり始める。そんな中、可愛い女の子ばかり11人(河合さんを入れて純女6人、元男の子3人、両性2人)がそこでビーチボールで遊んでいる姿はどうしても目立ってしまう。普通の女の子だけだったら、やっぱりどうしても男の子達との出会いを求めて賑やかなビーチへ行っちゃうんだけど、今の僕達にはそれが出来ない。やっぱり、万一の事が有ったら怖いし。
 河合さんがマイクロバスで迎えに行って合流した美咲先生とゆり先生は、水着姿だけど、ちょこっと水に入っただけで、全然泳ごうとしない。だってみんな日焼け防止もかねて、しっかりビーチ用のメイクしてるし。本当に泳いだのは、元々男の子だった5人だけ。いずれ僕も泳ぎたくても泳げない日が来るんだろうか。
 遊び疲れて、1軒しかない浜茶屋のテラスみたいな所で、女の子?11人が一緒に畳の上で寝そべっている姿は、外から見ると絶対華やかに見えたに違いない。浜茶屋のおばさんも
「みんな彼氏とかいないんですか、若くて綺麗な方ばっかりなのにもったいない・・・」
と、陽子ちゃんが僕の所へ来て、
「あ、いいなあ、ちょっと焼けてる、ビキニの跡・・・」
なんて言いながら背中のビキニの紐とかをしきりに触り始める。真琴ちゃんも寄ってきて、僕のビキニのパンツをめくろうとするのを、軽く手であしらいながら、僕は本当久しぶりに満ち足りた気分になっていた。いつのまにかビキニにも慣れ、柔らかく大きく膨らんだ胸が、冷たい畳の上で自分の重みで押しつぶされる感覚に、女になった自分を感じつつ、うとうとしていた。ふと傍らを見ると、寝転がってうとうとしている他の女の子の先で、河合さんが、ビール片手のゆり先生と美咲先生と一緒になにやら大人の会話している。
「いつか、あんな素敵な大人のオンナになりたい・・・」
 とりあえずは可愛いオンナノコに変身しちゃったけど、次はオトナのオンナにならなきゃ・・・
 ふと外を見ると、さっきから少し離れた所からずっとこっちを覗き込んでいる若いのと中年の2人のパンチパーマの男が、まだいるのに気がついた。
「ねえ、真琴、陽子・・・」
 僕は両側で寝ている2人を起す為、声をかける。
「真琴っ!」
 陽子と違ってむずがって起きない真琴。僕は彼女?の白い水着で覆われた女の肉のいっぱい付いたヒップをぺちゃっと叩く。
「なんだよ、ゆっこのエッチ」
 頬杖をついた状態で2人が僕と一緒にその方向をみつめると、ふっとその男2人は姿を消した。
「なんか感じわるーい」
 僕は、完全に出来上がっている美咲先生とゆり先生にこの事を話すけど、
「どーってことないんじゃないのぉ?」
 と全然相手にしてくれなかった。只、ゆり先生はちょっと外を見たりしてたけど。

 ところが、それから間もなく水着姿でますみちゃんが浜茶屋の裏口からどどっと駆け込んできた。意外にも口に指を当て皆に小声で話すその様子は、何か有った様子。そしてそれは思った通りだった。
 どうやらさっき僕達の様子を伺っていた男2人が、仲間を連れて僕達のいる浜茶屋に来るらしい。でも、なんで来るの!?
「携帯で誰かと話ししてたの聞いたんでしゅよ!女ばっかりで色っぺえのが3人と、高校生位のが8人、美少女ばかりで、白いボーイッシュな奴とか、ピンクのビキニの可愛い奴とか、お持ち帰り出来そうな奴はいるかとか、そんな事まで話してるんでしゅよ!」
 ますみちゃんのその話で、浜茶屋の中の空気が張り詰める。以前の僕だったら、ある程度の護身術も身につけてるし、そんなの平気だったはず。でも、
(怖い・・・うそ・・・)
 肩がすくみ、そして恐怖でどうしていいかわからなくなってしまう。どうして!?いつのまに僕こんなに臆病になっちゃったの?
「ねえ、もし来たらまいさんとか、ゆっことか、ともこさんとか、前にチーマやっつけたみたいにさ」
「だめだよ、もうあんなこと出来ない。体だってて変わっちゃったし、それに怖いもん・・・」
 陽子ちゃんの言葉に。ちょっと申し訳なさそうに答える僕。
 ふとともこちゃんとまいちゃんの方を見ると、2人も軽く手を振ってもう出来ないって事を表現していた。
「逃げよう!」
 美咲先生の声にふと横を見ると、すっかり酔いの冷めた美咲先生が、ゆり先生と河合さんを促して、大急ぎで荷物をまとめさせている。
「何してんの!あんな連中は関わらない方が一番でしょ。早くみんな、ほら水着のままでいいから!荷物まとめて。河合さん、バスをすぐ出せる様にしといて!」
「うん、じゃ先に行くね」
 そう言って駆け足で駐車場に向かう河合さんを目で追いながら、僕は大急ぎで荷物をまとめにかかった。
「早くしないと、置いてかれるよ!」
 ふと横を見ると、ぐずぐすしている陽子ちゃんと真琴ちゃんを、みけちゃんが長い髪をときながらせっついている。
「もう、せっかくいい気持ちでなごんでたのにさー、そんな奴ら来たって無視しとけばいいじゃん」
 同じ考えなのか、陽子ちゃんも何故か動きが遅い。
「もう、早くしてよ!みんなが遅れるじゃん!」
 荷物をショルダーバッグに無理矢理詰め込みながら、今度は智美ちゃんが2人をなじる。浜茶屋のおばさんと会計を済ませてるゆり先生に軽く挨拶しながら、みんな駐車場に急いだ。やっぱりまだ女の子になりきれてないあの2人にとっては、不審な男に対しての恐怖感というのがまだ無いんだ。

「早く!はい、荷物こっち!」
 マイクロバスの中で河合さんが、皆の荷物を積みながら、席へ誘導する。そうこうしているうちに、ゆり先生と美咲先生が走ってきた。
「皆乗った?あれ、陽子ちゃんと真琴ちゃんは??」
「え、まだ来てないの?」
 河合さんの言葉に皆浜茶屋の方を振り向くと、2人が走ってくる気配もない。まだあの浜茶屋の中なんだろか?
「あたし、連れてくる!」
 僕がそう言い放ってバスを降り、あまり慣れない女の子用のビーチサンダルに戸惑いながら走ろうとした時、目の前を黒のセダンと4駆とベンツが3台連続で横切った。先頭の黒のセダンの窓からふと顔を出して後ろを振り返り、僕の顔を見たのは、サングラスはしてたけど、確かにさっき僕達の様子を伺っていたあの男だった。
 あの2人を連れて来ようと飛び出たのに、なぜか足がすくんで動かない。
(どうしちゃったの?僕いったいどうなっちゃったの?なんで動けないの?)
 多分、もう頭の中の半分位が女の子になってしまったのかもしれない。助けにいかなきゃと思ってるのに、体が拒否してしまう・・・。
 3台の不審な車は、僕達を確認して少し先で止まった。
「ゆっこちゃん!気づかれたかもしれないから、早くバスに戻って!」
「だって、陽子と真琴おいとけないもん!」
 とその時、のろのろと浜茶屋から陽子ちゃんと真琴ちゃんが水着じゃなく、服を着て出て来る。
「だめっ!今出ちゃだめ!」
 僕は咄嗟に携帯を取り出し、陽子ちゃんにかけようとしたが、既に遅く、3台の車から数人が降りて、2人の所へ歩き出す。
「ねえ、まい、ともこ、あの二人連れ戻すから手伝って!」
 マイクロバスに駆け寄って、先生達が止めるのも聞かずに、無理矢理2人を降ろしにかかる。確かに以前チーマー達を相手にした時とはもう体つきが違うのは判ってた。胸は大きく膨らんでいくにつれて邪魔になってくるし、ヒップはまるで重しが付いたようになってる。筋肉は必要な部分だけ残って、他は溶けて脂肪になってるし、もう前みたいには動けないだろうって判ってる。だけど・・・
「あー、捕まっちゃった・・・」
 智美ちゃんの言葉に皆窓の外を見ると、数人の男達が、一人は下品に笑いながら、一人は嫌がる陽子ちゃんの手を掴もうとやっきになっていた。僕たちのバスの方へ行こうとする真琴ちゃんも数人に道を塞がれて、何やら言い寄られておろおろしている様子。
「警察に電話した方がいいんじゃないでしゅか?」
「だから早く来なさいって言ったのに・・・」
 ますみちゃんが電話をするのを制止して、バスからゆり先生が出て行こうとする。
「ミサ、ついてきて」
「えーー・・・」
 美咲先生がすごく迷惑そうな顔をする。
「もう、僕我慢出来ない!」
 僕はやっと出て来たともこちゃんとまいちゃんの手を引き、走り出した。
 一人の男は酒でも入っているのか、とうとう陽子ちゃんの首に手を回し、車の方へ連れて行こうするし、さっき様子を伺っていた男は、とうとうにやにやしながら真琴ちゃんの胸を触り始める。といきなり陽子ちゃんは酔っ払い男を振りほどき、真琴ちゃんの横に立って、2人で何やらいろいろ悪態を付き始めた様子。そして、
「あの2人、何する気なの!?」
 思わず立ち止まった僕達の目には、信じられない光景が入ってくる。何やら悪態をついていた2人から、男達が一瞬引いたと思うと、意外にも陽子ちゃんが1人の手を掴み、強引に自分のミニスカートの中に突っ込ませた後、嫌がる様子の真琴ちゃんのはいているミニスカートにも同じ事をする。そして男達が呆然として立ち尽くしている中、2人は猛スピートでバスの方に駆け寄ってきた。
「嘘だろ!」
「あいつらみんな男かよ!」
「なんか話がうますぎると・・・」
 大体様子はわかったけど、男達のその言葉で2人が何をやったか僕は察した。そして声を上げて泣きながら走ってくる2人をともこちゃんとまいちゃん、そして先生達と一緒に抱きかかえると、丁度河合さんがその場所にバスをまわしてくれて、無事2人を乗せる事が出来た。
「誰が男ですって!?」
 乗り込む所を怒ろうとした美咲先生をゆり先生が口に指を当てて制止していた。
 ちらっと振り返って男達の様子を見ると、追ってくるどころか何人かはその場でしゃがみこみ、皆呆然としている様子だった。

 ちょっと無謀だったけど、最悪の事態は陽子ちゃんの行動でなんとか避けられたけど、別荘へ戻る間、バスの車内の空気がとても重かった。2人並んで座ってる真琴ちゃんと陽子ちゃんはまだグスグス言ってるし。その後ろでますみちゃんと座ってる僕は、2人に何て言っていいかわからず、ただ黙ってるだけだった。
 暫くしてやっと陽子ちゃんが涙声で喋り出す。
「名案だと思ったのに・・・、こうするしかないと思ったんだもん。相手にわからせたら、何気なく戻って来ようとしたのにさ、なんで、どうしてこんなに涙が出るの?こんなに悲しくなるのよ。それに、あたし元は男の子だけどさ、男をこんなに怖いと思った事なんて今までなかった・・・」
 横では真琴ちゃんが黙って涙を拭いてる。また暫く沈黙が続いた時、
「陽子しゃん、これは何でしゅか」
 僕の横に座ってじっと黙っていたますみちゃんが陽子ちゃんの肩に手を当て、Tシャツごしにブラの肩紐をパチンとはじく。
「これは女の子しか付けれない物なんでしゅよ」
 黙っている陽子ちゃんに更に諭す様にますみちゃんが続ける。
「別にどうって事ないじゃん。あたし男の子の時も付けてたし」
 肩のますみちゃんの手を払って、すねる様に陽子ちゃんが喋る。
「じゃあ、これは何でしゅかっ!」
 大きな声と共に、今度は背中ごしに陽子ちゃんの胸をぎゅっと両手でさわるますみちゃん。
「やっ!」
 思わず声を上げる陽子ちゃんに、更にますみちゃんが続ける。
「これは女の子にしかない物でしゅよ!男どもは常日頃からこれを狙ってるんでしゅ!ほら、まこちゃんにも、あちきとかゆっこしゃんと同じ物がここにあるじゃないでしゅか!」
「やっやだーっ」
 今度は悲鳴を上げる真琴ちゃんに襲いかかるますみちゃん。横で聞いてた僕は、ますみちゃんに女の子として扱われた事にちょっと嬉しかったけど。
「好きでもない男共からこれを守る為に、女はいろんな事しなきゃいけないんでしゅ!嘘ついたり、騙したり、逃げたり!捕まって押し倒されたらもう終りなんでしゅよ!」
 いつもにも無いますみちゃんの真剣な表情と言葉に、僕はちょっと面食らってしまう。
「だからぁ、危険な事とか、体に傷つく事とか、絶対やっちゃいけないし、そういう事から逃げなきゃいけないの」
「ねえ、陽子、真琴。特に真琴!あんたこの前も女ととっくみあいの喧嘩したでしょ!あんた達もう男の子じゃないんだよ、女の子なんだよ!いい加減本当に自覚してくんないとさ、あたしたちだってあぶなっかしくて付き合ってらんないじゃん。」
 横に座ってたみけちゃんと智美ちゃんが、マイクロバスの椅子から乗り出す様にして、陽子ちゃんと真琴ちゃんに話す。
「それにさ、さっきあんた達が泣いたのってさ、多分今の真琴や陽子って、まだ頭の中に男の子と女の子が一緒に住んでてさ、男の子の部分のやったあんなエッチな事に、女の子の部分が耐え切れなくなって泣いたんだと思うよ」
「大体、見ず知らずの人にあんなエッチな事させるなんてさ、女の子じゃ絶対出来ないよっ」
 みけちゃんと智美ちゃんの口撃?にとうとう真琴ちゃんが辟易しはじめた。
「でもさ、そんなら女ってすごい損じゃん!僕もう半分男じゃなくなってるしさぁ、すっごい不安!もう、ますみ!いいかげんにしてよっ」」
 胸を触ってるますみちゃんの手を払いのけながら、真琴ちゃんがちょっとがっかりした様に言う。そういえば同じ事を去年、僕純ちゃんに言われたっけ。須藤クンに襲われそうになって、逃げ帰って来た時・・・。
(純・・・今どこで何してるんだろ・・・)
 僕の意識がふと現実から遠くなる。とその時、前に座ってたまいちゃんとともこちゃんが椅子から身を乗り出してきた。
「だからさ、そのかわりあたしたちは丸くて柔らかくて、いい香りがして、可愛くなったり綺麗になったり出来る体を手に入れられるんじゃん。あたし女になってさ、男の力強い所ってなくなっちゃったけど、そのかわりいろんな女の子の楽しみとか手に入れたし、覚えたりしたりさ。あたしこの女の子の楽しみって好きよ」
「そうだよね、バカな男騙したり、おごらせたり、からかったりするの、すごく楽しいしね」
 まいちゃんの最後の言葉に皆ちょっと噴出す。
「だってまい、あんた元男の子でしょ?」
「え?そうだったっけ?もう忘れたもんそんな事」
 なんだかようやくバスの中の重い雰囲気とか緊張とかがほぐれてきた感じ。
「なんかあたしたちが口出すスキなかったよね」
 何も喋らず皆の言う事をじっと聞いてたゆり先生がふと呟く。
「何言ってんのよ、男と女の立場ってもっと複雑なんだから。まだまだガキよ、あいつらは」
 目を閉じて考え込む様に呟く美咲先生。そしてそうこうしているうちにバスは美咲先生の別荘に到着した。

 部屋に戻った僕は、どっと疲れて智美ちゃんとまいちゃんと一緒にどさっとベットに寝転ぶ。ところが休む暇も無く部屋の電話が鳴った。
「ゆっこちゃん、早くおりてきてよ。明日のミーティングがあるんだから、それが終わったらトレーナーの人と一緒に簡単な練習するんだって」
「えー、ちょっと休みたい」
「早くおりてきなさいっ」
 またゆり先生怒らせると大変だから、僕は仕方なく他の2人をうながして、リビングに向かう。

 

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